第1495話 利害の一致


 ガストさんから接触があり、俺らの下を走って移動している赤のサファリ同盟と一時的に休戦と共闘をする事になった。なったのはいいんだけど……。


「ガストさん、具体的にはどう共闘するんだ?」

「あー、このままの状態で、とりあえずUFOの場所まで進もうぜ。まぁ下手に合流はせず、バラバラで向かった方がいいだろうが……俺の解放だけは頼めるか?」

「……それもそだな」


 共闘するのは他の集団と遭遇すればの話だけど、休戦については今すぐ可能な話だしね。ササっとガストさんへの拘束を解除してしまおう。


「おし、これで自由に動けるな。あー、誰かが意思疎通役としていた方がいいだろうから、俺が残るつもりだが……ケイさん、いいか?」

「それは問題ないぞー」

「なら、何か動きがあるまでそれで決まりだ! ハーレさん、UFOの動きはどうよ?」

「結構な高さから、ここのエリアをぐるぐる回ってるみたいなのさー! 多分、色々調査中なのだと思います!」


 ……シレッとガストさんがハーレさんに聞いてるけど、まぁ共闘になったんだし、別にいいか。

 今はまだ撃墜しに黒の異形種が出現はしてない状態なんだな。まぁ落下物はUFOが拾い集めたものっぽいし、今はそれを収集してる段階なのかも?


「そういやガストさん、折角だから聞いていいか?」

「……内容にもよるが、答えられる範囲なら答えるぜ、アルマースさん」

「赤のサファリ同盟では……UFOの動きの捕捉は何回目だ?」

「ここに来てるメンバーでなら初。共同体全体としては2回目だ。ただ、明確に収集中っぽいのは初遭遇だな」

「……なるほどな」


 ふむふむ、赤のサファリ同盟でもまだ遭遇してないパターンか。UFOの捕捉自体、現時点ではやっぱりレアな状態なのかもね。


「そういうアルマースさん達はどうなんだ? ルストから譲ってもらったあれだけって事は……ねぇよな?」

「その辺の説明は……ケイ、任せるぞ」

「ちょ!? そこで俺にぶん投げてくんの!?」

「リーダーを差し置いて、いつまでも話してる訳にもいかないだろ?」

「そりゃそうだけど!?」


 それを今言うなら、初めっから俺に任せておいてくれません!? ……うん、まぁいいや。共闘状態になったからこそ多少の情報交換は可能にはなってるとはいえ、全ての情報を出し惜しみなく開示する訳にもいかないしね……。何をどこまで話すか、その判断は俺に任せるって事なんだろうさ。

 さて、本当にどこまで話したもんだろ? 『ウワバミの口』に俺らがいたのはすぐに分かるだろうから、そこは伏せる意味もないか。


「俺らのすぐ側にUFOが出てきて、そこから全員が1個ずつ拾いはしたぞ」

「おっ! そりゃ運がいいな! あれ、プレイヤーで墜落させられんのか?」

「さぁ?」

「おいおい、まさかケイさんともあろう者が、近くに出てきたのに、それを試してねぇのか!?」


 うーん、これはなんとも答えにくいな!? いや、確かに落とすのは試せてないのは事実だけども、それは曼珠沙華が捕獲を試みたからこその話であって……ちっ、その情報は教えるべきじゃないか?


「……さては、捕まえようとして失敗したか?」


 くっ、あっさりと見抜かれた……。下手に誤魔化しても意味はなさそうだし、具体的な手段は伏せて、肯定だけはしておこう。なんでも拒否っていうのも、共闘状態では良くないしさ。


「……まぁそんなとこ」

「なるほどなー。その状況を詳しく語る気はないと……。ま、ケイさん達でも捕獲に失敗するくらいなら、そもそも不可能って考えた方がよさそうだな。初手で撃墜、一択か」


 過程が分からなくても、結局そういう結論になるんですよねー! 嘘でも、UFOそのものとは接触してないと押し切るべきだったか?


「……ガスト、今そっちでは誰が『侵食』でのUFOの捕捉を行っている? こちらだけ知られているのは、不公平だと思うが……」

「あぁ、それか。それなら今、水月さんがやってるぜ。ハーレさんが使えてるなら……『獲物察知』だけでなく『看破』で使えるのは知ってるよな?」

「うん! それは知ってるのさー!」


 ……十六夜さん、話の方向性を変えてくれたのはナイス! てか、『獲物察知』でも『看破』でも効果が出るのは、赤のサファリ同盟でも確認済みなのか。

 まぁそもそも『侵食』はシュウさん達と一緒に見つけたんだから、赤のサファリ同盟が試せる立場なのは分かりきってる話だしな。まぁ逆に言えば、赤のサファリ同盟から見ても俺らがそうなる可能性にはすぐ思い至りますよねー!


「あー、そうだ。ケイさん、ここにいるメンバーの他にも協力してる相手がいるのか? さっき、誰かに返事をしてたが……別働隊がいるのか?」

「あー……」


 しまったな、紅焔さんへの返事だけが聞こえているって状態になってたのか。うーん、まぁ十六夜さんがいるので『縁の下の力持ち』との協力関係には気付かれてるんだし、無理して伏せていく必要もないかもね。


「それなら『飛翔連隊』と協力関係になってるけど……ガストさん、他所には内緒で頼むぞ?」

「ほう? 飛翔連隊と協力関係になってんのか」

「ん? 俺らがどうかしたよ?」

「ガストさんに、他の協力者に誰がいるかって聞かれてなー。伏せるメリットが薄いから、ここは伝えたぞ」

「おっ、そういう内容か! まー、今の状況じゃ事前に確認しようもないし、その程度は問題ねぇぜ!」


 基本的に対人戦を好まないソラさんがいるんだし、赤のサファリ同盟と交戦状態になる可能性は極めて低いはず。追いかけ回してくるような人達でもないんだし――


「なるほど、少し前に雪山でソラさん以外が妙に大暴れしてるって話があったが……索敵方法のカモフラージュも兼ねてた訳か」


 ちょ!? 赤のサファリ同盟に飛翔連隊の動きが捕捉されて……って、雪山には中立地点があるんだし、そこから情報が回ってきやすいですよねー!?


「おし、そういう事なら紅焔さんに伝言を頼めるか? 『赤のサファリ同盟は、『飛翔連隊』とは戦闘の意思はない。遭遇したら、休戦して協力したい』ってよ。あー、ずっとの協力関係ではないからな。遭遇したその場だけの話だ」

「……はい? え、それは本気で言ってる?」

「何か不思議か? ケイさん達と同じで、『飛翔連隊』も真っ向からぶつかるのは避けたい相手だし……そもそもあそこは対人戦が苦手なソラさんもいるだろ?」

「まぁそれはそうなんだけど……もしかして、今回の赤のサファリ同盟って戦闘は出来るだけ避けるつもりでいる?」

「そりゃ相手次第だが……交渉次第で共闘が可能な相手なら、真っ正面から戦うよりは、共闘を選ぶって流れになってきてるぜ。まぁ現在進行形で、調整してるとこだがな」

「あー、なるほど……」


 ふむふむ、確かに交渉の余地がある相手なら、交渉で済ませてしまうのが楽ではあるか。現在進行形で調整ってのは、俺らとの遭遇があったからこそ……なんだろうなー。

 まぁとりあえず紅焔さん達に伝言はしておくか。これは決して悪い話じゃないしね。


「紅焔さん達にガストさんから伝言。赤のサファリ同盟と遭遇したら、戦わず協力したいってよ。まぁ遭遇した時だけの協定のお誘い?」

「っ!? それ、マジか!?」

「……僕としてはありがたい話だけど、赤のサファリ同盟としてはそれでいいのかい?」

「赤のサファリ同盟として、今回は可能なら戦闘自体は避ける方針なんだとさ。まぁ状況次第にはなるとは思うけどさ」

「……なるほど、そういう方針なのかい」


 とはいえ、流石に遭遇した場面が争奪戦の真っ只中だと難しい事もあるだろうけど……そういう時にも他の群集に共闘する相手を用意しておく事で、有利に進めようって狙いもありそうだよね。


「……その話、受けるので宜しいのではないでしょうか? おそらく、既に察知手段を持っている者同士、かち合う可能性はありますし……」

「そういう時に争う必要がないのは、いいかもね」

「ソラの事を考えれば、悪い話ではないな」

「おし、決まりだ! ケイさん、『飛翔連隊』は『赤のサファリ同盟』との協力を承諾すると伝えてくれ!」

「ほいよっと!」


 ほぼ迷う余地なくスムーズに決まったね。まぁ強敵になり得る相手との協力関係が結べるのは、決して悪い訳じゃないもんな。


「ガストさん、『飛翔連隊』は協力の件は承諾だとさ」

「おし! 赤のサファリ同盟でも何人かは『黎明の地』で動いてるから、その件は伝えておくぜ」

「あ、『黎明の地』で動いている人がいるんだな」


 いや、だからこそのさっきの提案か。遭遇する可能性がないなら、そもそも協力も何もあったもんじゃないしなー。


「あ、そうだ。『赤のサファリ同盟』は今回、他に協力関係を結んでる相手ってどのくらいるんだ? 特に赤の群集内」

「今回はどことも組んでねぇな。あくまでケイさん達みたいに既に察知手段を見つけた人達と、一時的な協力関係のみだ」

「……なるほど」


 今回のイベントでは、大々的に協力関係を結んでの攻略はする気はなしか。『リバイバル』辺りとは連携してる可能性も考えたけど、『赤のサファリ同盟』の中だけで完結させているんだな。

