第1533話 一時的な協力
目の前にオリガミさんが転移してくるという、予想外の事態があったけど……お互いの利害が一致して、協力出来る可能性が出てきた。
とりあえず、採集機の『Ⅰ型』と『Ⅱ型』から得られる改造の事を説明しているとこだけど、オリガミさんはどういう判断をしてくるかな?
「……なるほど、クオーツの部品を改造して、色々な機能を持たせられるという訳ですか。黒の異形種とどうやって対話をしたのかと思いましたが、その機能の1つに翻訳があるとは……面白いですね」
オリガミさん相手には出し惜しみなく、知っている情報は伝え終えた。相当な強者なのは分かってるけど、それを全力で出す気はないのは分かってるしね。
ただ、マルイさん達相手には妙に協力的に動く部分があるから、出し惜しまない方がメリットは大きいはず。俺らが何を狙っているかも、これで伝わっただろうしさ。
「ケイさんの狙いは、私に『Ⅱ型』に引き寄せられた際に、全壊させずに確保してもらいたいというところでしょうか?」
「ご明察! 『Ⅱ型』で得られる改造は足止めに使えそうだから、早めに手に入れときたいんだよ」
「……確かに、武器や転移の無効化は大きいですね。ただ、その案自体は受けてもいいのですが……いつ引き寄せられるかは、私にも分かりませんよ? 近場とも限りませんし……」
「まぁそこはどうしても運任せになるのは分かるけど、元々が運頼りだからなー。あと、早いうちにもう1回、クオーツに接触もしておきたいんだよ」
「まだ、何か要素があるんですか?」
「まぁなー。少し前にアイテム名の変更のアナウンスがあったじゃん?」
「そういえば、確かにありましたね。『情報組成式物質構成素子』でしたか?」
「そうそう、それ!」
「それはどのような用途があるのです?」
「分からん! だからこそ、クオーツに聞きたいんだよ」
「……なるほど、だから接触を求めてる訳ですか」
「そうなるなー」
クオーツとの接触については『Ⅰ型』と『Ⅱ型』、どっちでもいいんだけど……オリガミさんの使っている乱入クエスト絡みでの手法では、おそらく『Ⅱ型』の方しか足止めするのは無理だろう。だから、これは相当な博打にはなるんだけども……。
「いいでしょう。流石にずっとという訳にはいきませんが、今日の夕食時で解散するまではお付き合いしましょうか」
「よし、きた! 18時くらいには一旦解散になるだろうし、それで問題ないぞ!」
「それでは、その辺の話をマルイさん達に伝えてきますので、少々お待ち下さい」
「ほいよっと!」
ふぅ、時間限定ではあるけども、これでオリガミさんが味方として動く事になる! 俺らがこれまでやってきた方向とは全く違う手段でのアプローチは大きいぞ!
「ケイ、オリガミさんはどこのPTに入るのかな?」
「あー、十六夜さんの方は埋まってるし、紅焔さん達のPTだと加入処理がややこしいから、俺らのPTになるな。空き、1人分はあるしさ。それでいいよな?」
「うん、問題ないかな!」
「それじゃ、そういう事で!」
オリガミさんが一緒に動く事への反対は特になさそうだし、有益な状況には出来るだろ! まぁ実際に上手くいくかは、運次第なとこではあるけども……。
てか、普通にPT会話で話してるっぽいから、オリガミさんとマルイさん達はPTを組んでいた状態か。まぁフレンドコールでその都度連絡するより、PTを組む方が楽ですよねー! ……一旦、PTを抜けてくる事にもなるんだろうけどさ。
「えぇ、それでは夜には完全にそちらに合流します。出来れば、それまでに手段を得てきたいですけども、それは完全に運ですね。まぁケイさん達は、そういう運も持っているようなので、その恩恵に預かる形でやってきますよ。何かあれば、フレンドコールをお願いします。えぇ、それではまた後ほど」
どうやらマルイさん達との話は済んだ様子。俺らの賭けに付き合わせる形になるんだし、それ相応の成果が出てくれればいいんだけど……。
「さて、準備は済んだので……PT申請をお願い出来ますか?」
「ほいよっと!」
という事で、俺からオリガミさんへPTの申請をしていこう。
<オリガミ様がPTに加入しました>
よし、加入処理は完了! いやー、空きがあってよかった、よかった。
「あ、そういえば、オリガミさん。UFOにはどういう条件の時に引き寄せられるかは分かってる?」
「えぇ、それなりにはですけどもね。少なくとも、今のここみたいに転移で瘴気を消費した場所では、引き寄せられる事はありませんよ」
