第1502話 次にどうするか
なんだか妙な流れで周りを巻き込んだ勝負をギンから挑まれたけど……まぁみんなも乗り気だし、やるからには全力でやるまで! 勝負は負けるつもりでやるもんじゃないしな!
「ところで、この勝負って期間は……? そもそも、絶対に演出があるとも限らないよな?」
「もし、演出を引き当てたら勝ちってだけなのさー! 他の人が引き当てる可能性もあるし、その場合はどちらも負けなのです!」
「……なるほど」
あやふやな勝利条件ではあるけども……まぁシステム的に明示されてない部分を含んでいるんだから、そういう風になるのは仕方ないか。俺とギンというよりは、どっちの協力関係の人が引き当てるかって勝負にもなるしね。
「よし! なら、そろそろ探索を再開するとして……ハーレさん、察知の効果時間は切れてるんだったよな?」
「そうなるのさー!」
「それなら、すぐに発動し直して……あ、継続してハーレさんでいいか? それとも、誰かに交代する?」
ハーレさんは『纏浄』で死亡を回避してたけど、それが出来るのは1日1回限り。だから、出来れば他の人がやってくれた方が、『侵食』での死亡後の対応は楽にはなる。まぁ俺がまたやってもいいんだけど――
「……私達がやってみてもいい? 一緒にいる間に、試しておきたい」
「あー、それもそうだな。おし、それなら今回は曼珠沙華に任せた!」
「……ありがと」
イベント期間中、ずっと一緒に行動出来るとは限らないし、ここで一度実際に使ってもらっておくのがいいよな。今なら俺らが持ってる分を渡せるし、使った分の補充に関しては問題なくなったばかりだしさ。
「はいはーい! それなら、私が使ってみたい!」
「いや、ここは俺がやろう。リコリスは下がっていろ」
「なんでさ、ラジアータ!?」
「リコリスは俺らの移動も兼ねているだろう? 周囲の観察もあるし、余計な負担を増やす訳にもいくまい」
「うぐっ!? ぐぬぬ、真面目にこっちの負担を考慮してきてる!? 彼岸花、ラジアータになんか言っちゃって!」
「……リコリス、今回は我慢しよ? 私達だけの時なら、融通は利かせられるから」
「彼岸花もそういう事を言っちゃうの!? むぅ……なんか不本意だけど、仕方ない! ラジアータ、任せるからね!」
「あぁ、任せておけ」
変な流れで喧嘩になるかと警戒したけど、全然そんな事はなかったよ。ラジアータさんは大真面目にリコリスさんの負担を考えての提案だったし……まぁ実際、妥当な判断だよな。
俺らだって、移動を担うアルは避けた方がいいって結論になってるし、リコリスさんが曼珠沙華の移動の要ならこうなるよな。
さて、それじゃ『侵食』の進化の軌跡をラジアータさんに渡しますか。アルから受け取った分と、落下物から拾った分があるから、俺から渡すのが一番いいだろ。という事で、トレード画面を開いて……。
「ラジアータさん、ほれ!」
「これが『侵食』の進化の軌跡か。助かる、ケイさん」
「どういたしまして。あ、それで進化はどういう風にやる? 死ぬか、『纏浄』で解除する事が出来るけど……」
「……そうだな。折角だから、手に入れたばかりの『転移の種』を使うか。ランダムリスポーンをして、戻ってくるのもありだろ」
「あー、そういう方法か! 確かにありだな」
『転移の種』の1日1回の使用制限があるけど、それは日付が変わればリセットされる。もう22時半を過ぎているんだから、リセット前に使っておくのもあり!
「はい! 空中では登録出来ないと思います!」
「……それはそうだね。アルマースさん、地上に降ろしてもらっていい?」
「あぁ、構わんぞ。すぐに降りるか」
という事で、ラジアータさんの『転移の種』の登録の為に、地上へと降りて……。
「……ふと思ったけど、もう『侵食』への進化を隠す必要ってないんじゃね?」
「あ、それもそうかな? もう情報が流れてるんだし、必要ないかも」
「確かにそうなのさー! ふっふっふ! それなら、樹洞から出てやるのです!」
「そっか、そうなるよね」
手段が広まってきているのに、隠し続ける意味はない! いやまぁ俺らが既に使えるっては伏せてもよさそうではあるけど、今のこの原野まで来てる人がその手の情報に疎いとは思えないしなー。
「……先に、周囲の様子を改めて確認してからでどうだ? ……気付かれても問題なくなっているといっても、わざわざ目立つように喧伝する必要もないだろう」
「俺も十六夜さんに賛成だ。ケイ、まずは一旦外に出てから、周囲の反応を探ってからでもいいだろ?」
「あー、それもそうだな。そうするか」
隠す必要がなくなるのと、目立つように見せつけてしまうのとでは意味が違うか。『侵食』の進化の軌跡の所持をしているかどうかで、そもそも使えるかどうかが分かれてくるんだし……最低限、周囲の確認は必須かも。
もし近くに人がいるようなら、下手に見える位置での『侵食』への進化は避けた方がいいよな。
さて、そうと決まれば、アルの樹洞から出ていこう! この辺はUFOが黒の異形種に攻撃を仕掛けられて、瘴気が薄くなってた部分で、谷の上空だったけど……他のプレイヤーや敵がどういう動きをしてるかを確認だな!
