第1519話 全員、集合


 まだ全員が揃っている訳ではないけど、地味に重要な情報が分かった。自分達の目の前に墜落させるのは、ほぼ不可能か……。うーん、こりゃ随分と厄介な……。


「あ、そういや十六夜さん、昨日は例の落下物、無事に桜花さんのとこまで持っていけた?」

「……あぁ、まぁな。桜花、取れる奴は大体取りに行った後だな?」

「あー、その件で伝えておくべき事がある。……紅焔さん達と『縁の下の力持ち』の人に渡した上で2個ほど余ってるんだが、どうすればいい?」

「へ? あれ、余ったのか!?」

「……俺らの全員が取りに行った訳でもなくてな。発見情報こそ共有するつもりはあるが、探しに行っていない物を貰うのは遠慮するという奴もいる」

「あー、なるほど……」


 それは自分で見つけた物以外には手を付けないっていう、一種の拘りなんだろうね。そういう人に無理に受け取れと言うのも何か違うし、余った分の取り扱いに困ってる状態か。


「はい! 1日経ったら、取得回数がリセットとかされてませんか!?」

「少なくとも日付が変わった段階ではそうなってないが……24時間が過ぎるまで、保管しておくか? 正直、無駄な気もするんだが……」

「んー、変に確保しておくよりは、何かの交渉材料に使った方がいい気がするけど……ハーレさん、そういう使い方はどうだ?」

「言ってみただけだし、問題ないのさー!」

「言ってみただけかい!」

「そうなのです!」


 まぁ可能性としては考えておくべき事か。その上で、何かの取引材料にしてしまうと納得した上で決めた方がいいかもね。


「桜花さん、それを使って交渉が出来そうな相手っている?」

「それがなんとも微妙なとこでな。個数が2個は、少な過ぎるんだよ」

「あー、それは確かに……」


 今回のイベント、どう見てもソロに拘りがある人以外はPT単位で動いている人が多い。それを考えると、PT相手に交渉を持ちかけるには2個は少な過ぎるよなー。

 逆に、多過ぎるとも言えるかも? 交換自体が相手の持ってる情報次第になるんだから、等価の情報やアイテム交換は難しいですよねー。


「ん? 悪い、待たせたか!?」

「おっ、アル! いや、まだ集合時間じゃないから問題ないぞー! 曼珠沙華もまだだしな」

「ただ単に、早く集まってただけか。一瞬、集合時間を間違えたかと思ったぞ……」

「まぁその気持ちは分かる!」


 時間内に来たはずなのに、もう既に揃って動き出していたら焦るよなー! なんか前にこういう状況でからかわれた覚えもあるような気もするけど……ちっ、問題ないと言ってしまうのは早過ぎたか。まぁそれはいいや。


「アル、ほれよ!」

「PT申請か。ありがとよ」


<アルマース様がPTに加入しました>


 さてと、アルがPTに入った事でグリーズ・リベルテは全員集合! あとは曼珠沙華が揃えば、動き出せそうですなー。


「ねぇ、桜花さん? その余った落下物、灰のサファリ同盟に提供は駄目かな?」

「ん? まぁやろうと思えば出来るが……サヤさん、何か案があるのか?」

「2回分、発見情報を貰うってのでどうかな? もう『侵食』での発見方法を知ってるんだし、そう損な話ではないよね?」

「……確かに、下手に足元を見られる事もないか」

「ん? これ、今はどういう話だ?」

「昨日の落下物、2個余ってるのをどう処理するかって話だなー」

「あぁ、その件か。それ、昼飯を食いながら思ってたんだが……灰のサファリ同盟より、ベスタさんに渡さねぇか?」

「え、ベスタさんにかな!?」


 ほほう? そこでベスタの名前が出てくるか! ……なんか真っ先に除外しちゃってたけど、普通にソロで動いてるんだし、悪い話ではない? あー、でもそれだと更に中途半端に1個残りそう……。


「ベスタさんを仲間に引き入れるのは俺も考えたが……アルマースさん、それは諦めろ。今、完全にベスタさんとの連絡は途絶えている」

「……誰と組む気もないか」

「ログイン自体はしているが、どこにも書き込みがなくて接触の手段がないからな。フレンドコールも受け付けない状態だ」

「マジか!?」


 あー、徹底的にベスタはソロでのみ動く状態か。昨日、少し接触し掛けたのに、すぐに離れていったのはそういう動き方をすると決めていたからなのかも……。


「ベスタさんが無理なら……灰のサファリ同盟が無難なとこか。そういや、ケイ? 昨日の勝負、あれで決着だよな?」

「あー、そうなる……あっ! 灰のサファリ同盟から『侵食』の進化の軌跡の提供、どうなってるんだ!?」

「それは特に何も聞いてないが……それ自体は勝負を公平にする為の措置だったし、俺らの勝ちなら……もう何もなしかもしれん」

「ですよねー!?」


 くっ、予想以上に早くに決着し過ぎたから、その辺の扱いがどうなるかまで気にしてなかった!? いっそ、これから2戦目として勝負を仕掛けて……って、仕掛ける相手のギンが今はいねぇよ!


「そういや、ケイ……そのギンさんは、今はどうしてる?」

「あー、多分今頃は午前中とは別の部門に出場中? 夜にはログインしてきそうな気はするけど、それまではいないだろうから……下手に勝負も仕掛けにくいぞ。あと、午前中も普通に勝ち抜いてたから、明日も大会に出てるのは確定だな」

「……なるほどな。大会の様子も少し聞きたいとこだが……」

「アイルさん達も勝ち上がってて、ケイさんが不機嫌だったのさー!」

「ほう? アイルさん達、勝ち上がってたのか」

「……残念ながらなー。てか、強い人と弱い人の落差があり過ぎ!」


 サクッと負けてくれればスカッと気が晴れるのに、変に勝ち上がってるのがモヤモヤする! あー、考えるだけ時間の無駄だし、あれの記憶はどこかへ行け! 今、全く重要じゃない話だし!


「……まぁ荒れてるケイは置いておくとしてだ。桜花さん、『侵食』の進化の軌跡の入手難度はどんな状態になってる?」

「明確に品薄になってきている……あぁ、そうか。どこかと拘らず、『侵食』の進化の軌跡を持ち込んできた人に渡すのはありかもしれん」

「あ、その手があったかな!」

「……そうか。『侵食』の進化の軌跡は、持っていたところで進化階位が足りず、どうしようもないプレイヤーも多くいるからな。トレード材料としては、決して悪くはないか」

「はっ!? これから見つけた分も、そうやって持ち帰っていけばいいんじゃないですか!?」

「それは流石にやめておいた方がいいんじゃない? 既にある2個程度ならどうにかなるかもしれないけど、大量に持ち込んでるのが知られたら……かなり面倒な事になりそうだしさ」

「あぅ!? よく考えたら、そうなのです!?」


 俺らが大量に持ち運んでいるのがバレれば、昨日の比じゃないほどの集まり具合になりかねないもんなー。そんな状態になれば、落下物を入手する事自体が難しくなって……。


「桜花さん、それって俺らが変に目を付けられる心配が出てくるんじゃ?」

「……確かにその心配も必要か。ふむ、余った落下物……微妙に処理が難しいな。やはり、サヤさんの提案通り、灰のサファリ同盟と交渉するのが無難かもしれないか」

「あ、灰のサファリ同盟から発見情報じゃなくて、『侵食』の進化の軌跡との交換にするのはどうかな? これなら、デメリットは抑えられない?」

「あー、そうか。既に数が確保出来てるとこからなら、交渉はしやすいかも! サヤ、それはナイス! 桜花さん、その方向ならどうだ?」

「あはは、それほどでもないかな?」

「……昨日の勝負の件もあるし、交渉次第ではいけるはずだ」

「よし、それじゃ残ってる2個の処置はその方向性で任せた!」

「おう、任されたぜ」


 これで処理に困っている余った2個の落下物をどうするかは決まった。……今日は大量にあったからって、下手に持ち帰るような真似はやめとこ。こんな形で後処理に困る事になるとは思わなかったしさ。


「到着! あ、もうみんな揃ってるね!」

「……私達が一番最後?」

「いや、風音さんの姿が見えないが……この場にいないだけか?」


 おっと、曼珠沙華の3人が転移してきたか。転移してきたって事は、別の場所に移動してたんだろうね。時間としては集合時間の5分前だし、遅刻ではないか。


「風音さん、そろそろこっちに来てくれ。十六夜さん、曼珠沙華をPTに!」

「……うん……すぐ行くね」

「……曼珠沙華、ほらよ」

「ふふーん! 準備完了!」

「……これで、全員集合?」

「昨日と同じメンバーが揃ったな」


 すぐに風音さんも転移してきたし、なんだかんだと話しているうちに、全員集合になったもんだね。さーて、今日はここからどう動いていったもんやら?


「あ、桜花さん、ちょっと確認。クオーツの部品の『惑星浄化機構・長距離通信装置』って、他の人の所持状態って分かる?」

「いや、その手の情報はさっぱり出てきてないな。俺が把握してる中では、持ってるのはケイさんとギンノケンさんの2人だけだ」

「あー、やっぱり秘匿情報?」

「おそらくな。ほぼ確実に、他にも持ってる人はいるだろうが……その総数を知る手段はないぞ」

「ですよねー」


 次の段階へ進めていく為の、現時点で分かっている範囲での最有力な鍵だもんな。その鍵が何個あって、誰が持っているのかが不明というのは痛いけど……。


「だがまぁ、それを使って演出を進めた人がまだ出てないのは、かなり確率は高いだろうよ」

「となりゃ、あれだな! 完全に壊れ切ってない、UFOの確保が最優先じゃね!? 俺らには、持ってるケイさんがいるしよ!」

「そう、都合よくいけばいいんだけどね。紅焔、それが難しいのはさっき体感したばかりじゃないかい?」

「そりゃそうだけどよ、ソラ! やっぱり、狙えるなら狙いたいだろ! って事で、俺らの方で墜落したUFOがないかを探すぜ! 誰も見つけてない場所で、ひっそりとある可能性もあるからな!」