「ふむふむ、瘴気の有無が重要になってくるのか」
オリガミさん自体がここに転移してくる際に瘴気を消費してるから、この周囲にいる限りは勝手に引き寄せられる事はないんだね。止まって話していたのは正解って事か。
「おそらく、UFOの採集の手段が転移のものと同一のシステムなのでしょうね。だから、その手段を取れる状態の個体が、巻き込まれる形で引き寄せられるのかと思います」
「あー、そういう……。となると、黒の暴走種とかが回収されてるのも同じ理屈?」
「それは……何とも言えませんね。単純にサンプルとして回収されている可能性もありそうなので……でも、それならば、普通のプレイヤーも回収される可能性もありますか」
「はいはーい! それ、採集機の『Ⅲ型』とかが出てくるフラグ?」
「あー、これから出てくるパターンか」
「まだイベントも進行の真っ最中だと考えれば、リコリスさんのその意見もないとは言えませんね」
「ふふーん! そうでしょうとも!」
あくまで、UFOに2種類あるというのはクオーツが持っている古い情報からの推測に過ぎないもんな。その2種類のUFOも、素材自体がクオーツの想定とは違ったものだったみたいだし……まだ見ぬ新パターンは十分考えられる可能性だね。
「まぁそこは今考えても仕方ないし、移動をしながらオリガミさんが引き寄せられるのを待つか。オリガミさん、それでいい?」
「えぇ、その方針で構いませんよ。同じエリア内で呼び寄せられればいいんですが……」
「あー、全くの別エリアって可能性もあるのか。黎明の地までは、流石に行かないよな?」
「断言は出来ませんが、おそらく新エリアの範囲内だとは思いますよ。ただ、実際に違うエリアに引き寄せられた場合は、どうしましょうか?」
「場所にもよるから、そうなった時に考えるって事で!」
「……それもそうですね。今の段階で決めて、対応し切れる話でもありませんか」
場所によっては、帰還の実で戻ってから移動を改めて行うって事も出来るしね。それが難しい場所だったり、引き寄せたのが『Ⅰ型』だったりすれば、あんまり意味はないから、その場合はスルーでもいいしな。
「……それは、俺らが一緒に巻き込まれる可能性はあるのか?」
「いえ、それはないですよ、十六夜さん。それが可能なら、私はマルイさん達を引き連れて動いていますので」
「……確かに、それが出来るならそういう動きになるか。今のは愚問だったな」
「いえ、疑問に思った事の確認は重要ですし、一緒に活動している時はいくらでも聞いてください。私も遠慮はしませんので」
「……そうか。なら、そうさせてもらおう」
いやはや、やっぱりオリガミさんも情報の扱いに長けてますなー。割とあっさり俺らと同行するのを選んだのも、実際に俺らがどういう風にUFOを探しているのかを確認するつもりでもあるんだろうね。
まぁ今回のは協力してやるんだし、それで問題なし! ……イブキ相手だとこういう協力はしにくいけど、ここでオリガミさんと遭遇出来たのはラッキーかも?
「さてと、そろそろ移動を再開するか。アル、よろしく!」
「そりゃいいが……目的地は元のままか?」
「元のままだなー。オリガミさんが引き寄せられたら、状況も変わってくるけどさ」
「まぁ確かにそれもそうだな。なら、元々の予定通り、谷の方へ向かうぞ」
「それでよろしく!」
「目的地がここの谷……なるほど、骨の竜のいる場所が目的地ですね?」
「そうそう、そこ!」
オリガミさんもあの骨の竜と接触してる様子だし、あの谷の奥の事は知ってても不思議じゃないよな。まぁ一緒に動くんだから、もし知らなくても隠す気はないけどさ。
とりあえず、みんなで移動開始だなー。目指せ、谷のある場所! まぁ途中で予定が変わる可能性もかなり出てきてるけど。
「黒の異形種には溜まり場があるとは聞いていましたが、ケイさん達はその場所を見つけたんですね?」
「……ん? あれ? オリガミさん、実際にその場所に行った訳じゃない?」
「そういう場所があると聞いているだけになりますよ。まぁ乱入クエストの達成目標は、そういう場所と黎明の地を繋ぐ転移ルートの確立ですからね。存在自体は、ある程度の進捗になれば開示されています。そういう場所は……要は群集拠点種のようなものですよ」
「あー、なるほど。あそこが転移の基点の場所になる訳か」
そう考えると……もしかして、新エリアのどこであっても、あの洞窟みたいな黒の異形種の溜まり場がある!? もし、乱入クエストが成功すれば、瘴気での転移ルートが安定化するって事でもあるのかも?
