第1531話 『Ⅰ型』と『Ⅱ型』の違い


 原野にいる俺らは、アルのクジラの背に乗って移動中。現状では特に目立った異常はないし、引き続き紅焔さん達の状況を聞いていこう。あっちは大きな進展がある真っ最中だしね。


 『Ⅱ型』のUFOを墜として、中に入れているのは大きな進歩だよなー。あちこちの機能が活きてるみたいだけど、その無力化の為に破壊中のようだしね。


「っ!? ライル、今の物音は……何?」

「何か、ガコンと動く音がしましたけど……紅焔、やり過ぎていませんよね?」

「加減は変えてねぇよ!? てか、カステラと辛子も同じ破壊をやってんのに、なんで俺!?」

「何かやらかすとしたら、紅焔だよね」

「カステラに同意……というのは冗談としておいて、落下物を格納していた場所でも開いたんじゃねぇか? こっちの中にはないし、まだどこからも落ちてなかったはずだしな」

「あー、確かにそうだね。ソラ、ライル、外から確認してくんない?」

「えぇ、分かりました。ソラ、上から見回してくれますか? 私は地面からぐるっと一周、回ってきますので」

「確かに見てきた方がよさそうだね」


 ふむふむ、確かに落下物を格納しているスペースが存在して、そこが開くって可能性はありそうだね。今まで見てきた『Ⅰ型』は、ダメージを受ける度にそういうスペースが開いてきたとかなんだろうな。


「もしかしてだけど……『Ⅰ型』と『Ⅱ型』で、そもそもの格納スペースの広さが違う可能性はある?」

「はい! 元々のサイズが違うから、ほぼ確実にそうだと思います!」

「あー、まぁそりゃそうか」


 根本的にサイズが違うんだから、内部構造の広さが違うのは当然ですよねー。疑問に思うほどの事でもなかったか。


「紅焔さん達、その音がした時に壊したパネルの色って分かる?」

「そこまで確認しながら破壊はしてなかったから、分からん!」

「……ちゃんと確認しとけばよかったね」

「まぁ今更言っても遅いだろうよ。次の機会があれば、その時には確認しておく」

「えぇ、その方がよろしいかと。UFOの前方部に開いた部分と、そこからこぼれ落ちた落下物を確認しましたよ」

「僕からも見えているね。数は少なめかい?」

「良くて、20個程度というところですね。あれ以外の格納スペースが複数あるなら、もう少しありそうですが……」


 なるほど、これで急にした音の正体が落下物の格納スペースが開いた音で確定か。どの色のパネルがその機能に連動してるかは分からないけど、そこは仕方ないのかもね。


「はいはーい! ちょっと疑問、いい?」

「リコリスさん、どういう疑問だ? 分かる範囲なら、答えるぜ!」

「それじゃ聞かせてもらうね! 武装や推進装置は突入前に壊してたけど、中に突入した段階で消えてたパネルってあった?」

「あー、そういやいくつか、既に消えてたのはあったな!」

「消えてるというか、パネル自体が割れてたりもしたね」

「なるほど、既に壊れたパネルは俺らが壊した部分の物か」

「やっぱりあるんだ! その辺の機能が活きてたら、クオーツの改造を頼めたりしないかなー?」


 あー、リコリスさんが気になった部分ってそれか! 実弾とレーザーを撃ち分けられる銃火器や、推進力になる装置がアイテムとして改造出来るなら、それは面白い使い方も出来そうな予感?


「はっ!? もしかして、この砂がその改造の材料になったりしませんか!?」

「クオーツの部品じゃなくて、残骸の砂で武装を作るって事?」

「それ、ありそうかな!?」

「面白そうな内容だな、それ!」

「現状では用途不明だが……可能性は否定出来んか」


 今のところ、判明している改造の種類は3つだけど、それ以外の種類がある可能性はまだまだある。それが武器の構築なのだとすれば……いやー、ちょっと楽しみかも?

 もしかすると金属要素をプレイヤーに組み込む為の手段とかになったり――


「……1つ……可能性を……思いついた」

「風音さん、どんな可能性ですか!?」

「……その残骸を……元に……黒の異形種に……足りてない身体を……構築させる」

「おぉ!? それ、出来そうなのです!?」

「あー、確かに出来そうかもな」


 黒の異形種と対話する為の手段がUFOの中に存在したんだから、明らかに身体を構成する部分が足りていない状態を補う手段としてはありかもしれない。

 現状では、翻訳用のアイテムを持ってる人か、偶然UFOが近くにある時にしか対話が出来そうにないけど……それも黒の異形種の中に組み込んでしまえば、普通に対話が可能なNPCに置き換わるのかも? もし、そういう方向性があるのなら……。


「黒の異形種は一枚岩ではないって言ってたし、対話の仕方次第では群集の味方にする事も可能か?」

「っ!? 味方に出来るのかな!?」

「試してみる価値はあると思うぞ。無所属に乱入クエストを持ちかけるのは、単に声が届いてなかっただけだったらしいしなー。交渉次第ではチャンスはあるかもしれんし……風音さん、良い思い付き! 谷まで行ったら、ちょっと交渉してみよう!」

