第1497話 落下物の確保


 ガストさん……というよりは、下に残っていた水月さん達が誰かの生成した大きな岩の上に乗り、上空までやってきている最中だ。俺らは俺らで高度を下げつつ、岩山の反対側がそろそろ見え……あ、黒いオオカミが一瞬で消えた。名前は見そびれたけど――


「あー! やっぱりベスタさんだったのさー!」


 ハーレさんはしっかりと名前まで見ていたようである。うーん、見事なほどにあっという間の立ち去りっぷりだね。コケ渡りで移動した後の反応は拾えているけど、どんどんここから離れていってるよ。


「あっという間に、立ち去っていったかな!?」

「私達に気付いたからって感じだったね?」

「そうみたいだな。今回、ベスタさんは誰かと協力する気はなしか?」

「そうなるのかもなー」


 ベスタのリーダーという立場上、誰かと一緒に動いている方が面倒な事になるのかも? あー、もしくはガストさんがすぐ側にいるのに気付いたからって可能性もあるのか。うん、まぁ今回のイベントに限っては避けられても仕方ないかも?


「でもまぁ、索敵手段を見つけているのがベスタで、ある意味ホッとしたかも? 今みたいな感じなら、大々的に広めるつもりはなさそうだしさ」

「……ベスタに、そのメリットはないからな。完全にソロで動く気なら、その方が楽だろう」

「ですよねー!」


 十六夜さんの言う通り、普段から並行して色んな事をしまくってるベスタだけど……それらの労力を全て落下物の探索のみに注ぎ込めば、とんでもない状況になりそう。

 どのタイミングで『侵食』での察知手段に気付いたのかは分からないけど、そこさえ手に入れれば、ベスタの場合はソロの方が格段と効率は良さそうだもんね。


「まぁベスタさんの事はいいとして……ケイさん、ここは順番に行かねぇか? まだ少し距離があるが、どうもわざと迂回してここに向かっている青の群集の一団がいるみたいだし、万が一に備えてどっちかが足止めをするってのはどうだ? 確保した後は、ここでの共闘は完了でいい」

「あー、まぁ下手に一緒に動くと、戦闘になったら流れ弾の心配も出てくるもんな。その案自体はいいけど、どっちが先に確保に行く?」


 青の群集の一団がいるのは、俺も把握済みだけど……迂回して近付いてきてる状態か。その一団、察知手段を持ってると考えた方がよさそうかも。そう考えると、ここで変な言い争いをしている時間はないな。

 揃える必要のない足並みを、無理に揃えるとデメリットは間違いなくあるしね。この後もそのまま共闘を続ける訳でもないんだから、この内容でも異論はないね。みんなに聞いてる時間は惜しいから、ここは俺の独断で決めるけど!


「言い出したのは俺の方だし、俺らは後で構わん。どう考えても、アルマースさんの移動の方が速いしな」

「あー、まぁそうなるか。おし、それじゃ先に行かせてもらうわ! 回収した後は、そのまま離れるのでいいんだよな?」

「おう、それで問題ねぇぜ! あくまで、今回は限定的な共闘だしよ!」

「ほいよっと!」


 そういう事なら、手早く回収して、手早く離れるのみ! プレイヤー以外の敵の反応もあるんだから、変に長居しても――


「アル、リコリスさん、一気に高度を下げろ!」

「おうよ!」

「はいはーい!」

「ふっふっふ! 落下物、3ヶ所目の回収なのさー!」

「次は何が出るかな?」

「良いものが出ればいいんだけどね?」

「……それは……拾っての……お楽しみ?」


 風音さんの言う通り、何が出るかは拾ってからのお楽しみ! ともかく、今は落下物の元は目指して進むのみ!



 ◇ ◇ ◇



 ガストさんと別れ、先ほどベスタがいた落下物の元へと到着! あー、落ちた場所が悪いみたいで、岩山の斜面から転がり落ちるようにあちこちに散らばってるな。


「……散乱……してるね?」

「……そのようだな。固まっている部分もあるにはあるが……これだと総数が分からんな」

「ケイ、どう拾っていく?」

「目に付いた分を、各自で拾っていく感じで! 赤のサファリ同盟分には数は足りそうだから、個数に関しては気にする必要なし!」

「ふっふっふ! 各自で回収して、ここを離れてから内容の確認なのさー!」

「「おー!」」

「……それが無難だね」

「そだねー! ササっと拾ってきましょうか! 彼岸花、ラジアータ、あそこの3つを拾いにいくよ!」

「いいだろう」

「移動は任せるね、リコリス」

「任せなさーい!」


 曼珠沙華の3人は、下の方に3個並んでいるのを取りに行く様子。サヤ達もハーレさんを筆頭にして、岩山へ降りていってますなー。

 まぁ傾斜は緩やかだから、平坦でこそないけどバランスを崩すような状態でもないか。……落下物が落ちる場所次第では、もっと取りにくい場所もあるのかも?