「ケイ、これは谷の中まで降りるのと、谷の上にしておくの、どっちにするんだ?」
「あー、ちょい待って。それも含めて確認するから!」
「おうよ」
ラジアータさんの『転移の種』の登録の為に地面に降りる必要はあるけど、地形的に微妙に悩むとこだよな。谷はそこまで深くはなさそうだし、人目を避けるにはよさそうな場所だけど……。
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 118/123(上限値使用:6)
<熟練度が規定値に到達したため、スキル『獲物察知Lv5』が『獲物察知Lv6』になりました>
おっと、ここでスキルLvが上がったか。別に新しいスキルが手に入ったりするパターンではないっぽいけど……獲物察知はスキルLvが上がれば、効果自体が上がったりしてるからね。今回も何か変化があるかもしれないし、これは発動し直しておこう。
<行動値を6消費して『獲物察知Lv6』を発動します> 行動値 112/123(上限値使用:6)
えーと、さっきまでの反応との違いは……おっ、効果範囲が更に広がったか! Lv5の時点で結構な広さになってたけど……視界が届く範囲は既に超えてたし、ここまでいくとちょっと過剰かも?
いや、待てよ? これ、何気に雑魚敵よりも、他のプレイヤーの方が遠くまで察知出来てるっぽいな。範囲が広がった事で黒い矢印とそれ以外の矢印が出る範囲が結構変わった気がする。
他には……ん? なんか薄っすらとしか見えない、モヤで出来たような変な矢印がある? 指し示してるのは……すごく分かりにくいけど、谷の岩壁部分か? うーん、ただの岩壁にしか見えん!
「サヤ、谷の岩壁に何かいるか?」
「え? 谷の岩壁かな? えっと……あ、何か擬態してるかな!? ハーレ、あそこ!」
「わっ? 本当なのさー! 大きな岩じゃなかったの!?」
「え、擬態してる個体がいるの?」
「うん! かなり分かりにくいかな!」
「というか、大き過ぎて、疑った状態で見ないと気付けなさそうなのさー!」
おー、マジか。これ、凄く分かりにくいけど、擬態してるのまで察知出来るようになってるのかよ! 大きいとか言ってるけど、どの程度のサイズ? ……位置が分かってても、さっぱり分からんのだけど!?
「ケイ、もしかして獲物察知のLvが上がったのか?」
「そうなるんだけど……位置が分かっても、実際にどこにいるのかが分からん! 矢印自体、もの凄く見辛いし!」
「……それでもサヤとハーレさんが見落とすのを見つけるのは、地味にすげぇな」
「まぁそりゃそうなんだけどさ。というか、よく見たら、この谷に同じような反応がいくつもある……」
「わっ!? 本当なのさー!? 5体くらいいるのです!」
「……確かにあちこちにいるかな。どれも大きいし……多分、トカゲかな?」
「カメもいそうな気がするのさー! 岩壁がトカゲで、谷底にカメ!」
「あ、確かにそんな感じかな!」
岩に擬態したカメやトカゲか。えーと、反応は……あー、5本はあるな。うん、これは分かりにくい! 一目瞭然ってほど、分かりやすい反応になってないわ!
「岩に擬態した個体だらけの谷なら、下手に降りない方が安全そうか」
「だろうなー。谷の上なら……普通に見える敵だけだよな? ちょっと時間をくれ。これ、範囲が広がって対象自体も増えまくってるから、慣れないと反応が拾い切れない……」
「使い勝手がよくなったのか、何とも言い難いな?」
「そうなんだよなー」
くっ! 今まで通り、擬態した個体は見つけられないものとして扱えばいいのかもしれないけど、実際に見え辛くても反応が出てたら無視もし辛いわ! 慣れれば、使い勝手は上がりそうではあるけど……。
「ケイ、そこのバオバブの木の幹にいるのは分かるかな?」
「へ? あ、本当に反応があるな!? ……これ、サヤやハーレさんの観察力の方が上じゃね?」
「えっへん! スキルに勝ったのです!」
「……あはは、まぁあそこまで大きなのは予想外だったからかな? 最初は谷に風が吹いてるのかと思ってたし……」
「今まで見た中で、最大級の大きさなのです!」
「それって、ちなみにどのくらいのサイズなの?」
「風音さんの龍くらいなのさー!」
「……思った以上に大きいね」
「だから、見落としてたかな?」
うっわ、風音さんの龍サイズのカメやトカゲって……デカいな!? 3メートルとか、そのくらいありません? いや、もうちょいデカい?