「確かにその可能性はありますね。……どこか、地下空間でも探しに行きましょうか?」

「僕はライルに賛成! 昨日のケイさん達が見つけた洞窟といい、さっきの中立地点への墜落といい、洞窟内が怪しそうだし!」

「確かにな。普段は人の出入りが少ない場所……望海砂漠の『砂時計の洞』にでも行ってみるか。あそこ、Lv上げ以外だと人気はないからな」

「おし! 辛子の案を採用だ! 行くぜ、『砂時計の洞』!」


 ふむふむ、飛翔連隊のメンバーは望海砂漠の地下空間へと進んでいくんだな。確かに砂漠は適応必須で不人気なエリアではあるから、狙い所ではあるかもなー。

 とはいえ、同じ事を考える人もそれなりにいそうな気もするけど……まぁそれは実際に動いてみないと分からないとこか。


「俺らは昨日に引き続き、この原野を探索するとして……誰が『侵食』を使う?」

「……それなら、まずは俺からやらせてもらおう。『縁の下の力持ち』のメンバーから貰った分があるし、自前で拾った分もある。まだ俺は使った事がないから、ここで試しておきたい」

「あー、そういやそうなるのか。それじゃ十六夜さん、任せた!」

「……あぁ、任されよう」


 昨日は俺とハーレさんとラジアータさんで使ったから、今日は他の人で使いたい人がいれば優先的に任せていくのがいいだろ。


「はい! もう進化の様子は隠す必要はないですか!?」

「……いや、隠しておいた方がいいだろう」

「え、十六夜さん、なんでー!?」

「……周りに、察知していると教えているようなものだからだ。獲物察知で近くに反応は引っかかってはいないが、それも回避手段はあるからな。尾行されても面白くはないだろう?」

「はっ!? 確かにそれはそうなのさー!」

「ハーレ、サヤ、そういうのは見つけられる? 夜だから、特に厳しそうな気はするけど……」

「……全方位、見落としなく確認する自信はないかな?」

「同じくなのさー! どうしても死角はあるし、何かの影に隠れられたら無理なのです!」


 うーん、確かに獲物察知の効果を無効化するスキルだってあるんだから、本気で隠れられれば夜だと尚更厳しいかも……。


「そもそもの話……昨日より、今日の方が暗くて見つけにくくない?」

「あ、ケイさん! それはそうでもないよ!」

「……UFO本体は見えにくいけど、アイテムを採集してる様子は夜の方が分かりやすいね」

「ある程度、ダメージを負ってるUFOなら、火花も出てくるからな。既に落ちてる落下物は探しにくいが、UFOの方は探しやすいぞ」

「あー、そういう感じか!」


 なるほど、なるほど。夜だから見つけにくいと思ったら、逆に夜だからこそ見つけやすい条件も出てきてるんだな。決して、悪い方向にだけ作用している訳でもないのか。


「とりあえず、UFO自体をメインに探しつつ、落下物を探していきますか」

「ま、それが無難そうだが……サヤ、ハーレさん、ケイの明かりは必要か?」

「どうせ目立つんだから、出し惜しむだけ無意味なのさー!」

「ケイ、明かりをお願い出来るかな?」

「ほいよっと。そこは任せとけ! 十六夜さん、俺が明かりの用意をしてる間に進化はよろしく!」

「……あぁ、了解だ。アルマース、入れてくれ」

「おう。『樹洞展開』!」


 さーて、どうやったってアルの巨体は隠せないんだし、思いっきり照らしていきますか! ただ、みんなが眩しくなり過ぎないようには注意して……あー、近場はそれほど照らす必要もないし、少し工夫をしてみるのもありか?


<行動値上限を5使用して『発光Lv5』を発動します>  行動値 130/130 → 125/125(上限値使用:6)

<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 125/125 → 119/119(上限値使用:12)


 今の最高Lvで発光を発動して、ロブスターの背中のあるコケは完全に岩で覆う! その上で、ロブスターの頭の上辺りから前方に向けて、懐中電灯モドキを照射! うん、そこそこの収束具合で地面まで明かりが届くし、これで十分だろ。


「ケイさん、ケイさん! もう少し照らせる範囲を広げてほしいのさー!」

「ちょっと一方向だけ過ぎるかな?」

「ちょ!? これでダメ出し!?」


 あー、でもこれだと照らせる範囲が狭いというのも分かる。んー、どうしたもんだ? 出来るだけ広範囲を照らしつつ、俺らが眩しくなり過ぎないような手段か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る