第1515話 実力の差


 1回戦が終わり、2回戦も続けて見てみたけど……うちの高校の部が快勝を続けていくばかり。2回戦、1回戦の相手よりは遥かに動きはマシだったけど……それでも大したレベルの対戦ではなかった。

 さっき見たのは拓けた平原マップだったけど、防御の練度が違い過ぎてたな。相手、1回戦に比べると動きや連携は良かったけど、それでも対応が全体に遅過ぎた。あっという間に相沢さん達が距離を詰められ、一方的な展開だったね……。


 うーん、予選って思っている以上に強い人と弱い人の差が激しいっぽいな……。まぁそれが実感出来ただけでも成果なのかもしれないけど……正直、相沢さん達が順調に勝ち進んでいくのは面白くない!


「……ケイ? 頭を抱えて、大丈夫かな?」

「あー、悪い。なんか色んな感情の整理がつかん!」

「……あはは、まぁ気持ちは分からなくもないかな。次は別の対戦を見る? ほら、ハーレのとこがこれからみたいだし! ハーレ、ヨッシ、それでいいかな?」

「賛成なのさー!」

「ケイさんがこの様子なら、その方がいいかもね」

「……なんか我儘言ってるみたいで、すまん」

「ううん、大丈夫かな! むしろ、嫌がってたのを無理に押し切ってて、こっちこそごめんかな!」

「……そう言ってもらえると助かる」


 というか、自分で思っている以上にうちのeスポーツ部の連中の事は嫌いになってたっぽいね。顧問の喜多山先生に押し切られて水に流す形にはなってしまったけど……あれはあれで、よかったのかもなー。変に逆恨みでもされようもんなら、今以上にややこしい事になってそうだし……。


「てか、直樹は直樹で……なんか一方的な展開になりそうな予感がする……」

「それは……ある意味、仕方ない気もします!」

「それでも、今日見るのはこれで最後かな!」

「次が準々決勝だし、準決勝は明日からだもんね」

「まぁそうなるよなー」


 あっさりと1回戦と2回戦の2戦は終わったけど……あー、まだ準々決勝は開始出来ないっぽい? 1回戦は2ラウンド先取のストレート勝ちが多かったみたいだけど、2回戦では2ラウンドで終わらず3ラウンド目に突入してるとこも結構ある様子。


「……いっそ、今3ラウンド目をやってるとこを見るか?」

「おぉ! それはありかもしれないのさー!」

「3ラウンド目まで進んでたら、それなりに実力は拮抗してるかな?」

「それはそうかも? これまでよりは見応え、あるかもね」

「……そうだといいんだけどな」


 実力差が圧倒的にあるのに、2ラウンド目はわざと相手に取らせて、勝てる可能性はあると思わせてから全力で叩き潰しにいくなんて悪どいのも存在してたし……。流石にこういう大会でやる人もいないとは思うけどさ。

 とりあえず、3ラウンド目が始まりそうなのが3戦あるから……どこも知らないから、ここでいいや。今は、3ラウンド目開始までの休憩タイムか。少し長めなんだよな、3ラウンド目の前って。


「あっ! この高校、こっちの地元なのさー!」

「へ? え、こんな高校あったっけ?」


 県内の全ての高校を正確に把握している訳じゃないけど、それでも全然見覚えがない高校だぞ? え、晴香は知ってるのに、俺が知らないとかってある? ……うん、なんか興味がなくて、単に俺が知らないだけな気がしてきた。


「そこ、今年からの新設の高校なのさー! 確か、東京にあった私立高校は移ってきたって話!」

「あ、そういえばそんなのあったね? 私はそっちの受験はしてないから本格的には見てないけど、名前だけは見た気がするよ」

「あー、そりゃ知らんわ!」


 今年からの新設校なら、どうやったって一昨年が受験だった俺には知りようがないっての! てか、新設校とかあったんだな?


「都会の私立高校があちこちの地方に移ってるって話は聞くけど……その1校なのかな?」

「多分、そうなのさー!」

「あれの一貫だよね。地方分権を進める為の、地方移設政策」

「あー、そんなのもあったっけな。俺らの近所、地味にその対象外だから、実感ないけど……」

「あはは、あの辺って大規模ではないけど、ドーナツ化現象で人口が増えてた側だもんね」

「ドーナツ化現象って、なんですか!? 美味しいやつ!?」

「いや、それは食い物じゃないから!」

「ビジネス街が中心に来て、郊外に住宅地が出ていくって状態の事かな。というか、ケイの家ってそういう位置なんだ?」

「まぁなー」


 小さな頃から人口減少なんて話は聞いたけど、周囲では人が減っていく様子なんて実感した事はないから……いまいちピンとこないけどさ。まぁ県庁の方に行けば、ビルも多くて違った景色が見えるもの知ってはいるけども……。

 というか、ドーナツ化現象は絶対に学校で習ってるはずなのに……晴香め、今のはワザとボケたな?


