第1508話 ルート分岐の可能性


 黒の異形種との対話なんていう完全に予想外の出来事が起こったけど、情報的には大きな進展かも? まさか、戦う理由が俺らと同じなんて言われるとは思ってなかったけど……。


「こうなってくると……黒の異形種と一部の無所属は、新規勢力と考えた方がよさそう?」

「わー!? 黒の群集の誕生なのさー!?」

「名前はともかく、そういう認識の方がよさそうかな?」

「……あはは、確かにそうかも? 黒の異形種が仮の名前だって言われてた理由、この辺にあるのかもね」

「そういや、あくまで仮の名前だったか」

「あー、そういやそうだっけ」


 ハーレさんの言った『黒の群集』はないにしても、他の名称に差し代わる可能性はあるのか。あくまで、正体不明だったからこそ、仮なんであって……その正体を把握した後なら、それに合わせた名前になるなんて事もあるのかも?


 おっと、そんな事を考えてたら、何やら潰れて火花が散っている円盤状の金属の塊を掴み上げた骨の竜が戻ってきた。持ってるそれが、墜落させたUFOっぽい?


『……マタセタナ。……コレハ……キサマラガ……モッテイケ』


 ちょ、無造作にぶん投げてきたー!? 扱い、雑過ぎる!?


<行動値1と魔力値2消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 120/121(上限値使用:10): 魔力値 320/322


<行動値を2消費して『水の操作Lv10』を発動します>  行動値 118/121(上限値使用:10)


 ふぅ、危ない、危ない。思いっきりUFOが真っ二つに折れて、中から色々と零れ落ちたけど、それも含めて回収出来た! 反発力を高めに設定したから、水没もしてはいない!


「ケイ、ナイスかな!」

「どういたしましてだなー。てか、扱いが乱暴過ぎるぞ!」

『……ワレラノ……テキダ。……テイネイニ……アツカウ……リユウガ……ドコニアル?』

「いや、まぁそれはそうなんだけど……」


 黒の異形種からすれば、UFOがサンプル回収をしている事自体が興味のない事なのか? いや、そもそもそういう状況にあるという事そのものを知らない? なるほど、その方向から話を聞いてみるか。


「これらが今、何をしてるかは知ってるのか?」

『……シラン。……ソレニ……キョウミハナイ』


 ふむふむ、興味がないときたか。多分、黒の異形種にとっての興味の対象は、俺らプレイヤーや黒の暴走種であって、そこへの意思表示が最優先事項なんだろう。でも、そういう事ならば……ゲーム的にはこういう構図も用意されてるかも?

 今ここで、黒の異形種との対話が成立するのには何か意味があるはず。ゲーム的に考えるなら、ここはルート分岐の可能性! 立ち回り次第で、今のイベント中の立ち位置が変わってくるんじゃないか? だとしたら……こうだ!


「それらが……俺ら、精神生命体の仇敵の尖兵だとしてもか?」

『…………ミョウニ……ザワツクノハ……ソレガ……リユウカ?』


 よし、この反応は手応えあり! この洞窟内に入ってきたUFOに対して妙に攻撃的な様子だったのは、それなりに理由はあったっぽい! 切り口はここで間違ってなさそうだな!


「お前らが俺らと同じ存在なんだとしたら、それの主が身体を失った時の仇敵なのは間違いない。それでも興味がないと、言い切れるか?」

『……ナルホド。……ソレハ……ムシデキナイナ。……ダガ……ワレラニ……ドウシロ……ト?』


 明確に興味を示し始めたね。よし、やっぱりこれは黒の異形種の行動を変えるチャンスっぽい! ここの答えは慎重にいけよ。どうすれば、俺らにとって利益のある行動に変えられる?

 興味を持ち過ぎて、落下物を持っていかれるのは確実にデメリット。本質的に俺らと陰陽の関係にあるのなら、進化の軌跡の類いは全て使える可能性もある。……それはそれで興味深いんだけど、今はそこは試さない!


 邪魔をさせない程度に、俺らへの協力をさせる方法……よし、これだ!


「引き寄せられた時、確実にUFOを墜としてもらえないか? こいつら、この星を調査しているようなんだけど、何も持ち帰らせたくないんだよ」

『……ソウイエバ……ナニカヲ……アツメテ……イタナ? ……アレラハ……ナンダ? ……キサマラヤ……ワレラノ……チカラノ……ヘンリンヲ……カンジルガ……?』


 うげっ!? しまった、今のだと興味を持たせ過ぎたのかも!? うーん、ここからどう誤魔化す? いや、変に誤魔化さない方がいいのか?


 NPCが相手だけど、今の状況は競争クエストでの赤の群集や青の群集との駆け引きと考えろ! 基本的には対立構造だけど、利害の一致する部分では協力は出来るはず! その上で必要なのは、どういう形であっても信頼関係が必須!


 相手がどれだけの情報を持っているかは未知数なんだから、嘘だとバレるような言い回しは逆効果になる場合もあるだろう。言っても支障がない範囲か、デメリットを上回るメリットを引っ張り出せ!


「それらは、俺らがこの地で作り上げてきたものだ。お前達の存在はさっきまでよく分かってなかったけど……経緯は違っても、そういう意味ではお前達と同じようなもんだよ。それを、好き勝手に奪わせてたまるか!」


 うん、実際の効果はぼかしつつ、それでいて存在そのものについては肯定して……回復用の食材アイテム以外は、少なからず精神生命体の力に由来するもんなんだから、決して間違った事は言っていない!


『……キサマラヤ……ワレラガ……ツクリダシタ……モノカ。……タシカニ……ソレヲ……ウバワレル……ワケニハ……イカンナ』


 よし、手応えあり! 話の方向をアイテムの効果ではなく、UFOが回収している状態へと切り替えられた! 話の焦点がズレれば、それだけやりやすくも――


『……ワレラジシンモ……ウバワレ……カケテイル……ノカ』

「あー、ある意味そうかも?」


 黒の暴走種が落下物の中から出てきているし、黒の異形種の出現も引き寄せられていたとも言ってたんだしなー。考え方を変えてみれば、黒の異形種もUFOの回収されそうになっているとも言えるはず?


「……イイダロウ。……イロイロト……キニナル……ブブンモ……アルガ……イマハ……ノミコンデ……オコウ。……トキガクレバ……チカラヅク……デモ……オシエテ……モラウゾ』

「……そりゃどうも。とりあえず、休戦はしてくれるって事でいい?」

『……ココニイル……ワレラハナ』

「というと?」


 誤魔化されてはいないけど、今だけでも誤魔化されてくれるというのは……まぁ及第点か。少なくとも完全な敵対化は避けられたけど、また微妙に気になる言い回しをしてきたね。


『……ワレラ……ゼンインガ……オナジ……ホウシン……デハナイ。……ダガ……ソレハ……キサマラモ……オナジ……ダロウ……?』

「それはまぁ、そうだけど……。って、ちょい待った! もしかして、他にもこういう場所があったりする!?」


 要は一枚岩ではないって事なんだろうけど、『ここに居る我ら』って言い方から考えると、いくつかの集団がそれぞれに拠点を持ってる可能性があるよな!?


『……アァ……ソウダ。……ダガ……ミタメデ……クベツハ……ムズカシイ。……キサマラモ……ワレラカラハ……クベツガ……デキヌ』

「それは確かに……って、そこも待った! 無所属……あー、俺らの中の一部に、そっちから接触してきている奴がいるはずだけど、そこはどう区別してんの!?」


 区別が出来ないのなら、無所属……それも傭兵になってない人だけに乱入クエストが発生するのはおかしいよな!? 何かしら、そこに判別基準があるはず!


『……キサマラノナカデ……ワレラ二……チカイ……バランスノ……モノタチノ……コトカ?』

「多分、それ!」


 てか、バランスで見分けてるって事は、カーソルが黒く染まっているのが重要な部分なんかい! 黒の統率種が喋れなくなるのって、ある意味では黒の異形種に近付いているからって設定なのかも?

 でも、今こうしてテレパシー的な手段で対話が出来ているんだから、黒の統率種とも言葉のやり取りが可能な手段もあったりする? ……この辺、分からんなー。


『……タダタンニ……ワレラノコエガ……トドイタノガ……ソヤツラナ……ダケダ。……バランスヲ……タモッタママ……コエガ……トドイタノハ……コンカイガ……ハジメテ……デモアル』

「え、そうなのか? そういう機会がなかっただけじゃなくて、声自体が届かなかった?」

『……アァ……ソウダ。……リユウハ……ワカ――』

「わっ!? ビックリしたのさー!?」

「壊れかけのUFOが、爆発したみたいかな?」

「そうみたいだなー」


 ふぅ、何事かと思ったけど、ただUFOが更に壊れただけか。いきなりびっくりさせるなっての。まぁそれはいいとして……。


「ともかく、今回は俺らとしても対話が出来て助かった!」


 って、あれ? 骨の竜はキョロキョロと周囲を見ているけど、何も言ってこない? さっきまで普通に話しかけてきてたのに……って、まさか!?


「さっきまで会話が出来てたの、このUFOの機能か何かか!?」

「はっ!? タイミング的に、その可能性はありそうなのさー!」

「今の爆発で、それが壊れたのかもな。もしそうなら、壊れていないUFOがなければ会話も不可能になる訳か……」

「それ、厄介じゃない? UFOの捕獲、出来なかったよね?」

「……無理だったよなー」


 くっ! まさか、UFOが黒の異形種との会話を成立させる為の鍵だとは思わなかった! まだ聞けてない事が聞ける可能性もあったのに、こんな中途半端な――


「……ケイさん、ここを離れた方がよさそう?」

「なーんか、私達、急に狙われてない!?」

「骨の竜が他の個体を追い払うように動いているし……冗談抜きでやばいかもしれんぞ」

「みたいだな!? 全員撤退! 原野の谷まで、大急ぎで引き返せー!」


 骨の竜は最後まで俺らの事を敵視した様子はなかったけど、それ以外の黒の異形種とは会話が成立しなくなった途端に、完全に敵対化かよ!

