第40章 イベントの2日目

第1512話 夏の約束


「……眠い」


 晴香に寝坊を警戒され、自分で起きられるように目覚ましをかけて寝たけども……昨日のサヤの様子が気になって、中々寝付けなかった。……なんかこれ、この間も似たような事があったな?


「あー、起きるか」


 現在時刻は8時半だから、時間には余裕がある。……とはいえ、寝坊しないようにしたのに、ここから二度寝をしては意味がない。


「とりあえず、朝飯を食ってくるか……」


 ついでにコーヒーでも飲んで、眠気もどうにかしないとなー。まぁこの前ほどの眠気ではないから、なんとかなる範囲だとは思うけど……。



 ◇ ◇ ◇



 リビングへと降りていけば……晴香と父さんが、庭の池の方にいるのが見えた。あー、池の掃除を……いや、そうじゃないっぽい? 池の側に座り込んで、何か話してる様子だな。

 何をしてるかさっぱり分からんし、朝飯を作ってる最中の母さんに事情を聞いてくるか。


「母さん、父さんと晴香は何やってんの?」

「少し前に、猫にやられて金魚の数が減ってるでしょ。それで追加をするかどうか、相談してるみたいよ?」

「あー、そういう……」

「でも、晴ちゃん的には微妙な心境みたいでね」

「まぁそりゃそうだろうなー」


 晴香がヨッシさんと祭りで採ってきた金魚を飼ってる訳だし、減ったからといって増やしたいかというと……微妙なとこだろうね。とはいえ、あの庭の池とその中にいる金魚の世話は、父さんの趣味にもなってるからなー。その辺の兼ね合いが難しいとこか……。


「もういっそ、今年の祭りで獲ってきたらいいんじゃね? 近所の祭り、時期的にお盆だったと思うけど……」


 元々がヨッシさんとの思い出のものなんだから、それを上書きするような形での追加なら、晴香も嫌がらないはず。お盆でこっちに帰ってくるなら、日程の調整は出来るだろうしさ。


「それはそうなんだけど……こっちに馴染みのある雫ちゃんはともかく、紗香ちゃんの方がね? ほら、特に有名って訳でもない、地元のお祭りじゃない? 日程的に2泊3日にはなるんだけど、そのうちの1日の夜をそれで潰すのもどうなのかなーって? もう1日はバーベキューをするって事になってるし……」

「んー、別にそういうのは気にしないと思うけど……」


 あー、でもサヤの意見を聞いてからじゃないと、祭りに行くって計画も立てにくいのか。嫌がるとも思えないけど、まずはサヤに聞くのが先だよなー。


「圭ちゃん、その辺の事を紗香ちゃんに聞いてみてくれない?」

「……あー」


 昨日のあれ、大丈夫なのか? 今、俺から連絡して嫌がられる可能性ってない? いや、でもヨッシさんからは大丈夫っぽいような事は言われたし、変に触れさえしなければ問題ないのか……。くっ、連絡して大丈夫なのか、これ!?


「……圭ちゃん? 何かトラブルでもあったの? 晴ちゃんから伝えるとほぼ確定の、提案みたいな形になるから避けたいんだけど……」

「いやいや、大丈夫! ちょっと聞いてみるわ!」


 昨日のあれはトラブルじゃない! というか、トラブルであってほしくない! 触れずにいたら大丈夫だって言ってた、ヨッシさんを信じよう!

 ともかく、携帯端末は部屋に置いてきてるから、自室に戻ってから連絡しよう。いつも通りに、何事もなかったかのように!



 ◇ ◇ ◇



 自分の部屋まで戻ってきたけど、なんか一気に眠気が吹っ飛んだな……。まぁともかく、今はサヤに祭りの事を聞いてみよう。


「……メッセージにしとくか」


 通話も出来ない訳じゃないけど、今のサヤの状態が分からないからね。とりあえず、祭りに興味があるかどうかを聞いてみるか。……おし、メッセージは送信完了! 細かい事は返事が来てから――


「っ!? 通話か!?」


 ちょ、メッセージで返事が来るかと思ったら、すぐに通話がくるとは思わなかったんだけど!? 落ち着け、俺。サヤとはいつも話しているんだし、慌てる事じゃない。

 むしろ、サヤに普通に会話をしようという意思があるんだから、昨日のあれは問題なかったって事のはず! って事で、通話に出る!


