第1485話 新たな協力相手


 降りてくる前らしきUFOの反応は拾えたけど、それがいつ、どこへ向けて降りてくるかは分からないまま。捕捉していられる時間にも制限があるから、その効果中に近くに来ないと意味がない。

 どう見ても、今の反応じゃ遠過ぎるんだよな……。ぶっちゃけ、矢印の先が見えてないしさー。獲物察知の表示に似てるから、矢印だと分かるけど……そうじゃなきゃただの線だし。

 その上、黒の異形種が転移してくるっぽい瘴気の渦も見えてるけど、これが役立つ場面が分からん!


「あ、そういやアル? 俺が『獲物察知』を使った時に、瘴気が広がっていってたんだけど……その様子って見えた?」

「ん? ケイの状況は見てたが、そんなのは見えなかったぞ」

「あー、反応的にそんな気はしてたけど、やっぱり見えてなかったか。となると……あれは俺だけに見えてた演出っぽいなー」

「まぁそういう事になりそうだな?」


 樹洞の中の様子が分かるアルでも見えていないなら、あの広がっていった瘴気は樹洞を貫通して、かなりの範囲に広がったのかも? 多分、この今の察知状態はあれの仕業だろうし……ん?


「瘴気の渦が、全然ない場所があるな?」

「え、そうなの!? ケイさん、どの辺ですか!?」

「ここからちょい北の方……って、ルストさんと遭遇した辺りじゃん!?」


 待て待て待て!? そうなってくると、色々と話が変わってくるんじゃないか? これはひょっとすると――


「……瘴気の渦がない場所は、既に使用済みの場所?」

「それだー! 多分これ、黒の異形種が転移してきて、UFOを落とした跡!」

「その可能性が高くなってきたな。ケイさん、それは意外と役立つんじゃないか?」

「あー、今ので俺もそう思ってきたところ」


 なるほど、瘴気がある場所じゃなくて、ない場所がヒントになってくるのか。これ、ルストさんから落下物がある場所を教えてもらってなければ気付けなかった部分かも。


「ケイさん、ちょっといいか?」

「ん? 桜花さん、どうかした?」

「その察知方法で、少し気になる事があってな。……それ、使える人が限定的になり過ぎやしねぇか?」

「あー、それか」


 俺としてもそこは気になった部分ではあるけど、桜花さんも不公平さは引っかかったっぽいね。


「変質進化自体が成熟体からの要素だから、成熟体の人だけしか使えない手段になるんだよなー。ソラさんが『刻瘴石』を手に入れたと言っても、そこから『侵食』の進化の軌跡に変えるのも一手間かかるし……」

「そこが引っかかってな。直で『侵食』の進化の軌跡が落ちるなら、まぁ分かるんだが……流石にまだ入手難度が高過ぎるだろ?」

「そうなんだよなー」


 ぶっちゃけ、俺らでも補充しようと思えば結構大変ではある。……流石に現状では判断材料が少な過ぎるか。でも、俺らだけで落下物の内容の情報を大量に得るのは難しいし……。


「……桜花さん、何か狙ってる?」

「まぁな。その索敵手段の情報、どこか大規模な共同体と情報共有するのはどうだ? 例えば、『オオカミ組』や『モンスターズ・サバイバル』とかの実力派のところにな」

「あー、そうきたか。流石に全員に広めるのはなしとしても、どこかから落下物の情報を引っ張ってこようって狙い?」

「そうなる。どう考えても、今のメンバーじゃ情報サンプルとしては少な過ぎるしよ。だからといって、『灰のサファリ同盟』だと規模がデカ過ぎるから、俺らにとってもデメリットが強くなる」

「……なるほど」


 『灰のサファリ同盟』は生産に寄ってたり、初心者層も抱え込んでる集団ではあるけど、実力者がいない訳ではないからなー。少なくとも情報があれば再現出来るだけの人員はいるし、他所との連携も強い。だから、協力相手としては……ちょっと規模がデカ過ぎる。

 それ以外で自前で『進化の軌跡・侵食』を調達出来て、それでいて小規模過ぎず、大規模になり過ぎない相手となれば……それなりに限られてくるか。


「みんな、桜花さんの案はどう思う?」

「……ありだとは思うが、どう話を持ちかけるかが問題だな。『オオカミ組』も『モンスターズ・サバイバル』も、『灰のサファリ同盟』と縁が深い共同体だから、既に協力関係という可能性もあるだろ?」

「あー、それは確かに……」


 アルの危惧しているのは、話を持ちかけた結果……想定以上に情報が広まる事か。うーん、内容を伏せて協力関係がどうなってるかを探るにしても、俺らの名前が出たら何か見つけたと勘付かれる可能性も否定出来ない……。