 あー、もう! 色々とまだ気になる事はあるのに、これじゃ撤退以外を選ぶ余地がないじゃん! ともかく今は、脱出あるのみ!


<『???』から『名も無き未開の原野』に移動しました>


 大慌てで洞窟を引き返し、原野の谷へと戻ってきた。こんなとこに黒の異形種の拠点があるなら、未開と言えるかどうかに疑問があるんだけど――


「っ!? みんな、アルマジロが復活してるかな!」

「マジで!? あー、今は相手にしてられん! アル、みんなを乗せて谷の上まで行ってくれ!」

「おう、任せとけ! ……色々と整理するのは、その後だな」

「だなー」


 復活したアルマジロが黒の暴走種なのかが気になるけど……ギミックとして用意されているなら黒の暴走種な気がする。元々、黒の暴走種は定期的に復活するようにはなってるんだし、ここはゲーム的な処置でそうなってても不思議じゃない――


<規定条件を達成しましたので、緊急クエスト【謎の飛行物の落とし物】が進行します>

<【採集機Ⅰ型】と【採集機Ⅱ型】より、新たに採集アイテム『???』の入手が可能になりました>


 って、なんか進行のアナウンスが出たんだけど!? いやいやいや、『???』って出てるけど、このタイミングはどう考えても、黒の異形種との会話を成立させてた機能のそれだよな!?


「ケイさん、これって――」

「言いたい事は分かるけど、今は移動優先で! 下手にここに残って、アルマジロの餌食になりたいなら別だけど!」

「それは絶対に嫌なのさー! わっ!? 銀光が輝き出したのです!?」

「俺に乗り切れなくても、今ならケイの水が出てるから、そっちでも構わん! ともかく、急げ!」

「全員、急げー! 攻撃が迫ってくるぞ!」

「……これ……凶悪だね?」

「……だが、面白い展開でもある」

「うひゃー! とんでもない展開になってきたね! ケイさん、お邪魔させてもらうよー!」

「……かなりの進展」

「まさか、こういう形で黒の異形種が絡んでくるとはな。ケイさんもよく、協力関係に持っていった……持っていけたのか?」

「中途半端に途切れたから、なんとも言えん! よし、全員乗ったし、アル、行くぞ!」

「おうよ!」


 大慌ての状態だけど、ともかく今はアルマジロの攻撃圏内から脱出が最優先! 洞窟の中で全滅を覚悟していたとはいえ、そこから出た後に、一度倒したアルマジロに袋叩きにされるとか絶対に嫌だしな!



 ◇ ◇ ◇



 アルマジロからの攻撃を受ける前に、なんとか谷の底から離脱は成功。……あー、焦った。あのアルマジロ共、復活が早過ぎるわ! いや、あの奥があんな風になってるなら……そりゃまぁ特殊な設定になってるんだろうけどさ。


「ねぇ、ケイさん? これって、あのギンさんとの勝負は私達の勝ちでいいの?」

「あー、クエストの進行のアナウンスだけだったけど……一応、あれも演出の1つではあるしなー。ちょっとギンに連絡してみるから、みんなはその間にUFOから出てきてる落下物の回収をしといてくれ」

「あ、それもそだね。もしかすると、この中にさっき入手可能になったばかりの『???』があるかも? 実際に効果が出てたのは爆発したとはいえ、予備パーツとかがあるかもしれないしさ」

「はっ! 見た目が違う可能性があるし、それを探すのさー!」

「ハーレ、直接触ったら取得になるから要注意かな!」

「確かにそうなのさー!? えっと、何か直接触れずに済むものー!?」

「ふっふっふ! こういう時は任せなさーい! 『アースクリエイト』『土の操作』!」

「……なるほど、それは良い案だ。『アースクリエイト』『土の操作』!」

「おぉ! リコリスさん、十六夜さん、ナイスなのです!」


 ふむふむ、大量にある落下物を細長く生成した石で選り分けて、色が違うものを探しているんだな。これなら直接触れずに確認が出来るし、ありな手段だね。

 まぁそっちは任せておくとして……俺はギンにフレンドコールをしておきますか。さて、ギンはどんな反応をしてくるものやら? ……というか、内容的に灰のサファリ同盟へ色々伝わっちゃいません? いや、この際それでもいいのかもなー。アナウンスが出た以上、誰かが何かをしたのは明白だしさ。

 

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