第1503話 谷の攻略手段
俺らが話し込んでいた場所、その真下の谷へと攻め込む事になった。場所と敵が敵なので、下準備として『転移の種』ですぐ戻ってこれるようにして……俺はついでに、アルに設定しているリスポーン位置の更新もしておいた。
さーて、この谷にいる擬態した敵を仕留めていく訳だけど……どう攻めたもんだろうね? 色々なエリアの特徴を内包したエリアにある谷だから、それほど大規模な範囲ではないけども……1体ずつ『看破』で見破ってから引っ張ってきて、着実に仕留めていくか? いや、いっその事、今だからこそ出来る大規模な――
「戦闘を始める前に、先に察知をしておくか。ケイさん、周囲に他のプレイヤーはいるか?」
「あー、ちょい待ち。その辺も確認しとく」
いかん、いかん。擬態した個体に反応するようになったのに気を取られて、周囲のプレイヤーの様子の確認が疎かになってたよ。
Lv5でも結構、離れた距離まで分かるようになってたけど、Lv6だと更に範囲が広がってるから……。
「ん? 青い矢印があるけど……太いのが1本だけで、矢印の上に『6』って数字が表示されてる?」
こんな表示は今まで見た事がないけど……これもLv6に上がった事で変化した部分か? あ、他にも赤い矢印や灰色の矢印で数字が付いているのがあるね。これは、もしかして……。
「……もしかして……PT単位で……察知してる?」
「多分、そういう反応っぽいな。意識してみたら分割されたし、それなら従来通りの表示になるわ」
「ほう? 獲物察知は俺も持っているが、そういう変化が面白いな」
「……その辺の情報は、既にまとめに上がってはいるがな。連結PT、18人まではまとめて表示されるぞ」
「あ、既に到達してる人がいたか! まぁそりゃそうだよなー」
というか、十六夜さんこそ既に獲物察知はLv6に到達してそう。なんなら、そのまとめに載ってる分の情報源の一部が十六夜さんでも不思議じゃないし!
「えーと、とりあえずこっちに向かってきてるプレイヤー集団はいないから、人目を気にする必要はないぞ」
「なら、手早く済ませてしまうか。『侵食』!」
今回は隠れる必要もなく、谷の上の岩場部分での『侵食』への変質進化ですなー。ラジアータさんのヤドカリは、俺のロブスターと同様に甲殻類だから、割と似たような進化になるんじゃね?
「わっ!? 甲羅の隙間から、身が落ちてきてるじゃん!? なんか、怖っ!?」
「……ヤドカリは、甲殻だけのスケルトン?」
「どうやら、そのようだな。随分と、身軽になったもんだ」
進化を終えたラジアータさんが軽くジャンプしてるけど……うん、なんかカタカタと硬い物がぶつかるような音がしてるし、甲殻部分だけで形成されたヤドカリになったっぽい。
「貝殻部分は、特に変わらないのさー!」
「まぁ元々、ヤドカリの貝殻って中身が元々は違うしね」
「すごくどうでもいいけど、タラバガニは、カニじゃなくてヤドカリの仲間かな」
「え、そうなんだ!? でも、貝殻はないよ!?」
「分類的な大きな違いは、貝殻の有無ではなく、脚の本数だな。カニは10本だが、ヤドカリは8本だ」
「そうなの!? おー! 確かに、十六夜さんもラジアータさんも脚が8本なのさー! ……なんか少し、損した気もします?」
「どういう基準だ、それ!?」
これ、どういう話の脱線の仕方をしてんの!? てか、思わずツッコんだけど……食べられる脚の本数が少ないから、損とか言ってるよなー!?
「そういえば、前々から聞こうと思ってたんだけどさ。ラジアータ、その貝殻からって出れるの?」
「ん? まぁ出ようと思えば出られるが……出るメリットもないぞ。貝殻にヨモギが生えている十六夜さんと違って、俺はこの内側にコケがいるしな」
「……中に篭れば緊急退避の場所にはなるが、打開策にはならんしな。出ても動きが変わって、ダメージも大きく受ける事になるから、出るのもあまり旨味のあるものではない。一応、進化の際にサイズが変更にもなるが、その程度のものだ」
「十六夜さんの言う通りだな。下手に攻撃に使おうものなら、すっぽ抜けて……むしろ、危険になる」
「え、それ、すっぽ抜けるんだ!? 初耳なんだけど!」
ふむふむ、ヤドカリのそういう仕様は初めて知った……って、ちょい待った!? その仕様、かなりヤドカリにとっては弱点じゃね!? 同調種なら回避策はあるにはあるけど、かなりヤバい弱点じゃん!?