 となれば……この情報くらいは伝えておいてもいいか。多分、この件に関しては利害は一致するだろうし、赤のサファリ同盟なら手を組む可能性は低いだろ。


「ガストさん、ちょっと伝えておくべき話がある」

「いきなり雰囲気が変わったが……ヤバめの話か?」

「無所属の『乱入クエスト』についてだな」

「……見えるようになってる、瘴気の渦関係か?」

「まぁそれもあるな。俺らは、無所属で黒く染まってる状態のプレイヤーが転移してくるのに遭遇してさ」

「……ほう? eスポーツ勢の流入で混乱している中で、新しい乱入クエストが始まってんのか。その情報は……なるほど、そっちの曼珠沙華が情報源だな?」

「ご明察。『乱入クエスト:転移先を確保しろ』ってのが、新エリアで命名クエストが終わってないエリアを対象に発生してるらしいのと、黒く染まった状態だと『侵食』を使った索敵と同じ効果が出てるっぽい」


 このガストさんの反応的に、どうやら知らなかった情報みたいだね。まぁ無所属の人から情報提供がなければ分からない内容だし、知らなくてもおかしくはないんだけどさ。むしろ、これを知ってる方が不自然なのかも。


「……クエスト名的に別ルールの命名クエストみたいなもんか? いや、まぁ詳細は別にいいか。要はまた乱入して、群集を敵に回すって内容なのは変わらんだろうし……存在が分かっただけでも助かるぜ。下手に協力なんて事になれば、デメリットの方が大きそうだしな。ただ、今の状況じゃまともに群集の方には通達は出来んぞ?」

「あー、そこは俺らも同じだから。赤のサファリ同盟だけでも、警戒しといてくれってところ」

「なるほどな。……そうなると、ケイさん達も情報を秘匿して動いてんのか?」

「まぁそうなるなー」

「らしくない気もするが……いや、イベントの内容的にそうなるか。今回ほど秘匿が重要なイベントも珍しいしな」

「そうそう、そういう事」


 自分達だけで秘匿するのがらしくないのは重々承知だけど、内容的にはこの動き方が正解だもんなー。その上で、同じだけの情報を持ってる相手とは可能な限り戦わないのが、今の段階では重要な動き――


「はっ!? UFOの動きが……あ、消えたのさー!?」

「……へ? あ、もしかして攻撃を受けて転移した!?」

「多分、そうなのさー!」


 くっ! まだUFOのいる位置まで辿り着けてないのに、それより先に攻撃を受けたのかよ! 攻撃を仕掛けたのは……黒の異形種か……それともプレイヤー?


「あー! 落下物の方向が示されてるのさー!? アルさん、あっち!」

「おうよ! ……それ、見えてない距離でも、落下物に反応が出るんだな?」

「そうみたいなのさー! 多分、落ちていく状況を見るのが必須な気がします!」


 ほほう? これまでは落下物には反応なんかなかったけど、今回はそれがあるとはね。俺が使ってた時はそんな反応はなかったけど……あれはUFOが近過ぎたせいか? うん、すぐ目の前……どころか、彼岸花さんが落下物を全て受け止めていたくらいだったしなー。可能性は十分あるかも?


「俺らの方も確認は出来たが……途中に森があったりするし、アルマースさんを目印に進ませてもらうぜ。状況次第では、そのまま戦闘に突入かもしれんしな」

「ほいよっと! 出来れば、俺ら以外に誰もが気付いてなければいいんだけど……」

「……希望的観測は……避けておいた方が……いいよ?」

「ですよねー!」


 戦わずに済むならそれは一番だけど、どこの誰が、どういう形で動いているかは全くの未知数。この先で遭遇する人が、普段は味方の人な可能性もあるけど……状況次第では交戦は避けられない場合もある。気は緩めないでいこう!


「あ、ガストさん。これは確認しておきたいんだけど……落下物の数が足りなかった場合は?」

「……メンバー数はお互い同じだし、半分ずつで分けるのが揉めずに済むだろうな。それで同意をもらえればだが……」

「それで同意でいいよ。そこで無理に奪い合うより、確実に何個か手に入れた方がマシ!」


 冗談抜きでお互いにどれだけの損害が出るか分からないんだから、この方は遥かにメリットはある。お互いにそういう認識だからこそ、共闘が成立してもいるんだしさ。


「なら、それで決まりだな。ともかく、落下場所まで進むぞ」

「だなー!」


 さーて、ここまで雑魚敵との交戦は避けられてるけど……上手く落下場所まで辿り着けるかな? 空中を移動してる俺らはともかく、地上を移動してる水月さん達が厳しい気がするんだけど……まぁなるようにしかならないか! ともかく、今は前に進むのみ!


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