第1516話 他の部門のゲーム


 予選の2回戦で、2ラウンドでは終わらず3ラウンドまで行った対戦を見ている最中。まさか晴香やヨッシさんの知り合いが出てるとは思わなかったけど、このピンチな状態からどうやって対処……おっ! そうきたか!


「おぉ! 金沢くんのショットガンがナイフの人に送られたのさー!」

「あ、金沢くんには、戸惑ってた人のスナイパーライフルが送られたね?」

「一気に形成逆転かな? あ、ナイフで斬り合ってた人は仕留めたね!」

「だなー。自分自身もスナイパーライフルを使って、屋根に登って狙っていく気か」


 ラウンドの中で1人1回しか使えない武器の譲渡だけど、このラウンドで負ければ終わり。そんな状況での最初の流れで2人もそれを使うというのは思い切った事をする。でもまぁ……よし、スナイパーで他の2人も立て続けに仕留めたのはナイス!


「ケイ、味方に武器を渡せるのって1ラウンドで1回だけなんだよね? 序盤で使って大丈夫なのかな?」

「下手に出し惜しみして、キル数を稼がれるより遥かにマシ。むしろこの状況ならマシどころか、自分達がリードする事になったし、ナイス判断だ!」

「あ、そうなのかな?」

「そもそも、自分に合ってる武器と交換する為にも使う手段だからなー。武器のない味方に武器を渡しつつ、自分も扱える武器を手に入れて仕留めてるんだから、あの状況ではかなりいい策だ。ちゃっかり、その間に元々スナイパーを持ってたメンバーを逃してるのもナイス判断!」

「あはは、あのままいたら、狙われかねないしね」

「見通しのいい場所で、突っ立ったままは危険なのさー!」


 これ、指示を出してるのは金沢くんの方か? それともナイフで斬り合ってた人の方? どっちだとしても、的確な状況判断と、思い切った手段を取る事が出来る人だな。

 まぁともかく、これで1度目の大きな衝突は終わった。ここからどう動いていくか……場合によっては、今の4キル差を持ったまま逃げ切るのもありだけど、相手がそれをさせてくれるかが問題か。


「とりあえず、合流を目指してるみたいかな? ケイ、これはどうなの?」

「んー、相手の方がどう動くかにもよるけど……まぁ合流は順当なとこだな。その途中でバッタリと遭遇する事もあるから……って、言ってたら遭遇したな」

「あぅ!? 反応が遅くて、あっさり仕留められてるのさー!?」


 うーん、スナイパーを渡した後、ナイフだけの状態での遭遇だったし、流石にあの動きの悪さじゃ凌げなかったか。シールドに回せるだけのエレメントの余裕もなかっただろうし……今のは復活してきた位置が悪かったのもあるかもね。



  ◇ ◇ ◇



 あれこれと説明しながら、緑も紫もお互いに倒し、倒され……キル数は大差なく進んでいった。結果的に勝ったのは緑の方だから、晴香とヨッシさんの知り合いの金沢くんとやらがいる部だな。


「金沢くん、大勝利なのさー!」

「結構、危なかったけどね。チームとしての実力、それほど差はなかったみたい?」

「それでも勝ちは勝ちなのです!」

「あはは、まぁそれはそうだね」


 トーナメント戦なんだから、勝ったら先に進んで、負けたらそこで終わり。何が理由であれ、勝ったのなら喜ぶべきところだよな。


「どっちのチームも、1人ずつ明確に動きが悪い人がいたけど……部員の人数が少ないかな?」

「どういう基準でメンバーを決めてるのか知らんから、そこはなんとも……。でも、確実にお互いの弱点になってたのは間違いないな」


 こういう言い方はあれだけど……正直、どっちも足を引っ張っていたのは明白なんだよな。気楽に遊ぶゲームなら気にしなくてもいいけど、明確に競技としてそういう人が出てくると……負けた時に戦犯がどうとかで揉めそうなのが嫌なところ。いや、勝負にこだわり過ぎれば、普通のゲームでもそういう奴は出てくるけどさ。


「はっ! そういえば、同じタイミングで他の競技もやってたはずなのさー! えっと……あ、これ! レースゲーム部門と格闘ゲーム部門!」

「ん? あー、そんなのあったのか」


 完全に別ジャンルだから、同じ時間で開催してるのか。ふむふむ、開催時間が重なってない部門ならいくつか同時に出ても問題はないみたいだけど、流石に物理的に時間が重なっているのはどうしようもないよなー。


「兄貴、兄貴! 格ゲーって、フルダイブでもコマンド入力なの!?」

「あー、その辺はもう別物だぞ? コマンド入力なのは、フルダイブ以前のレトロゲー」

「それじゃ、今のはどうなってますか!?」

「俺もあんまりフルダイブの格ゲーはやってないから、そんなには知らないんだけど……あれだ、技の発動が武道の型に近いって話だな」

「武道の型……かな? それって、フォームとか動作とか、そういう感じ?」

「そうそう、そういう感じ。フルダイブだとボタンでのコマンド入力が出来なくなってるから、入力方式がそういう風に変わってるんだと。対戦しながら、そういう型を上手く流れに入れられるかが重要って話」


 どうもそういうのが合わなくて、フルダイブの格ゲーはやってないんだよな。型を無視して、通常攻撃だけで戦うって事も出来るけど……それで勝ち抜ける人は、相当な実力者だしね。そもそも、そこまで行ってしまえば――


「……もう、それって普通に武道なんじゃない?」

「そうとも言うなー。だから、プレイヤー層はレトロなのとは大きく入れ替わってるとは聞くし、俺もやってない」

「……あはは、そうなんだ?」

「まぁサヤなら、意外と出来そうな気もするんだけど……」

「え、私? ……うーん、どうなのかな? そんな武道の型なんて、気にした事ないけど……」

「いかに正確にキャラを動かすかって部分が大事だから、モンエボのクマをあれだけ動かせるならいけるはず! ……まぁ詳しくは知らんけど」

「詳しく知らないなら、無責任じゃないかな!?」

「いやー、別にサヤは格ゲーを始めたりはしないだろ?」

「……まぁそれはそうかな」


 うん、予想通りの反応。多分、俺らがみんな揃って格ゲーを始めようという流れになれば一緒にやりそうではあるけど、サヤだけで個人的に始める事はないだろ。

 さっきのはサヤに格ゲーを薦めているんじゃなくて、適性がありそうだなーってだけの雑談ですなー。


「その格ゲーの方は、モンエボの特訓には繋がらないの?」

「あー、どうだろ? モンエボの近接スキルは、攻撃方向の自由度が高い方だけど……格ゲーは決まった動きをなぞるだけだし……」


 んー、方向性してはまるで真逆? そもそも、ゲーセンでフルダイブをしてた時も、格ゲーはあんまり人気がなかったしな。……今は、事情が変わってたりするのか?


「兄貴、格ゲーの方、参加校がこっちよりも多いよ!?」

「え、マジで? あー、3回戦が始まるまで少し時間があるし、そっちを表示してみるか」


 えーと、格ゲー部門は……あー、一旦戻って……こっちか? あぁ、あった、あった。格ゲー部門はこれだな。


「あっ!? なんか色んな格闘技の部活が混ざってるかな!?」

「……一種の異種格闘戦?」

「……どうもそうっぽい? なるほど、ガチで武道をやってる人が参加してきてるのか」

「これ、ビックリな状況なのさー!?」


 まさか、こんな状況になってるとは思わなかった! これ、実際にリアルでやれば……あ、そうか。色んな理由で、実際には出来ない人もいるんだっけか? そういう人達が、フルダイブ空間で武道をやって、eスポーツとして参加してきてるのかも?


「こっちの採用ゲームのタイトル、『Mixed Martial Arts VR!』って、そのまま総合格闘技って意味かな! 『VR』なのは強調してるけど」


 おっと、サヤが採用されてるゲームの公式サイトを開いてきたね。へぇ、そのまま総合格闘技って意味のゲームなのか。うん、全く知らないタイトルだな。


「あ、自身の武道の型を登録し、流派で名を馳せろだって! これ、自分で登録が出来るんだ!? おぉ!? 自分が登録した流派を他の人が使う事も出来るんだ!?」

「高度な物理演算を採用し、よりリアルな格闘技を仮想空間で再現とも書いてるね」

「あー、リアル準拠のタイプか。……ゲームというより、シミュレータの類いだな、これ」

「あはは、そうみたいかな?」


 でもまぁ、フルダイブの中だから一切ケガの心配がないってのはいいかもね。リアルで武道に関係ある人がやってそうだから、俺らには無縁そうなジャンルだけど……。


「リアル準拠なら、モンエボは特訓にはならないだろうな」

「確かに、それはそうかな? あ、でも昼からの対象ゲームは別のものみたい? えっと、ゲーム名は『Paranormal Combat』だから……『超常的な戦闘』? ちょっとこっちの公式サイトも開いてみるね」

「おぉ! なんかそっちは超人的な動きがありそうなのです!?」

「部門によって、全然違うゲームになるんだね」

「どうもそうっぽいなー」


 というか、そっちのタイトルには覚えがあるんですけど! ゲーセンで人気がなかった格ゲーじゃん! え、あれがeスポーツの競技に指定されるほどの変化が起きてんの!?


「えっと……あー!? これ、スキルの出し方、モンエボに近いのさー!」

「あ、本当かな! 思考操作で発動する技を指定して、ある程度の発動の方向の幅を持たせてる……モンエボに限らず、大体のフルダイブのアクションってこういう仕様じゃない?」

「あはは、確かにそれはそうかも?」

「……なるほど、今はこういう感じになってるのか」


 ゲーセンで見た頃には不評だった、完全に型に合わせないと技が出ないっていう駄目な部分はごっそりと切り落としてて、ソロのアクションゲームに合わせたものに変化してるんだな。その上で完全に育成要素を抜いて、純粋にプレイヤースキルのみで競わせるような仕様になってるとはね。


「こっちなら、モンエボの動きは反映出来るのかもなー。超人的な動きがあるなら、効果が出る理屈は同じはずだしさ」

「あぅ!? こっちも見てみたいけど……流石にお昼からだと無理なのさー!?」


 うーん、俺もこれは気になるけど……半日ならともかく、1日中、観戦ってのもなー。何もない時ならそれでもいいけど、今はイベントの真っ最中だし……。


「あ、そういやアルって、結局今は何してんだ? 免許の更新、土曜で駄目とか言ってたけど……」

「あっ! その後、どう予定を変えたか聞いてない気がします!?」

「んー、そこまで聞く必要もないんじゃない? アルさん、子供じゃないんだし……むしろ、私達より年上なんだしさ」

「『親しき仲にも礼儀あり』だし、過剰なリアルの詮索はなしかな?」

「……それもそだなー。アルが話題に出さない限り、無理に聞く必要もない事か」

「それもそうでした! そうするのさー!」


 アルが何をしてようとも、俺らが変に口出しする事じゃない。自分がそれをされたら、どう思うかって考えれば自明な事だしね。

 相手の都合を無視して、自分の都合だけど押し付けてくれば……それこそ、相沢さんみたいになる訳で。……ん? そういや、ちゃんと確認してなかったけど……。


「あー、さっきの金沢くんとやらのいる高校の部、次で直樹と当たるのか」

「あー!? 本当なのさー!?」

「……金沢くん、ここまでで終わりかも?」

「相手が悪そうかな? ケイから見て、どんな見立てかな?」

「……動きの良かった2人がかりでも、直樹1人に負けるだろうなー。悪いけど、力量に差があり過ぎ……」

「そんなにかな!?」

「そうなっても、不思議じゃないとは思うのです!」

「ハーレから見てもそうなんだ?」

「うん! それだけ兄貴と山田さんのコンビは凶悪だったのさー!」


 あー、晴香から見たらそういう印象になってるのか。まぁぶっちゃけ、金沢くんとやらのいる部は……うちの高校の部よりも総合力で負けてるしなー。1人が明確に足を引っ張ってる状態なのが痛いかも? 

 直樹のいる部は、直樹だけが実力者だとは思えないから……チームの総合力として考えても、一方的な展開になるのは目に見えている。こりゃ、運が無かったね……。


「兄貴、兄貴! 相沢さんの方と、山田さんの方、どっちを見ますか!?」

「直樹の方に決まってんだろ」

「即答だったかな」

「……まぁそれはそうだよね」


 いやいや、何を今更な事を言ってんの? そもそも、晴香は直樹の部に勧誘されてるのもあるんだし、ここでうちの部を見るなんて選択肢はあり得ないんだけど?

 最初はみんなの要望もあったし、他の部の強さを見てみたいって意識はあったけど、それも大体の目的は果たしたしなー。


「さてと、そろそろ3回戦が始まるだろうから、画面は戻すぞー。サヤ、そっちの表示は閉じといてくれ」

「あ、うん。分かったかな!」


 さーて、予定としてはこの準々決勝までで観るのは終わり。明日の準決勝と決勝を見るかは……まぁ後で考えよう。とりあえず今は、準々決勝の対戦を見ていきますか。


「ねぇ、ケイ? 場合によっては、ギンさん……山田さんのチームの人がモンエボに来る可能性もあるのかな?」

「それは普通にあり得ると思うぞ」

「おぉ!? 確かにそうなるのさー!」

「場合によったら、ハーレの同級生が出てくるかもよ? 1年の金沢くんが出てきてたくらいだしさ」

「はっ!? その可能性もありそうなのです!」


 確かに大会に出られるだけの実力があれば、強豪校であっても1年生で出場もあり得るか。てか、直樹が別の大会とはいえ、去年で優勝してるんだから、まさしくそういう事例ですよねー。

 さてさて、直樹以外に知ってる名前は出てきますかね? 場合によったら、俺の知り合いが出てくる可能性もあるんだよなー。いや、それなら直樹が予め伝えて……こないな。性格的に。むしろ、隠して驚かせてくるタイプだしな!

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