「……やるなよ、リコリス」
「えー、やってみたい! よーし! 『アースクリエイト』『土の操作』!」
「……リコリス、待って!」
「いいじゃん、減るもんじゃないし――」
「やめろ、リコリス。俺を殺す気か?」
「へ? え、あっ!? コケが貝殻にあるなら、引き離したら危ないの!?」
「あぁ、そうだ。最大の弱点になるから、これまで伏せておいたんだがな……」
「ご、ごめん! 減るどころか、大ピンチになる……あ、これから死ぬんだし、別にいっか!」
「おい!?」
ちょ!? 今の流れって、引き抜くのを止めるとこじゃないの!? そこで全力で引っこ抜くって、本気でやる!?
あ、でもヤドカリの殻の中身が見えた以外に、特に違いはない? 今の間に『遠隔同調』を使った……って訳でもなさそう?
「おー、本当にあっさり抜けちゃったね。でも、ラジアータ、弱ってないでしょ? これ、奥の手?」
「……まぁな。ケイさん、この状態は覚えておいてくれ。俺は普段からヤドカリの本体側にも、少しのコケを用意している」
「貝殻の見えにくい位置にあるコケは、ブラフか!」
「そういう事だ」
あー、考えたもんだな。引き剥がせば一発で仕留められるっていう最大の弱点を、逆手に取った作戦か。勝ったと油断した瞬間、大きな隙が出来るから、そこを狙ったものなんだね。
「リコリスは考えなしだから不用意に伝えてはいなかったんだが、ケイさんには知ってもらっておいた方がいいと思ってな?」
「誰が、考えなしだってー!?」
「実演したばかりだろう? 死ぬのが分かっているとはいえ、それとは別件で俺を死なせる意味がどこにある? まだ察知はしてないのに、無駄にする気か?」
「うぐっ!?」
うん、それはまさしくラジアータさんの言う通り。まさか俺もリコリスさんが、今みたいな動きをするとは思ってなかったし……脱線に見えつつも、指揮をする身としては知っておいた方がいい情報だったかも?
「あ、そうだ。今のって、十六夜さんは弱点になったりしないのか?」
「……俺は殻の中で、ヨモギの根を巻き付かせているからな。さっきのラジアータのように、容易に引き抜けはしないようにはしている」
「あー、なるほど」
同じ同調種のヤドカリであっても、対策の取り方は別物なんだね。この2人、何気に切り離して撃破するのは相当難しいのでは? ……俺のコケが無防備過ぎるだけな気もしてきた?
「どうやら、脱線もここまでか」
「わっ!? 節々から瘴気が溢れてきた!? え、なにこれ?」
「さっき確認しておいたが、この『侵食』とやらは時間経過で自動発動らしくてな。これ以上、余計な話をしていると死ぬか。『獲物察知』!」
「おー! 凄い勢いでHPが減ってるねー! あ、死んだ」
あっという間にラジアータさんのHPが底を尽き、ポリゴンとなって砕け散っていった。この手段でのHPの減り方、本当にとんでもないな!?
「はっ!」
「ん? ハーレさん、どした?」
「今ふと思ったんだけど、これが黒の異形種の出現手段って可能性はありませんか!?」
「これが出現手段? それってどういう……あ、自発的に移動してきてるんじゃなくて、ランダムリスポーンをしてきてるって事か!?」
「そういう事なのです! そのリスポーン先を、UFOの何かが引き寄せてる可能性はないですか!?」
「あー、なるほど……」
てっきり、黒の異形種がUFOを察知して、そこから襲いに転移をしているのかと思ってたけど……逆にUFOが引き寄せている可能性もあるのか。
「……黒の異形種が……察知するだけで……死ぬの?」
「確かに、そこは少し疑問かな?」
「あぅ!? そう言われると、確かにおかしい気もします……?」
ふむふむ、ハーレさんの疑問に一理あるとは思ったけど、風音さんの疑問にも一理あるな? うーん、黒の異形種そのものが疑問だらけの存在だし、ここで考えても結論は出ないかもなー。
「戻ったが……面白い話をしているな。その内容だと、黒の異形種が察知をした後に死亡するかどうかが争点だが……こういう仮説はどうだ? 他の敵……黒の暴走種や瘴気強化種に袋叩きにされているとかな」
「おかえり、ラジアータさん。なるほど、そういう仮説は面白いな。瘴気を思いっきり広げてるし、変に挑発してる状態の可能性はあるかも?」
そもそも、黒の暴走種だろうが、残滓だろうが、瘴気強化種だろうが、敵同士で戦うという状況は既に発生しているんだ。その中に、黒の異形種が混ざっていても何の不思議もない。
「……面白いけど、根拠はないよ? それより、ラジアータはちゃんと察知は出来てる?」
「あぁ、察知は問題ない。降りてきている反応はないが、上空に澱んだ黄色い矢印が多数あるのは確認出来た。仮説に関しては、まぁどこかで確かめる機会があればだな」
「確認しようがないもんねー! そういうのは、一旦置いておくとして! ケイさん、準備は済んだし、谷の攻略に移ろー!」
「だなー」
完全に無意味な脱線だったとも言えないくらいには興味深い仮説も出てきたけど、今はそっちを進めていこう。
こっちはこっちで、地下空間があるかもしれないっていう仮説が元になっているけど、確認自体はそう難しくもないからね。それに、どう攻めるかは一応、考えてはいる。
「ケイ、どう攻めるのかな?」
「ん? 擬態で姿が分かりにくいし、地形が地形だし、水没させてやろうかなーと?」
「水攻めかな!?」
「俺とリコリスさんの2人がかりなら、十分いけるだろ」
「ふふーん! そこは任せなさーい!」
「……本当に出来そうなのが、とんでもないかな」
「姿は見えなくても、そんなのお構いなしな手段なのさー!?」
「あはは、確かにそういう手段なら、見えるかどうかは関係ないよね」
「相変わらず、ぶっ飛んだ手段を思いつくもんだな、ケイ」
「いやー、大量の水の使い所となれば、こういう時だろうよ!」
1体ずつ着実に仕留めるのでもいいけど、意図的に配置されている様子の個体なら群れて襲ってくる可能性も否定出来ないからなー。こっちにも結構な人数がいるとはいえ、自分よりLvが高い敵を複数、同時に相手にする事になるなら、元から大規模に巻き込んだ方がやりやすいだろ。
「アル、あそこにいるのがカメなら、多分リクガメ系だよな? 陸棲だから、水中では泳げないやつ」
「おそらく、そうだろうな。というか、そうじゃなければ水攻めは失敗するだろうよ」
「ですよねー。まぁ泳いでこれないのを大前提として……ヨッシさんと彼岸花さんで、谷の下部にダイヤモンドダストの発動をよろしく。トカゲだろうが、カメだろうが、どっちも爬虫類だからそれで盛大に動きは鈍るだろ」
「あはは、水攻めの前に動きを鈍らせておくんだね? それなら、任せて!」
「……広範囲への、凍結と凍傷狙いはいいね。うん、頑張ってみる!」
さて、水攻めの下準備はこの程度で……いや、折角だし、可能な限り、盛大にやってみるか。
「風音さん、ダイヤモンドダストを使う前に、ブラックホールで敵を同じ場所に集めてもらえるか?」
「……それ自体は……出来るけど……正確な位置が……自信ない?」
「そこはサヤとハーレさんで見破ってもらいたいんだけど……2人とも、出来る?」
「見破るだけじゃなくて、ある程度の誘導までやろうかな? その方が風音さんもやりやすいでしょ?」
「ふっふっふ! サヤの竜で突っ込んで、私が攻撃して引き付けるのさー!」
「おっ、やる気だな! おし、ならそれでいこう!」
離れたところから看破だけしてもらおうかと思ったけど、確実性を狙うなら、今の手段の方がいいね。となれば……。
「アルと十六夜さんは、サヤとハーレさんの防御を受け持ってくれ!」
「おう、任せとけ!」
「……了解だ」
「ラジアータさんは、アルと十六夜さんに標的が向いた時には、それを引き付けに行ってくれると助かる! あー、空中の移動手段は?」
「普段はリコリスに任せているが、俺自身も土の昇華は持っている。移動に支障はない」
「まぁ普段から移動に使わないのは、色々と同時に考え過ぎて疲れるからだもんねー!」
「リコリス、余計な事は言わないでいい!」
ふむふむ、何気にラジアータさんも土の昇華持ちだったのか。なら、初めからアルと十六夜さんと一緒に防御役に回ってもらってもよかったんだけど……まぁ敵によって誰を優先的に狙うかは分からないし、ラジアータさんは遊撃って事で考えればいいか。
というか、普段の移動とは併用してないって事は、ラジアータさんは意外と操作しながら攻撃をするのが苦手だったりする? 操作精度が悪いとは思えないから……なるほど、同時に違う操作を並行して使うのが苦手なのかも。リコリスさんの疲れるって言い方からして、無駄に労力を割き過ぎて疲弊しちゃうのかもね。
「おし! それじゃ、谷にいる敵の撃破を始めていきますか!」
「まずは私とサヤの出番なのさー! 『魔力集中』!」
「精一杯、かき乱して集めてくるかな! 『略:大型化』『略:自己強化』『魔力集中』!」
サヤの竜が大きくなり、その背にクマが乗り、更にクマの頭にハーレさんが乗っていく。なんだか作戦の立て方の順番が逆になった気はするけど、まぁ問題ない範囲だろ。
大雑把な役割を組んでさえいれば、あとは状況に合わせて臨機応変に動くまで!
「サヤ、出発なのさー!」
「うん! 一気に行くかな! 『略:ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」
おー、風属性を自己強化に乗せて、移動速度アップですなー。あっという間に谷へ降りていってるし、サヤ達が接敵すれば本格的に作戦開始だ! 本命はこの先なんだから、その前の前哨戦はサッサと終わらせていこう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます