第1486話 協力体制を構築して


 落下物から手に入る物の傾向を探る為に、協力相手としてソロプレイヤーの互助会的な共同体である『縁の下の力持ち』へと、桜花さんが話を持っていってくれた。

 その結果、もう間も無くそのメンバーの1人である十六夜さんが到着しそう……と考えてる間に到着したね。


「……待たせたな、ケイ」

「いやー、それほど待ってないけどな?」

「……まぁ急いだからな。アルマース、止まらずに動いてくれ。変に気取られたくはない」

「その割には随分と飛ばしてきたようだが……?」

「……だからこそだ。プレイヤー名をハッキリ見られないように、視界は遮ってきたしな」

「……なるほどな」


 あー、確かに十六夜さんだと知っていなければ、岩が凄い勢いで移動してる程度にしか見えなかったしね。ゆっくり移動して合流をしている様子をガッツリ見られるよりは、多少の目は引いてもプレイヤー名を把握されずに済ます方を選んだのか。

 誰かが俺らに合流した事が分かっても、それが誰かが分からなければ……共同体『縁の下の力持ち』との協力関係は露見しないもんな。


 いや、まだ正式に協力関係を結べている訳ではないけども……まぁアルが言われて通りに進んでいるし、その辺の話は捜索しながらだね。

 瘴気の渦の有無はそんなに遠くまで分かる訳じゃないから、ある程度は適当に動いていくしかないままだしなー。


「……共同体の方へは既に話は通してある。具体的な手段まではまだ聞いていないが……ケイがUFOの位置を察知する手段を見つけたそうだな?」

「あー、それはそうだけど……手段はまだ聞いてない? その状態で、もう話が通ってるのか?」

「……どういう手段であれ、有用な事には違いないからな。他に行かれる前に、確約をしておこうという話になった」

「……なるほど」


 動きが想定以上に早かった理由はその辺にありそうだね? 変に駆け引きをして、俺らに拒まれる状態になるのを避けたのか。


「……その判断は的確だね」

「……何故、彼岸花3人衆がここに……いや、ケイ達が引き入れる形で灰の群集に加入したんだったか」

「そうそう、そういう事! 十六夜さん、判断は早いねー!」

「まぁ灰の群集の『グリーズ・リベルテ』からの誘いを断るような集団は、そうはいないだろうがな」

「……癪ではあるが、ラジアータの言う通りだな。満場一致で受け入れられる相手なんてのは、数える程しかいないものだ」

「おー!? なんか、もの凄く評価されてる気がするのさー!」

「今までのケイのやった事を考えれば、そう不思議でも――」

「そこ、俺だけに限定する意味ある!?」


 前からそうだけど、どさくさに紛れてアルは俺だけに押し付けようとしてくるよな!? 今はどう考えても共同体としての評価だろうし、俺だけのものにされてたかるか!


「……ケイ、手を組んでいるのは桜花と風音、それと彼岸花3人衆だけか?」

「十六夜さん、その呼び方はもう違うからねー! 今の私達は『曼珠沙華』と呼んでもらいましょう!」

「……まだ共同体の設立が不可能だから、正式にその名になるのはまだ先だがな」

「ぶー! ラジアータ、そこは言わないでよ!」

「だが、事実だろう?」

「そりゃそうだけどさー」


 まぁ現状では、自称『曼珠沙華』って事になるんだよな。仕様上、群集へ加入したてのメンバーだけでは共同体が設立出来ないんだし、どうしようもないけど……いや、手段自体はあるか? 一時的にでも灰の群集で設立が可能な3人に代わりに設立してもらって……うーん、流石にこのやり方は面白くないか。


「……経緯はともかく、これからは『曼珠沙華』と呼べばいいんだな?」

「……うん、そうしてもらえるとありがたい。あと、今回は『飛翔連隊』もいるよ?」

「……紅焔達か。ここに姿がないのは……なるほど、別働隊で動いているんだな」


 おー、それくらいは名前が出ただけですぐに意図を読み取ってくるか。十六夜さんは好きでソロで動いてるだけで、相当な実力者だもんな。『曼珠沙華』の3人とも当たり前のように面識があるみたいだし、今回の件としては相当頼りになる協力者だろ!


「彼岸花さん、十六夜さんをPTに入れてくれ。そこから手段の説明をしていくから」

「……うん。十六夜さん、はい」

「……あぁ、助かる」


 ふぅ、とりあえずこれで十六夜さんが俺らの連結PTのメンバーには入ったね。自分のPTでないとこでは加入のアナウンスは出ないけど、まぁ連結PTのメンバー一覧で確認すればメンバーになったのは確認出来るしな。


「……さて、手段を聞かせてもらおうか。落下物の内容を知る為に、ある程度の人数の協力者が欲しいという話だったが……その情報を求めるという事は、何かしらのアイテムが重要になってくるんだろう?」


 ここで声を小さくしてくるって事は、それだけ重要な内容だと考えているからこそか。話を受けるまでの早さといい、相変わらず侮れない人だよな。

 さて、俺もこれまで以上に声を抑えておきますか。下手に盗み聞きされたくはないし、ここからは慎重にだ!


「ご察しの通り、特定のアイテムが必須になるぞ。『進化の軌跡・侵食』を入手したって情報は、あったりしない?」

「……何? いや、その入手情報はまだないが……あれを使うのか? どういう理屈だ?」

「ふっふっふ! 『侵食』の効果を乗せた『獲物察知』で見つけるのです!」

「っ!? ……なるほど、そういう使い方か。ケイ、どういう風に見えている?」

「『侵食』の変質進化で死んだ後から、30分間ほど黒く澱んだ黄色い矢印が上空に見えてるのと、俺以外には見えてない状態の瘴気の渦が表示されてるぞ。瘴気の渦がない場所が、UFOを墜落させにきた黒の異形種の出現場所の可能性が高い」

「……UFOそのものの位置と、落下場所を判別する手段になるのか。そうなると……『進化の軌跡・侵食』そのものの入手が重要になってくるな。なるほど、だからこその入手情報の収集か!」

「そうそう、そういう事!」

「……今回は群集全体に情報を出す気はないんだな? その上で、大規模過ぎない程度にそれなりの人数がいて、どことも協力してない相手として選んできたのか」


 いやー、話が早くて助かりますなー。俺らの意図まで、あっという間に把握してくれてるしさ。


「……少しだけ時間をくれ。今の情報を共同体のチャットに流しておく。無論、他のプレイヤーには他言無用というのを念押しはしておくぞ」

「ほいよっと!」


 まぁ『縁の下の力持ち』から落下物からの入手情報を頼りにさせてもらうつもりだし、その為にも捜索手段の共有は大事! ただ、アイテムとして『進化の軌跡・侵食』を持ってる人がいるかどうかが気になるんだよな……。


「桜花さん、ちょっといい?」

「ん? ケイさん、どうした?」

「『進化の軌跡・侵食』のトレードの持ち込みって、可能性はあると思う?」

「……量が出てくるのであれば、可能性はあるだろうな。だが、大々的には探せないぞ。それをすれば、『進化の軌跡・侵食』に何かあると喧伝してるようなもんだぜ?」

「あー、そういう問題があるか……」


 うーん、この効果を知られていないうちに、出るようであれば、ある程度の個数を確保出来ないかと思ったけど……いや、待てよ? 『侵食』だけだと変に思われるだろうけど、他の変質進化と合わせてしまえば……よし、これだ!


「極意系の進化の軌跡と一緒に集めるって方向性では無理? 表向きは純結晶の材料としてさ。ほら、どっちも変質進化だから、素材になる可能性もあるじゃん? この機会に検証材料を確保するみたいな感じなら、違和感なく集められね?」

「……なるほど、確かにその方向性なら悟られないか。元々、俺はその手のアイテムの取り扱いをしているし……違和感を持たれにくいかもしれん。よし、その方向で少し探ってみよう。もし手に入るようなら、可能な限り集めておくぞ」

「頼んだ! あ、でもトレードの対価は……どうするのがいいんだ?」

「秘匿状態でやる訳だから……下手に好条件は出せそうにないな。今回のイベントでの価値を知らないつもりでやるしかないだろうよ。……ちょっと悪い気もするが、情報も武器だからな」

「ですよねー!」


 価値を把握されて入手困難になる前に手を打つなら、こういう手段でやるしかない。桜花さんも言ってるように情報は武器なんだから、最大限活用させてもらうまで! 同じ灰の群集だからといって、手抜きをする必要はない!


「……ケイさんって、敵には容赦がないって聞いたけど……あんまり敵には回したくないね」

「普通に戦うならやりたいけど、こういう出し抜き合いや情報戦は私はパス!」

「単に、やろうと思っても出来ないだけじゃないか?」

「なにおう!? ラジアータ、喧嘩を売ってるなら買うけど!?」

「ただの事実を言ったまでだろう」

「まだ言うか!?」

「……2人とも、その辺でやめて。今は集団行動中だよ?」

「ぶー! それはラジアータに言ってよ!」

「……『曼珠沙華』は相変わらずの様子か?」

「いつもの事だ。気にするな、十六夜」


 サラッと十六夜さんが混じってるけど……本当に曼珠沙華とは交流があったっぽいね。意外……というほどでもないか。

 十六夜さん自身がインクアイリーとの繋がりがあると言ってたし、俺らがシュウさん達やジェイさん達と一緒に検証をしたりするようなものなのかもね。


「……ケイ、共同体への連絡は済ませた。何人か『侵食』の変質進化を実行出来るそうだから、人目を避けてこれから試してみるそうだ」

「おっ! 使える人がいるのは助かる!」

「それとその何人かを中心にして、共同体の中でPTを組むという話も出てきている」

「へ? え、ソロで動く訳じゃないのか?」

「……別に普段がソロだからといって、常にソロな訳ではないからな。現に俺だって今はPTに入っている。……利害の一致さえあれば、普段からやっている事だ」

「あー、まぁそりゃそうか」


 ある意味、そういう機会が欲しい時の為の共同体だもんな。今の状況は、まさしく利害の一致がある状態――


「ケイさん、飛翔連隊からの報告をいいかい?」

「ん? ソラさん、何かあった?」

「さっき、『黎明の地』に向けてUFOが降りていったって話していたじゃないかい? それはどうやら『ニーヴェア雪山』に向かったみたいでね」

「あー、あそこか。ソラさん達は近くにいる感じ?」

「近くと言えば近くだね。僕らは『氷樹の森』にいるから、今向かっているところだよ。……僕以外の4人がね?」

「はい!? あ、戦闘になる可能性があるからか!」

「そういう事だね。まぁ幸い、周囲の注意が完全にそっちに向いているから、今のうちに僕が『侵食』への変質進化をしようってところだよ」

「そういうこった! 俺らはまだ何も知らない風に装って、その間にソラに探ってもらう作戦だぜ!」

「あー、なるほど。確かにそれはありかも?」


 なんで一緒に動いてたはずなのに、二手に分かれるなんて話になったのかと思ったけど……相応の理由はあったっぽいね。ソラさんが対人戦は好きじゃないのはよく知られてる事だし、別行動していても不審ではないもんな。

 進化する様子から死んでリスポーンするまでの一連の流れさえ見られなければ、『侵食』への変質進化を使っても問題はないか。


「何かそっちで見つけたり、レアアイテムが出たら報告をよろしく!」

「当然だぜ!」

「もちろん、そのつもりだよ」


 協力して動いているからこそ出来る、情報交換だな! いやー、今回は本当に無作為に情報をばら撒く訳にはいかないから、こういう協力関係を結べたのは大きい――


<ケイが成熟体・暴走種を発見しました>

<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>


<ケイ2ndが成熟体・暴走種を発見しました>

<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>


「わっ!?」

「……攻撃!?」


 ちょ!? ハーレさんと風音さんの方に向かって、何かが飛んできた? 危機察知で反応して回避してたけど……今のは、ヤシの実?


「っ!? 王冠マークがあるヤシの木がいるかな!」

「あー、ここでフィールドボスのご登場かよ! 全員、戦闘準備! 雑魚なら無視したいけど、フィールドボスなら仕留めるぞ!」


 ここでフィールドボスが登場するとは思ってなかったけど……まぁ完全踏破の動き方を続けていれば、こういう遭遇があってもおかしくはないよな。


「……いきなりの敵だが、まぁいいだろう。邪魔をするのであれば、仕留めるまでだ」

「……『曼珠沙華』、動くよ。命名クエストは、多分早めに終わらせた方がいい」

「乱入クエストの件もあるもんね。さーて、邪魔者はさっさと片付けよー!」

「命名クエストの発生の法則が同じであればいいんだがな」

「……やってみれば……分かる事!」

「さっきの、びっくりしたのさー! 絶対にぶっ倒すのです!」

「あはは、いきなりの奇襲だったしね」

「さて、このヤシは……不動種か?」

「動いている様子はないけど、まだそれは分からないかな!」

「だよなー。移動種が植わってる可能性もあるし、要警戒で!」


 昨日、彼岸花さん達から聞いた新しい乱入クエストの件もあるし、冗談抜きで命名クエストは早めに終わらせておいた方が安全だろう。ただ、ラジアータさんが言ってるように、こっちの新エリアでの命名クエストが『黎明の地』と同じ法則かどうかの保証はないんだよな。……まぁそれでも、フィールドボスと遭遇した以上は倒した方がいい!


 それに……前はここでのフィールドボス戦はギリギリの戦闘だったけど、今はあの時よりも育っているしね! 何より経験値が欲しいってのもある!

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