「……Lv帯が上がってきたし、厄介な敵も増えてきたのかも?」
「んー、サイズ的には今までも出てくる事はあったけど、そのサイズ感で擬態は初めて見たねー」
「リコリス、どれがそうかは分かるか? 俺には分からんのだが……」
「ふふーん、ラジアータはこの辺はまだまだだね! まぁ、いるって言われたら分かる範囲! でも、そうと気付かずに下手に近付いてたら、やられちゃってたかも?」
「……危険な場所だね。今は避けるべきかも?」
曼珠沙華の3人でも危険視する谷なら、本当に避けた方が良さそう――
「……いや、待て。こういう敵の配置は、逆に怪しいだろう」
「へ? え、十六夜さん、それってどういう……?」
「……ケイ、ここは新エリアだが……新エリアだからといって、地下のエリアがないとは限らん」
「あー、別エリアへの入り口か! 言われてみればその可能性はあるかも!」
新エリアだからって無意識で除外してたけど、『黎明の地』にもいくつも地下エリアは存在してるしね。各初期エリアから入れる『常闇の洞窟』、『封熱の霊峰』にある『グラナータ灼熱洞』、『ニーヴェア雪山』にある『氷結洞』、『望海砂漠』にある『砂時計の洞』、『ネス湖』にある『湖底森』……パッと思いつくだけでこれくらいはあるし、多分知らないだけで他にもありそうなんだよな。
この原野に、そういう場所がないというのは完全な思い込みだった。もしここに地下空間があるのだとすれば……この擬態の個体達は、そこを守る門番だよなー!
「みんな、どうする? 地下空間にUFOが出てくる可能性は示唆されてるし、十六夜さんの読み通りに地下空間があるなら、行ってみる価値はあるぞ」
「ケイ、十六夜さん、少し待て。その可能性自体は否定しないが……Lv帯は大丈夫か? 格上過ぎると、流石に厳しいぞ」
「……そこらにいるのでも……Lv20付近……それより高い……かも?」
うーん、まぁLv差があり過ぎると厳しいってアルの意見も確かなんだよなー。でも、気になる場所なのは確かだし……判断が難しいとこだな!?
「……あぁ、そうか。PTで動いているから、気楽に死ぬという訳にもいかないのか」
「十六夜さんは、普段から死に慣れてるのかな?」
「……戦闘スタイル的に、死とは隣り合わせだからな」
「あ、やっぱりそうなのかな!」
一緒に動いている今は自重してくれてるけど、十六夜さんの本来の戦闘スタイルって、暴発を常用して行動値を確保してるって無茶なもんだしな。どうやっても不安定にはなるんだから、それだけ死にやすくもなりますよねー!
「……Lv帯が気になるなら、俺だけで偵察してきても構わんが……どうする?」
「はいはーい! 偵察に行くなら、私も行きたい!」
「Lv帯の確認をする意味でも、偵察するのは賛成だ。後々、育成に影響してくるかもしれないしな」
「……それはそうだね。……地下空間が存在するかどうか、確認だけはしておきたいかも」
ふむふむ、曼珠沙華の3人は偵察に行くまでの部分は賛成か。そもそもまだ存在すると確定した訳じゃないし、その確認くらいはしてもいい気はするけど……アルがどう言うかだな。
「アル、どうするのかな? 私としては、見に行くまではありだと思うけど……」
「同じくなのさー!」
「あはは、みんな行く気だね。それじゃ私も!」
「……もう完全に多数決で、俺は負けてるじゃねぇか。あー、行く気満々なら止める気はないが……全員、ここで合流出来るようにしておくのでどうだ? 『転移の種』か『転移の実』の登録をしておけば、万が一にでも全滅してもどうにかなるだろ。もしくはリスポーン位置の設定だな」
「よし! なら、それでいこう!」
アルが懸念しているのは、全滅して立て直しが不可になる事だろうけど、合流手段を予め用意しておけば回避は出来る部分だしな。みんな、行く意思自体はあるんだから、これで問題はない!
「みんな、それでいいか?」
「……あぁ、問題ない」
「……うん! ……上書きしても……大丈夫……!」
「偵察、決定! さーて、暴れるぞー!」
「……リコリス、まだ地下エリアがあるとは決まってないよ?」
「まずは、その確定からだな。その為にも、邪魔な擬態連中の排除……いや、俺は先に『侵食』からか。そうなると予定が少し狂うが……まぁいい。1つ『転移の実』を消費すればいいだけか」
「ふっふっふ! この原野に来てから、本格的な戦闘なのです!」
「大技で一掃するか、それとも1体ずつ確実に倒すか……悩むところかな?」
「それは悩ましいとこだよね……」
「作戦は頼むぞ、ケイ」
「ほいよっと。さて、どう攻めたもんだろ?」
最終の意思確認のつもりだったけど、どう戦うかって話に切り替わっているのは……まぁいいや。意思確認そのものは問題ないし、どう戦うかは重要な話だしなー。
とりあえずラジアータさんの進化を待って、万が一の時の合流準備を済ませてから、倒す手段を考えていきますか!
――――
電子書籍版の第17巻が完成! 予約開始になっていますので、そちらもよろしくお願いします。
詳細は近況ノートにて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます