第1501話 新たな動き


 さて、イベントの演出があったけど……何か変化が起こると思っていたところで、灰のサファリ同盟のラックさんからのフレンドコールがハーレさんにあるとはね? 今、会話中だけど……一体どういう用件なのやら?


「うん、うん、うん! えっと、ちょっと待ってねー! ケイさん、これってどこまで言っていいのー?」

「灰のサファリ同盟の状況次第だけど……そもそも、どういう風に聞いてきてる?」

「私達が既に『侵食』での察知手段を持ってるかどうかの確認だってー! あと、『飛翔連隊』と協力してるかの確認!」

「……なるほど」


 その2つを確認しようとするのなら、交渉の大前提の条件はそこか。大々的にヒントが出た今、知らないと惚けたり、『飛翔連隊』と協力してないと言うのは……あんまりメリットはなさそうだな。

 ハーレさんに真っ先にフレンドコールをしてきたって事は、ほぼ確信があってだろうしね。というか、もうハーレさんが俺にそれを聞いてる時点で認めているようなもんだけど……。


「それなら、俺らは言ってくれていいぜ! なぁ、いいよな? おし、頷いてるから問題なしだ!」


 あっさりと紅焔さんから許可も出たし、そこは問題なしか。ここからも秘匿を貫くなら隠す必要もあるけど、もうその重要性は薄れてきたか。

 でも、まだすんなりと全部伝える訳にもいかないんだよなー。現時点で伝えていい情報としては、あくまで察知方法まで。


「『飛翔連隊』との協力関係は伝えていいけど、このクオーツの部品についてはまだ伏せといてくれ。あー、十六夜さん、共同体『縁の下の力持ち』との協力関係は伏せといた方がいい?」

「……大々的に吹聴されるのは困るが、灰のサファリ同盟のトップ層までで情報を止めてもらえるなら、言ってくれても構わん」

「ほいよっと。桜花さんと風音さんと曼珠沙華は、言ってもいいか?」

「……問題……ないよ?」

「ま、俺らの協力関係は、ほぼ気付かれてるだろうしな」

「……私達も大丈夫」

「下手に利用される気はないけどね!」

「その判断はケイさんに委ねよう」

「了解っと。ハーレさん、こっちの協力メンバーと察知手段を持っている事までは言っていいぞ。ただし、他所に広めるのだけは禁止で!」

「はーい! ラック、お待たせ! その2つはどっちもイエスなのさー! それと――」


 さて、ハーレさんがラックさんへ説明し終わるのを少し待つとして……どうしたもんかな? 灰のサファリ同盟は、今の俺らが知らない何かの情報を持ってたりする? 頭数はどう考えても俺らよりも多いだろうけど、今回は割と他に人手が出ているって話もあったし……なんとも言い難いかも?


「ケイさん、『侵食』の進化の軌跡が余ってきてるそうだから、桜花さんへ持ち込んでもいいかって提案だそうです!」

「ほほう? もう既に余ってきてるのか」


 余り始めるのはまだ少し先の事だと思ってたけど、意外とそうでもなかった? ……思っているよりも、灰のサファリ同盟は落下物を確保してるのか。


「それ、条件として何を言ってきてる?」

「何か特殊な物を見つけたら、その情報が欲しいってー! あと、UFOをどこかで確実に墜落させてほしいそうです!」

「あー、なるほど」


 本命は、UFOを墜落させた後に得られる情報か! それが可能そうな集団に声をかけてそうだな? うーん、既に俺がクオーツの部品を持っているかどうかは、伝えるべきか? あ、待てよ?


「アル、ちょっと実験をいい?」

「ん? 何をする気だ、ケイ?」

「これがトレード可能かどうかの実験。あ、いけそうだな」

「あぁ、クオーツの部品か。……これ、トレード可能だったのか」

「どうもそうっぽいなー。となると……ハーレさん、ラックさんに確認をしてくれ。『さっきのイベント演出、開始のキッカケを作ったのは灰のサファリ同盟か?』ってなー」

「っ!? もしかして、それと同じのを灰のサファリ同盟が持ってるのかな!?」

「もしかしたら……って程度の可能性だけどな」


 でも、今の時点でUFOを墜落させる事を優先しているのなら……その後の事を既に考えている可能性は、十分ある。既にその為の物を持っていて、それ自体がトレード可能なら……探すべきはそれを使う対象の方だもんな。


「ちょっと聞いてみるねー! ケイさんから伝言なのさー! えっと、さっきのイベントって――」


 さて、またハーレさんの説明待ちだけど……面と向かって話してる訳じゃないから仕方ないとはいえ、このやり方は面倒だな!? かといって、今から戻って直接交渉もややこしいし……いっそ、桜花さんに委任してしまうのが楽か?


「……ケイさん、灰のサファリ同盟と協力して動くの?」

「いや、規模が違い過ぎるから、全面的な協力は難しいと思うぞ。提供する情報量に差があり過ぎるしな」

「……質は十分あると思うよ?」

「さっきのイベント演出の前までだったらなー。でも、もう既に灰のサファリ同盟が『これ』を持ってるなら、情報の質は大差ない」

「……クオーツの部品で、何か情報が得られる?」

「それ、要は墜としたUFOへのアクセスが、クオーツを介して可能になるんだよね? でも、それって全体に情報が広がらない?」

「いや、そうとは限らんぞ、リコリス。そういう全体に影響を与える情報もあるかもしれんが……例えば、他のUFOの位置情報なんかがあるかもしれん。既に墜落済みのUFOの位置や、落下物の位置や、これからの降下予定なんかもあるかもな」

「なんですと!? それ、重要過ぎる情報じゃん!」

「ま、あくまで考えられるだけであって、実際にあるかは分からんがな」

「……でも、複数の『鍵』と『鍵穴』があるなら、可能性は高いよ」

「そうそう、そうなんだよなー」


 彼岸花さんが『鍵』と『鍵穴』で例えてくれたけど、今回のイベントはやっぱり本質的には宝探しなのは変わらないっぽいんだよなー。クリア条件は設定されてないけども、最終的に見つけ出すべき情報がどこかにあるのかも?

 まだ攻撃性能を持っている『採集機Ⅱ型』は姿すら確認してないし、その情報自体もクオーツが持っている古いものだ。……UFOから情報を拾っていく中で、イベント自体は更新されていく可能性も――


「っ!? それ、本当!?」


 ん? なんだかハーレさんの驚く声が聞こえてきたけど……何か驚くような情報が出してきたのか? まぁ人数が多いんだから、その分だけ情報を持っていてもおかしくないけど……。


「ケイさん、ケイさん! 灰のサファリ同盟には『採集機Ⅱ型』との交戦情報があるんだって! ステルス機能も無いそうなのです!」

「はい!? え、マジか!?」


 ちょ!? まだ出てきてないだけだと思ってたんだけど、既に交戦済み!? あー、もしかしてそれを墜とす為の戦力が――


「でも、過剰な攻撃だと木っ端微塵に爆発して、跡形も残らないそうなのさー! 落下物も無いそうです!」

「……ん? なんか予想とは違う方向性に行ったけど、どういう事?」

「墜ちるというよりは、自爆するんだってー! 成熟体の人が攻撃すると、ほぼアウト判定らしいです!」

「あー、未成体以下の人でも戦えるようにしてる相手って事か」


 となると、そもそも出現は『黎明の地』に限られているって可能性もありそうだな? 成熟体の人が倒せば報酬が無くなるなら墜とす旨みは皆無だし、未成体以下の人には戦うチャンスも出てくるのか。

 もし、それで落下物の内容が変わらずなら……なるほど、灰のサファリ同盟で『侵食』の進化の軌跡が余ってる理由ってそういうか。ふむふむ、成熟体でなければイベントを楽しめないなんて調整にはしてない……。


「……ちょっと待った。その情報、なんで俺らに伝えてきてる?」

「自爆して、その中に残った残骸の中にクオーツの部品があったんだってー! それをギンさんが使用したら、演出が始まったそうです!」

「そういう経緯か!? てか、拾ったのはギンなのかよ!」


 ギンは初心者講座で関わってそうだとは思ってたけど、こういう形で名前が出てくるとは思わなかったわ! いやいや、経緯は分かったし、それにギンが関わってるのはいいとしよう。


「ともかく、灰のサファリ同盟はクオーツの部品を持ってるんだな? それなら、なんで俺らに話を持ってくる? 墜とせる進化階位に違いがあるのまで分かってるなら、自分達だけで成立するよな?」

「ふっふっふ! 所有権がギンさんにあるからなのさー!」

「へ? あー、そうか! ギンは、灰のサファリ同盟のメンバーじゃないからか!」


 なるほど、なるほど。ギンめ、灰のサファリ同盟相手に何か条件を突き付けた……いや、違うな。そういう迷惑をかけるようなやり方を好む奴じゃないし……。


「……なるほど、これはギンから俺への挑戦状か」

「え、そうなのかな!?」

「多分だけどなー。ここまでの情報開示は、対戦条件を対等にする為か。ハーレさん、それで合ってる?」

「その通りなのさー! ……ラックが、少し困ってました!」

「だろうなー」


 まったく、初心者講座を受けてる真っ最中の新規プレイヤーがやる事じゃねぇだろ! でもまぁ、俺と戦いたがってた部分は間違いなくあるだろうし、eスポーツ絡みで立ち上げる共同体の件もあるし、単なる初心者よりは影響力はあるもんな。

 状況的に同じ灰の群集でさえ敵となる今回のイベントのルールになってたら、ギンならそういう事をやってきますよねー!? 俺と敵対する方向も考えてた訳だしさ。


「勝利条件は……どっちが早く、UFOから全体に影響する情報を引き出せるかってとこか?」

「うん! 『キッカケが分かるなら、ケイも持っているんだろう?』って伝言もあるのです!」

「俺がもう持ってる事まで、読まれてるんかい!」


 本当に油断ならないな、ギンめ! でも、俺だけならその勝負を受けてもいいけど、他のみんなを巻き込んでやるのは……。


「……『ギン』って、誰?」

「んー? 確か、赤の群集の騒動の時にBANされた人の中に『ギン』ってプレイヤーはいたはずだけど……流石に別人だよね?」

「聞いている限り、別人のようだな。ケイさんの知り合いではあるようだが……アルマースさん、何か知ってるか?」

「あぁ、それならケイのリアルの友人で、『ギンノケン』が正式なプレイヤー名だな。例のeスポーツ絡みで、問題解決の一助としてモンエボを始めた人だが……今回は、どうやら個人的にケイとやり合う気らしい」

「……そういう事なんだ?」

「分かる! 機会さえあれば、挑んでみたい気持ちは分かるよ! いいじゃん! 向こうが灰のサファリ同盟を巻き込んでるなら、こっちも今のメンバーで受けて立つ!」

「なるほどな。灰のサファリ同盟を相手取るのも、面白いかもしれん。こんな機会、早々なさそうだ」


 ちょ!? リコリスさんもラジアータさんも、完全に乗り気になってるんですけど!?


「俺らは勝敗がどっちになっても悪影響はなさそうだし、巻き込んでくれて構わんぜ!」

「だな。条件を揃える為に『侵食』の進化の軌跡を回してくれるなら、ありがたい話だ」

「それはそうだね。直接の戦闘じゃないのなら、僕としても拒む理由はないよ」

「ラジアータさんも言ってたけど、灰のサファリ同盟相手に動くまたとないチャンスだよね!」

「損はしないようですし、異論はありませんよ」

「……同じく……異論はないよ?」

「俺もだな。やる事自体が変わる訳じゃないし、構わないぞ」


 飛翔連隊も風音さんも桜花さんも、普通に受け入れちゃってるんですけど!? ……うん、まぁ勝負だとしても、周囲を巻き込んで悪影響が出る状況ではなさそうだよね。


「……俺ら、『縁の下の力持ち』も協力しよう。利があるなら、拒む理由もないからな」


 わー、こうして話している間に十六夜さんはちゃっかり共同体のチャットとかで許可を取ってきてるー! もうここまで言われたら、突っぱねる理由もないか。


「おし! ハーレさん、『その勝負、受けて立つ!』って言っといてくれ」

「はーい! ラック、ケイさんがギンさんからの勝負を受けるって! うん! 私も負けないよー! 思いっきり勝負なのです! それじゃ、勝負開始なのさー!」


 そこまで言って、フレンドコールは終わりになったようである。なるほど、俺だけの勝負でもないんだな?


「あ、そっか。これ、ハーレとラックさんの勝負にもなるんだね」

「私とヨッシも、その中に含まれてそうかな?」

「ふっふっふ、これは私達、みんなの勝負なのです! ちなみに、レナさんとアイルさんも相手側にいるのさー! 新しく設立する共同体の懇親会も含めてるんだってー!」

「レナさんも敵かよ!? しかも、アイルさんまでいるのか……」

「この勝負、負けられないかな!」


 なんかサヤが妙にやる気になってるけど……何気に強敵過ぎません? こっちもそれなりの人数で協力関係を結んではいるけど……灰のサファリ同盟とレナさん……そういやオオカミ組と一緒に探索部隊を組んでるとも言ってたよなー!?


「ケイ、人数差があったとしても、運の要素は強いからな。それに人数が多い事が、そのまま有利になる訳じゃねぇぞ」

「それは分かってるって。相手の方にはまだ色々と慣れてない初心者が混ざってるってのは、俺らにとっては有利な点だしさ」


 どうしても不慣れな人の面倒を見ながら動く必要があるし、灰のサファリ同盟のメンバーが全員動員されているはずもない。圧倒的に不釣り合いな状態なら、そもそもギンは勝負を仕掛けてこないだろうから……多少の人数的な差があっても許容範囲と判断したんだろうな。


「おし! それじゃ、そろそろ探索を再開……の前に、これは確認! eスポーツ絡みのあのサイト、作成状況は?」

「今は赤の群集と青の群集からの、自己紹介の内容の提供待ちだってー! それ以外は大体出来たそうです!」

「……もうそこまで出来たって、早いな!? まぁだからこそ、レナさんもラックさんも動き出してるんだろうけど……」

「ま、気楽にやろうぜ、ケイ。別に何か危険な内容を賭けてる訳でもないしな」

「だなー」


 とはいえ、勝負というからには負けたくはないし、全力でやっていきますか! さーて、それじゃ探索の中断はここまでにして、次のUFOを見つけていくぞ! 落下物の捜索も大事だけど、それ以上にどうやってUFOを墜落させるかが問題だな?


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