第1521話 湖に沈めた落下物


 『縁の下の力持ち』のメンバーが落下物を沈めたという小さな湖が、そろそろ見えてくる頃合いだ。俺らの動きを察知して、青の群集の一団は引き上げたけど、赤の群集の一団は……あ、動きを止めた?


「これは……お先にどうぞってか?」

「ケイ、何か動きありか?」

「あー、赤の群集の一団の動きが止まってさ。……もしかして、狙ってた物が別にあった?」

「……それならそれで、都合はいいだろう」

「それもそだなー。アル、そのまま湖まで進んでくれ!」

「了解だ!」


 どういうルートで落下物の場所を知ったのかさえ不明なんだ。俺らが動き出す前に、この近くで察知していた別の反応があってもおかしくはない。……後で、今の赤の群集の一団が止まってる場所の向かうのもありかもね。


「ふっふっふ! 湖が見えてきたのさー!」

「荒野にあるオアシスみたいな感じかな?」

「でも、植物は少なめだね」


 目指している湖は、聞いていた通り小さめっぽいな。小さい分だけ浅そうだし……ここに沈められてたとしても、人によっては気付くんじゃ?


「十六夜さん、ここだと沈めても丸わかりなんじゃ……」

「……砂で埋めたとは言っていたが、行ってみないとなんとも言えんな」

「あー、砂で埋めてはいるのか」


 ここまで原野を移動してくる中で、一部が砂漠のように砂地になってる場所もあったからなー。そういう場所から偽装用に砂を持ってきたか、湖の底がそもそも砂地って可能性もあるのか。

 その中の埋めているなら、他の人に見つけられずに残ってるかも? いくらなんでも、探す範囲がとんでもなく広いのに、そんなプレイヤーによって湖の底に埋められたものとか探してられんし!


 あ、そうしてる間に湖の上まで辿り着いたね。ふむふむ、パッと見では湖の底が砂地になってるようにしか見えない状態――


「着いたが……どうする?」

「だなー。さてと、特に湖の中に敵はいないみたいだし、俺が突っ込んできて――」

「……敵がいないなら、こうすれば早いだろう。『砂の操作』!」

「おぉ!? 砂が持ち上がったのさー!」

「あー、それが手っ取り早いか。十六夜さん、ナイス!」

「……この程度、どうって事はない」


 それほど広い湖じゃないし、砂の操作が使えれば誰でも出来る……いや、真上を水で覆われているんだから、何気に負荷を抑えめに持ち上げるのは簡単でもないかも? まぁそこは流石、十六夜さんってとこだな!


「……湖に……色々……落ちていってる?」

「……あれが落下物みたいだね」

「ふふーん! 全員、1個ずつ確保ー!」

「おい! リコリス、待て……あー、もう行っちまったか。十六夜さん、俺も手早く確保して、砂の持ち上げ役は代わろう」

「……あぁ、それは頼む。周囲への警戒を怠る訳にもいかんしな」


 砂を持ち上げてる状態かつ、アルが盛大に目立つような状態だもんな。獲物察知で周囲を警戒している状態とはいえ、無防備に全員が確保しに行く状況は避けた方がいいか。


 赤の群集の一団は……特に動く気配はない。位置的に、岩が乱立してる場所の先か? うーん、別の落下物がそこにあるのか、それとも俺らの様子を窺っているのか……判断が付かんな。まぁその辺は警戒しつつ、やっていこう。


「とりあえず、まずは曼珠沙華と風音さんが確保してきてくれ! そこから交代で確保しに行く!」

「……うん、それがいいね」

「もう既に、リコリスが先走っているがな」

「ふふーん! 先走ってないし、安全確保が目的ならこれでもいいでしょ! 『アースクリエイト』『岩の操作』!」


 あー、砂から出てきて湖の中へと沈み直した落下物を、生成した薄い岩で持ち上げてきたか。ちゃんと水が抜けるように、穴をいくつか開けているのが芸が細かいね。

 ふむふむ、これなら周囲を警戒しながら確保しに行く必要もなく、アルのクジラの背の上まで……あ、すぐに持って上がってきたな。


「はい! みんな、どーぞ!」

「リコリスにしては、珍しく気が利くな?」

「……ラジアータの分、どっかに捨ててきていい?」

「ふん、何個捨てる気だ? 俺らの人数よりも個数は多いし、余計な手間をかけるだけだろう」

「ぐぬぬ!? ラジアータめー!?」

「……リコリス、独断専行は駄目。今は集団行動中だよ。ラジアータも、変に煽らない」

「ぶー! まぁいいや! 今回は……これ! ……ぐぬぬ、未強化の『瘴気珠』って、ちょっと微妙!?」

「残念だったな。さて、俺はこれでいくか」


 とりあえず、湖の中で回収していくよりは安全な状態だし、順番に確保して、余ったのは元に戻しておけば――


<ケイが成長体・暴走種を発見しました>

<成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>


<ケイ2ndが成長体・暴走種を発見しました>

<成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>


 って、成長体の発見!? あ、ラジアータさんが拾った落下物から、青いカエルが飛び出てきてる!? これ、話に聞いてた、取得回数が増えるボーナス個体か!