「あ、ケイ。おはようかな?」

「おー、おはようさん」


 ふぅ……いつもの雰囲気と同じだな。うん、昨日の夜の妙な感じはなくなっているっぽい。


「メッセージは見たけど……そっちに行った時、お祭りに行くのかな?」

「まぁサヤはそれはどうかなーって確認」

「……なんで、ヨッシじゃなくて、ケイが確認してきてるのかな?」

「あー、今、晴香と俺の父さんが、庭の池の金魚の補充で悩んでるっぽくて……こっちの近所であるお祭りって、丁度サヤが来る頃でなー」

「あ、そうなのかな! それ、もしかして……ヨッシとハーレが金魚を獲ってきたお祭り?」

「そうそう、それ。それならサヤの思い出にもなるし、晴香も納得するんじゃないかと……」


 言ってて思ったけど、これって普通に晴香から提案してきそうな話じゃね? サヤが話題に入れずに寂しそうにしてる時はあるのは晴香も気付いてるだろうし――


「……ケイは、一緒に来るのかな?」

「ん? まぁ夜だし、バイトが入ってても終わってるから行こうと思えば行けるけど……あ、邪魔なら俺は行かない――」

「ううん、違うかな! 思い出なら、ケイも一緒に! 私はその方がいいかな!」

「お、おう。それなら、俺も行くけど……」

「約束だからね!」


 なんか凄い剣幕で、俺も一緒に行く事を主張してきたな!? ……昨日の件、本当に嫌がられたとかそういう訳ではなさそう?


「あ、ヨッシにはもう伝えてるのかな? 流れ的にハーレはまだ知らないよね?」

「ヨッシさんにまだ伝えてないなー。内容的に、サヤへの確認が最優先かと思ったし、晴香から聞いたんじゃほぼ確定になるだろうからって、俺の母親の判断で俺からの確認になった」

「……まぁハーレの我儘でも別にいいんだけど、これはこれでいいかな? ふふっ」

「……なんか、サヤ、機嫌がいいか?」

「うん! そっちに行く楽しみが増えたかな!」

「おー、そりゃ良かった」


 そんなに劇的に楽しみにするような規模の祭りでもないんだけど……まぁこっちの地元での話題だと、サヤは疎外感があった様子もあるし、嬉しくなる気持ちもあるのかもね。


「あっ、でも……ケイ、私は2泊3日くらいになりそうなんだけど……昨日言ってた料理の味見、時間が取れなくならない?」

「あっ! あー、そうか。夜がどっちも潰れるし、昼は俺はいない可能性が高いな……」


 うーん、しまったな。そこまで考えてなかったけど、完全に予定が重なってしまったか? 


「……ケイ、その辺も含めて、ヨッシと相談してくるかな! あ、でも祭りの方を優先で!」

「サヤ的には祭りの方が優先か。それは了解っと。それじゃちょっと晴香に伝えてくるわ」

「うん、分かったかな! それじゃまた後でね」

「ほいよっと。また後でなー」


 という事で、サヤとの通話は終了。思いっきりサヤは祭りには乗り気だし、俺と一緒が嫌って訳ではなさそうで、なんかホッとした。……それにしても、あの祭りか。行くの、結構久々だよなー。



 ◇ ◇ ◇



 とりあえず話は通ったので、母さんに報告してから、晴香と父さんのいる庭へ移動。……朝から日差しが強いね。


「おっ、圭吾! 起きてきたか!」

「おぉ!? 早いのさー!?」

「そんなに驚く事?」

「休日では、大体兄貴が一番遅いもん!」

「……まぁそりゃそうだけど」


 うん、そこは否定出来ない! いや、休みの日は普通に寝たいじゃん!? どれだけ遅くまで寝ていても許されるのが休日であって……って、話が逸れるな、これは。本来の用件をちゃんと伝えようか。


「晴香、お盆には近所の祭りに行くぞ。サヤとヨッシさんと、俺と一緒にな」

「……え? えぇ!? なんでそんな話になってるの!? あ、でも確かにお祭りの時期!」

「池の金魚の補充だよ、補充。数が減ってるから補充って聞いたけど、晴香が嫌がってるんだろ」

「……嫌がってまでは……ないよ?」


 いや、露骨に不機嫌そうになりながら、顔を逸らされてもな? それを見て、どうやってその言葉を信じろと?


「……そうか、晴香は嫌だったか。すまん、どの種類の金魚がいいかとか聞いて……どれもイマイチそうな様子は、そういう事だったか!」

「あぅ!? えっと、えっと!? ……ごめん、お父さん! 普通に買ってきた金魚は、まだ入れる気にはなれない……」

「いやいや、いいんだぞ、晴香。父さんも気付いてやれなくてすまんかったな。圭吾、よくやった!」

「……どーも」


 別に大した事はしてないけど、まぁ結果的には晴香が納得出来る形になるのはいいかもね。誰もが納得する結果が、一番いいのは間違いない!


「よし、圭吾! 祭りの時は臨時の小遣いは出す! 意地でも祭りで金魚を獲ってこい!」

「ほいよっと」


 でも、金魚掬いって得意じゃないんだよな……。まぁあれって全然掬えなくても何匹かは貰えたりするから、最悪そっちで……いや、流石に初めからそっち狙いは嫌だな。なんかサヤやヨッシさんがいるなら、ちょっと見栄を張りたい気分。

 うーん、VRで金魚掬いのシミュレータとか、あったりしない? ……ちょっと後で探してみよ。意外とシミュレータって色々あるから、そういうのも多分あるはず。


「ふっふっふ! ヨッシが帰ってきた時に、やる事がいっぱい……あれ? 兄貴、料理を作る時間ってありますか?」

「その辺は、サヤとヨッシさんで相談しとくって」

「わー!? 私、除け者になってませんか!?」

「いや、別にそういう訳ではないと思うけど……晴香はそれ以前に、まともに作れるようになるとこからだろ」

「あぅ!? ……それもそうでした」


 晴香はまず、何も壊したり、ぶち撒けたり、そういう事をしなくなるようにするのが先だからな。それが出来なきゃ、作る以前の問題だ!


