第1520話 探索の体制
うーん、みんなを眩しくさせずに明かりを増やす方法……あ、この手があるか!?
「リコリスさん、ちょっと手を貸してくれ!」
「はいはーい! 手伝うのはいいけど、具体的に何すればいいの?」
「アルのクジラの腹部を覆うように岩を生成してもらえない? その上に俺のコケを増やしていきたいんだけどさ」
「あ、なるほどね! それなら任せて! 『移動操作制御』!」
よし、あっさりと俺の意図を汲み取ってくれたようで、アルの真下ではあるけども、動きを阻害しない程度に離して岩を生成してくれた。
「ふふーん! 私のこれ、『移動操作制御Ⅱ』だからね! だから、2回までは被弾は気にしなくていいよ!」
「午前中に取ったばかりだが、もう既に出番が来るとはな。灰の群集のまとめ情報、侮れん」
「……役に立つなら、良かったかも」
「あー、なるほど。リコリスさんなら、条件は満たせられるもんな」
『移動操作制御Ⅱ』はLv10に至った操作系スキルを登録する必要がある。でもまぁ必ずしも、登録するスキルがLv10になったスキルに限定はされないのは大きい仕様だよね。
「一応、彼岸花も『移動操作制御Ⅱ』を取っているぞ」
「……昨日みたいな、雲への偽装が必要な時は言ってね」
「ほいよっと!」
そりゃ彼岸花さんの氷の操作もLv10なんだから、取得条件は満たせられますよねー! 一発で強制解除にならないのは大きな利点だし、移籍してきた人達がまとめの情報を使ってパワーアップってのは素直に嬉しいもんだな。その情報、見つけたのは俺だしさ。
「さてと、それじゃ下に行って仕込んできますか!」
「任せたぞ、ケイ」
「ケイさん、ファイトなのさー!」
「……派手に目立ちそうかな?」
「あはは、まぁ思いっきり目立つよね」
アルのクジラの腹部に近い場所に、盛大な光源を作るんだから目立つのは仕方ない。逆にそこまで目立たせまくれば、隠れて着いてくるのも難しくはなるだろうから……そういうのを避けられればいいなー。
◇ ◇ ◇
<行動値を消費して『増殖Lv5』を発動します> 行動値 49/119(上限値使用:12)
思いっきり増殖しまくって、リコリスさんの生成した岩の表面は大体覆い尽くした。……結構な量だけど、まだ群体数には余裕ありますなー。これ、今の俺のコケの最大群体数まで行く事ってあるのか?
まぁいいや。とりあえずコケの配置は終わったから、アルのクジラの上に戻ろう。飛行鎧に組み込んだ懐中電灯モドキは……まぁこのまま使えばいいだろ。
「おぉ!? なんか、とんでもない光景になってるのさー!?」
「夜とは思えない明るさだね?」
「ケイ、これはちょっとやり過ぎじゃないかな?」
「問題ないって! もう他のプレイヤーからは、まともに直視させないつもりでいく! リコリスさん、戦闘になったら目眩し代わりに使ってくれ!」
「あ、そういう使い方もするのかな!?」
「おっ! この明るさ、攻撃にも利用するんだね! それは了解!」
「怯ませる為の、眩し過ぎる明るさか。まぁ確かに不意を突くにはありな手段だな」
「……俺らは、不用意に見ないように注意が必要か」
「……自滅したら……意味がない……もんね」
その為に、上向きに光が届かない位置に限定はしたからね。ここまで盛大に明るくするのは初めてだけど、どこまで有効なもんやら?
「ケイ、これは敵からの奇襲は大丈夫か? 虫系の種族は、明かりがあれば集まってくるだろ」
「それは返り討ちか、避けるか、どっちかだな。少数なら返り討ちにするとして……俺とリコリスさんで光源を覆うように水を広げて、ヨッシさんとラジアータさんで電気を流していってくれ! 群れてきた場合は、リコリスさんは即座にアルから岩を引き離してくれ。ある程度距離を取ったら、そこで解除してくれればいいから」
「はいはーい! 敵の数によって、作戦の調整ね!」
「……ラジアータ、獲物察知は任せられる?」
「ま、俺かケイさんで警戒しておく方がいいな。十六夜さんはUFOの察知に専念してもらうとして……ケイさん、交互で確認していくのでいいか?」
「それで問題なし!」
「なら、俺が先にやらせてもらおう。『獲物察知』! ……流石に一般生物では、いくら光源があっても無謀に突っ込んではこないか」
雑魚の虫に群がられると厄介だけど、まぁそこら辺はゲーム性に配慮して一般生物の虫が、極端に邪魔になるほどの集まり方はしないっぽいね。
とはいえ、今いる場所は植物の少ない谷だから問題ないけど、植物が多い場所になれば奇襲には気を付けないとなー。
「……ケイ、もういいか?」
「もういいぞ、十六夜さん。そっちの反応はどう?」
「……明かりを用意している間に、多くの反応が地上へ降りていっていた。だが、この周囲には来ていないな」
「あー、それは残念……」
俺があれこれやってる間に、進化を終えて普通に会話にも混ざってた十六夜さんだけど、特に目立った成果はなしか。昨日の演出の後の時点で、降下してくるUFOの数は増えてるみたいだけど……近くに降りてくるかは運次第なのは変わらずっぽいね。
「さて、移動準備は出来た訳だが……ケイ、どういう風に進んでいく?」
「どうしたもんだろ……? 誰か、この原野で落下物がある場所を知っているとかは……」
うん、みんな首を横に振ってるから、心当たりはないっぽい。いやまぁ、これから探索開始なんだから、そりゃそうですよねー!