「……それなりの規模で……実力者がいて……それでいて……協力関係が広過ぎない……ところ……?」

「ま、そういう条件にはなるな。それが無理なら、いっそ全員に公開しちまった方が楽かもしれんぞ?」

「あー、そういう方向性も考えた方がいいのかも……」


 風音さんが条件を整理してくれたけど、そんな都合がいい集団なんていないだろ。いたとすれば、もう既にどこかと協力して動いて――


「……心当たり……あるかも?」

「……へ? え、風音さん、マジか!?」

「……うん。……みんなも……知ってるはず?」

「え、俺らも知ってる……?」


 知ってる中でそんな集団っていたっけ? あー、赤のサファリ同盟なら自分達の中だけで成立させてやっている可能性はありそうな気もするけど、流石に他の群集にこの件で声をかけるのは――


「俺らが知ってる……あっ! もしかして『縁の下の力持ち』か!?」

「ちょ!? え、あそこ!?」


 集団というか、ソロの人達が集まってる互助会的な共同体……あ、だからこそ、他と協力してない可能性が高いのか!?

 それでいて、ソロプレイヤーの互助会ではあるから、情報共有自体はしてるはず。性質上、勝手にそこの情報を吹聴するような人は嫌がられるだろうし、情報漏洩の心配もないかも?


「……紅焔さん……正解。……あそこなら……伝手もあるよ?」

「確かに、十六夜さんがあそこに所属しているからな。俺から話を持ちかける事は可能だぞ」

「そういやそうか! 十六夜さんが所属してたんだっけ!」


 十六夜さんは桜花さんの馴染みの人だし……『縁の下の力持ち』はインクアイリーを構成してる一部でもあるって話でもあったっけ?


「彼岸花さん、もしかしてそっちにも『縁の下の力持ち』への伝手ってあったりしない?」

「……それならあるよ。多分、この状況でなら乗ってくる可能性も高いと思う。あそこは集団に入る気はないけど、それでも群集や共同体の恩恵や利益が欲しいって人が揃ってるから……今回のイベントの攻略手段なら乗ってくるはず」

「その分、気難しい人や協調性がない人も多いんだけどねー!」

「だからこそ、よほどの利益がなければ乗ってはこないだろうが……その心配は不要そうだしな」

「……だから、曼珠沙華としては、その案には賛成だよ」


 ふむふむ、インクアイリーの内部にいた人から見た印象はそういう感じか。まぁ確かに十六夜さんも癖はある人だけど、信用出来ない人かといえばそうでもない。

 あやふやな協力関係を結ぶのは難しそうだけど、今回の条件的にはうってつけの相手になりそうだ。多分、ソロであちこちに散らばってるだろうから、そういう意味でも情報収集にも適任かも?


「はい! もし『縁の下の力持ち』と協力関係になった場合は、どうやって情報交換をしますか!?」

「そこは俺が受け持つぞ。元々、今回の情報収集を兼ねた拠点でもあるからな」


 ふむふむ、まぁここは桜花さんが受け持ってくれるのが一番スムーズに進むところか。


「十六夜さんなら知らない仲でもないし、情報交換を桜花さんがしてくれるなら、俺ら『飛翔連隊』も賛成だ! いいよな?」

「……だから、結論を出してから聞かないでくれますか? 別に反対する理由もありませんけど……」

「紅焔がこうなのは、いつもの事だけどね」

「まったくだ。まぁ異議はないがな」

「辛子に同意で!」


 相変わらずの紅焔さんの突っ走りっぷりだけど、まぁ『飛翔連隊』はいつも通りか。なんだかんだで、一応他のメンバーへ意思確認はしてるしなー。……答える前に、聞けばいいだけな気もするけど。


「はい! 私は賛成だけど、ヨッシとサヤはどうですか!?」

「私もいいと思うけど……ハーレ的にはラックさんと協力にならないのはいいの?」

「ふっふっふ! 今回に限っては『灰のサファリ同盟』は敵なのさー!」

「あ、そういう認識なんだ?」

「正直に言えば、『灰のサファリ同盟』の中でも早い者勝ちの奪い合いになってる気がするもん! 外部と協力どころじゃない気がします!」

「……それは普通にありそうな気がするかな? 規模が大き過ぎるからこその弊害かも?」

「あー、確かにそれはありそうだなー」


 ん? 同意しといてあれだけど……それなら『オオカミ組』や『モンスターズ・サバイバル』と連携してない可能性もあるのでは?

 いや、支部単位で協力関係になってるって可能性もあるか。その辺を下手に探る事自体がリスクになるから、危険は犯さない方がいいかも。


「……桜花さん、少し提案をいいか?」

「ん? アルマースさん、何か問題点があったか?」

「いや、問題点という訳ではないんだが……もし話を受けてもらえるなら、十六夜さんに俺らへの同行を頼めないかと思ってな? 桜花さんを介して情報収集を頼むのが不安という訳ではないんだが……急を要する場合に対応出来ない場合もあるだろう?」

「……まぁ不動種としてのトレードを止めてる訳じゃないからな。タイミングが悪ければ、すぐに対応出来ないこともあるし……アルマースさんとしては、直通で連絡手段を持つ人にいて欲しいって事でいいのか?」

「あぁ、そうなるな」


 なるほど、それは確かに懸念材料にはなるかもね。桜花さんの不動種としての動きを止めれば、アイテムを持ち込んでくる人からの情報収集が途絶えてしまう可能性もあるし……うん、確かに直で『縁の下の力持ち』のメンバーとやり取りが可能な人はいて欲しいかも?

