第1513話 eスポーツの大会


 夏休みの予定が着々と確定していってるけど……晴香がアルバイトを絶対に入れれない日も確定か。直樹も部活での大会の勝ち上がり次第なんだろうけど……一番自由が利くのは俺になりそうだ。

 あー、相沢さんはさっさと負ければ、同じように自由に……それはそれで嫌だな。かといって、うちの高校が勝ち上がっていくのも……うん、微妙な心境。


「兄貴、兄貴! 下調べしてないんだけど、大会の予選ってどういう風になってるの!?」

「そこ、一番興味を持ってる晴香が調べとけよ!?」

「どういう雰囲気か知りたいだけだから、正直日程はどうでもよかったのさー!」

「……自分1人の時はそれでも別にいいけど、今回は俺らも巻き込んでるんだから、ちゃんと確認しろよ……」

「次からはそうします!」

「次があるんかい!」

「え、兄貴は山田さんの試合は見たくないの?」

「あー、それはちょっと見たくはあるかも……?」


 でも勝ち上がったらの話だし……。晴香と直樹の通う高校はシードにはなってたけど、シードだからって必ず勝つ訳でもないもんな。


「てか、晴香は予選のスケジュールは見てるんじゃ? グループメッセージに、直樹が載せてただろ」

「以上、その辺の説明をヨッシとサヤにしてほしいっていう前振りの茶番でした!」

「今の流れ、茶番かよ!?」

「ふっふっふ! 当然ながら、確認済みなのさー!」

「嘘の前振りはいらんわ!」


 そこは素直に説明を頼んでくれませんかねー!? もしくは、晴香自身がやるのでもいいはずだけど……はぁ、まぁいいか。


「それじゃ、そろそろ時間だし、準備しちゃうねー!」

「へいへいっと」


 朝飯を食った後からずっと俺の部屋に入り浸ってたけど、まぁ集まる時間になったし、見ていきますかねー。正直、最初の最初は……結構微妙そうな気もするけど。



 ◇ ◇ ◇



 晴香がサヤとヨッシさんを昨日の夜と同様の手段でグループ通話で招いて、ARで目の前に表示されていく。物理的に人が存在出来ない位置に、窓が開いて、その先に人がいるってのも不思議な感じなんだよなー。まぁこっちはフルダイブの制限時間を使わないから、気兼ねなく使えるんだけどさ。


「ケイ、さっきぶりかな!」

「おっす、サヤ。ヨッシさんもおはようさん」

「おはよ、ケイさん。急にサヤからお祭りの連絡が来た時はビックリしちゃった」

「あー、すまん、すまん。急な思いつきだったもんで……」

「あはは、私も楽しみにしてるから、それ自体は大丈夫だよ。ハーレ、今回はいっぱい金魚を持って帰ろうね?」

「うん! そのつもりなのさー! 後で、フルダイブの金魚掬いで特訓するのです!」


 あ、晴香は思いっきりやる気になってるよ。……これ、お盆の夏祭りで誰が金魚を一番獲るかの勝負になったりしない? うーん、いつもの流れを考えたら、それもありそうな気が……って、そんなに雑談をしてる場合じゃないな。


「とりあえず、軽くこれから見る予選のスケジュールの説明をしとくぞ」

「あ、うん。説明、お願いかな!」

「そういう具体的な話、全然聞いてないもんね」


 自分で確認はしてても、説明まではしてなかったのかよ、晴香! まぁ色々と他の件の話もあっただろうから、そっちに気を取られて忘れてたとかか? うん、それは普通にあり得るな。まぁともかく、説明していこう。


「えーと、今頃は大会開催の宣言やらをしてるはずだけど、これは中継されないっぽいからスルーで」

「あ、そこはスルーなんだ?」

「中継されるの、対戦部分だけなのかな?」

「サヤ、正解! 予選は対戦する高校名と出場者名が出るだけで、後は単なる観戦モードで流されるだけっぽいな。今日は、午前中に3人1チームのトーナメント戦を準決勝の手前まで、午後からはソロのバトルロイヤル戦を4グループに分かれてやるっぽいな。まぁ俺らが見るのは、チーム戦のトーナメントか」


 この対戦に使われるゲームが、この前巻き込まれた『Magic Gunfight』だね。ソロでのバトルロイヤルのは、また別のゲームっぽいけど、そっちは全く知らないタイトルっすなー。

 そっちは4グループで何戦かやって、その結果の上位の人で決勝戦を行う流れの様子。まぁそこまで観る予定はないから、詳細はスルーでいいや。


「トーナメント戦の対戦に使われるのが、この前やった『Magic Gunfight』なのさー! 明日、予選の準決勝と決勝があるそうです! 今日は準々決勝までなのさー!」