「……『縁の下の力持ち』で、情報がないか聞いてこよう。もしかすると、誰かが見ていて……場合によっては隠しているかもしれん」
「十六夜さん、そっちは任せた!」
「あぁ、任せておけ。ただ、必ず情報があるとは限らんからな」
「それも分かってるから、問題なし!」
期待し切ってガッカリするよりは、運が良ければ情報がある程度に考えておくのが無難だろ。俺らにとって都合のいい情報ばかりがある訳じゃないのは、分かり切ってる事だしね。
さて、すぐに解答があるとは限らないし、今のうちに出来る事を……。
「ちょい待った。十六夜さん、共同体のチャットの確認をしながら、察知の状況って確認出来る?」
「……流石にずっとは厳しいな。ちっ、俺がやる場合はそういう問題点があったか……」
「やっぱりかー。その辺、どうしよう?」
「……可能な範囲で、察知の方を優先しよう。少なくとも、意識の端に入れておけば、UFOの動きまでは見落としはしないはずだ。……瘴気の方は、そもそも夜の暗さに紛れて分かりにくいがな」
あっ、瘴気の方はそもそも見辛い状態だったのか。んー、今回はまぁそれでいいとして、次からは実行役は変えた方がいいかもね。
次はそれでいいとして、問題は今の状態をどうするかだけど……誰かに重ねて使ってもらうのは、十六夜さんが嫌がりそう――
「……次からは……サヤさんか……ハーレさんか……リコリスさんが……いいかも?」
「ふっふっふ! 任されるのであれば、頑張るのさー!」
「UFOを探すのも大事だけど、既に落ちてるのも探すならその方が良さそうかな?」
「ふふーん! 任せなさーい!」
「なら、そういう感じでいきますか! 十六夜さん、ちょっとの間、負担をかけるけど……」
「……俺が自分から言い出した事だ。無駄にはさせん」
「それじゃ、頼んだ!」
「……あぁ、任せておけ」
やっぱり、他の誰かに同時に使ってもらう方向性は駄目っぽい。強引に押し切って2人体制でやるのでもありだけど……まぁここは十六夜さんを信頼して任せますか! 常時、チャットで会話しているって状況にもならないだろうから――
「……ほう? そこら辺は、どうやら気にしなくて良さそうだな」
「はっ!? もしかして、どこかに落下物がありますか!?」
「……あぁ、ここから少し北にある小さな湖の底に20個ほど沈めているそうだ。今朝の話だから、今もまだあるとは限らんがな」
「ナイス、『縁の下の力持ち』! アル、目的地はここから北の小さな湖だ!」
「おうよ! あー、それで道中はどうする?」
「他にもあるかもしれないし、探しながらで! それ以上は、実際に動きながら判断する!」
「おし、了解だ! 速度はそれほど出さずにいくぞ」
「探索船『アルマース号』、出航なのさー!」
「「おー!」」
さーて、良い情報は仕入れられたし、目的地が定まっているなら十六夜さんへの負担も多少は減るはず。問題は無事に沈めた落下物が残っているかだけど……まぁそれは現地に行ってみないと分からないよな。
◇ ◇ ◇
十六夜さんから『縁の下の力持ち』のメンバーが湖に沈めた落下物の情報を聞き、そこに向けての移動中。移動中なのはいいんだけど……。
「ケイさん、どうするよ?」
「あー、マジでどうしよう……?」
ラジアータさんと交互に獲物察知で周囲の状況を確認する事になったし、実際にそうしながら進んでいた。いたんだけど……まだ少し距離はあるとはいえ、赤の群集の一団が東側に、青の群集の一団が西側に存在している。状況を把握する為に一時的に2人で察知はして確認中。
その結果として、どっちも進行方向が俺らと同じなのが分かったんだけど……これ、なんで!? 今、特にUFOの反応は拾ってないはずなんだけど……。
「十六夜さん、反応を見落としてたりはしないよな!?」
「……あぁ、それは間違いない。仮に落下時を見落としていたとしても、落下物への反応が出ているはずだ」
「UFOが出た時の落下物の反応は拾えるんだし、そこは間違いないはずなのさー!」
「だよなー!?」
UFOが転移しても、その時に落としていった落下物への反応が残るのは、昨日ハーレさんが体験して知っている。だから、UFOへの反応を頼りに進んでいるのではないはず。
「……十六夜さん、『縁の下の力持ち』が他の群集に情報を流した可能性はあるの?」
「……否定したいとこだが、その指摘の可能性はあり得るな。……意図的に流したのではなくとも、目撃されていた可能性は否定出来ん」
