第1514話 大会の様子
うちの高校と、どこの場所にあるのかも知らない高校のeスポーツ部同士の対戦は……圧倒的な大差で1ラウンド目が終わった。いや、見所も何もあったもんじゃないな!?
「ちょい待って! 相手の高校、弱過ぎね!?」
「運良く不意打ちで倒せた時以外、ボロ負けだったのさー!?」
これ、マジか……。10分間の1ラウンドで20キルとか……比較的狭いとはいえ、遮蔽物の多い森林マップでそんな事ってある?
「森林の中で、赤は目立ったかな?」
「それはありそうだけど……ケイさん、その辺ってどうなの?」
「あー、一応、色への対処はあるんだけど……エレメントを使って迷彩柄に変える事は出来るんだよ。でも、絶望的にその使い方が下手過ぎて……出し惜しみして、負けたら意味ないんだが!?」
迷彩の弱点はシールドとの同時展開が出来ない事なんだけど……あと、手に入れた武器との相性にもよる。スナイパーライフルとの相性はいいし、シールドなしでナイフでのステルス攻撃なんて事も出来る。それ以外にも色々と出来るはずなのに……。
「なんで、バラバラにアサルトライフルで突っ込んでいくだけなんだよ……。しかも、シールドでの防御すらしないって……」
「木があるんだし、木に隠れればよかったんじゃないかな?」
「そうなんだよ! 地形も上手く活用しろよ! なんで無防備に突っ込んで行ってんの!?」
「見た感じ、ろくに連携も取れてないね?」
「ツッコミどころ、満載だったのさー!」
もうちょっと頑張れよ、赤の方! どう見ても、動きが素人感丸出しなんだけど……この実力でよく大会に出ようと思ったな!?
個々人の練度も低いし、周りをちゃんと見ろ! それにチーム戦なんだから、連携をちゃんと取れ、連携を!
「あ、2ラウンド目が始まるかな!」
「……もう、圧倒的な大差で終わる気しかしねぇ……」
「あはは、ケイさん、自分のとこの学校には負けてほしいんだ?」
「正直、そうなってほしい気持ちもあるけど……eスポーツ勢の流入もあるから、どの程度の強さがあるかが見れる機会とも思ってたんだよ! でも、これは想像以上に酷くて……」
「正直、私1人でも勝てそうなのさー!」
晴香のその意見は……普段なら傲慢過ぎるとでも言いたくなるけど、1ラウンド目の様子を見てたら、冗談抜きで出来そうなんだよな。それほどに酷い……。
『エレメント』を見つけたら、そっちに注意が行き過ぎる。連携をする気がないのか、それぞれが勝手に動いて突っ込んでいく。地形を活用しない。武器の特性も活用出来ていない。……そんな動きだから、曲がりなりにも連携は取れている相沢さん達に着実に追い詰められ、あっさりと仕留められてるんだもんな。
「あ、2ラウンド目、早々にもう撃たれたかな」
「スナイパーを警戒しろ、スナイパーを! なんで棒立ちで周囲を見渡してんの!?」
「兄貴のダメ出しが凄いのさー!」
「あはは、でもまぁ言いたくなる気持ちも分かるよね」
くっそ、見てるだけで凄い歯痒い! 自分ならどう動くかってのを想像しちゃうし、観戦モードだから対戦メンバーの全員の視点へ切り替わったり、俯瞰的に映し出されたり、色々と景色が移り変わっているけどさ! 露骨に動きに差があり過ぎなんだよ!
「だー! 『エレメント』の確保より、生存優先だぞ!? 自分から的になりに行く奴があるか!?」
「これ、自分が武器を確保したら、『エレメント』は待ち構える罠に出来るのかな?」
「そうそう! だから、こういう視界が通りにくいマップだと特に警戒が必要なのに……なんで歩いて近付いてんだよ! せめて、木の陰に隠れろ!」
もしくは、照準を合わせられないくらいに勢いよく駆け抜けて確保しろ! 一旦、木の上に登ってから飛び降りて確保して、すぐまた木に上れとか無茶は言わないから、せめて射線を遮るくらいはしてくれ!
「あ、木を貫通して仕留められた?」
「おぉ! 貫通性能は『風』なのさー! 兄貴、あれは躱わす事は出来ますか!?」
「いや、今のは躱わすのは難しいから仕方ない。その辺の木じゃ防御にならんし……相沢さんめ、火のスナイパーライフルとか面倒なもんを確保してやがるな!?」
森林エリアだと『火のエレメント』は少ないのに……いや、その分だけ弾切れにもなりやすいからなー。そこは一長一短か。
「ここだと、どのエレメントが手に入りやすいの?」
「見た感じ、土と風が多そうかな?」
「サヤの印象が正解。森林じゃ火は数が少ないから、弾切れを起こしやすいけど……この状況じゃ、何を使っても形勢は変わらないかも……」
「相沢さん達、2ラウンド目からは上手く迷彩で隠れてるのさー! 普通に見つけられるけど!」
「モンエボの擬態した個体の方が、まだ見つけにくいかな?」
「……サラッと言ってるけど、ケイさんから見たらその辺はどうなの?」
「あー、下手ではないけど、もっと上には上がいるって感じだな」
色眼鏡なしで考えるなら、相沢さん達はしっかり隠れられている方ではある。でも、それなりに動きがあるから、決して見つけられない範疇じゃないし……相手の高校の視点になった時には見つけられたりもするから、単に見つけられない方の技量不足!
