第1507話 予期せぬ邂逅
原野にある谷、そこにあった洞窟へと入ってみれば……想定外にも程がある光景が広がっていた。いやいやいや、こんなに黒の異形種が集まってる場所なんて、全く想像してなかったんだけど!?
しかも、どこからともなく転移してきた骨の竜は……自信はないけど、最初に俺らがUFOを目撃した時の個体か? あの時、いつの間にやらいなくなってたはずだけど……。
「……ケイ、このまま睨み合いを続けるのかな?」
「下手に攻め込めないしな、この状況……。てか、なんで何も仕掛けてこない?」
サヤが気にするのも分かるけども、骨の竜が俺らの方を向いて微動だにしないんだよな。何かしらの動きがあれば、それに合わせた対応も考えられるんだけど……くっ、無理にでも攻めるべきか?
そもそも、どれだけの数がいる? とりあえず、最低限でもそれは確認しとくか。
<行動値を6消費して『獲物察知Lv6』を発動します> 行動値 115/121(上限値使用:10)
……あ、この反応量はやっばい。奥まで続く通路で詰まってるけど、その奥にも反応が大量!? ここ、そもそも立ち入るだけでアウトな場所?
「アル、この状態はどうすりゃいいと思う? 下手の暴れても俺らの人数以上の数はいるし、正直、もうお手上げなんだけど……」
「どうもその骨の竜が、俺らの様子を伺ってるっぽいのが気になるな。何か動きがあるまで、このまま現状維持がいいんじゃねぇか?」
「下手に動かない方がいいかー。まぁそういう判断になりますよねー」
十中八九、今動いたところで数体倒せた後に、袋叩きにされて終わりだろう。おそらく、UFOがあるらしき奥までは辿り着けない……。
「ケイさん、ケイさん! Lv帯の幅、結構あるのです! あと、識別しても特に反応はないのさー!」
「サラっと識別してたのかよ! あー、どの程度の幅がある?」
「一番低くてLv1で、高いのでLv20がいるのまでは確認したのさー! こっちを見ている骨の竜は危なそうなので、避けておきました!」
「流石にそこは避けたか。まぁ今はそれでいいし、ナイス識別!」
「えっへん!」
ここにいる黒の異形種は、Lv帯が決まっている訳じゃなさそうだな。成熟体から出現している系統の敵だし、ここが黒の異形種の拠点と考えた方がいいのか? いや、それにしては不自然だな?
「ここが黒の異形種の拠点だとして……なんで入り口を塞いでいたのが黒の暴走種?」
あれじゃまるで、洞窟への侵入者を防ぐ門番じゃなくて、洞窟から出てこないように閉じ込めている看守のような……いや、もしかしてその通りなのか!?
「……黒の異形種は、黒の暴走種に閉じ込められてる?」
「おー! 確かにそういう解釈も出来そう!」
「仮にそうだとして、こちらへ溢れ出てこないのは解せんが……いや、UFOの出現と重なったせいか?」
「……その可能性は……あるかも?」
「……重なっていなければ、こちらへ押し寄せてきていた可能性か。否定は出来んな」
うっわ、それって可能性としてありそうなのが怖いな!? ……この骨の竜が俺らを見てるのは、攻撃を仕掛けるタイミングを図っている?
『……ナニモ……シテコナイノ……ダナ?』
「おわっ!? 喋った!?」
ちょ!? 黒の異形種が意思を持っている可能性は分かってたけど、明確な意思疎通は出来てないんじゃなかったっけ!? 黒の暴走種の半覚醒みたいに、片言でも理解出来るように話しかけてくるとは思わなかったんだけど!
いや、でも声じゃなくて、頭に直接響くような感じだな? 竜の口は動いてないし……これ、テレパシーみたいなもん?
『……イマハ……キサマラノ……チカラニ……イシヲ……ノセタ……マデダ……。……アワセルノニ……ジカンハ……カカッタ……ガナ。……コレハ……ハジメテノ……セイコウカ』
俺らの力に意思を乗せた? 合わせるのに時間がかかった? 言っている事の意味はよく分からないけども、何か意思疎通をしようとしているのは確かっぽい。
俺らをずっと見てたのは、こうやって意思疎通をする為の行為だったとか? 初めての成功というのが地味に気になるけど……。
「『合わせる』って、無線の周波数を探してたとかじゃないかな?」
「なるほど、そういう事か。ケイ、俺もサヤの意見に賛成だ。さっきまでは、対話が可能な周波数を探っていただけかもしれん」
「……そういう事なら、攻撃せずにいて正解だったのかもなー」
この骨の竜の意思疎通の方法は、普通じゃないのは間違いないしさ。何もせずに待つ事が、この状況に至る為のフラグだったのかも? ……これ、下手すると、もうギンとの勝負に勝ったんじゃね?
まぁ今の段階では全体的な進行にはなってないっぽいから、この骨の竜と対話してみないといけないのかも? さて、どんな情報が出てくるか……。
こういう対話の時は、PTや連結PTの範囲で対応してくれるし……とりあえず、直球にこれを聞いてみますかね。
「お前ら、一体何なんだ?」
『……ワレラハ……キサマラ……ジシン』
はい? え、俺ら自身って言われても意味が分からないんだけど、どういう意味だ? 確かに残滓として精神生命体の力が残って、それを瘴気を使って進化してきた瘴気強化種なんてのもいるけど……俺ら自身って事はないだろ。
『……ワレラハ……キサマラ……キリステタ……カノウセイノ……イッタン……』
「なっ!?」
ちょ、『切り捨てた可能性の一端』って、そうくるか!? 残滓として残ったのは、精神生命体として引き出さなかった別の方向性の力そのもの!?
「……私達が進化の方向性として選ばなかった、その残りがそうなの?」
『……キサマラジシンガ……エラバナカッタ……スガタ……ノ……ザンガイ……。……ソレガ……ワレラ……ダ!』
なるほど、ここで言う貴様らって、俺らというよりは黒の暴走種の方を指し示してるのかも? まぁ設定上は俺らと同じ存在の精神生命体なんだし……いや、貴様らって複数形で呼ばれてるし、プレイヤー自身の選択も示されてる可能性はあるか。
『……ワレラハ……ココニ……イシヲ……シメス! ……ワレラハ……キサマラノ……ザンガイ……ナレド……ワレラニモ……イシハ……アル!』
「……ほう? それで、具体的にどうする気だ? ……このまま、ここで一戦交えるか?」
「ちょ! 十六夜さん、それは待った! まだ謎だらけなんだし、そこで戦闘は始めないでくれ!」
「……ふん、冗談だ。その骨の竜の出方次第だがな」
いやいや、確かにそれはそうなんだけど! てか、『残骸でも意思はある』ときましたか。前の乱入クエストでも『我らが意思を示せ』って言葉はあったんだし、黒の異業種達が主張したいのは、自分達の存在を認知させる事?
『……キサマラガ……オソワヌナラ……ワレラモ……イマハ……オソワン……』
「そりゃ助かる」
片言だから、言葉が分かりにくいなー。俺らが襲わないなら、こいつらも襲ってこないのはありがたいけど……マジで動かずにいたのが正解だったっぽい。全滅覚悟で突っ込んだり、諦めて逃げ出していたら、こういうやり取りにはなってませんよねー!
『……ダガ……ナゼ……キサマラハ……ココニイル? ……フウジタノハ……キサマラ……ダロウ?』
「いやいや、そんな事はしてないから!」
『……ナニ?』
これ、もしかして黒の暴走種とプレイヤーの区別が出来てない!? あー、瘴気で狂ってるだけで、中身自体は同じものだしな。残滓として残った精神生命体の力が自我を持ったのなら、知識に関しての欠落があっても仕方ないのかも?
『……ワレラノ……【ヨウ】……デアルノハ……イヤ……バランスガ……コトナル?』
ん? 今の『ヨウ』ってどういう意味だ? バランスが異なっている、黒の異形種の『ヨウ』? ……ヨウか。ヨウねぇ?
「……もしかして……陰陽思想の……『陽』?」
「あ、それか! となると、黒の異形種は『陰』だな!」
風音さんの連想したそれなら、そういう仮説が成り立つはず! 陰陽思想そのものはそんなに詳しくないけど、2つのものが混ざりあって存在するってものだったよな。
モンエボでは『瘴気』と『浄化』が対となって存在してるんだし、そういう要素は前から出てきてる。『陽』として存在している精神生命体に対しての『陰』が、この黒の異形種って事なのかも!
『……ソウダ……。……ワレラハ……キサマラノ……【イン】……。……ソウカ……ワレラヲ……フウジタノハ……バランスノ……クズレタモノ……カ』
ふむふむ、ここで言うバランスの崩れた者こそが黒の暴走種なのかもね? 何気に、設定部分の大きな情報が出てきてるな!?
「はい! 私達を襲ってくるのは何でですか!?」
「直球だな、ハーレさん!?」
「だって、気になるんだもん! 乱入クエストを使って、黒の統率種をけしかけてくるのは何でですか!」
いやまぁ、確かに気になるし、教えてもらえるなら知りたい部分ではあるけどさ。てか、今の俺らの状況の方がイレギュラーなんじゃね? もしかして、これで乱入クエストを止められたりする?
『……キサマラ……ジシンモ……アラソッテ……イルデハナイカ? ……ワレラトテ……ソレハ……オナジコト』
「おぉ!? それを言われると、反論出来ないのさー!?」
思いっきり論破されてどうする!? いや、確かに俺らもプレイヤー同士で争ってるんだから、それと同じだと言われたら反論の余地もないけども!
