第1506話 谷の奥の洞窟へ


 岩に擬態したアルマジロ達は撃破完了! 戦闘中の特殊な動き方を見る限り、本当に谷を守る門番的な敵だったんだろうね。


「みんな! とりあえず、サヤ達が見つけた洞窟の前まで移動! そこで全員の行動値と魔力値が全快するまで待って、洞窟へ突入する!」

「「「「おー!」」」」

「……うん!」

「……一旦、状況を整える必要はあるか」

「……魔力値が空っぽはマズい」

「ふふーん! まぁ必要な休憩だよねー!」

「特にUFOの動きも見えんし、回復するなら今のうちだろうな」


 という事で、みんな揃って移動開始! さっきのアルマジロ戦での味方の被害はほぼないけど、これから進む洞窟の中はどうなってるかが未知数だからね。少なくとも、原野よりも弱いって事はないはずだしさ。



 ◇ ◇ ◇



 手早く谷の底まで降りて、サヤ達が見つけた洞窟の入り口の前までやってきた。……うーん、中はまともに見通せないけど、真っ暗闇という訳ではなさそう?


「結構、入り口が広い洞窟だな? 俺がそのまま入れそうだとは……」

「アルのサイズで入れるなら、UFOもそのまま突っ込めそうだよなー。まぁ転移機能があるなら、その意味もないんだろうけど……」

「……その辺は……実際に入ってみれば……分かる事?」

「だなー。まぁ中の広さが安定してない可能性はあるし、アルはいつでも小型化が出来るようにしといてくれ」

「おうよ!」


 まだ全員が全快した訳じゃないから、まだもう少し待つ必要はある。今のうちにやっておくべき事は……あー、飛翔連隊や桜花さんの状況を聞いとくか。なんか慌ただしい声は聞こえてたんだけど、こっちの状況を優先してたからなー。


「紅焔さん、桜花さん、聞こえる? こっちの手が空いてるうちに、何かあれば情報共有をしときたいんだけど……」

「悪い、ケイさん! 今、こっちは手が離せねぇ!」

「桜花さん! 僕らの状況の説明、頼めるかい!?」

「おう、その辺は任せとけ!」


 おっと、紅焔さんとソラさんの切迫したような声が返ってきたけど……こりゃ何かが起こってる最中っぽいね? まぁこっちも色々あったとこだし、これからもあるとこだしなー。


「桜花さん! 飛翔連隊はどういう状況ですか!?」

「今、落下物の中から出てきた成熟体の徘徊種との戦闘中だとよ」

「成熟体の徘徊種!?」

「はい!? あ、敵が出てくるって予想、大当たり!?」

「どうも、そうっぽいな。Lv20の火属性の西洋系のドラゴンらしい」

「……滅茶苦茶、紅焔さんと被ってね? てか、黎明の地でそのLvが出てくんの!?」


 紅焔さん達でも、まだLv20には到達してないよな!? まぁ高くてLv18くらいまでは上がってるから、それほど離れてる訳ではないけどさ。

 それにしても、ちょっと予想外な敵過ぎる……いや、徘徊種になっているのは戦闘を避けられるようにか? こちらから何もしなければ、何もしてこないのが徘徊種の特徴だし――


「実際に出てるんだから、疑っても仕方ねぇよ。ちなみに、場所としては『灼熱の霊峰』で、岩山の隙間に落ちていた落下物から出てきたってよ。他に誰も見つけていなかった落下物だから、周囲には被害は出てないが……まだ全員が確保し切れてないそうだ」

「あー、確かにあの岩山だと、探しにくい場所もあるかもなー」


 ある意味、今俺らがいるような地形がいくつも連なってるようなエリアだしさ。ただまぁ、そんなとこからいきなり成熟体がでてきたら、焦りますよねー! 全員分が確保出来てないなら、尚更に。


「だからまぁ、今は紅焔さんとソラさんが引き付けつつ、他のメンバーが落下物を確保中だ。それが終わり次第――」

「3人とも、確保完了しました! 紅焔、仕留めますよ!」

「おしきた! このドラゴン、ぶっ殺すぜ! 俺の取得分、台無しにしてくれやがって!」

「荒れてるね、紅焔」

「そりゃそうだろう。折角、見つけたと思ったら……出てきたのがアレじゃな?」


 あー、うん。確かにそれは荒れる気持ちも分かるかも……。一番のハズレ枠って、もしかして敵そのものが出てくるパターン?