「……なんかもう、初戦からツッコミ疲れたんだけど……」
「まぁ初戦だからじゃないかな? ほら、部活でやってるからって、強いとは限らないし!」
「そうそう! お遊びでやってる部もあるかもしれないよ? ただ記念に参加してるだけかも!」
「あー、まぁそういう事もあるか……」
「そういう事もあるのさー! 比較対象が悪いのです!」
うーん、直樹を基準に考えてしまうから駄目なのかも……。いやでも、どっちかというと真剣に部活として取り組んでる人達の様子を見たかったんだし……そういう意味では、相沢さん達は真面目にやってる方なのか?
うっわー、認めたくねぇ! 真面目にやって、あの敵意のぶつけ方とか考えたら、逆に腹立ってきた。もっと純粋に応援出来るような、どこかの部でもいないもん?
「あ、相沢さんが仕留められたね」
「……あー、スナイパーでのまぐれ当たりは、たまにあるんだよな。今のはしゃーない」
「……ちょっと今のケイの反応は意外かな? てっきり、喜ぶものかと思ったんだけど……」
「正直、負けてしまえとは思ってるけど――」
「あ、そこはやっぱり思ってるのかな?」
「まぁなー。でも、だからって避けるのが難しいパターンで、どうこう言う気はないって」
「今のって、兄貴でも避けにくいの!?」
「復活場所、ランダムだろ? だから、位置によってはどうしても敵側だけが把握してるって状況も発生するから、気付いた時には手遅れって事はあるんだよ。意図的にそういうタイミングを狙う人もいるけど……ここまでの動きを見る限り、今のは単なるまぐれ」
「おー! そうなんだ!」
察知してない相手から、遠距離からの狙撃は……まぁ冗談抜きで避けにくい。銃声自体は聞こえるけど、そこから即座に対応出来るだけの力量を持つのは……俺が知ってる範囲だと直樹くらい? あー、意外とサヤ辺りは出来そうな気も……。
「ケ、ケイ? ……どうしたのかな?」
「いや、今の攻撃の対応、サヤなら出来るかなーって思ってさ」
「え、避けれるのかな!?」
「あー、避けるのは速度的に無理。銃声を聞いてから、即座に適切な方向にシールドを展開出来るかどうかの反射神経の問題だから」
「……音から方向を読んで、防御かな? それなら……確かに意識してれば出来るかも?」
「だよなー。普段のサヤの反応なら、間に合うはず!」
「あはは、ありがとかな?」
というか、今思ったけど……このシールドでの防御、モンエボでの操作系スキルの展開や防壁魔法の使い方と似てるのか。音から索敵するのは得意じゃないけど、慣らせば俺も意外と出来る?
「……なるほど、モンエボが特訓になるっていうのは、こういう部分でもか」
「ケイさん、どういう意味ですか!?」
「生成魔法での操作や、防壁魔法の展開に似てるんだよ、あのシールド。一応、持ってるナイフを基準点に展開する事にはなってるんだけど、ナイフさえ持ってれば別にナイフを介する必要はなかったはずだから……うん、手に持つってイメージを外すには良いかも?」
「あのシールドって、手で持つ以外でも出来るんだ?」
「てっきり、手で持つしか出来ないのかと思ったかな!」
「まぁそういうシーンしか、出てきてないしなー」
リアル準拠じゃなく超人プレイが可能なゲームでも、どうしてもリアルのイメージに引っ張られるからなー。俺もゲーセンでやってた頃には手から出すイメージしかなかったけど……今ならもっと違う形でも使えるか?
