第1493話 新たなエリアへ
うーん、今回のイベントはUFOの索敵方法を秘匿した方が得だと分かっているし、そのつもりで実際に協力関係を結ぶ人を限定して動いているけど……どうしても、そこで情報収集に弊害が出てくるなー。
まぁある程度は仕方ないし、無所属の乱入クエストを全て防ぐのは諦めた方がいい――
「ふっふっふ! 出発の前に進化を済ませるのさー! アルさん、樹洞をお願いします!」
「おうよ。『樹洞展開』!」
「それじゃ、ちょっと済ませてくるねー!」
おっと、色々考え事をしてる間にハーレさんが樹洞の中へ姿を消していったか。まぁここでぞろぞろとみんなで揃って移動すると不自然だから、ハーレさんのみで済ませるのが無難なんだよな。
秘匿していく以上、こういう周囲の視線への対応は必須だけど……やっぱり、どうしても窮屈さを感じるね。
「ケイ? なにか悩ましげだけど、どうかしたのかな?」
「あー、味方相手にも秘匿し続けるのも、なんか微妙な心境になってるだけだから、心配はいらんぞー」
「……いつもは報告してるから、窮屈に感じるのかな?」
「まぁそんなとこ」
イベントの性質は理解してるから、秘匿する必要性は分かってるんだけどね。だからこそ、協力関係を限定的にしてるんだし……。
「ケイさん、そんなのは今のうちだけだと思うぞ? こっちで、色々と動きも出始めてるからな」
「桜花さんの方で? それ、どういう動き?」
「チラホラと、迷いのない動きをしてる人達が出てきているって会話を耳にしてな? ケイさん達はそう思われてないみたいだが、UFOを見つける手段が存在するんじゃないかって話題になってきてるそうだ」
「……ほほう? そういう話題が出てきてるって事は、俺ら以外にも『侵食』の効果に気付いた人がいる?」
「多分だがな。秘匿出来ても、今日いっぱいが限界って考えてた方がいいかもしれん」
「……なるほど」
他にもあの手段を見つけた人がいるなら、その動きを探ろうとしてくるのも当然に発生するだろうしね。いつまでも秘匿し続けられるとは考えない方が無難か。
「ケイ! 今日だけの我慢かな!」
「だなー。よし、期限があると考えたら、多少は気楽になってきた!」
どこかしらに後ろめたさがあったんだろうけど、それが永続的なものじゃないならやりやすい! まぁだからといって、積極的にバラすような真似は出来ないし、やらないけど!
「桜花さん、変質進化用の進化の軌跡の調達はどんなもん?」
「まだまださっぱりだな。一応、何度か戻ってきて情報収集をしている人達は観測してるが……実際に落下物を確保出来た人は、戻ってきてる様子はないな。戻ってきてる人は、どうやって探せばいいかの情報を求めてる人ばっかだ」
「あー、そういう感じか」
そりゃまぁ、22時過ぎの今ならどんどん探したい人は探しに行ってるだろうし、並木に寄る人は手に入れる当てが欠片もない、探すヒントを求めている人ばかりにもなるよねー。いらないアイテムを持ち込むとしたら、その日の探索を終えてからだよな。
「ただまぁ、俺と同じように変質進化の為の進化の軌跡を求めている人も、何人かいるみたいだぜ?」
「……マジで? あー、その人達がもう既にあの手段を見つけてる人の協力者?」
「おそらくな。……俺らの狙いも筒抜けになってる可能性は、もうあるぞ?」
「ですよねー! ……桜花さん的には、継続しておいた方がいいと思う? それとも、引き下がった方が勘繰られずに済むと思う?」
「下手に取り下げると、まだ気付いてない人達に勘繰られる可能性が出てくるだろうよ。同じ目的で『侵食』の進化の軌跡を集めているなら、その相手から邪魔はしてこないはずだ。ここは変に方針は変えない方がいいと思うぜ?」
「……なるほど。まぁ確かにそりゃそうか」
「ただ、過剰に求めるのだけは避けといた方がいいな。競り合うなんてのは御法度だ」
「ですよねー!」
気付いているなら狙いは『侵食』の進化の軌跡の確保が目的だろうけど、その入手に競り合うなんて事をすれば……何かあると周りに教えるようなもんだよな! うん、そりゃ御法度で当然だ。
「……桜花、『縁の下の力持ち』で、今日はもう終えなければならない奴が出てきた。そいつが今から手に入れた『侵食』の進化の軌跡を持ち込むから、少し間を空けてから取りに行く別の奴に渡してもらえるか?」
「おう、それは了解だ」
「はい! 今更だけど、桜花さんが今こういう風に話してるのは、聞かれる心配は大丈夫ですか!?」
「それは対策してるから問題ねぇよ。今日は樹洞を開けてない状態でやってるし、遮音した樹洞の中に入れたメジロで会話してるからな。盗み聞きの心配は無用だ。あー、十六夜さん、受け渡す人も、受け取る人もアイテム名は言わないように頼むぜ? なんなら、無言トレードでも構わん。共同体の所属で判断するからよ」
「……あぁ、それは伝えておこう」
「おー! しっかりと対策済みだったのさー!」
桜花さんの方でも、情報漏洩の対策はしっかりとしていたようだね。普段は空いてる樹洞が閉まっているのは不審がられそうだけど、まぁその程度なら誰かと組んでいるのが推測されるくらいなもんだろ。
てか、ハーレさんが外に出てきてるって事は、進化を終えて索敵も済ませたっぽいね。
「ハーレ、死んだ様子はなかったし、纏浄で相殺は出来た?」
「うん! 成功だったのさー! 『危機察知』では反応しなかったけど、『看破』でケイさんが言ってたような効果を確認したのです!」
「あ、『看破』でいけるのかな!」
「そっか。『危機察知』では駄目だったんだね」
「多分、ずっと発動しっぱなしのスキルだからなのさー!」
ふむふむ、『危機察知』では反応せずか。まぁ常に効果が出てるんだから、行動値の上限値を使用するタイプのスキルだし、こういう結果も不自然ではないよな。
代わりに『看破』で『獲物察知』と同様の効果が得られるなら、それで十分だしなー。『看破』自体は、そう入手が難しいものでもないし……『擬態』を見破る性能があるんだから、効果的にもそうおかしなものでもない。
「ケイ以外が受け持つ場合は、『看破』でやった方がよさそうだが……ケイ、ほらよ」
「……ん? アル、なんでトレード画面?」
「どう考えても、俺が周りから見えないように『侵食』への変質進化をするのは無理だからな。俺の分をケイに渡しておく。移動もやってるから、見られても問題なかったとしても俺は不適格だろうよ」
「……あー、そりゃそうだ。でも、それならハーレさんでもよくね?」
「一番、気楽に死ねるのはケイだろ?」
「そういう理由!?」
あー、でもハーレさんの場合は死んだら共生進化の解除になるんだし、そのままの姿で復活出来る俺が引き受けた方がいいのは間違いないかも……。
「……まぁ理由は分かるから、預かっとく」
「おう、頼むぜ」
理に適った判断ではあるから、ここは素直に受け入れよう。さてと、これで本格的に次のエリアに向けて出発……の前に、確認しとこう。
「ハーレさん、反応はどうだ? 何かここでありそうか?」
「上空に澱んだ黄色い矢印は何本も見えるけど、今は降りてくる気配はないのさー! 瘴気の渦も、近くにはないのです!」
「なら、もうここを離れてもよさそうだな。アル、東に向けて出発で! 次のエリアで集中して探そう!」
「おうよ! 『自己強化』『高速遊泳』!」
まだこの……『ウワバミの口』にも落下物がある可能性は残ってるけど、そこまで探るには完全踏破が必須だからなー。大勢の人が進出してきて争奪戦になるのは、既に見たから……違うエリアへ行くのがいいだろ!
「原野へ向かうのさー!」
「「おー!」」
さーて、前に行った峡谷エリアの安全圏から続く原野はあったけども、今回行くのはそことは別だろうから……いや、繋がってたりする?
あー、エリア同士の正確な繋がりを把握出来てないから、その辺はサッパリだな!? まぁ広いエリアではあるみたいだし、同じエリアだとしても問題はないか! ともかく、新たなエリアに向けて出発!
◇ ◇ ◇
<『ウワバミの口』から『名も無き未開の原野』に移動しました>
道中では特に何もなく、海岸沿いを進んで原野に到着。俺らグリーズ・リベルテと十六夜さんがアルの上、風音さんは単独、曼珠沙華はリコリスさんの生成した岩に乗っての移動だった。まぁ『侵食』での索敵があれば、こういう感じで十分そうなんだよな。
さて、肝心の新エリアの様子を見ていこう。前にも原野は見たけど……その時とはまた雰囲気が違うもんだね。
「なんというか……エリアが変わった気がしないのです?」
「この辺、あんまり見た目が変わらないしなー」
海岸沿いだからだろうけど、ずーっと広がっている砂浜と、その先にちょいちょい生えているヤシの木という光景が続いている。河口の部分から離れた『ウワバミの口』でもこんな様子だったから、エリアが変わった実感が薄いのは仕方ないだろ。
まぁ砂浜よりも陸地寄りのしっかりとした地面の上を進んだけどなー。砂浜に入れば、もうそこは別の『名も無き未開の海岸』エリアだったから、端も端での移動だったね。
「あ、でも、海岸から離れた場所は拓けてるよ。バオバブの木が見えるし!」
「本当かな! 遠くには低めの岩山っぽいのも見えるかな?」
「見る方向によって、景色が全然違って見えるな」
「だなー。さて、どの方向に向かっていくか……。ハーレさん、何か反応はある?」
「今は特に見える範囲にはありません!」
「何もなしか……」
んー、新エリアに来たはいいけども、色々なエリアの要素を内包してるエリアとなると……どう進んだもんだろうね?
「……曼珠沙華は……ここに……来た事は?」
「……ないよ?」
「この辺となると、遠いんだよねー。こっちのエリアへの転移って場所が選べなかったし、ここには出ていないからさ!」
「まぁリコリスの言った通りだ。俺らも初進出のエリアだから、参考になるような情報は持っていない。……十六夜は、何か情報を持っていないか?」
「……一応、ここに来た事はあるが……油断はするな。ここには完全体の徘徊種が出る」
「あー、それは危険なヤツ……」
てか、『名も無き未開の海岸』でも完全体の巨大なリュウグウノツカイが出てきてたんだし、そりゃここでも出てくる可能性はあるよねー!
「あ、そういや完全体といえば……この前、十六夜さんって『名も無き未開の海岸』で巨大なリュウグウノツカイと戦ってなかった?」
「……あぁ、ケイ達が何か検証をしてた時か。確かに戦ってはいたぞ」
「おぉ!? 確かにあの時、十六夜さんがいたのさー! あれって何か成果はありましたか!?」
「……『格上に抗うモノ』の上位称号がないかと狙ってみたが、特に何もなかったぞ。そんなものは存在しないのか、ただ単に条件を達成出来なかったのかは分からんがな」
「あぅ!?」
「あ、成果なしだったのか……」
十六夜さんでも無理な条件になってるのか、そもそも存在してないのか……その判断は出来ないんだな。んー、未成体の時に取り損ねる可能性も考えれば、何も存在しない可能性も十分過ぎるほどあるかも?
「……無理に……挑む必要は……ない?」
「ケイ、突っ込むなよ?」
「この状況で、無理はしに行かんわ! 全員、完全体の徘徊種が出てもスルーで! 捜索中に壊滅とか、色々と面倒だから!」
「……分かった。リコリス、突っ込まないでね?」
「私も突っ込まないからね!? 集団行動中って自覚はあるから!」
「どうだかな? そう言いながら、死んだことが何度あったか……」
「うがー! ラジアータ、余計な事を言うなー!」
あ、普段ならリコリスさんが突っ込んでいったりするっぽいね? ……なんというか、このイジられ方は身に覚えが――
「リコリスさん、ケイと同じ事を言われてるかな?」
「被ってるのは属性だけじゃなかったのさー!?」
「おいこら! サヤもハーレさんも、なんか面白がってないか!?」
確かに同じような事を思いっきり言われているけども! いや、冗談抜きで何かを試そうと思ったら、思い切って突っ込む事も大事じゃない? そうじゃないと分からない事だって多いし――
「はっ! UFOに動きが……あー! 割と近くに降りてきてるのさー!」
「ハーレさん、どの方向だ!?」
「ここから南東の方なのです! アルさん、あっち! 多分、この原野エリアに降りてきてるのさー! 距離は結構ありそう!」
「あっちか! ケイ、しょうもない話はその程度で終わりにしとくぞ」
「へいへいっと!」
そのしょうもない話を始めたのはアルな気もするけど、今はそれはどうでもいい! 新エリアに入って早々、UFOの動きを察知出来たのはありがたいね!
「ケイ、普通の『獲物察知』を使っとけ! 交戦は避けた方がいいだろ!」
「この状況なら、確かにそうだな! すぐに使っとく!」
「頼むぞ!」
アルの言う通り、UFOの動きを察知出来たのなら、そっちを最優先すべきだな。完全に交戦を避けられる訳じゃないけど、それでも可能性は低くするようにしておくべきだろ!
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 124/129
Lvが上がって、行動値の上限が少し増えたのは嬉しいとこだけど……今は反応に集中! えーと……今は空中にいるけど、地上に向かう黒い矢印が多いな。でも、地上に敵ならスルー出来るし……って、ちょい待った!?
「やばい! 赤い矢印の集団が、俺らの向かってる場所に急いで進んでるっぽい! これ、赤の群集の人が察知手段を持ってる可能性があるぞ!」
「……戦闘に……なる?」
「……相手次第じゃない?」
「それは状況次第だけど、交戦の可能性は考えといてくれ!」
割と近くだから反応に引っかかったけど……相手は人数的には10人程度。こっちもこの場にいるのは10人だから、人数差での優位はないか。
さて、どうする? 辿り着く前に妨害するか、それとも辿り着いた時の状況で判断するか……距離があるみたいだし、中々難しい判断だな。
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