「……ケイ、そこに関してだが俺らの方から面白い情報が上がっている」

「あ、もしかして『縁の下の力持ち』でも似たような情報が上がってる?」

「……そういう事になるな。だが、良い話でもある。その徘徊種を倒せば、それ自体の出現はカウントされず、取得可能数が増えるそうだ」

「ちょい待ち! それ、どういう意味だ!?」

「紅焔! 急に止まらないでくれるかい!?」

「あ、悪い!」


 気になる情報なんだろうけど、戦闘中に急に止まるのは止めようぜ、紅焔さん。気持ちは分かるけどさ。


「……まぁ具体的に言えば、それを倒せば2個手に入れられるって話だ。出した人……正確には出した人の所属しているPTが倒した場合はな」

「おっしゃ! このドラゴン、絶対にぶっ殺す!」

「おー、やる気満々だね、紅焔」

「それはいいんだが……十六夜さん、他のPTが倒してしまった場合はどうなる?」

「……その場合は、倒したPTに追加入手の権利が回るようだな。追加分を巡って、戦闘が起きてる場所があったそうだ」

「俺の権利だ! 奪わせてたまるかよ!」

「……状況次第では、ソラは離脱するのを考えていた方が良さそうですね」

「確かにそうかもね。変に気取られず、その前に倒せたらいいんだけど……『鷹の目』! どうやら、そうも言ってられなさそうだよ。北から青の群集の一団が接近中! ギリギリまでは戦うけど、交戦になりそうなら僕は離れるからね!」

「了解だ、ソラ! それまでにぶっ殺せばいいだけだしよ!」


 なんか、ややこしい事になってるな!? てか、出てきた敵を倒せば、その分のカウントはされず、更に追加で入手権を得られるって……ハズレ枠とも言い難くなってきたな?

 でも、状況次第ではプレイヤー同士の奪い合いに発展しそうだし、一概に当たりとも言い辛い……。


「そもそも、出てくる敵のLvが高過ぎる気がします!」

「……いや、そこは幅があるようでな? 成長体だったり、未成体だったり、その時々でバラバラらしい」

「そうなの!?」

「……あぁ、何ヶ所かで報告が出ているからな。さっき、俺らが回収した場所でも出たらしいが、それは成長体だったそうだ」

「あそこでも出てたんかい!」

「でも、あそこで成長体なら、脅威でもなんでもないかな?」

「確かにそうだよね。出てきたのが成長体なら、単なるボーナスだしさ」

「ですよねー!」


 実際に出てきた状況次第としか言いようがない内容だから、判断が難しいわ!


「……でも、敵が出てくる可能性に注意すべきなのは分かった」

「ふふーん! 出てきた瞬間に、誰かが2個持ってから離れればいいだけだね! 倒すのはそこから考えればいいよ!」

「ほう? リコリスにしては珍しく、有益な判断だな?」

「その言い方、どういう意味かなー? ねぇ、ラジアータ?」

「思った事を、素直に言っただけだが?」

「尚更、良くないわー! 『珍しく』とか、余計な一言だし!」

「……そんなにおかしな事を言ったか?」

「そっか、喧嘩売ってるんだね! よーし、買おうじゃない!」

「……2人とも、今は休憩中。余計な事はしない!」

「そうだぞ、リコリス。大人しくしておけ」

「……私が悪いみたいに言われるの、凄く釈然としないんですけどー!」


 あー、うん。また始まったね、リコリスさんとラジアータさんのこういう風景。まぁもう既に沈静化に向かっているけど……。


「ラジアータ、お願いだから1発だけ叩き込んでいいかなー? それで水に流す――」

「いや、待て。UFOの反応ありだ」

「なんですと!? え、どこ!?」

「……この洞窟の奥だな。急に現れたから、おそらく転移してきたんだろう」

「それ、大きな動きじゃん!?」


 まさか、このタイミングでUFOに動きが出てくるとはね! しかも、この洞窟の奥に出てくるとか……こりゃいいや!


「……ケイさん、動き始める?」

「動かない理由がないな! そろそろ全快はしてるか? 特に昇華魔法を使ったメンバー!」

「大丈夫かな!」

「私も問題ないよ!」

「……大丈夫!」

「あぁ、丁度全快したところだ」

「おし! それじゃ洞窟の中へ入っていくけど、全員、自力で進んでいく形でいく! どういう洞窟か分かるまでは誰かに乗って移動はせず、すぐに回避か防御を出来るように身構えといてくれ!」


 みんな、頷いてくれてるからこの方針でいけそうだな。ただまぁ、ここは例外にしておこうか。


「ハーレさんだけはアルの木の上から索敵を頼む! 可能そうなら識別も! Lv帯の確認をしたいからな!」

「了解です!」


 遠距離メインのハーレさんには、この方が向いているからね。それ以外の動きは……実際に洞窟の中に入ってから考えよう。


「もし思った以上に危険で、あっさり死んだ時はその場に残らず、設置した場所に戻って合流まで待機! それじゃ全員、突入開始!」


 今の俺らには手に負えない場所という可能性はあるし、それを予測して全滅した際の準備もしてある。これ、UFO自体が墜ちていて、そこまで辿り着くのが不可能とかって場合が最悪かも?