「『エレクトロボム』!」


<ケイが成長体・暴走種を討伐しました>

<成長体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>


<ケイ2ndが成長体・暴走種を討伐しました>

<成長体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>


 って、あっという間にラジアータさんが仕留めて終わったな。まぁ成長体ならそんなもんか。


「一瞬慌てたが、まぁこれで2個目の確保は可能か。十六夜さん、追加の入手権は俺だけのものか?」

「……いや、同じ連結PT内なら誰でも問題はない」

「ふふーん! それなら、私がもーらい!」

「あ、待て! ……ちっ、遅かったか」


 止める間も無く、リコリスさんが2個目を手に入れちゃってるー!? うーん、曼珠沙華の中だからこそ無遠慮になってるんだろうけど……一応、連結PTの範囲内での判定なら、少し行動は待ってほしかったなー。

 まぁ今のなら、追加分は曼珠沙華の誰かに拾ってもらうのが無難ではあるし、別にいいか。……それにしても、リコリスさんは何が出たんだ? 反応がないんだけど……。


「……リコリス、どうしたの?」

「えーと、クオーツの部品が出ちゃった? ケイさんが持ってるやつ」

「何? 2個あって、意味はあるのか?」

「分かんないよ!? だから呆けちゃってたんだし!」


 まさかのクオーツの部品、2個目の入手……。うーん、まだ全壊してないUFOを見つけられてないし、2個あっても意味があるかは分からん!


「別に、曼珠沙華が1個持っていても問題はないだろ。必ず、ずっと俺らと一緒に動けるとは限らないんだしな」

「……アルマースさんの言う通りだね」

「あっ! それもそうだね! ラジアータ、呆け過ぎだよ?」

「おい、待て! 呆けていたのはリコリスだろうが!」


 さーて、もう見慣れてきたこの2人のやり取りは置いといて、俺らも確保していこうっと。風音さんやハーレさん、十六夜さんも取りに動いてるしさ。


「……『侵食』の……進化の軌跡が……出た。……結構……出るね?」

「……それだけ、重要な要素という事だろう。俺は……よし、『転移の実』がきたか」

「おー! 課金アイテムは当たりなのさー! 私は……はっ!? 『スキル強化の種』なのです!?」

「あ、大当たりだね! ハーレ、おめでと!」

「ふっふっふ! 何に使うか、悩むのさー!」


 ハーレさんは現時点では『狙撃Lv10』があるけども、他に何を強化するかは悩むとこだよな。物理攻撃系統は目立つ変化ではないけども、行動値の消費が圧倒的に抑えられるから、交戦時間が伸びるのが強みだし――


「っ!? UFOに動きありだ!」

「ちょ!? このタイミングで!? 十六夜さん、どっちだ!?」

「……南の方に降りていっている。これは……このエリアではありそうだが、少し遠いな」

「あー、そういう感じか。とりあえず、大急ぎで1個ずつ確保して、そっちに向かうぞ!」

「了解だ! 『根の操作』!」

「分かったかな!」

「了解!」


 1人ずつ、確保した内容を確認していく余裕はなくなったし、急がないと! 近場にいる赤の群集の一団がどう動くかも気になるし、さっき引き上げた青の群集の一団も動いているかも! ともかく、今は確保を急げー!



 ◇ ◇ ◇



 手早く全員が確保をし終えて、十六夜さんの察知しているUFOを追いかけて南へ向かって移動中。手短かに各自が手に入れたアイテムの報告はしたけど、特筆するようなアイテムは手に入ってなかった。気になるような内容が先に出てたのは、まぁ状況的にはラッキーだな。


「ケイ、赤の群集の一団はどういう動きだ?」

「あー、俺らが残してきた落下物を拾いに行ってるっぽい。この動き、完全に俺らに譲ってたな……」

「となると、あそこに埋まっているのを知ってた訳か」

「……おそらく、そうなるな。情報流出の経路を探っておいた方が――」

「十六夜さん、それは待て」

「……桜花さん、何故止める? 放置して、情報がダダ漏れという訳にはいかんぞ」

「下手に探れば、味方内で疑心暗鬼になりかねないからだ」

「……それはそうだが、協力関係を組んでいる以上、情報漏洩は共同体としての問題にもなりかねん。緩く繋がっている関係だからこそ、守り通す一線もあるからな。意図的に他所へ情報を流したとなれば……その一線を超えている」


 あー、『縁の下の力持ち』という共同体の責任問題になってくるのか。うーん、厳格に行動を縛ってる訳ではないからこそ、そこに出てくる情報の取り扱いは慎重に行わないといけないんだな。その一線を超えてしまえば……互助会ではなく、一部の人が都合よく利用するだけの場所になってしまうしね。

 今回の場合なら、赤の群集の一団や青の群集の一団に情報を流している人がいるって事になるから……影響度合いは結構酷いかも? まとめに書いてある灰の群集の秘匿情報すら、横流しされている可能性すら出てくる訳で――


「まだ情報流出だと決まった訳でもないだろ?」

「……なに? 桜花、それはどういう意味だ?」

「疑うには時期尚早だと言っている。仮にだが……落下物だけを察知する手段があったとすればどうだ? それを赤の群集、青の群集、どっちもが使ってきてたと考えれば、さっきの動きはあり得るんじゃねぇか?」

「……それは……あっても……おかしくない?」

「……もしそうなら、下手に疑惑を出すと足並みを乱す?」

「あぁ、俺が懸念してるのはそこだ。十六夜さん、よく考えろよ? 仮に情報漏洩があったとして……情報の出所は判明してるんだ。その状態で『縁の下の力持ち』と協力関係だと明白な俺らに近付くのは、リスクがあり過ぎるぞ」

「……なるほど。それも一理あるか」


 確かに情報源と、流出した情報の内容を繋げるような行動を起こすのは不用意過ぎるのは間違いない。少なくとも、俺が相手の立場なら、絶対に俺らとだけは接触は避ける。

 そう考えてみれば……桜花さんの言うように、既に落下済みの落下物を探し出す手段があって、今回接触しかけた赤の群集の一団と青の群集の一団はそれを使っていた可能性の方が現実的か。『侵食』でのUFOの察知手段があったんだから、落下物そのものに対する察知手段が用意されている可能性も十分ある。


「ねぇねぇ! もしかして、これがそれの手段だったりしない?」

「ん? クオーツの部品……?」


 リコリスさんは、一体何が言いたいんだ? それは全壊してないUFOに接続して、演出を進める為の……いや、待て!? 必ずしも、それだけとも限らない――


「ほら! これでUFOと接続するとか言ってたじゃん! それなりに時間が経ったのに、誰も演出を進められてないのが不思議だったんだけど、演出を進める以外の何かがある可能性もあるんじゃない? それに、黒の異形種と喋れるようになるアイテムもあるはずだよね?」

「あー、そういやそれもあったっけ! なるほど、クオーツの部品とUFOから手に入る何かで、黒の異形種との翻訳アイテムが用意出来る可能性はありそうだ」

「はっ!? もしかすると、黒の異形種が落下物の場所を教えてくれるの!?」

「その可能性もあるかもなー」


 プレイヤーが落下物を落とさせる事もあるけども、黒の異形種がUFOを攻撃した際に落ちる事もある。黒の異形種と対話する事で、その位置を教えてもらうというのは現実的にあり得る範囲か。


「十六夜さん、今は情報流出の可能性はなしで考えよう。割と冗談抜きで、まだ知らない察知手段がありそうだしさ」

「……どうやら、その方が良さそうだな。今は、その未知な察知手段に関する情報を探ってもらっておくぞ」

「その方向性でよろしく!」


 情報流出を疑うのなら、もっと疑うだけの材料が出てきた時でいい。桜花さんが懸念していたように、疑心暗鬼を生み出して味方が信用出来なくなってしまったら、協力関係が成り立たなくなってしまうしね。


「っ!? ケイ! あっちかな!」

「ん? サヤ、どうし……って、既に墜ちてるUFO!?」


 ちょ!? サヤに言われた方向に明かりを向けてみたら、予想外過ぎる物があったわ! うっわ、バオバブの木の何本かの間の突っ込んで墜落してる状態のUFOがそのまま放置とか……ビックリするんだけど!

 あー、ボロボロになって壊れた様子だし、誰にも察知されず、夜の暗さもあって気付かれず放置になってるっぽい? もし昼飯時に墜落してたのなら、こういう状況もあり得るのかもなー。大勢の人が集っている訳じゃないエリアで、察知出来る時に近くに誰もいなければ、スルーされてもおかしくはないか。


「アル、方向転換! 降りてきてるUFOより、既に墜ちてるUFOを優先で!」

「ま、そりゃそうだよな!」

「ふっふっふ! やっと見つけた、全壊してないUFOなのさー!」

「さっきの手段、実際に確認出来たらいいかな!」

「それが分かると疑う理由もなくなるもんね」

「……ともかく……行ってみる!」

「……場合によっては、赤の群集も青の群集も、ここで察知手段を得てたのかも?」

「あ、そっか! そういう可能性もあるんだ!?」

「なるほど、確かに否定は出来んな」

「……行けば分かる事だろう」


 逆に言えば、行ってみなければ分からない! もし他の群集がここで手段を得たのだとしたら、このUFOは全壊させられないって可能性もありそうかも? まぁそれも確認してみないと分からないか。

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