「てか、そういう経緯での新設校なら……1年生だけか?」

「ううん、それは違うのさー!」

「校舎は新設だし、地元の受験生が入学するのも今年からだけど……学校や企業が提携して、2年生や3年生でも引っ越して来てる人も多いはずだよ」

「学校だけ出来ても、通う生徒がいないと意味はないかな?」

「あー、まぁそりゃそうか」


 地方分権の政策って、まだ本格的に動き出してからそう年数が経ってないけど……それでも動き始める企業もそれなりにいる訳か。

 いやはや、AI技術に、フルダイブ技術に、地方分権の政策……なんか大きな時代の変化の中にいる気がするよね。正直、5年後とかでも今知ってる状態とも大きく変わってそうだよなー。


「……何気にヨッシさんの引っ越しも、そういう政策に関係してたりする?」

「直接の影響は引っ越し先のパワハラ支社長だけど、全く関係ない訳じゃないよ。そっちでは借家だったけど、その政策での補助金が出て、こっちでは新築のマイホームになってるしさ。……それでもサヤの家の方が広いけどね」

「私の家は、ただ単に古いだけかな?」

「あー、そういう感じか」


 いやー、各家庭の事情ってのは色々あるもん……っと、そろそろ3ラウンド目が開始か。地元の高校なら……あー、地元と呼んでいいのか、ちょっと微妙?


「……あれ? ねぇ、ハーレ……見覚えがある名前が表示されてるよ?」

「あー!? 本当なのさー!」

「え、ヨッシとハーレの知り合いがいるのかな!? どの人!?」

「ほほう?」

 

 まぁ新設の高校で、こっちの地元から受験した人がいるなら、そういう可能性もあるよな。でも、そうなると1年生で大会メンバーに選ばれてるって事になる?


「この『金沢悠』って人なのさー!」

「……ほー、男か。へぇ……どういう関係?」

「っ!? なんか、兄貴の反応が怖いのです!?」

「ケイ、ちょっと落ち着いてかな? 私、ハーレからその名前は聞いた事ないし、多分、大した関係ではないよ?」

「……えーと、まぁたまに話す事があった同級生って程度ではあるね」

「ヨッシに妙に突っかかってきてたアイツから、庇ってくれてた人なのさー!」

「あ、例のアレかな! そういえば、名前こそ聞いてないけど、そういう風に庇ってくれる人がいたって言ってたね?」

「そうそう、そのアレ関係だね」

「その当人なのです!」


 なるほど、相沢さんの弟という事にしていた例のアレか。ヨッシさんの事が好きなのに、嫌がらせで気を引く事しか出来ずに嫌われてたっていう……。あれ自体は事実って話だったけど……ん? もしかして、そいつと遭遇する事もないって言ってたけど、そいつ自身も別の地方に引っ越してたりする? あー、可能性自体はありそうだな。

 まぁそっちのアレはどうでもいいとして……この金沢悠とやらは、ヨッシさんを庇いに動いてたとはね。そういうのって簡単に出来る事でもないのに、やるじゃん! あー、相沢さんよりも、そういう事が出来る人がモンエボに来てほしい……。


「よし! 折角の機会だし、応援してやるか!」

「そうするのさー! 金沢くん、ファイトなのです!」

「まぁ私達が見てるとも思わないだろうけどね、金沢くん」

「あはは、それは確かにそうかな!」


 相沢さん達は全く応援する気にはなれないけど、晴香やヨッシさんが気に掛ける相手なら応援しようって気にもなる!


「おー! 今度は夜の住宅街なのさー!?」

「マップ、割となんでもありなのかな?」

「まぁ設定上、仮想空間での代理戦争だからなー。NPCが全く配置されてない無人の空間なだけで……割とどんな場所でも戦場になるぞ」

「あ、これって代理戦争って設定なんだ?」

「まぁ対戦がメインだから、そういう舞台設定は割とどうでもいいんだけどなー」


 でも、家庭用に移植された際にソロ用にストーリーくらいは追加されてるかも? まぁ今はその辺の情報はどうでもいいか。


「金沢くんは、緑なのです!」

「相手は紫だけど……これ、相手の方が有利じゃないかな?」

「いや、夜マップの場合、どっちとも言えん。紫は闇夜に隠れやすいのは間違いないけど、緑は緑で『風のエレメント』と見間違える事があるからな」

「あ、そうなのかな!?」

「結構、色で影響って出るんだね」

「まぁなー。ただ、迷彩柄はどっちも使えるし、何をどういう風に上手く使うかは人による」

「はい! この場合だとどういう事があり得ますか!?」

「そうだな。例えば……あー、丁度良い感じに風のエレメントの前に……って、まさしく金沢くんが今やってるな」


 へぇ、早速それを仕掛けてくるとは……思った以上にやりそうな予感? 最初期の配置なら特に狙いやすいタイミングではあるけど、ちゃんと把握してますなー。


「……え? 風のエレメントの前で、止まってるかな?」

「これ、何してるのー!?」

「誘き寄せだ、誘き寄せ。開始直後は誰もエレメントを持ってない状態だから、索敵もしながらだけど、最優先でエレメントを取りに行くんだけど……ほら、焦った奴が仕留められた」

「っ!? 風のエレメントに紛れて、姿を隠してたのかな!?」

「そうそう、それが正解。全員ナイフだけのスタートになるから、まずは銃を確保したいとこだけど……あえて、そこで銃を取らずにナイフに待ち構えるって芸当も出来る訳だ。ほら、1キル取った上で、武器ゲットだぞ。風のショットガンか」

「おー! 策略家なのです!?」

「……確かに、開始すぐだと装備は欲しくなるよね。でも、それを上手く利用したんだ?」

「そういう感じだなー」


 それにしても……状況が整う必要性があるにしても、今みたいな動きが出来る人が、今の突っ込み方をしてくる相手と3ラウンド目まで突入ってのも妙だな? 少なくとも今の交戦では、実力差は結構あるはず。

 んー、こりゃチーム内での戦力バランスが悪いか、どっちかの武器の引きに偏りが出てたか……そんなとこかも。


「ねぇ、ケイ? 今の、接近に気付くのはどうやるのかな?」

「ん? あぁ、アレは足音。モンエボだと種族によって立てる音はバラバラ過ぎるから判別し難いけど、この手のは大体一緒だからな」

「あ、そうなのかな!?」

「そう! まぁ俺はぶっちゃけ、音での索敵は苦手だけど……」


 基本は目視か、怪しい場所に直樹を突っ込ませての確認だったっけなー。もしくは手榴弾を放り込むか、爆弾を設置しておくか……。

 あえて場所を分かるようにしつつ、俺が狙ってる場所に誘導するって方が多かったもんなー。そういう意味では、直樹が晴香の索敵能力に目を付ける理由も分かる。


 おっと、他の人の場所の映像に切り替わった……ほほう? 横から2人を映し出すような形だな。こういう時は、ほぼ間違いなく戦闘中……あ、やっぱりそうだな。


「おぉ!? 今度はナイフで斬り合ってるのさー!?」

「へぇ? どっちも直樹には劣るけど、結構良い動きしてるなー。あー、なるほど。お互いの後方にエレメントがあるけど、相手に渡したくないからこそのこの状況か。これ、多分、味方を呼んでるな?」

「どっちの味方が先に辿り着くかで、均衡が崩れそうかな!」

「合流させないように、お互いの味方も動きそうだよね」

「チーム戦だからなー。1対1が3ヶ所になることもあるし、1対3で囲まれる事もあるし……おっ、緑の味方がスナイパーを確保したか! おし、どこか高所を取って援護だ、援護!」


 位置的にはさっきのナイフで斬り合ってる2人とは適度に離れてるけど、スナイパーならあの状況でのサポートには最適だ! 射線は通る範囲だし……って、あれ?


「……なんか、動きが悪いな?」

「慌ててるみたいかな?」

「はっ! もしかして、慣れてない感じですか!?」

「どうもそんな感じだね?」

「あー、それぞれのチームに1人ずつ不慣れな人が混ざってるのかもな……」


 チーム戦なんだから、どうしても綺麗に実力の揃った3人が揃うとは限らない。東京から移設してきた高校であったとしても、eスポーツ部に人材が揃ってるとも言い切れないのかもね。

 2年生や3年生がそれなりに引っ越してきてたとしても、全員がそうなる訳もないもんな。むしろ、それで引っ越してくる人数の方が少ないはず……。


「あっ! 紫のもう1人が、後ろから近付いているのさー!?」

「最初にやられた訳じゃない人の方か。あー、屋根を飛び移りながら……完全に隠れる気はないし、むしろ音を立てて、気を散らそうとしてるな」

「……後ろに気を取られれば、相手から隙を突かれるし、かといって後ろも無視出来ないし……これは厄介かな」

「金沢くんのフォローが間に合うかが問題かも? 位置的に結構、距離はあるよね?」

「この状況だとそうなるなー」


 観戦モードで見ている俺らには誰がどこにいるかは一目瞭然。金沢くんが直接向かうには少し遠いし、最初に仕留めた相手は、ナイフの斬り合いをしてる割と近くで復活した。

 さて、ここからどう動く? いくつか対処の手段は思いつくけども……どれも割とリスキーか。でも、ある程度はリスクを覚悟して動かないと、相手が有利な状況は覆せないぞ?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る