「……今日設置の食洗機、絶対に壊さないようにするのです!」

「おー、頑張れ」

「……晴香も成長してるんだな。父さん、嬉しいぞ!」


 あ、父さんが感極まったのか、晴香を抱きしめようとして……思いっきり躱された。……まぁ晴香も年頃なんだし、流石にそういう直球なのは避けたくもなるか。


「晴香、なぜ逃げる?」

「わー!? お母さん! お父さんが迫ってくるー!?」

「はいはい、馬鹿やってないで朝ご飯にするわよ」


 朝から妙に騒がしい事になりつつも、夏の予定が1つ決まったね。まだ結構先の話だし、それより前に晴香自身が遊びに行く予定もあるけど……退屈しない夏休みにはなりそうだなー。



 ◇ ◇ ◇



 卵焼きがメインの和食の朝食を食べ終え、自室へと戻ってきた。食洗機と鍵の取り付けは昼からなので、午前中はここにいても問題ない。昼からは客間でフルダイブするとして……。


「うー、兄貴の部屋に無断で入れなくなる……」

「そうさせない為の、鍵だからな」


 そもそも晴香が無断で突入してこないのであれば、根本的に不要なものでもある。別にこれといって支障がある訳でもないけど、俺だってプライバシーの確保はしておきたいからな!


「寝坊した時、起こせないよ!?」

「そういう心配をしてんの!?」


 あー、でも何かモンエボ内で急な動きがあれば、それで起こされるって事も何度かあったもんな。うーん、そういう時は確かに起こしてもらった方がいいし……。


「……仕方ない。寝る時は鍵を開けておくか」


 そもそも個室の鍵なんだから、夜には無理に閉めておく必要もないな。……昼は晴香が無断で入ってこないように、常に閉めておくつもりだけど。


「常に開きっぱなしでもいいのさー!」

「いや、それは鍵を用意する意味がないからな!? てか、寝坊や急用以外では無断で入ってくるな!」

「えー!?」


 決して無茶な要求をしている訳じゃないのに、なんでそんなに不満そうにされなきゃならん!? というか、そんなに無断で入りたがる理由ってなんだ?


「あ、ヨッシからメッセージ……おぉ! 兄貴! ヨッシとサヤ、朝ご飯を作ってくれるんだってー!」

「あー、そういう形に落ち着いたのか」

「うん! 泊まってる間のどこかの朝ご飯がそうなるのさー!」

「……なるほど」


 確かにそれなら、サヤとヨッシさんの料理食べるって事も出来そうだね。まぁ朝食だと、昼や夜に比べるとメニューは限定されそうな気もするけど……。


「あ、そういや祭りは何日だ?」

「……え? 兄貴、確認してなかったの!?」

「いつ頃かってのは、なんとなくで分かってたしなー」


 だから、具体的な日程を見てなかったんだけど……えーと、ネットで軽く検索してみて……あぁ、あった、あった。


「あ、祭りは8月12日と13日の土日だな」

「ホッ……」

「ちょい待った。そこでなんで安心してる?」

「だって、確認した上で言ってると思ってたんだもん! 11日にこっちに来て、13日に帰る日程になってるのさー!」

「ちょ!? もう確定してたのか!?」

「だから、焦ったのさー! その時期にお祭りがあるの、完全に忘れてたし!」


 いや、それって危ない状態だったじゃん!? もしこれで日程がズレてたら、乗り気になってるサヤをガッカリさせる事になってたかもしれん……。

 あー、でも母さんはちゃんと把握してたのかも? そうじゃなきゃ、あの場で指摘してくれただろうしさ。うん、まぁ結果オーライって事で!


「その日程なら、バーベキューは11日の夜で、祭りに行くのは12日ってとこか」

「それでいけそうなのさー!」


 ふぅ、これで問題は解決……いや、解決したのか? 微妙に気になる部分もあるんだけど……。


「今からお盆の交通手段って、予約は間に合うのか?」

「えっと、そもそも一緒に帰ってくる予定だったヨッシの弟が、向こうで出来た友達のとこに泊まりに行く事になって、チケットが空いたんだってー! そういう事情もあったから、こういう話になってたのさー!」

「あー、なるほど。元々、取ってたチケットが空いたからこその話か」


 それならこれから大急ぎで確保する必要もない……って、よく祭りの開催と重なってたな!? てか、初めっから日程の調整ってほぼ無理だったとは……。これから予定を詰めて、もう少し自由に決められるものかと思ってたよ。

 結果的には大丈夫だったけど、今度こういう機会があれば、ちゃんと日程は確認してから提案しようっと。いざ誘ってから、実は駄目でしたでは格好がつかんわ!

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