「はい! 黒の暴走種がその谷へ入れないように守ってたんだけど、それに関する情報はありますか!?」
「守っているというより、黒の異形種が出てこないように閉じ込めてる感じでもあったかな」
「岩に擬態したアルマジロが複数いて、殺意が凄かったよね」
「黒の暴走種がですか? いえ、それに関する情報は特にありませんが……」
ふむ、オリガミさんが少し考え込んでるね。今のを聞いて、何か思うところがあるのかな?
「まぁ黒の暴走種と瘴気強化種の間でも諍いはあるようですし、敵対している可能性はありますね。群集拠点種の元になっていたボスは特定の場所への行く手を阻んでいましたし、それと同じようなものかもしれません」
「それ、洞窟の奥に瘴気の塊でもあるんじゃないか? ほら、常闇の洞窟の入り口を塞いでたのや、競争クエストで最後に除去するのと同じタイプのやつ」
「はっ!? それはありそうなのです!」
「あー、その可能性はあるかもなー」
あの洞窟の中、それこそ瘴気に満ちてた時の常闇の洞窟と同じような感じだったしさ。あの瘴気の塊が、瘴気による転移を安定化させる為に必要な代物だったりするのかも? って、ちょっとこれは確認しておいた方がいい気もしてきた。
「オリガミさん、乱入クエストを進めるつもりはあったりする……?」
「いえ、進める気はありませんよ。私は傭兵でこちらの新エリア側への転移の権利は持っていますし、乱入クエストは落下物を探す手段として使っていたに過ぎませんからね。他の探索手段が色々と出てきているのであれば、そちらに方向性を変えるだけです」
「なるほど。それなら、途中で敵対って事にもならないんだな」
「えぇ、もしそうなるようであれば、そもそも組もうとはしませんしね」
「ですよねー!」
うん、オリガミさんが灰の群集所属のマルイさん達にとって不利益になる事をするはずもなかったね。色々と気にかけるなら、いっそ灰の群集に移籍してしまえばいい気もするけど……そうしない理由も何かあったりする――
「……オリガミさん、他のインクアイリーのメンバーの動きは分かる?」
「その辺の事情でしたら、少し混乱中ですね。伝手は維持されていますが、彼岸花さん達やコイコクさん達のように群集への移籍を行っている方も多いとは聞いていますよ。ただ、今回のイベントが連携の取りにくい内容なので、その流れを阻害する要因となっているようですね」
ふむふむ、内部崩壊が始まったインクアイリーの現状ってそんな感じになっているんだね。人の流れとイベントの内容が噛み合わなくて、混乱状態が発生中か。
「んー、まぁそりゃそうなるよねー!」
「だが、伝手が繋がっているのなら、大きな混乱にはなってないのではないか?」
「ラジアータさんの言う通り、そこが幸いな部分ですね。群集がもしその伝手を分断していれば……一部の過激な連中が取りまとめて、一気に取り込んでいた可能性はありますよ。それこそ、私を狙ってきている人達ですね」
「……マジっすか」
「えぇ、実際そのような動き自体は出ていますからね。eスポーツからの流入もそちらに向かっていましたし……まぁ、群集の方で受け皿を用意するというので、かなり抑止力が出た感じではありますね。好き勝手に暴れるやり方に、反感を持っていた方も多いようなので」
「あー、そういう感じなのか」
ふむふむ、なんだかんだで群集の方で取った対策は効果を発揮しているっぽい? まぁあれもまだ不完全な状態だけど、少なくとも無所属にしか流れないって状況は阻止出来たっぽい――
「っ! 瘴気の渦!? ちょっと! これ、近過ぎるんですけど!」
「リコリスさん、お気になさらずに。これは出てくるのではなく、私が呼び寄せられるパターンです」
「そうなの!? 私達が包まれちゃってるけど!?」
「基点が私になっていますからね。さて、どこに引き寄せられるかが問題ですが……とりあえず出たら、居場所をお伝えしますね」
そこまで言ったら、オリガミさんの姿が消えた!? ……なるほど、これがUFOからの強制転移か! 黒の異形種もこんな感じで、強引に転移させられてるって事なんだね。
さて、今のでオリガミさんがどこに転移したかは報告待ちか。近場だといいんだけど……どうなる事やら?
――――
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今回は、雪山の中立地点でのお話。
全面改稿なのはいつも通りだけど、いつも以上に内容が変わってるかな?
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