第1528話 改造の選択肢
ジェイさんがあれこれと仕掛けてきたのはなんとか凌ぎ切り、俺らがクオーツが得た情報で改造をしてもらえる事になった。……なったはいいけど、解析情報の結果で選べる改造が、翻訳のみってのは勘弁してくれよ!
まぁそれは実際にやってみないと分からないけど……。
「リコリスさん、始めてくれ!」
「はいはーい! えーと、ここでクオーツの部品を取り出して……おぉ! 緑色に変わって接続が始まったね!」
赤いパネルとリコリスさんの持つレンズ状の部品が、ほぼ同じタイミングで緑色に明滅し始めた。さーて、ここからどうなってくるんだろ? 俺らがやった時は、クオーツって声だけだったしなー。
[接続の開始を確認した。情報を精査するから、少し時間をくれ]
「はいはーい! 精査はお任せするよー!」
「ジェイさん、今のは聞こえた?」
「……いえ、パネルの色が変わった事しか分かりません。どうやら、同じ連結PTであるのが必須なようですね」
「なるほど、そうなるのか」
よし、UFOの外にいても見えさえすれば連結PTでなら声が届くのは分かったし、連結PT以外では演出が始まった事自体は分かっても、具体的な内容には触れられないっぽい! ……これ、妨害は可能なんだろうか?
「……おい、ジェイ。妨害が可能かどうかなんて、こんな時に試そうとはすんなよ?」
「斬雨、私を何だと思っているのですか? この状態では、流石にやりませんよ」
「……ふん、『この状態』か。ケイ相手でなければ、やるとでも言いそうだな」
「よく分かっているじゃないですか、スミ。出し抜ける勝算が見えれば、もちろん実行しますよ?」
「ちっ、マジで考えてやがったか! おい、よくそれで俺が突っ込んでいくのを止めたな!?」
「止めるのも作戦の内ですよ。まぁ想定外の状況だったので、あまり意味はありませんでしたが……」
「……ジェイが一部の連中から嫌がられてる理由が、最近それなりに分かってきたぜ」
「作戦参謀なんて、敵対する相手からは嫌われてなんぼですからね。まぁ敵意だけを剥き出しにするのは、愚策ですけども」
うっわー、そういう事を言い切るか!? いやまぁ確かに敵が嫌がる事を的確に行う必要はあるし、言ってる事自体には特に異論もないんだけど……それをはっきり言うと反発がありそう。てか、実際に反発はあるっぽいね?
でもまぁ、ジェイさんは実利を無視する人ではないし……本当の意味で敵に回る人って、根本的に相入れない人だけな気がするけどなー。まぁ合わない人って絶対に出てくるから、そこまで配慮するのは難しいか。
[……これも、データの破損状態が酷いな。まぁ機能が停止するだけのダメージを与えているのだから、仕方ない部分ではあるが……]
「あー、それはそうだよねー。ぶっ壊し過ぎない程度に壊れてるとはいえ、やっぱり壊れてるんだから、無事な状態での情報の確保は難しいよねー」
「これは……破損状態に関する話ですか?」
「まぁそうなるなー。クオーツがデータが壊れ過ぎって愚痴ってる感じ」
「……この有り様では、仕方のない部分ではあると思いますけどね」
「だよなー」
ジェイさん達にはクオーツの声が聞こえてないから、何を言ってるかはリコリスさんの反応から推測してる状態か。わざわざ解説しなくてもいいんだけど……さっき言ってたジェイさんの、『敵意だけを剥き出し』にするってのはこの辺にあるんだよな。
時には協力体制で動く時もあるんだから、やり過ぎて完全に和解不可な状況に陥らせても後々困る。ジェイさんのやり方ってかなり遠慮はないけど、交渉の余地が無くならないように、その一線だけは保ってるしね。
俺もジェイさんが相手だと警戒こそするけど、それでも嫌いにはならないからなー。状況次第で敵意や害意はあっても、あくまでそれは作戦の上で必要だからこそのもの。それとは関係ない、悪意そのものは持ってないのが分かるから――
[……ほう? ここには面白いデータが残っていたな。翻訳のデータもあるが、それは既にそなたらは持っている様子だが……いくつか、他にも使えそうなものもある。だが、その部品で改造出来る範囲は1個だけだ。選べる内容を伝えるから、その中から1つ選んでくれ]
「おー! おっと、これ、下手にはしゃぎ過ぎるとマズいっぽい?」
「……もう遅い気もするよ?」
「その一言自体が、もうアウトだろうよ」
うん、それに関しては彼岸花さんとラジアータさんに同意! 今回は改造の種類は選べるっぽいけど……ジェイさん達の前で、この反応はマズいよな。
「なるほど、いくつか選択肢を提示されましたか。その内容、お聞きしても?」
「あー、逃げるならもう逃げて構わないぞ。聞く情報は聞き終えてるしなー」
「……教えるメリットはないと? それなら、妨害が出来るか確認に移るだけですが……」
あー、それはそれで試しておきたいとこではあるけど……あ、試したいと言えばこれもかも! もしこれが可能なら、こんな形で奪い合い必要はないんだし!
「クオーツ! これ、後でデータを全部消すんだろうけど、その前に他の人達の分も改造してもらうのは可能か!?」
「っ!? その手がありましたか!」
「ちっ! 1回限りだと思い込んでいたが……クオーツさえ了承するなら、それも可能か!」
なんかスミが悔しそうにしてるけど……もしこれが可能なら、かち合っても争わなくても済む! 流石に壊さないまま放置して、他の人にも使わせろってのは無理だろうけど、一緒にいるのであれば可能性はある!
[……そなたらの隣にいる者達の分もという事か? それ自体は我は構わんが……そなたらは争っているのではないか?]
「あー、まぁそれはそうなんだけど……ある意味、その改造が1回限りって事が争いの火種でもあってだなー」
[あぁ、なるほどな。まぁ同意があるのであれば、我からその提案を拒む事はない。……だが、1つの集団に対して、1つの改造までに留めさせてもらうし、過剰な人数は流石に控えてくれ。下手に時間はかけていられないからな]
「それで問題なし! あー、それで一緒に改造してもらうにはどうすれば?」
[別の我の部品を出してもらえるか? そなたらの接続している物を経由して、そちらにも繋ぐ]
「ほいよっと!」
よし! クオーツとの交渉、成功! 1つの集団っていうのは、多分だけど連結PTの事だろうな。1つの連結PTに、1回の改造だけは融通してくれるんだね。
PTを分割して個数を多く貰おうとしたら……時間がかかり過ぎって怒られるそうでもあるなー。うん、まぁズルをする方法は考えなくていいか。どっちにしろ、改造元の部品が足りないし。
「ジェイさん、そっちの分も改造してもらえる事になったから、クオーツの部品を出してくれ」
「……本当にその交渉は出来たのですね。いえ、クオーツの中立という立場を考えれば、そう不自然な事でもないですか。くっ、その可能性を見落としていたのは――」
「ほらよ。これでいい……おわっ!? こっちのも緑に明滅し始めたな!?」
おー、斬雨さんが取り出したクオーツの部品も、少しタイミングが遅れながらも明滅し始めたね。微妙にタイミングがズレてるのは、リコリスさんの持ってる部品を経由してるからか?
[そちらのそなたらの分も、改造を施せばいいのだな?]
「おう! 頼むぜ、クオーツ!」
「こうなるのであれば、初めから争う必要もなかった訳か」
「……そのようですね」
いやはや、拍子抜けしている様子のジェイさんだけど、本当にそこは同意! さっきまでの出し抜き合い、一体何の為にやったんだか?
[……破壊されたこれを察知される可能性もあるから、あまり時間はかけていられん。可能な改造を伝えるから、すぐに決めてくれ。1つ目は、奴らの落下物を探知する機能。2つ目は、瘴気を用いて意思による翻訳を可能にする機能。3つ目は、他の採集機の位置を探知する機能だ]
「翻訳は使い道が分かりませんし、私達の物は採集機の位置の探知への改造をお願いします」
[あぁ、了解した。すぐに改造を行うから、少し待て。もう1つの改造は、今のうちに決めておいてくれ。少しでも接続時間は短く済ませたい]
「ほいよっと!」
ふむふむ、ジェイさんはそれを選ぶか。その機能、『侵食』の効果と被りそうではあるけど……もしかすると、既に墜落済みのUFOを探り当てる事も出来るのかも?
あ、だからこそクオーツが急かしてくるのか! うーん、これは悩むな……。落下物を探し当てられるレーダーも欲しいけど、採集機の位置がこれで探れたら『侵食』の進化の軌跡の節約にもなりそうだし……。
「みんな、どうする?」
「時間もなさそうだし、ケイが独断で決めてしまえ。それで文句はない」
「アル!? ちょ、それは流石に――」
「ケイ、選ぶのは任せたかな!」
「あー、了解っと」
サヤの言葉に同意するようにみんな頷いているし、ここは俺が決めろって事か。まぁ相談するにしても時間はかかるし、ジェイさん達は翻訳機能の対象を知らないみたいだし、下手に話し合わない方がいいのかもな。
そうなると……レーダーと『侵食』の代用、どっちがいい!? 翻訳を2つって事も出来そうな気はするけど、今は流石にそれは勿体ないし――
[さて、改造は終わったぞ。もう1つはどうする?]
くっ、もう時間切れっぽいな!? だったら、こっちでいく!
「採集機の探知で頼む!」
[了解した。改造するから、少し待て]
「ふふーん! 改造開始だね!」
もしこれで墜落したUFOが見つけられるなら、セットで落ちてる落下物が狙えるからな! 既にあちこちで落ちてる落下物を見つけられるのも魅力的だけど、別のUFOを見つけた時にその改造にすればいい! 今はUFOを探す手段の方を優先で!
「おや、ケイさん? 私達と同じ物を選んだのですね」
「……また探り合いでもしようって魂胆?」
「まぁそうですね。レーダーは持っていないようなのに、何か他の物を手に入れていて、それを選ぶのは……中々興味深いとこではありますから。使い所の分からない翻訳か、それ以外の未知の何かか……探りたくはなりますよ?」
「折角、そっちも改造出来るようにしたのに、そういう探り方をしてくる?」
「……まぁ流石に今回は、そこには感謝していますよ。次に遭遇した時には、平和にやりましょうか」
「そうしてくれ。あ、この複数の改造が可能な情報、そっちは広める?」
「いえ、積極的に広める気はありませんよ。群がられて、動きが取りにくくなるのは避けたいですし……」
「あー、そうか。そりゃそうなるよなー」
一緒にいればおこぼれで改造が狙えるとなれば、また人が集まってくる可能性が出てくるしね。確かにそういう事態になるのは避けたいし……。
「なので、今回みたいに奪い合いに発展しそうな場合にのみ開示する事にしますよ」
「それが無難な――」
[改造は終えた。もうすぐにデータの消去にかかるから、その後の破壊は任せるぞ]
「ほいよっと! そこは任せとけ!」
「っ! クオーツ、少し聞きたい事が……遅かったですか」
ジェイさんが何か聞こうとして、その前に接続は切れてしまったみたいだけど……うん、パネルが完全に光らなくなってるから、接続は間違いなく切れてるよな。
「ジェイさん、今、何を聞こうとした?」
「UFOを破壊した後に残る、砂みたいな謎のアイテムがあるでしょう? あれについて、少し聞きたかったのですが……」
「あー! そういや、それを聞くチャンスだったか!?」
しまったな、完全にその事について聞くのは忘れてたぞ……。今、もう手持ちにはクオーツの部品は残ってないし……せめて、改造にあの謎のアイテムが使えるかどうかだけでも知りたかったかも。
「まぁそれに関しては、次の機会で探りましょうか。さて、問題はここで新しく手に入る、その謎の砂の所有権ですけども……」
「使い道は分かってないけど、今回は俺らに譲ってくれね? ほら、色々と――」
「言わなくても分かっています。私達は落下物を回収したらこの場を離れますので、UFOの破壊と、その残骸はお譲りしますよ」
「おし!」
まだ用途は分からないけど、持っておいて損はないはず! 改造までは分け合えても、その最後で手に入る残骸の砂は複数人では手に入らないっぽいもんなー。いやー、すんなり譲ってくれて助かった!
「みなさん、手早く落下物を回収していってください! それが済めば、改造して手に入れた……斬雨、アイテム名はどうなっていますか?」
「『採集機探知装置』だな。このレンズを通して見れば、『侵食』での察知と同じ光景が見えるみたいだぜ。それ以上の差異は……ちょっと使ってみないと分からねぇな?」
おー、タチウオの目の前で浮いてるんだ? へぇ、本当にレンズっぽい使い方をするんだね。
「随分とそのままの名前ですが、まぁ気にする必要もありませんか。落下物の回収を終えれば、その『採集機探知装置』の機能チェックを行なっていきますので急いで下さい!」
「並んで一緒に方向に進むのはごめんだしな。手早く回収して、さっさと立ち去らせてもらうか」
わざわざ俺の方に向かってそんな事を言わんでいいわ! なんかスミって妙に俺に対して棘がない!? ……まぁ心当たりがない訳でもないけどさ。
ともかく、青の群集が先にこの場を立ち去ってくれるのなら、それを待ってからUFOの破壊をしていきますか!
それが済んだら、ここの落下物の回収と、ラジアータさんが持ってきた落下物の回収をしていこう! 俺らが持ってきた落下物を曼珠沙華の3人に渡す必要もあるし、その辺のやり取りは青の群集がいない方がやりやすい――
「あ、そうそう。ケイさん、随分と余分に落下物を持ち運んでいるようですが……不要であれば、その辺の放棄していってもらえますか? 後で取りに戻りますので」
「ちょ!? 余ったの、持って行く気満々かよ!?」
「余っている分でしたら、損もないでしょう? それでは、この辺で失礼させていただきます」
あー、もう。俺らが持ってきてたの、バレバレかよ! いやまぁ落下物を表示するレーダーを持ってるんだから、そりゃ分かるだろうけどさ。思いっきり、今カニで持ってるしさ。
うーん、回収されると分かっていて、素直に置いていく気にはなれないけど……かといって、持ち運び続けるのもなー。くっ、わざわざ最後に言っていく必要ってあった!? あー、こうやって俺を悩ませるのが狙いな気がしてきたよ……。
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