「それ、メモしときます!」
「……え? そこまで必要か?」
「モンエボへの影響を知る為にも、参考にするのです! それも目的の1つだし!」
「あー、なるほど。ある程度はギン……あ、名前は出てるし別にいいか。直樹がフォローはしてくれてるだろうけど、オンライン版固有の要素までは無理だろうしな。まさしく、操作系スキルや防壁魔法はオンライン版だからこその要素だしさ」
「そういう事なのさー! そういう意味でも相沢さんの動きに期待なんだけど……いまいち、それっぽさはないのです!」
「良くも悪くも、元々のこのゲームの定石って動きだもんな」
別にこのゲームに限った話じゃないけど、対戦型のゲームでの連携は大きく変わるもんじゃないから……それが決して悪い訳じゃないけどさ。
「……ケイさんが定石って言うと、なんだか妙な感じだね?」
「ほぼ、銃を使わなかった兄貴が言うことじゃないのです!」
「あのな!? 定石を分かった上で崩すのと、知らずに好き勝手に動くのは別物だからな!?」
まぁ知った風な事は言ったけども、正式に定石なんて学んだ事はないけどさ。直樹と一緒にやってる中で、駄目だったものと、活かせれるものをちゃんと把握して動いてただけの話だし。それすら出来ていないのが、対戦相手の赤の方なんだよなー。
「……知らずに動いた結果は、まぁ今の惨状かな?」
「そうそう、そういう事! ……もうここから逆転はないなー」
「さっき、相沢さんが1回仕留められただけで、後は一方的なのさー!?」
「ここまで一方的になるものなの?」
「まぁ良くも悪くも、力量が釣り合ってなきゃこんなのはよくあるな。もうちょい、競り合ってくれるのを期待してたんだけど……」
直樹がしてたうちの部では予選突破が可能って見立ては、全体的なレベルが低いって意味だったのか? いやでも、全体的な水準がこの程度って事はないだろ。
ふぅ……2ラウンド目も終わって、うちの高校の部は2回戦に勝ち上がりか。次はもうちょっと、マシな対戦になってほしいもんだなー。
「なんだか、兄貴が勧誘された理由が分かってきた気がするのさー!」
「ほう? 言ってみろ、晴香」
「どう考えても、兄貴は即戦力なのです! ある意味、相沢さんの見る目は正しいのさー!」
「……あー、まぁこの程度の相手なら、苦戦のしようもないけどさ」
正直、競技としてやってる人はもっと強いものだと思ってたけど……相沢さん達を含めて、拍子抜け過ぎるくらいの実力なんだよな。直樹クラスの動きでなきゃ、物足りない予感しかしない。
「ちょっとeスポーツ勢ってのを、過剰評価し過ぎてたか……?」
「ケイさん、それはまだ分からないのさー! 山田さんみたいな人もいるはずなのです! 少なくとも、山田さんのチームメンバーは弱いはずがないのさー!」
「あー、まぁそれはそうだな。この低レベルな初戦を基準にしたら駄目か……」
「まだこれは地区大会なんだし、実力者が集まってくるのはまだまだ先だよね?」
「全国大会まで行けば、猛者だらけな気がするかな!」
「ですよねー!」
警戒すべき基準は、そっちの方か。その水準の対戦を見れればいいんだけど……。
「あ、そうだ。晴香、今回のこの大会って中国四国での地区大会じゃん? でも、直樹が県大会で優勝とか聞いた覚えもあるんだけど……その辺、なんか知らね?」
「それ、高校生だけじゃなくて、冬にある年齢制限なしのアマチュア大会の事なのさー! そっちは都道府県の単位で予選をしてたんだって!」
「あー、なるほど! 高校生限定じゃなく、アマチュアの大会での県優勝か! それ、普通に凄くね?」
「実際、凄いのさー! でも、全国ではあっさり初戦で負けたそうなのです……」
「……上には上がいるって事か」
「そうなるのさー!」
組み合わせ次第でもあるんだろうけど、直樹でも初戦負けしてしまうのが全国大会か。アマチュアが対象とはいえ、高校生限定の大会ではないのなら……賞金でも出てそうな気がするけどな?
それでもゲームはゲームとしか見てくれない直樹の親は……ちょっと厳し過ぎない? 必須なVR機器の買い替えにアルバイトをしに来る必要があるくらいだし、ちょっと直樹が不憫になってきた……。
「ちょっと調べてみたけど、意外とeスポーツのアマチュア大会って開催されてるんだね? 規模にもよるけど、賞金ありのもチラホラあるよ?」
「あ、本当かな! でも、参加には『eスポーツ認定証』なんてのが必要になるんだね?」
「おー! そうなんだ!?」
「へぇ、そんなのがあるんだな?」
ヨッシさんが軽く調べたサイトを表示してくれたけど……なるほど、eスポーツの管理協会が発行するランクの証明証か。一定水準以上と認められなきゃ、そもそも発行されないものっぽいね。
ふむふむ、これを最上位に突き詰めた先がプロって事になるっぽい? うっわ、基本的に各大会で会場まで出向いて認証する必要があるのか!
「あー、高校生限定の今の大会での優勝って、ランク上昇の影響が大きく設定されてるんだな」
「そうみたいだね。ある意味、高校生対象の大会は新人戦なのかな?」
「そうなのかもなー」
ザッと見た限り、報酬ありの小規模な大会は日本中で結構な数が開催されてるけど……高校生なら、今の大会に出る方が良さそうではあるっぽい。
直樹がアルバイトをしつつ、高校生限定の大会に出てるのはその辺に理由がありそうだな。ザッと見た限りでは大都市の辺りなら高頻度で大会に出れそうだけど、地方じゃそれも難しそうだしさ。地方にあれこれと移ってはきてるけど、まだまだ時間はかかるか。
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