「……争わないというのは、今この時に限定してという認識でいいのか?」
『……アァ……ソウダ。……コノバニ……カギリ……アラソワン』
「……なるほどな。その言葉、信じるぞ」
あ、さっきからいつでも戦えるようにハサミを構えてた十六夜さんが、警戒態勢を緩めたね。少なくとも、対話する意思のある今の状態では、この骨の竜とは戦闘にならなさそうで良かった――
「はいはーい! それじゃ私からも質問! そっちの奥にいるUFOなんだけど、ぶっちゃけどういう関係?」
ハーレさんもだけど、リコリスさんも遠慮なく聞いていくな!? でも、その部分も気になる内容だし、答えてもらえるのならありがたいなー。
『……オクノ……ユーフォー……? ……アァ……アノ……ナニモナイ……アレカ。……アレラハ……ワレラヲ……ヒキヨセル』
「ほう? あれに引き寄せられているのか?」
「あれ? 自分達から仕留めに行ってるんじゃないの?」
『……ヤツラハ……ソンザイガ……ハアク……デキン。……ダガ……キガツケバ……バショガ……カワッテイル。……ワレラハ……ジシンノ……ミヲ……マモッテルニ……スギン』
「へー、そうなんだ!」
ふむふむ、これは興味深い事が聞けたね。黒の異形種は、あのUFOの動きを察知して墜としに来てるんじゃなくて、意図せず引き寄せられて……この場合、強制的に転移させられてきてるのかも? そこから身を守る為に攻撃を仕掛けていたのが、事の顛末っぽいね。
なるほど、なるほど。こりゃ、かなりの重要情報が聞けたね! 黒の異形種のランダムリスポーン先にUFOが影響を与えてるって予想も立ててたけど、まさか因果関係そのものが完全に逆だったとは……。
『……ギャクニ……キキタイ。……アレラハ……ナンダ? ……アレラカラハ……ナニモ……カンジラレン……。……アルノハ……【イン】ノ……ザンガイ……ダケダ』
『陰』の残骸となれば……まぁ瘴気の事なんだろうな。瘴気と浄化の両方が循環してこそ生命だって話もあったし、あのUFOには浄化の力が一切存在してないんだろうね。
「その調査中に、ここへ立ち寄ったのさー! なので、もし要らないのなら、堕としたUFOを貰えませんか!?」
ちょ!? ハーレさん、何をサラッと凄い要求をしてんの!? これ、どういう反応をしてくる――
『……イイダロウ。……ワレラニハ……フヨウナ……モノダ。……スコシ……マッテイロ』
「おぉ! ありがとうなのです!」
「ちょ!? それ、ありなのか!?」
「ふっふっふ! 言ってみるものなのさー!」
「……そうっぽいなー」
まさか、あっさり了承されるとは思ってなかったわ! あの骨の竜が洞窟の奥へと向かっていったし、マジで取りに行ってくれてるっぽい。
「ラジアータさん、今のUFOの反応ってどんな感じ?」
「少し前に動きまくった後、少し下がって、そのまま微動だにしなくなったから……おそらく、墜落しているな」
「その反応なら、そうだろうなー」
うん、流石のUFOもこの場所であの数の黒の異形種に襲われれば逃げる事も出来なかったんだろうね。結果的に、俺らが得しそうな流れではあるけどさ。
「ちょっと予想外の流れ過ぎるんだけど……ここの情報はどうする? 群集に流す?」
「秘匿の方がいいと思うぞ、ケイ。必要があれば、イベントの演出として、今の情報は流れるはずだ」
「むしろ、ここを出た後に何かありそうな予感もするかな? 多分、自動で報告が上がりそうだし……」
「私もサヤと同感だし、アルさんの意見に賛成だよ」
「まぁそうだよなー。今回のは、しばらくは伏せとくか」
もしすぐに演出に繋がってしまうのなら、報告はそもそも関係ないしね。それならそれで、ギンとの勝負は俺の勝ちだし、ありだけど!
「はい! ふと思ったけど、UFOの転移のシステムって、もしかして瘴気を使ったものですか!?」
「あー、そうか。そういう可能性はあるんだな」
なるほど、だから瘴気で転移する手段を持つ黒の異形種が引き寄せられてしまうのかも? あのUFOに瘴気があるって、さっきの骨の竜も言ってたんだし……って、ちょい待った!
「それ、黒の統率種……いや、そこまで行ってなくても、黒く染まってる無所属のプレイヤーも引き寄せられる可能性はあるんじゃね!?」
「はっ!? それはそうなのさー!」
「……確かに、その可能性はあるかもな」
「……嫌な可能性だね」
くっ! 黒の異形種と無所属の関係性って、多分だけど群集所属よりも接触しやすくなってるんだろうな! そして黒の異形種が襲ってくる理由が俺らと変わらないのなら……ある意味、今発生してる乱入クエストは競争クエストの変形版になるのかも? 狙っているのは、この場所みたいな黒の異形種が占有するエリアか!?
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