「あ、そういう流れなのかな!?」

「それ、見るのは明日でもよかったんじゃ……?」

「まぁぶっちゃけ、見所は明日なんだけど……」

「シードだからって、必ず勝つとは限らないです!」

「直樹……ギンはシードになってるけど、あくまで1回戦が免除なだけだしな」


 というか、思ったよりも参加校が多いな? えーと、シードが4枠あるから……28校の参加か。あー、まぁ地区予選といっても県内じゃなくて、中国地方と四国地方の合算での範囲だし、こんなもん? eスポーツ部って、どの高校にもある部活ではないしなー。

 ん? 待てよ? 相沢さんは去年の県大会がどうとか……あー、大会がそもそもこれだけじゃないのかも? 年に1つしか大会が開催されないなんて事はないはずだし、それが全て高校生のみが対象とも限らないか。まぁ、本人に聞いてみないと分からんけど……。


「あ、そろそろ始まるのさー!」

「だなー。それじゃ共有化するぞ」


 流石にグループメッセージの内容を共有するのはどうかと思ったから、そこは共有表示にはしてなかったけど……ここからは一緒に見るんだから、共有にしていかないとね。

 表示しておいた大会運営のサイトを、全員の視界に共有! よし、これでそれぞれの見やすい位置に表示されたはず。


「大会、どんな様子かな? あ、トーナメント表と、対戦の様子のサムネイル?」

「あと、高校の名前とメンバー名みたいだね。あ、この大会、中国四国での範囲なんだ?」

「県内だけかと思ってたら、意外と範囲が広かったのさー!」

「この予選が終わったら、次は全国なんだと。まぁ都会の方は、都大会や府大会……県大会も成立してるらしいけど」

「……あはは、まぁやっぱり人が多い所はそうなるかな?」

「地方分権が進んでるとはいっても、まだまだかかるよね」

「だなー」


 俺らの子ども頃に政権が変わった時から、都会に集中し過ぎてる色んなものを日本各地に分散するって動きになってるそうだけど、まぁどうしてもそれには時間がかかるようで……。

 ぶっちゃけ、元々田舎出身だとあんまり恩恵も分からんけど……そういや、大阪辺りから四国をぶち抜いて九州まで繋がるリニアの着工とかも始まってたんだっけ? ……まぁ今はそれはいいや。


「おっ! 兄貴の高校、発見なのさー!」

「……えー、それは観なくてよくね? 知らないとこでもいいから、他の高校の対戦を――」

「ケイ、その対戦を観せてかな!」

「むしろ、観るならそこだよね?」

「……まぁいいか」


 もう完全に多数決で俺が負けてるし、サヤもヨッシさんも観たいというのであれば、そうしよう。まぁどの程度の実力かは見てるんだし、雰囲気を知りたいっていう晴香的にも、知っている相手の方がいいよな。とりあえず、観るのはうちの部の初戦にするか。

 俺としては、初戦で惨敗してくれても構わな……いや、いっそ勝ち残ってくれた方が、アルバイトを相沢さんと一緒にせずに済む日が増える? でも、あれで勝ち残られてもなー。


「兄貴、これってルールは私がやった時と同じですか?」

「そうなるっぽいなー。1ラウンド10分の、2ラウンド先取で勝ちになるぞ。まぁ分からないとこがあれば、その都度にでも説明するけど……」

「ケイ、頼りにしてるかな!」

「ゲームが違っても、ケイさんは解説になるんだね?」

「はっ! ならば、私が実況を――」

「それはやめとけ。フルダイブにはしなかったんだから、声は普通にダダ漏れだぞ? まぁ父さんや母さんに実況の声が聞こえてもいいなら別に止めないけど」

「……やっぱりやめておくのです」


 流石に父さんや母さんに実況の声が届くのは嫌だったらしい。フルダイブならその辺の事は気にしなくていいんだけど、AR表示だとどうしても周囲には気を配らないといけないからなー。

 くっ、フルダイブに時間制限があるのが嫌なところ……。とはいえ、過去に問題が発生しちゃってるんだから、文句を言ってもどうしようもないのがなー。


「あー! 『相沢』『沢村』『村田』のしりとりトリオが出てるよ!」

「……あー、あの時の3人か」


 大会という事もあってフルネームで記載されてるけど……興味なし! というか、大会に出てくるって事はこの3人組が1番強いんだろうけど、強くてあれなんだ……?