「いやいや、それはそれで赤の群集と青の群集の両方が動いてるのも不自然じゃね!?」
「……どこに情報が流れたかによるよ?」
「あー、まぁそりゃそうか……」
落下物を沈めたという情報を得た人が、必ずしも自分達で取りに来れるとも限らないしなー。得た情報をトレードの材料にして、他の何かを得たという可能性もある。独占ではなく、複数人に話した可能性だってあるかもしれない……。
「ケイ、どうするのかな? どう考えても、人数分は足りないよね?」
「……そうなんだよなー」
人数的に、赤の群集の方は1PTで動いているっぽいけど、青の群集は2PT構成。赤の群集だけなら交渉の余地もありそうだけど……ここで1PTだけっていうのも嫌な予感もするんだよな。
「赤の群集、弥生さんやシュウさんの可能性もあるよね! 今日は動くって話だったし!」
「……そうだったら、今回は約束通りのリベンジの機会!」
「流石にその場合、止めないよな? ケイさん」
「……まぁ約束だしな。そこは止めないけど……」
約束は約束。俺らの指示に従ってもらう上での、重要な内容だから弥生さんとシュウさんへのリベンジの機会があれば、よっぽどの理由がない限り止める気はない。
そもそも、この赤の群集の反応が弥生さん達のものなのであれば……狙い自体が落下物じゃなくて、俺ら自身って事もあるんだよね。俺らから向こうは視認出来てないけど、ド派手に光ってる俺らは向こうから視認されててもおかしくないし!
あー、赤の群集だけなら距離を詰めて、曼珠沙華の3人に暴れてもらっている間に動くって事も出来るのに、そうしようと思えば今度は青の群集の一団が邪魔になるんだよなー!?
「……いっそ、青の群集の一団を潰しに行くか? もし、赤の群集の一団が弥生さん達なら追いかけてくるだろうし、そこを曼珠沙華に抑えてもらう感じでさ」
「ふふーん! それなら望むところ!」
「いい案だな。俺らはそれで構わんぞ」
「……全力でやる!」
うん、思いっきりやる気満々だな、曼珠沙華。まぁまだ確実に弥生さん達だと決まった訳でもないんだけど……。
「……潰すかどうかは別として、動きを見るというのは賛成だ。相手側の出方がどうなのか、確認はしておいた方がいいだろう」
「……十六夜さんに……賛成。……相手に……戦う意志が……ない可能性も……ある」
「確かになー。アル、青の群集の一団の方へ、方向を変更!」
「おうよ!」
「相手の動き次第では、そのまま交戦に入るつもりで!」
「分かったかな!」
「了解なのさー!」
「……どういう動きになるか次第だね」
雑魚戦を合間で挟んで、ちょいちょい移動速度に差が出ているとはいえ、このまま進めば目的の湖での遭遇戦になる可能性は高い。俺らが諦めるって方法もあるんだけど……赤の群集の一団の動きを確認しないと、戦闘回避は出来ない可能性もあるからなー。
「ん? 赤の群集の一団は、こっちに寄ってくる気配はないな。一直線に、湖へと向かっているぞ」
「えー!? それじゃ、弥生さん達じゃない感じ?」
「その可能性が出てきたな。おっと、青の群集の一団も離れていくぞ?」
「……戦闘はしないつもり?」
「完全に方向を変えたし、そのようだな。これは諦めたのかもしれん」
「あー、戦闘にはならずに済みそうか。アル、進行方向を湖に戻してくれ」
「了解だ!」
ふぅ……ちょっと交戦する意思を見せたら、穏便な形で済みそうでよかった。青の群集の一団、諦める判断が早かったけど……誰が指揮してるんだろ? ジェイさん……ではないな。ジェイさんなら、間違いなく俺ら相手には真っ向からぶつかってきたはず!
「……青の群集の一団は、俺達と赤の群集の一団が潰し合うのを狙っていたか?」
「……それは……ありそう?」
「当てが外れて、諦めたかー。まぁそれは俺らとしてはありがたい!」
赤の群集となら、個数的には奪い合いにならないはず。青の群集の一団が引き上げたのは、無理して取りに行くのはリスクが高いって判断したんだろうね。
そういう判断が出来るって事は……この先の湖に沈んでいる落下物の個数を把握している証でもありそうだ。向こうは向こうで、俺らの動きを探っていたのかもねー。
まぁ何はともあれ、心理戦は俺らの勝ち! いざ、落下物が沈んでいる湖へ! 座標的に、もう少しで見えてくるはず?
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