「俺は近場の取りにくいヤツにするか。『根の操作』!」

「アルは移動せずに、根を伸ばして確保か。岩の間に入り込んでるのを取るとは……流石は根だな」

「俺の事はいいから、ケイもさっさと取りに行ってこい!」

「ほいよー」


 風音さんも十六夜さんもサッと取りに動いたし、俺も動かないとなー。普通に飛び降りてもいいけど……戻ってくる時の事を考えれば、この方がいいね。


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 129/129 → 123/123(上限値使用:6)


 よし、飛行鎧の展開完了! あ、獲物察知の効果が切れたし、再発動しとこ。効果が切れる直前の様子では青の群集の一団との距離はまだあるし、赤のサファリ同盟が戦闘になる可能性は低そうだけど、念の為!


<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します>  行動値 118/123(上限値使用:6)


 うん、特にこれといって異変はなし。ちょっと近めの場所に敵の反応はあるけど、近いとは言っても、崖になってる部分の下側だな。

 位置的にその下まで落下物が落ちてる可能性もあるけど、まぁ他にもあるんだから、そんな無茶をしに行く必要もないだろ。


「さて、どれにするか……」


 選ぶ余地があるから悩むけど……本当にどれにしよう? あー、考えるだけ無駄だな! サッと近くにあるのを拾って……ん? なんか少し違和感のある落下物があるな? 

 何がどう違うのかがよく分からないんだけど……容器の形状は同じだけど、色合いがほんの少し違う? うーん、まぁとりあえずこれにしてみるか。


<『???』を1個獲得しました>


 ちょ!? え、なにこれ!? 待て、待て、待て!? アイテム名が『???』って何!? なんか虫眼鏡のレンズっぽいものが手に入ったけど、どういうアイテム!?


「……ケイ? それ、持ってるのは何かな?」

「分からん! アイテム名が『???』ってなってる!」

「え、アイテム名が不明なのかな!?」

「ケイ、静かにして、それはインベントリの中にしまっとけ。すぐにガストさん達が来るぞ」

「……ほいよっと」


 これはどう考えても秘匿すべき内容だもんな! アルの小声での注意はもっともだし、詳しく確認するのはここを離れてからで!

 何か違和感があったけど、他とは別のアイテムだったりしない? あ、他の落下物に触れても入手不可って出るから、カウント自体は同じものなのか。


「あ、やった! 『スキル強化の種』をゲット!」

「……リコリス、それはいいね」

「ちっ、そっちが当たりだったか」

「ふふーん! 運も実力の内って言うしねー!」


 おー、リコリスさんは大当たりを引いたっぽい! 俺が手に入れたアイテムは謎過ぎるし、素直に『スキル強化の種』は羨まし過ぎる!


「……後からくる奴らの為に、少し隠しておくか」

「……そういう方法……やっていい……の?」

「……禁止された覚えもないからな。まぁ先に誰かに見つけられる可能性もありそうだが、協力して動くなら、こういう手段もありだろうよ」

「……そっか」


 十六夜さんはどうやら『縁の下の力持ち』のメンバーが確保出来るように、岩の隙間に不自然にならない程度の個数を隠している様子。まぁ赤のサファリ同盟がちゃんと確保出来るだけの数さえ残しておけば、こういう手段もありだよね!

 てか、そういう風に隠してあるパターンも想定して探していくのもありか。この辺の情報は、後で紅焔さん達にも伝えとこ。



 ◇ ◇ ◇



 それぞれに回収を終えて、アルのクジラの上へとみんなが戻ってきた。曼珠沙華……というか、リコリスさんがアルのクジラの背の表面に岩を敷いたから、少し乗れる場所も広がりましたなー。


「さて、早速成果の確認といきたいが……その前に離れるか。ケイ、どっちに向かう?」

「あー、そうだな……。ハーレさん、UFOが転移した場所は分かるか? 多分、そっちならプレイヤーは来ないだろ。少なくとも、察知手段を持ってる人は……」

「確かに向かうメリットがないもんね! えっと、それなら瘴気の渦が消えてる方向……あ、あった! あっちなのさー! 東にある谷の上空!」

「あそこの上空か。アル、そっちに向かってくれ!」

「おうよ!」


 ここから谷があるのは見える程度ではあるけど、そこまで遠い場所ではない。UFOが黒の異形種から攻撃を受けて、あの谷からこの岩山に向けて墜落しつつ、その途中で転移した感じなんだろうね。

 谷の上空にはこれといって反応はないし、向かっても問題なし! 青の群集の一団や、それ以外の反応も別方向だしなー。


「……ケイが拾った謎のものについては後にして、それ以外の報告をしていくか」

「十六夜さんの案に賛成! 私は『スキル強化の種』を手に入れたよ!」

「……リコリス、それはおそらく全員聞いているぞ?」

「ふふーん! 自慢なんだから、何度でも問題なし! 何を強化しよっかなー? ケイさんと差別化はしたいし、ここは土の操作のLv10を目指すのもありだよねー? でも、まだ数が足りないし――」

「……浮かれているリコリスは放置で進めるね。私は『牛乳』を10個――」

「「『牛乳』!?」」

「ハーレ、ヨッシ、落ち着いてかな?」


 すごい食いつき方をしたな、ヨッシさんもハーレさんも!? ハーレさんはある意味、いつもの事だけど……ヨッシさんが今みたいな反応を示すのは珍しいもんだね?


