第1527話 UFOを狙っての駆け引き


 墜落したUFOを狙って、ジェイさん達と真っ向から睨み合いの状態になっている。リコリスさんが既に中に入っているとはいえ、UFO内部の情報は分からないし……下手に状況を聞くのは、この状況ではリスクが高過ぎる。


「……ケイさんは目の前に集中してて。リコリスの状況は、私達で確認する」

「青の群集のジェイさんとなると迂闊に目を離せば危険だろうし、目の前に集中してくれ。こっちへの返事は不要だ」


 直接対峙している俺らが、変にリコリスさんと情報交換をするのは危険だし、ここは別行動中の彼岸花さんとラジアータさんに任せるか。そして、その間に俺らがするべきは……ジェイさん達をここに留めておく事だな。

 アルはどんどん高度を落として陸に近付いてくれてるし、十六夜さんの岩での固定も不要になって解除済み。風音さんは元のサイズに戻しているし、戦闘も含めて、ちゃんと動ける状態にはなっている。でも、まぁまずは対話からいこうか。


「ジェイさん、今後の為に交渉の余地がないか話してみない?」

「……それもそうですね。出来れば、私としても今回は戦いたくはありませんし……」


 これは向こうも時間稼ぎに乗ってきたのか、それとも本心からそう思っているのか……両方という可能性もあるな。実際、俺もその可能性は模索しておきたいしね。


「……リコリス、敵の正確な数は分かる? 分かるなら『ため息』、分からないなら『苛立ち』を見せて」

「あー、もう! なんでこんな様子になってんのさー!」


 今のは苛立ってる様子だけど……人数不明ときたか。擬態持ちが複数、UFOに入ってきてる可能性ありっと。……こりゃ思った以上に、策を練ってきてるっぽいな。


「それで、どういう妥協案が考えられますか? 正直、これに関しては早い者勝ちで、今みたいにかち合えば奪い合うしかないと思いますが?」

「まぁそれは俺も思うけど……あー、こういうのはどうだ? クオーツにデータを確認してもらうまでは休戦で、得られる改造が被っていた方が譲るってのは?」

「……それは、どちらの持つクオーツの部品を使うのです?」

「あれ自体はトレード可能だし、改造を得た方が負担って感じでどう? 機能が被る可能性は十分あるはずだし、無駄な戦闘は避けられるぞ」

「……まぁ悪くはない話ですか」


 これなら交渉の余地はある内容だ。だけど、これも完全とは言えないし、問題点はあるんだよな……。でも、もう少し交渉していく余地はあるはず。


「リコリス、自分だけで対処し切れそうか? 可能そうなら、攻撃を仕掛けてしまえ。無理そうなら、文句を付けろ」

「何人いるか知らないけど、1人を囲んでコソコソするのはどうなんだろうねー? でも、襲ってこないのは……擬態を破られたら困るから? いっそ、UFOの中を水で満たしてあげようか!」


 ふむふむ、正確な人数が把握出来ずにいるから、リコリスさんも迂闊に攻められない状態か。それでいて、青の群集の人達も下手にリコリスさんへ攻め込めないでいると……。

 こりゃUFOの中で、妙な拮抗状態が発生しているっぽいね。隠密行動に特化させていて、真っ向から戦うのを想定してなかったのかも? ……外から揺さぶれば、状況の打破も狙えるか?


「ケイさん、その場合でも……欲している機能が被った場合は、奪い合いになりませんか?」

「まぁそれはあるんだよなぁ……。流石にそこで譲ってくれる気は……?」

「ありませんね。それはそちらも同じでしょう?」

「ですよねー」


 ここのUFOの中に何の機能への改造手段があるかも分かってないんだし、そもそも何パターンの改造があるかも判明していないからね。……物によっては、絶対に譲れない状況が発生するのは考えられる。というか、そうなる可能性の方が高い。


「……敵は、何か言ってる?」

「全員、だんまり過ぎない? 既に見破ってるカメレオン以外の人の正確な位置がバレるの、怖いのかなー?」


 姿を隠して、何も言わずに状況の推移を見守っている? いや、それとも外から何か仕掛けようとしてる? UFOの中に入っている人達が同じ共同体なら、共同体のチャットで無言でも情報のやり取りは出来るだろうし……。


「……なるほど、中にいる方はいつかのインクアイリーの3人組の内の1人ですか。灰の群集に移籍したとは聞いていましたが、ケイさん達と行動を共にしていたのですね」

「……だったら、何か問題でも?」

「いえ、素性を確認する為に時間稼ぎには乗りましたが……流石に相手が悪そうでしてね。ケイさんとしても、この睨み合いを突破しようとしているのでしょう? 残り2人……彼岸花さんとラジアータさんはどこですか?」

「さてなー。ジェイさんこそ、UFOの中に何人忍ばせてんの?」

「……状況を探っていたのは、お互い様ですか」

「ははっ! まぁケイさん相手だと、そう簡単に出し抜けやしねぇわな!」

「斬雨、笑い事ではないんですけども……?」


 ちっ、やっぱり時間稼ぎだと分かった上で乗っかってきてたか。てか、向こうは向こうで情報収集をしてたようだけど……曼珠沙華が競争クエストで大暴れした事を知ってるからこそ、下手な手出しは危険という判断にもなってるっぽいね。


「このまま睨み合っていても埒があきませんね」

「やっぱり、強行手段で奪い合いの戦闘か?」

「いえ、後々の合流が面倒になるので、それは避けさせていただきます。今回はこちらが引きましょう」

「……へ? え、マジで?」


 ちょ、予想外の反応!? あー、もしかして戦力的に不利だと判断した? まぁただの偶然ではあるけど、彼岸花さんとラジアータさんの位置が捕捉できない状態なんだし、そこを警戒してるのかも?


「ただし、引き下がるには条件があります」

「……どういう条件?」

「得られる情報の開示を要求します。物は諦めるのですから、それくらいは受け取ってもいいでしょう?」

「あー、まぁそれくらいなら……」


 みんなの方を見てみれば、頷いて同意してくれているね。下手に戦闘になるよりは、ここでジェイさんの提案を受け入れた方がメリットは大きいか。


「よし、その案でいいぞ。でも、先に中にいる人達を引き上げさせてくれ。こっちも、リコリスさんに出てきてもらって、UFOの天井部分を破壊して、上からみんなが見れるようにするからさ」

「……いいでしょう。聞こえていましたね? 引き上げるよう、指示をお願いします」


 おっと、急に獲物察知に反応が出てきた。擬態しているのを示す薄い色の青い矢印が、UFOの中に3本と……サヤ達が気にしていた岩の中に、普通の青い矢印が4本か。思ったよりも人数がいたなー。

 それにしても、今のはハッタリか。反応が残っているけど……この反応の薄さは擬態状態だな。まぁ大人しく、引き上げる訳もないですよねー。それならそれで、こっちは相応に動くだけだけど。


「おーい、UFOの中から離れてるの、2人しかいないぞ? なんで1人残してる? リコリスさん、1人残ってるからそれを仕留めて――」

「っ!? それは動きが遅れているだけです! 急いで退避してください!」


 おー、慌ててる、慌ててる。引き上げたフリをして、そのまま回収してしまう狙いだったんだろうけど、そうはいくかっての!


「ジェイ、ケイさんを変に出し抜こうとする方が危険なんじゃねぇか?」

「……えぇ、リスクを負うべきところではありませんでしたよ。ですが、獲物察知がLv6に至っていると分かったのはいい情報ですね」


 俺のスキルの育成度合いを知られる結果にはなったけど……まぁこの程度はいいか。さて、騙して出し抜こうとした部分はどう扱ったもんだろね?

 あー、UFOの中にリコリスさん以外の反応は完全に消えたか。今度こそ、ちゃんと下がってくれたっぽい。……姿を見せず、UFOの影に隠れて、岩の中へと退避しているのは徹底してるみたいだけどさ。


「撤退は済んだみたいだけど……さっきの条件のまま、交渉が進むとは思ってないよな?」

「……何を要求してきますか?」

「んー、そうだな……。今、ジェイさん達が持ってる改造アイテムの情報辺りでどう? それが嫌なら……クオーツともやり取りは見せずに済ませてしまうけど。リコリスさん、合図したらすぐにでも改造を始められるように待機しててくれ」

「はいはーい! そこは任せて!」


 ジェイさんが変な動きを見せたからこそ、今リコリスさんはUFOの中に留まったままでいられている。演出自体は見られなくても問題ないし、リコリスさんが改造を済ますまでの間、俺らは守り切るだけでいい。このやり取り、俺らの勝ちだ!


「余計な事をするから、悪化してるじゃねぇか! どうする気だ、ジェイ!」

「失敗したのは分かっていますよ、スミ。……ケイさん、随分と温情をかけてくるのですね?」

「まぁ別に、今回のイベントでは積極的に戦いたい訳でもないからなー」

「……なるほど。まぁそれは私達も同じではありますが……」


 今回、下手に死ねば合流に手間取るという側面もあるから、可能な限り戦闘は避けたいんだよな。それこそ、今、彼岸花さんとラジアータさんが大急ぎでこっちまで向かってきてる状態みたいになるんだしさ。


「そういう時だからこそ、勝てるかと思ったんですけどね。まぁここは、素直に負けを受け入れるとして……私達の得ている改造アイテムでしたね」

「っ!? ジェイが、素直に負けを認めただと!?」

「斬雨、驚き過ぎではないですか……?」

「だって、いつもムキになってんじゃねぇか?」

「……それで冷静さを欠くのが弱点だと、自覚しただけですよ。冷静でいても勝ち難いのに、冷静さを欠いては勝ち目など欠片も無くなりますしね」


 あー、なんかジェイさんが本格的に自分の弱点を分析して、それを乗り越えようとしてるっぽい!? ……これ、今後はもっと手強くなりかねないんじゃ?


「……到着」

「彼岸花もほぼ同時だったか。待たせたな、ケイさん達」

「おっ、これで曼珠沙華は全員合流だな!」


 ふぅ、彼岸花さんとラジアータさんも合流出来たのはよかった。近くにはいなかったの、バレなかったな!


「伏兵で隠れていたのではなく、散らばっていたのですか!?」

「シュウさんと弥生さんに仕留められててなー」

「……なるほど、あの2人にですか。それは納得しやすい状況ですね」


 さて、こちらの戦力は整った。ジェイさん、まだ何か仕掛けてくる気は――


「ケイさん、不躾ながら確認をいいですか?」

「何の確認?」

「このUFOにある情報の関してです。……その件は破棄となりますか?」


 ハッタリで出し抜こうとしてたとこだけど、それをここで確認してくるって事は……あっ!? これ、破棄にしたら何もかも踏み倒して逃げる気か!? ちっ、この後に及んで悪足掻きを……。


「あー、それは条件通りでいいよ。そうしなきゃ、このまま逃げ去る気だよな?」

「……否定はしませんね。ケイさん達に追いかけるメリットはありませんし、その状況では私達としても話すメリットがありませんから」

「悪びれもなく言い切ったな!?」


 くっ! やっぱり油断ならないよ、ジェイさんは! 確かに追いかけたところで、俺らに欠片もメリットはないしなー。……流石にこれ以上は、何か仕掛けてはこないよな?


「ジェイ、そろそろやめておけ。これ以上は、俺自体が許容出来ん」

「スミにも本格的に怒られそうですし、もうこれ以上は何も仕掛けないと約束しましょうか。さて、私達の得ている改造アイテムはこちらですね」


 そう言いながらジェイさんがクオーツの部品のレンズっぽいのを出してきて……ふむふむ、これはシュウさん達が持ってたレーダーと同じやつか。うーん、別の種類が見れると良かったんだけど……まぁそう都合よくはいかないよな。


「……反応が薄いですね? 既にケイさん達も持っている物でしたか?」

「そこは黙秘権を行使する!」

「……なるほど、持っているのは別の種類ですか」


 うん、まぁここで『持ってる』と嘘を吐かない限り、バレバレですよねー。別に嘘で誤魔化してもいいんだけど……この後手に入れる時に候補にレーダーがあれば、どっちにしてもバレるもんな。無駄な嘘を言っても仕方ないだろ。


「さてと、それじゃUFOの中を見れるようにしていきますか。ハーレさん、ウォーターカッターを使うから、砂の補充をよろしく!」

「はーい!」

「……サラッと、とんでもない事をやろうとしていませんか?」

「ケイがこうなのは、今更な話だろうよ」

「ははっ! まぁ俺もスミに同意だな!」


 うーん、何とも反応し辛い反応ですなー!? まぁいいや。ともかく今は、UFOの上部を切り裂いてしまおう。前のUFOの時は岩の操作で穴を広げられたんだから、多分これくらいは出来るはず!


<行動値1と魔力値2消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 126/127(上限値使用:4): 魔力値 320/322


<行動値を2消費して『水の操作Lv10』を発動します>  行動値 124/127(上限値使用:4)


 とりあえず、大きめの水球を生成して……。うん、位置的にここからでも十分いけるな。


「ハーレさん、頼む!」

「了解です! えいや!」


 水球の中へと投げ込まれた砂を混ぜ込んで、一気に水を絞って射出! さーて、上手く切れてくれよ!


「おぉ!? スッパリと切れたのさー!」

「……おい、斬雨。切れ味、負けてねぇか?」

「いやいや、流石に負けてたまるか!? スミ、なんて事を言いやがる!?」

「ウォーターカッターは原理的には削っているので、斬撃ではないですけどね。まったく、水の操作がLv10になれば、こういう手段も容易く使えるのですか……」


 わっはっは! これはあえて見せた手札なんだから、今後は思いっきり警戒してくれよ! そういう意図がなければ、ここで俺が切るメリットって薄いしなー!


 まぁそれはそれとして……UFOの上部の切断は済んだし、切り離した部分は落ちていったから、内部が丸分かりになったね。

 赤いパネルの前にいるリコリスさんの姿も見えるし、これならこの場にいる全員で演出は見れる……ジェイさん達みたいに違うPTだと見れるのか? うーん、そこはやってみないと何とも言えないな。


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