「……うん!」

「目的が追加になったかな!? ねぇ、ケイ? それ、上手くいきそうなら……みんなに報告した方がいいんじゃないかな?」

「あー、流石にそうなったら、情報の共有はした方がいいかもな。よし、その方向性で考えとく」

「うん、分かったかな!」


 サヤの言う通り、もしこの可能性が実現するのなら……宝探しのイベントの本質がかなり違うものになるもんな。個人でのアイテム探しではなく、自分達の群集への戦力の引き入れ合戦に変わるんだよね。

 そうなった場合、群集のみんなとの協力が必須になってくるし……あー、無所属の今の乱入クエストも、最終的にはそこら辺に繋がってきそうな予感? まぁまだ仮説でしかない段階だから、実際にどうなるかを試してみてからになるけどさ。


「おっし、赤いパネル以外の破壊完了! てか、ケイさん達、面白い内容を話してたな! 黒の異形種を機械化して、味方に引き入れるってか!」

「可能かどうかはまだ分からないけど、面白そうな内容ではあるね」

「確かにな。なんなら、プレイヤーが機械化ってのも面白そうじゃねぇか? 合成進化の素材にでもなるかもしれねぇぞ」

「おっ! 辛子、そりゃいいな! メタルドラゴン……悪くはねぇ! いやでも、火属性オンリーのドラゴンを捨てるのも惜しい!?」


 俺もそういう方向性は考えてたけど、確かにメタル化はありだよな! オフライン版では宝石を使って、宝石モチーフのデザインに変わる『装飾進化』ってのがあったんだから、可能性としては0ではないはず!


「あー、でも機械人は俺らプレイヤーの仇敵って設定だし……その辺がどう扱われるかは気になるかも?」

「ふふーん! ケイさん、そこは野暮ってもんだよ! それを言ったら、クオーツはアイツらの製造物だし!」

「あー、そういやそうか。なら、技術として取り込む事に反対しない可能性もあるな」

「そういう事! 乗っ取られるとかがなければ、設定上の問題はなーし!」

「まぁそれは、実際に交渉してみての話だろう。今の時点では推測に過ぎんぞ」

「ぶー! そこで水を差すのって、無粋だってのー! このラジアータめ!」


 うーん、リコリスさんの気持ちも分からなくはないけど、ラジアータさんの言ってる事も事実だしね。まだ確定情報じゃないんだから、過度な期待も危ないとこではあるもんな。


「とりあえず、俺らの方もクオーツと繋いでみるぜ! そこで今のを聞いてみるわ!」

「頼んだ、紅焔さん! とりあえず、残骸の砂の用途って方向から聞いてみてくれ!」

「おう! 了解だ!」


 黒の異形種の身体になるかどうかは別にしても、残骸の砂の用途に関して何か分かればありがたいよね。いくつも用途がある可能性はあるんだし、段階を追って進めていく必要もあるかもしれないしさ。焦らず、順番にやっていこう。


「おっ、クオーツに繋がったな! おう! まずは残ってる情報の精査を頼むぜ! それと、その後でちょっと聞きたい事があるんだが……おう! 他の仲間から得た情報でな!」


 あー、そっか。クオーツの声は俺らには聞こえない状態になるんだな。まぁUFOの中にいないと声が届いてなかったんだし、エリアすら遠く離れている現状でこうなるのは仕方ないないんだし、情報を待ち――


「おっ、随分と精査は早い……って、これ、マジか!?」

「選択肢、そうくるの!?」

「これは随分と『Ⅰ型』との内容が違うじゃねぇか!」

「辛子、カステラ、内容の説明をお願い出来ますか?」

「ちょ!? なんで俺には聞かねぇの!?」

「あ、そういや外には聞こえてねぇのか。あー、紅焔は放っといて……改造候補が3つ上がっててな? 1つ目が、防衛装置の無効化。『Ⅰ型』ならステルス機能の停止、『Ⅱ型』なら武装機器の停止になるそうだ」

「ちょ!? え、全く違った方向性!?」


 確かにそういう内容なら、紅焔さん達の驚き方は納得――


「ケイさん、まだ驚くのは早いぜ? もう1つは――」

「機動装置の無効化だとよ! 『Ⅰ型』なら転移機能の停止、『Ⅱ型』なら推進装置の停止だと!」

「はい!? それ、墜としやすくなるじゃん!」

「おい、紅焔。説明に割り込んでくるなよ」

「俺だけスルーしようとするからだ!」

「あ、もう1つ候補はあるけど、それはケイさん達が知ってる落下物の探知のやつだね」

「なるほど、そういう選択肢か」


 ふむふむ、まさかの知らない機能が2つ増えるとはね。しかも、探す事ではなく、妨害する事に特化した内容か。


「これ、『Ⅰ型』と『Ⅱ型』で内蔵してる機能に差がある?」

「……その可能性は高いだろうな」

「より攻撃的に設計されている『Ⅱ型』には、妨害機能が載っているのかもしれん」

「やっぱり、そんな印象だよなー」


 十六夜さんもアルも、同じように思って当然の内容だよな。まだ絶対にどっちかからしか得られないと決まった訳じゃないけど……まぁこの3つの選択肢なら、これがベストかも?


「その3択なら、機動機能の妨害が一番良いだろうな。索敵は『侵食』でもいけるし、転移や移動を封じれるのは大きいぞ!」

「わっはっは! そりゃこの中では迷う余地はねぇよな! ケイさんも言ってるが、機動機能の妨害へ改造してもらうが……いいよな?」

「僕は賛成だよ。特に反対する理由も思いつかないしね」

「えぇ、そうですね。他の機能は、その機能を利用して、他のUFOを出来るだけ傷の少ない状態で確保を狙えば良いでしょうしね」

「迷う余地はないね!」

「俺も賛成だ。この中じゃ、それが最優先だろうよ!」

「おし、決まりだな! クオーツ、機動機能の妨害への改造を頼むぜ!」


 満場一致で、あっさりと改造の方向性は決まったみたいだね。まぁどう考えても破格な効果だし、ライルさんも言ってるように他の機能は今得た効果を活用して、他のUFOから得ればいい。


「俺らも『Ⅱ型』を仕留めたくなってきたなー。妨害機能、思いっきり欲しいんだけど!」

「……それは分かるが、どちらと遭遇するかは運だしな」

「ですよねー」


 うん、それはまさしく十六夜さんの言う通り。くっそ、破格な性能が得られるからこそ、実力者の進出が多そうなこっちの方には『Ⅱ型』の出現数が少ないとか調整されてたりしない?

 うーん、それだと運ではなく、明確に遭遇しにくく調整されてるって事にはなるか。出現傾向を探るには……うん、情報が足りなさ過ぎるな。


 あ、でも群雄の密林に『Ⅱ型』が出現してたんだっけ。桜花さん、慌ただしい様子は聞こえてくるけど、まだ会話には戻ってこないし……どういう状況になってるんだろ?


「おっし、改造完了! さーて、さっきの聞こうって言ってた件をクオーツに質問だ! 他の仲間から聞いたけど、このUFOをぶっ壊したら砂状になって残るそうじゃねぇか! その砂は手に入れられるみたいだが、ありゃなんだ? どういう用途がある?」


 おし、紅焔さんが謎の砂について質問を始めてくれた。これで何かしら、有益な返答があればいいんだけど……。


「あー、その砂は全部の部品を構築する最小限の構成物質なのか! へー、プログラムした内容に合わせて形状を変える、ヤツらの使う素材なんだな! あ、クオーツの製造には使われてない、研究段階の最新の物だったのか! なるほど、あくまで予測で、確定情報じゃないんだな?」


 ほほう? 説明気味に紅焔さんがまとめてくれてるけど、クオーツは説明をしっかりしてくれてるんだね。んー、最小限の構成物質で、プログラムによって形を変えるねぇ? 砂の1粒が、生物で言うところの細胞みたいなもん?

 でも、クオーツ自身があの砂によって構築されている訳ではないのか。となると、UFOを壊した後に砂になる事自体、クオーツも知らなかった可能性はありそうだね? その最新って機械人どもがクオーツを見限って、この惑星を離れた時だろうから、相当昔だろうしさ。


「これ、クオーツがプログラムを変えて、利用すんのは可能か? あー、知ってる段階の物と違いそうだから、解析が必要……実物、持ってこいってか!? これ、実物じゃ……あー、非活性状態じゃなければダメなんだな」

 

 うん、紅焔さんの反応から、なんとなく状況は把握――


<規定条件を達成しましたので、緊急クエスト【謎の飛行物の落とし物】が進行します>

<【採集機Ⅰ型】と【採集機Ⅱ型】からの採集アイテム『???』の名称が『情報組成式物質構成素子』に変更になりました>


 おっ! ここでクエストが進行したって事は、あの謎の砂についてクオーツに尋ねるのが条件だったっぽいね。何気に紅焔さんが聞いたのが初になるんだな。……まぁ聞く機会を逃したジェイさんみたいなパターンもあったけどさ。


「あー、完全に機能を停止してる実物を持ってこないと分からんのだと! 俺らもこの後、この……長いな、正式名称!? ともかく、この砂を手に入れてから再度の接触をやってみるから、ケイさん達もそう動いてくれ!」

「ほいよっと!」


 確かに名前が長いのには同意だし、適当に機械の砂とでも呼んどけばいいか。言葉も意味は……なんとなく分かるような、分からないような……うん、まぁそこは別にいいや。

 ともかく、大きな進展があったし、次のUFOを探さないとね! それに、これって曼珠沙華が埋めたUFOは最小単位まで分解されてないって事にもなってくるはず? 谷に戻る理由、また増えた気がするね。

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