「……『牛乳』って、そんなに珍しいの?」

「探してる食材の1つで……つい過剰反応しちゃった。コインさんが入手ルートを聞いてくれてるって話だったけど、まだ続報はないし……」

「あると分かったから、気になってた部分なのさー!」


 そういや、夕方に入手元に確認してくれるって話になってからそのままだっけ。うーん、今のイベントの真っ最中だと、普段通りの連絡が取れてない可能性はあるから、続報なしでも仕方ない気もするけど……。


「コインって……あぁ、コイ集団の1人……ん? もしかして、あのフレンドコールはその件か?」

「……今日は忙しいから、後にしてって断った件?」

「あー、そういえばそんなのもあったねー! え、あれ、ケイさん達が絡んでたの?」

「ちょい待った! この流れ的に、曼珠沙華が『牛乳』の入手方法を知っている?」

「……知ってるも何も、あそこに渡してたのは私達だよ? 生産は別の人だけど……」

「取引先の張本人かよ!」


 うっわ、誰から調達してるかもろくに把握してなかったみたいな事を言ってたけど、まさかの状態だったわ! 凄い偶然だな、おい!?

 いや、でもコイコクさん達と曼珠沙華は知り合いだって事は分かってたんだし、こういう事もある?


「はい! どうやれば『牛乳』は入手出来ますか!?」

「……『牛乳』なら、種族はウシで、統率『群れ』の効果で一般生物の牛を従えるといいよ。スキルとしてはLv6以上になった『群れ形成』が必須だけど……それでアイテムとして入手出来る」

「同じような手法で、ニワトリに特性『群れ』を持たせて『鶏卵』とかも手に入るんだよねー! あれをやってるのって、無所属の人達の牧場だっけ? 確か、群集を嫌がってた覚えがあるんだけど……」

「いや、嫌がってはいるが、機能自体は欲してたからな。形式的には、コイコク達と同じで全群集の混合の集団だ。確か、青の群集の共同体が元になっていて……名前は『無色牧場』だったか?」


 そんな集団、いたのかよ! 名前からして群集は嫌ってそうなのは、よく分かるってのもなー。

 うーん、色々な事に特化した集団がチラホラいるみたいだし、その中の1つなのかも? 牧場とか言ってるし、動物系の種族かつ一般生物を従えているのがメインの集団? 随分と特殊なプレイスタイルだな!?


「……あぁ、あの連中か。時々、一般生物の群れを引き連れているのを見かける事はあるが……あれはアイテムの調達の為か?」

「……あそこは加工用の肉も用意してるから、十六夜さんはその現場を見たんだと思うよ。ただ、『牛乳』や『鶏卵』の安定入手が可能になったのは、割と最近の話」

「……なるほどな」


 ふむふむ、専門でやってる人達で最近辿り着いた部分なのか。流石に大量の一般生物を引き連れるってのは、一般的ではない戦い方になってくるから……群集で把握が出来てなくても仕方なかったのかもなー。


「はい! そこと『牛乳』や『鶏卵』のトレードは可能ですか!?」

「……直接、群集とは取り引きはしてくれないかも?」

「群集を露骨に嫌がってたもんねー。あと、コイコクさん達と同じで人見知りも多い!」

「だから、間に俺らが入っていたというのもあるな」

「がーん!?」


 どうやらコイコクさん達みたいに、群集に所属するのに忌避感を持ってる人達っぽい? でも、いざ入ってみれば、コイコクさん達は馴染んでいたし……その辺はどうなんだろね?


「……今すぐとはいかないけど、後で私達から連絡してみようか?」

「彼岸花さん、お願いします!」

「……上手くいく保証は出来ないけどね」

「それでも伝手があるだけいいのです!」


 まぁ駄目なら駄目でも、コイコクさん達や彼岸花さん達なら入手出来そうではあるよな。生産方法も何気に分かったし、再現自体は可能なのかも?


 それにしても……まさか食材系のアイテムも落下物の中から出てくるとはね。思った以上に、出てくるアイテムの幅は広いっぽい? こうなってくると、余計に俺が手に入れたレンズっぽい謎のアイテムがどういうものなのかが気になるわ! 本当にあれは何!?

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