 それが馴染みのある十六夜さんなら、俺らとしては申し分ないしね。ただ、十六夜さんがその条件を受けてくれるかどうかが問題か。


「一応、その話は十六夜さんにしてみるが……断られた時は諦めてくれよ」

「あぁ、それは仕方ないからな。ダメ元で構わん」

「了解だ。それじゃ連絡してくるから、少し時間をくれ」

「ほいよっと!」


 さーて、返答はどうなる事やら? 協力関係を結べる可能性は高そうだけど……実際に話を進めてみないと分からない部分だしね。まぁ十六夜さんなら、この索敵手段を話しても不用意に広めはしないと思うけどさ。


 一応、動きは止めずに捜索しながらにはしてたけど……こっちの成果はまるでなしか。うーん、一筋縄ではいかないもんだ。


「あ、そういや紅焔さん、そっちで『変質進化・侵食』って誰か使える?」

「わっはっは! 昨日、取りに行っておいて良かったぜ! 5人とも持ってるからよ!」

「おっ! そりゃナイス!」


 持ってない可能性の方が高いと思ってたんだけど、昨日入手してたとはね! 『飛翔連隊』の5人が持ってるのは、この状況ではかなりいいよな!


「って事で、誰か『侵食』の変質進化をしねぇ?」

「……どこか、姿を隠せる場所を探すべきかもね」

「それと死んでも戻ってこれる状態の確保でしょうか」

「ここは人が多いし、もっと人が少ない場所に行かないと!」

「そこでリスポーン位置を再設定するか、『転移の種』か『転移の実』に登録をしてからだな。誰がやるかは、そこまでの状況を整えてからだぞ」

「ま、辛子の言う通りだな! こっちはこっちでやっていくから、何か変化があったら伝えるぜ!」

「ほいよっと!」


 今、『飛翔連隊』がどこにいるかは分からないけど……まぁ『侵食』への変質進化は極力誰にも見られないようにした方がいいよな。同じ群集の人でさえ敵になる今回のイベント、慎重に動かないと!


「それにしても、変化がない……あ、矢印が動いた」


 降りてきた事で、やっと矢印の先が見えたか! あー、でもこれは――


「ケイ、それはどの方向かな!?」

「どっちですか!?」

「西だけど、かなり遠くだぞ。多分、『黎明の地』の方じゃ……あ、見えなくなった。なるほど、縦にはかなりの距離でも捕捉出来るけど、横には駄目なのか」

「……あはは、こっちじゃないんだ?」

「ま、そういう事もあるのが分かったのはいいんじゃねぇか?」

「だなー。とりあえず遠くへ降りていくのも、方向程度は察知出来るのは分かったしね」


 とはいえ、大雑把な方向だけだから具体的な場所までは分からないけど……いや、協力関係を結べた人があちこちで観測すれば、結構精度は上がるのかも?


「ケイさん、話はついたぞ」

「おっ! 早いな、桜花さん! それで、どういう結果になった?」

「丁度俺のとこに十六夜さんが来たタイミングでな? 話を持ちかけたら、すぐにもうそっちに向かっていったぞ。一緒に動くのも問題ないそうだ」

「はい!? え、もうこっちに来てるのか!?」

「十六夜さんとしても渡りに船の話だったみたいで、共同体『縁の下の力持ち』との協力関係を結ぶ前に動き出してな。移動中に協力の話は済ませておくと言って、すぐに飛び出していった感じだ。一応、手段は伝えておいたが……」

「あー、なるほど」


 具体的な手段を聞く前に飛びつくほど、このイベントでの探索方法は魅力的なだったのかもね。まぁまだ成果が出てないとはいえ、他の人よりも圧倒的なアドバンテージを得られる可能性はあるんだから、そりゃ飛びついてくるか。


「そういう事だから、十六夜さんが辿り着くのを待っといてくれ。そう時間はかからないと思うからよ」

「まぁ場所が場所だし――」

「おー! 十六夜さんっぽいのが、凄い勢いでこっちに来てるのさー!」

「あ、本当かな!」

「もう目視出来る距離まで来てるんかい!」


 あー、確かに南の方から空中を凄い勢いで飛んでくる何かが見えるな。まだ具体的な種族が分からないくらいだけど……状況的に十六夜さんの可能性は高いですよねー!

 俺らのPTには空きがないから、曼珠沙華の3人と同じPTに入ってもらう事になりそうかも? あとはまぁ、『縁の下の力持ち』との協力関係もしっかり結んでおかないとなー。

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