 一応、直樹が予選は突破出来るくらいの実力があるって言ってたけど……そういや、直樹のとこと当たる可能性はどの辺りだ? あー、何気に決勝まで行かないと当たりそうにはないな。ちっ、直樹に倒されるシーンがあれば見たかったけど、それは見れそうにないか。


「ねぇ、ケイ? アイルさんって、どの人かな?」

「ん? あー、そういやサヤは名前は知らないままか」


 うーん、これは教えるべきか、教えないべきか……。なんだかんだで個人情報ではあるし、そこを嫌がった俺がここで教えるのも何か違う気がする……。


「『相沢』さんだよね? アイルさんは」

「……へ? え、ヨッシさん、知ってるのか!?」

「そりゃまぁ色々あったしね。中学生の頃、私の学年でも結構知られてた人だしさ」

「あー、そういう……」


 そういえば相沢さんの弟がヨッシさんにちょっかいをかけて……って、これは嘘なんだっけ? いや、でも知っている状態でなければ、その嘘自体が成立しなくなるような?

 まぁ俺が認識してなかっただけで、母さんも知ってたくらいだもんなー。いや、我ながら相沢さんに関して興味がなさ過ぎだったか? ……うん、別にそのまま縁が出来ない方が良かった気もする。


「…………」


 なんか、サヤが真剣な顔で考え込んでるけど……妙な敵視とかは出てないよな!? 相沢さんに関しては俺が色々と愚痴っちゃってるから、サヤがそっち方向で怒る可能性もありそうな……。

 よし、今はまだ相手の名前が出てきてないから、どうやら対戦の準備中みたいだし、準備が終わるまでは話題を逸らしておこう!


「そういやラックさんって、今日はこの大会の様子を撮りに向かってるんだよな? これ、どこで集まってんの?」

「えっと、特設会場だったはず! 各県で会場が決まってて、業務用のVR機器を使って対戦する形だって言ってたから、そこに向かってるはずなのさー!」

「あー、そういう感じでやってるのか」


 サイトで見た限りではその辺の状況までは書かれてなかったけど……これ、業務用のVR機器でやってるんだな。不意なトラブルやフルダイブの制限時間とかも考えたら、開催側が管理出来る場所に競技者を集めるのが無難か。


「そういう会場って見た事ないけど、ズラッと業務用のVR機器が並んでるのかな?」

「……それは私も見た事ないかも?」


 あー、そっか。普段の生活の中じゃ、1台だけ鎮座している業務用のVR機器を見る事はあっても、何台も並んでいるような光景は見る事ないもんな。俺もeスポーツの大会の会場は見た事ないし……。


「昔行ってたゲーセンの一角なら、ゲームのデザインの施したのが何台か並んでたりはしたっけな。多分、そういう感じに近いとは思うけど……」

「ちょっとラックに会場の様子を撮った写真を見れないか、聞いてみるのさー!」

「あ、その手があったか!」

「ハーレ、お願いかな!」

「確かにそれで見れるよね」


 雰囲気を知りたいんだから、そういう形で会場の様子を観るのもありだよね。こうやって中継自体はしてるんだし、同じ高校の生徒が会場に入れるんだから、写真を送ってもらうのは特に問題はないはず?

 おっと、そうやって話してる間に対戦相手の名前が出てきたか。うーん、対戦相手の高校名は知らないから、同じ県内ではなさそうだね。


「あ、対戦相手の準備が済んだみたいだね」

「これ、ヘルメットで顔は隠れてるのかな? 全身ライダースーツみたいな格好だね」

「チームで色分けされるだけで、キャラメイクはないゲームだからなー。なんなら、育成要素も皆無!」

「え、そうなのかな!?」

「ふっふっふ! だからこそ、私もいきなりでも出来たのさー!」


 元々がゲーセンで運用されてたゲームだから、そもそもガッツリと育成とかしてられないしなー。家庭用に移植された後に何かそういう要素が追加されてる可能性もあるけど、少なくともこういう大会では条件は同じになるだろ。


「兄貴の学校、青なのさー!」

「相手が、赤みたいだね?」

「これ、色の違いによって有利不利ってあるのかな?」

「あー、対戦するマップによる。まぁそこも含めて、どう作戦を立てるかが重要になってくるんだけど……とりあえず、赤は頑張れ!」


 うちのeスポーツ部なんて、この初戦で敗退してしまえ! 正直、それが1番スッキリする気がするわ!


「……自分のとこを応援する気、皆無なのさー!? 私もだけど!」

「まぁ聞いた限り、応援する気になれないのは分かるかも?」

「……確かに、応援するのは無理かな?」


 俺自身もだけど、誰も相沢さん達を応援する気配はないな! ……なんでこの1戦、観ようとしてるのかが謎になってくるよねー。


「カウントダウンが始まったのさー!」

「さて、実力はどんなもんやら……?」


 高校のeスポーツ部を含んだ、eスポーツ勢とやらに実力を見せてもらおうか! 直樹は基準にしたら駄目な奴だし、うちの高校の部は別の意味で論外だし……今のモンエボに出来るかもしれない新勢力の実力を観るにはいい機会だよなー。まぁ今日の観戦の意義は、そこにあるのかも?

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