 あー、まぁそういう考えは今はなしだ! ともかく、先に進んでどういう状況かの確認から!


<『名も無き未開の原野』から『???』に移動しました>


 ……はい? 妙に暗くて先が分かり辛いし……そもそもエリア名が『???』ってどういう――


「っ!? ここ、瘴気だらけかな!?」

「『暗視』! ……どうやら、ここは異形種の溜まり場か」

「ちょ!? そのパターンは想定してなかったんだけど!?」


 薄暗い洞窟じゃなくて、瘴気で視界が塞がれてる状態かよ! いつかの共闘イベントで、常闇の洞窟に瘴気が溢れた時と同じパターンか! でも、それなら『瘴気耐性Ⅰ』があるし、明かりを用意すれば夜目で対応出来る範囲だろ。


「十六夜さん、暗視は切ってくれ。俺が発光を使うから、みんなは夜目を発動で! とりあえずそれで様子を伺う!」

「……全員での現状確認はしておくべきだな。了解だ。暗視、解除!」


 十六夜さんが眩しくなっても困るからに解除してもらって……みんなは頷いて次々と夜目を発動していってくれてるね。てか、十六夜さんの暗視の使用までの判断が早いな!?


<行動値上限を4使用して『発光Lv4』を発動します>  行動値 125/125 → 121/121(上限値使用:10)


 飛行鎧に組み込んだ光の操作は、いつも指定段階の状態で放置してるけど、今回はそれをすぐに使おう。光り始めたコケの光を、出来るだけ広範囲を照らせるように広げていく! 今は奥までよりも、近くの状態を把握するのが優先で……。


「あちこちにスケルトンやゾンビがいるじゃん!?」

「……だから、溜まり場と言っただろう」

「まぁそりゃそうだけど……てか、なんか奥へと移動していってる?」

「ケイ! もっと奥の方を照らしてかな!」

「ほいよっと!」


 洞窟としては俺らのいる場所から少し先で一気に深くなってて、その下にスケルトンのクマやら、ゾンビなオオカミやら、腐ったヒマワリやら……見た目から黒の異形種だと分かる種族だらけの状態。

 それらが奥へと進んでいる様子があるし、その行き先は気になるとこだよな。特に俺らへ警戒をしている様子がないのも……いや、それどころじゃないのか?


 てか、どこだよ、奥へと繋がる通路!? 収束させた明かりを動いているスケルトンのクマに合わせて調整してるけど、全体的に暗くて分からんわ! えぇい、一度収束を緩めて、もう少し奥の全体像を――


「ケイさん、もう少し左側を照らしてくれ」

「あー、UFOの反応がそっちにある?」

「まぁな。おそらく、こんな中にUFOが入っていれば……」

「袋叩き、間違いなしだね!」

「ですよねー!」


 という事で、ラジアータさんの言う方向に光を調整! あー、あった、あった。奥へと繋がっているっぽい通路を発見! だけど、これって……。


「おい、ケイ? これ、進めるのか?」

「……無理じゃね? どう見ても、黒の異形種で通路が詰まってるんだけど……」


 我先にと言わんばかりに、奥へと進もうとして大渋滞になってるんだけど? てか、その上を乗り越えようともしてるから、上にも通れるだけのスペースがないんだが!?


「とりあえず、敵のLvを確認しておくのさー! 『識別』! わっ!? Lv16……思ったほど高くないリスのゾンビだったのです?」

「それでも、余裕があるLvじゃないよね? 私達は格下だし……」

「単独進化と複合進化のLvは単純比較すべきじゃないけど、それでも数の差があり過ぎるかな?」


 うーん、予想の遥か斜め上をいくこの状況は一体どうしたもんだ? 俺と風音さんでスチームエクスプロージョンでもぶっ放して、強引にでも進んで――


「……はい?」

「わっ!? え、今、どこから出てきたの!?」

「……骨の竜が転移してきた?」

「どうやら、ここに瘴気での転移の出入り口があるようだな。今、その骨の竜が出てきた時に反応があったぞ」

「マジっすか……」


 いきなり目の前に、見覚えのある骨だけの竜が現れたけど……こいつ、群雄の密林でUFOを攻撃してたやつか? あー、骨だけだと分かりにくいわ!


「ケイさん! 思いっきりこっちを見てるけど、どうしますか!?」

「どうしたもんだろうな、これ……」


 ちょっと予想外の状況が連続で起こり過ぎてて、判断に困るんだけど! 死ぬ覚悟はしてきたけど、ここで盛大に大暴れしていいのか?

 根本的に黒の異形種がこんな形で1ヶ所に集まってるなんて思ってなかったんだけど、この見てくるだけの骨の竜が何かのイベントの開始条件になってたりしない!? あー、訳が分からん、この状態! どう動くのが正解だ!?

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