第1524話 情報交換


 これ以上の駆け引きは無しという条件で、シュウさん達とUFOから得られる物に関する情報交換をする事になった。明確に俺らが見たものとは違う様子だし、UFOだけに限定した内容でも有益な可能性はあるよな。


「さて、話を持ち掛けたのは僕らの方だし、先に話そうか。ケイさん、いいかい?」

「それでいいし、間で俺らの情報も挟んでもいくけど……他のメンバーが戻ってくるまで待ってもいい?」

「あぁ、それは確かにそうだね。曼珠沙華の3人は流石に待てないけど、十六夜さんと風音さんが来るまでは待とうか」

「私達の方もまだだしねー」

「はい! 赤のサファリ同盟は、誰がいますか!?」

「僕らと一緒に動いているのは、蒼華さん、ラピスさん、ディーさんだね」

「おぉー! 知ってる人ばかりなのさー!」


 ふむふむ、赤のサファリ同盟といっても、全員と面識がある訳じゃないけど……今回は少なからず、どこかで会った事がある人ばっかだね。昨日のガストさん達のメンバーとはまた違う構成だから、完全に別々で動いてるんだろうな。


「……ただいま」

「……すまん、待たせたか?」

「いや、この程度は問題なし!」

「風音さん、十六夜さん、おかえりなのさー!」


 羽根を持って飛んでいるヘビのラピスさんことラピスラズリさんと、カバのディーさんと、氷属性の龍である蒼華さんの3人も一緒にやってきたね。ふぅ、状況次第では盛大に戦ってただろうけど、そういう事態になってなくてよかったかも?


「さてと、それじゃ情報交換を始めようか」

「ほいよっと。まずはシュウさん達の情報からだなー」

「……シュウさん、良いのですか? ケイさんは襲ってくるのを黙認していたと思いますけども……」

「問題ないよ、蒼華さん。僕らもケイさんを狙っているんだから、それの対抗策として曼珠沙華の3人をぶつけてくるのも作戦のうちだしね。そもそも、止めようと思っても止まらないんじゃないかい?」

「リベンジに燃えてるから、あの3人はそう簡単には止められないなー」


 それが灰の群集入りの条件でもあるんだから、止めるのはほぼ不可能。でもまぁインクアイリーとかで裏で暗躍する事は無くなったんだから、それで勘弁してもらいたいところ。


「ケイさん、それはそれで赤の群集としては驚異が強まっているという認識になるのですが……」

「……あー、そういやそうか」

「ですが、まぁ強い不確定要素の位置が明確化したのは、確かにメリットではありますか。ウィルさんが少し頭を抱えそうなのは気になりますが……」


 あはは、そこは知らない。今後、群集単位での対人戦があったなら確実にシュウさんと弥生さんに大しては曼珠沙華をぶつける事になるだろうから、俺らの足止めに回したいウィルさんからしたら悩ましい事だってのは分かるけどね。でも、そこに配慮する理由は皆無!


「蒼華、今はそういう話はいいだろ。知りたいのは、採集機から何を手に入れたかだ。違うか?」

「……ラピスの言う通りですね。シュウさん、変に横槍を入れてすみませんでした」

「いや、問題ないよ。蒼華の懸念も、間違っている訳じゃないからね」


 インクアイリーの内部崩壊が始まって、各勢力の構図が大きく変わっている真っ最中でもあるんだし、気になってくるのも当然ではある。実際、どの程度の変化が出てるのか……把握し切れてないしなー。

 そこにeスポーツ勢も加わってくるし、夏の大型アップデートが入れば、更に状況は変わってくるはず。……まぁ落ち着くまでにしばらくかかるだろうし、今は俺らはイベントを進めるだけだけど。


「さて、それじゃ話を戻すよ。まずは僕らが見つけた採集機……ケイさん達はUFOと呼んでいると聞いているから、そっちに合わせようか。僕らが墜落したUFOを見つけたのは、午前10時頃だったね」

「あー、午前中か。落下していくところは目撃した?」

「黒の異形種の骨の竜が、叩き落としていくのに遭遇してね。どうも僕らに譲るように、中途半端な墜とし方をしてたのが気になったけども……」


 思いっきり心当たりがあるよ、その骨の竜の動き! 黒く染まってるプレイヤーとそれ以外のプレイヤーって判別の仕方をしてたはずだから、所属群集は関係なく手伝ってくれてる感じか。ふぅ……変に反応で勘付かれないよう、静かに出来て良かった。

 それにしても、まさか昨日の対話が、実際に黒の異形種の行動パターンに変化を及ぼしていたとは……。その恩恵を受け取ってるのが俺らじゃないのが……いや、待てよ? 俺らが見つけたさっきのUFOも、黒の異形種が墜としてくれてた物なのかも?


「……驚いた様子がないのが気になるけど、まぁ今はそこは置いておこうか。駆け引きは無しと言ったしね」


 うげっ!? 俺らの反応で、そういう違和感を感じ取ってくるのかよ! うーん、平静を装うんじゃなくて、大袈裟に驚いてみせた方が良かった? いや、でもわざと驚いたら、それこそ違和感が凄いことになるし……。


「まぁそれで空いている穴からUFOの中へと入ったんだよ。UFOの中身は、思った以上にボロボロに崩れていたんだけど……その辺の印象はどうだい?」

「あー、それはこっちも同じ。ステルス機能と一緒に、強度を上げるシールドみたいなのが壊れてるんじゃないかって推測だな。あ、そもそも見つけたのは『Ⅰ型』と『Ⅱ型』、どっち?」

「僕らが見つけたのは『Ⅰ型』だね。ケイさん達のも『Ⅰ型』かい? 遠くて分かりにくかったけど、形状は似ていたと思うんだよ」

「実物、遠くからでも見えてたかー。ちゃんと『Ⅰ型』だったぞ」

「まぁ『Ⅰ型』の方が、『Ⅱ型』よりも大きいからね。デザインが統一されているのなら、そう見間違える事もなさそうだ」


 サラッと言うけど、『Ⅰ型』の方がデカイんかい! 『Ⅱ型』はまだ見てないから、どのくらいの大きさなのか知らん! ステルス機能無しで、武装ありって話は聞いてるけども……。


「中には、赤く光ったパネルがあったよね! それに近付いた状態で『惑星浄化機構・長距離通信装置』を取り出したら、緑に変わって、クオーツが出てきてさ!」

「それ、こっちも同じだったのさー! そこから、残ってたデータの分析をしてたのです!」

「どうやら、流れ自体は一緒のようだね?」

「みたいだなー。シュウさん達も、崩れた中をなんとか通っていった感じ?」

「まぁそうなるよ。下手に動けば崩しそうだったから、弥生と2人で慎重に進みはしたけど……そういう意味ではハーレさんやヨッシさんは進みやすそうだね」

「ふっふっふ! 実際、進みやすかったのです!」


 今回は、本当に小型種族の利点を痛感したもんなー。俺のロブスターは全体的に見れば大き過ぎる程ではないはずなのに、スムーズに進めないほどの状態だったしさ。

 外から見た様子よりも、遥かに内部が崩れ過ぎてた! まぁ完全に墜落するまで破壊されているんだから、仕方ない部分かもしれないけど……。


「ケイでも進みにくそうな様子だったが、そんなにか?」

「もう滅茶苦茶だったぞ。可能なら、外から順に崩して解体していった方が楽かも……」

「僕らとしては、それが出来るかどうかを試したかったんだけどね」

「え、マジで!?」


 あー、しまったな。そういう意図があったとは思ってなかった……。いや、でもあれは完全に早い者勝ちだし、ここで罪悪感を抱える必要はないか。

 そもそも、曼珠沙華が一緒に行動してる時点で、シュウさん達と交戦を避けるという選択肢はなかったんだ。むしろ、足止めという判断に誤りはない!


「……今回のイベントは、どうにも情報交換がやりにくいね。まぁ性質上、利害の一致が難しいというのはあるのだろうけど……」

「それはまぁ、俺も思うところではあるなー」


 どうしても得る物が早い者勝ちになる以上、持っている情報を全て無条件で開示する訳にもいかないしね。多分、普段ならもっと気軽に情報交換は出来てるんだろうけど……。

 

「シュウさんもケイさんも、そこは気にし過ぎても仕方ないよ! 今は納得出来る範囲で、情報交換をしていこうよ?」

「弥生さんの言う通りかー。えーと、差異がありそうなのは、この先の話になりそう?」

「おそらくね。僕らの方では、クオーツが引き出した情報は2つあったよ。1つ目は、落下物の位置情報の探知。……これはケイさんがさっき、ハッタリで聞き出そうとした部分だね」

「あー、まぁそうなるな」


 もう駆け引きは無しって話なんだし、ここは素直に認めておこう。下手に誤魔化そうとすれば、それ以上の情報が得られなくなりそうだしさ。


「2つ目は、おそらくケイさん達が手に入れた翻訳機能についてだね」

「2つの情報が出てくるのは、びっくりなのさー!?」

「俺らの方は、改造に関してはその翻訳のみだったからなー」

「……なるほど。今回はハッタリという訳ではなさそうだね」


 駆け引き無しって言った割には、思いっきり疑ってくるね!? あー、でもそこは俺が出し抜こうとした部分だから、どこまでがハッタリで、どこからが事実なのかを確認するのは必要か。うーん、なんか色々と対応をミスった気がする?


「その後、クオーツからUFOを破壊するように頼まれたのは同じかい?」

「そこは同じだと思うぞ。砂みたいにバラバラになって、跡形も残ってないしさ」

「その残骸が採集出来るのは、分かってる?」

「うん! 私が持ってるのさー! でも、使い方はさっぱり分かりません!」

「そこは僕らもまだ分かってない部分だね。ここで、改造用の材料になるのかもと期待していた部分でもあるけども……」

「あー、やっぱりそれは思うとこだよなー」


 シュウさん達からすると、俺らが先に見つけていたのはかなり運が悪かった? あー、だからこそ戦闘をする相手は曼珠沙華だけに限って、早い段階で情報交換を申し出てきたのかも?


「さて、概要をお互いに把握したところで……重要な部分の情報交換を提案しようか。僕らは落下物の察知に改造したのを説明するから、ケイさん達は翻訳を何に使うのか教えてもらえないかい? 1択しかなくとも、使えなくなる代償を選んでまで改造をしたのには理由はあるだろう?」


 やっぱり、その部分に踏み込んできますよねー。うーん、ここまで理由がある事を推測されているのなら、シュウさん達なら自力で黒の異形種との対話に辿り着くのも時間の問題か。

 下手に出し惜しんで自力で到達されるよりは、対価として他の手段を知るのもありだよな。みんなを見回してみれば……うん、意図を察してくれたのか頷いてくれている。よし、それならこの方向性でいこう!


「その情報交換、乗った! ただ、赤のサファリ同盟以外への公表は控えてもらえる?」

「それは当然の要求だね。元より、今回は大々的に外へ情報を出す気はないから、その条件に問題はないよ」

「おし! なら、俺らの方から説明していきますか。昨日の夜、俺らは黒の異形種との対話に成功した。かなり偶然が重なった状態だったけどな」

「……黒の異形種とかい? なるほど、その為の翻訳機能! いや、でも昨日の夜にそれが可能だったなら、何故機能として欲するんだい?」

「対話の出来る条件が限定的で、途中で寸断されたんだよ。その時、近くに全壊間近のUFOがあったんだけど、まぁ偶然その機能が働いていたみたいでさ」

「……なるほど。翻訳機能がUFOのデータベースの中に存在しているんだし、それが偶発的に機能していた訳かい。その機能が手に入るようになっていると考えれば……何か利点があるんだね?」


 まぁこれは出てきて当然の疑問だな。流石に黒の異形種の溜まり場の存在までは教える気はないけど、味方に出来うる黒の異形種が存在する事は伝えても問題はないか。偶然だろうけど、その個体に遭遇してるみたいだから説明もしやすいしさ。


「シュウさん達が探ったUFOは、骨の竜が譲ったみたいに言ってたじゃん? 多分だけど、それが俺らと話したやつと同一個体」

「っ!? ……なるほど、さっきの驚きの無さはそこに繋がってくるんだね。あの骨の竜は、ケイさん達の味方という事かい?」

「厳密には、色々と黒の異形種にも事情があるみたいだけど……まぁ手伝ってもらえるように交渉は出来てたからな。多分、その恩恵がシュウさん達の前に出たんだと思う。この辺、途中で話が途切れてるから、正確な事はハッキリとは言えないんだけど……」

「……なるほど」


 色々と事情自体は聞けているけど、そこまで全てを話す必要はないだろ! ここまでの情報でも、十分過ぎるほどの価値はあるだろうしさ! むしろ、これ以上話すのは流石にやり過ぎになってくる……。


「確かに、そういう事情なら翻訳機能を求めるのは分かるね。まだ気になる部分もあるけども、流石にそれは聞き過ぎだから、自分達で探る事にするよ」

「あー、まぁそうしてくれると助かる」


 伏せてる事がまだあるってのがバレてるけど、追求してこないならそれでよし! シュウさんもこれ以上は、情報の内容として釣り合わないって判断したんだろうしさ。


「さて、それじゃ僕らの方の説明だね。まぁこれは実物を見せておこうか」


 そう言いながら、レンズ状のクオーツの部品を地面に置いていくシュウさんである。あー、こういう感じになってるのか! 中央部分から外周部分に向けて、定期的に波紋のようなものが広がって、レンズ上には光る点が表示されている。ははっ、表示されてるのは、まだ回収が出来てないそこの落下物か!


「おぉ!? クオーツの部品が、レーダーっぽくなってるのさー!?」

「これが落下物の探知装置?」

「そういう事になるね。これを使って北の方にあった反応を追っていたんだけど……ケイさん達、あれはどうやって見つけたんだい?」

「……あれは、俺の共同体のメンバーが埋めて隠していたものだ。そういう手段で察知した訳ではない」

「あぁ、なるほど。元々、在処を知ってた訳かい」

「そういう事になるなー」


 あの時の心理戦も答えは、こういう事だったんだね。それにしても……ここまで明確に落下物のある場所が分かる手段があるとはなー。それなりに有効範囲は広そうだし、これは欲しいかも?

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