第1484話 探す為のヒント
この河口域エリアの完全踏破をするという方向性で、UFOからの落下物を探す事になって、実際に捜索を始めている。正直、何も見つからずに無駄足で終わる可能性もあるけど……ノーヒントなんだから、どういう方向性でもそうなる可能性はあるからなー。
そこそこ進んでいるけど……何も成果なしなのは、正直辛い。うーん、闇雲に探すだけじゃなく、探す為の手段を見つけるべきか?
「ケイ、速度はこの程度で続けるのでいいのか? このペースじゃ、完全踏破にはかなり時間がかかりそうだぞ」
「あー、もうちょい速くてもいいと思うけど……サヤ、移動速度は今くらいの速度でいいか?」
「うーん……じっくりと観察するなら、今くらいの速度がいいかな? 私の方はもう少し速度を上げてもいけると思うけど、ハーレの方が厳しくない?」
「UFOが隠れてる状態なら、このくらいの速度じゃないと見落としそうなのさー!」
「あ、そうなんだ」
「だとよ、アル」
「なるほどな。それなら下手に速度も上げられないか」
サヤが探している落下物の痕跡は速度を上げてもなんとか探せそうな雰囲気だけど、ハーレさん達が探しているUFOそのものは……流石に墜落前の発見は容易ではなさそうだ。
くっそ、UFOがどこに現れるかが分かれば、待ち構えて撃墜して――
「って、ちょい待った。黒の異形種って、なんでUFOを墜落させに来れたんだ?」
「……そういえば、タイミングよく転移してきてたな」
「……何か……要素がある?」
「それ、可能性はありそうなのさー!」
「だよなー。となれば……有用そうなのは『進化の軌跡・侵食』か?」
死が確定する変質進化だけど、これを使えば黒の異形種と同じような状態にはなれるはず。察知する為の手段が、この進化の先にある? ノーヒントの状況を脱するには、これに賭けてみる価値はあるかも。
「……『進化の軌跡・侵食』? それは、何?」
「初耳だね? ラジアータ、知ってる?」
「それならまとめを眺めていた時に見たな。黒の異形種に近い姿になる、纏属進化とは別の一時的な進化……変質進化の一種だったか。それを実行する為のアイテムだそうだ」
「あー、変質進化! コイコクさん達が竜に進化するあれの一種! え、黒の異形種になれるやつもあるんだ?」
「……そんなのがあるんだ?」
ふむふむ、曼珠沙華の3人はこの辺の情報は持ってなかったんだね。説明をしてくれたラジアータさんも、まとめを見て初めて知ったっぽいしなー。
「……その『進化の軌跡・侵食』、ケイさん達は持ってるの?」
「持ってるには持ってるけど……これ、デメリットが厳しい上に、入手手段自体が結構厳しくてなー」
「……そうなの?」
「『刻瘴石』を瘴気強化種に使用して、黒の異形種を生み出し、その撃破から確定入手らしいが……そもそも『刻瘴石』自体が、アブソーブ系スキルで瘴気魔法を吸収して生成する必要があるみたいだな。ほう? 浄化魔法を吸収して生成する『刻浄石』なんてのもあるのか。こっちは黒の暴走種を半覚醒にする効果で……ふむふむ。こっちでは特性を得る変質進化が可能な『極意シリーズの進化の軌跡』とやらが手に入るのか」
「へぇ、そんなアイテムがあるんだ? ラジアータなら生成……あ、吸収する元がないか」
アブソーブ系のスキルを持ってても、吸収が出来る瘴気魔法や浄化魔法を使ってくれる相手がいなければ意味が……って、ちょい待った!?
「ソラさん、確か最初に手に入れてたのって『刻瘴石』じゃなかったっけ!?」
「ん? 僕が手に入れたのは、まぁ確かにそうなるけど……あぁ、なるほど。使ったとしても、新しく入手する機会はあるんだね」
「そうなるよな!」
入手率がどの程度なのかは分からないけど、黒の異形種を生み出して撃破して、補充する事は出来る! それに、『変質進化・侵食』は『纏浄』で相殺が可能だから……1日1回なら、死亡せずに元に戻る事も可能か。
「よし、ちょっと試してみるか! 『侵食』でのUFOの捜索を!」
「え、ケイ、やるのかな!?」
「おっ!? ケイさん、試してみるのか! そういうの、躊躇ないよな!」
「……紅焔も、割と躊躇はない方だよね?」
「わっはっは! まぁ躊躇しても仕方ない時はな!」
あはは、まぁ紅焔さんもそういうタイプですよねー! そういう人がいるからこそ、検証は進むんだよ!
「ノーヒントで探し続けるのも、暇といえば暇だしなー。何かヒントになる可能性もあるし、試せる事は試していこう!」
「ま、いつものケイだが……流石に目立つんじゃねぇか?」
「あー、そこはなんか考えないといけないか……」
俺が『変質進化・侵食』をした場合の見た目が想像出来ないけど、周囲から動向は注視されているんだから……不用意に見える位置でやるのは良くないかもね。となれば……。
「アル、樹洞の中に入れてくれ。そこで進化してみるからさ」
「それが無難なとこだろうな。『樹洞展開』! ほらよ!」
「サンキュー! 変に気取られたくないから、みんなは外で待っててくれ」
「うん、分かったかな!」
「あぅ!? スクショの撮影チャンスがー!?」
「はいはい、ハーレ。残念だろうけど、今は仕方ないからね? ここは我慢しよ?」
「……はーい」
見た目にどういう変化があるかが気になるんだろうし、ハーレさんが見たい気持ちも分かるんだけど、今回は隠す方を最優先で! この手段を使える人はまだかなり限られるとはいえ、UFOの索敵が可能かもしれない手段を大々的に見せる訳にもいかないからね。
という事で、俺だけアルの木の樹洞の中に入ってきた。万が一、死んでしまった場合でもアルの木に設置しているリスポーン位置から復活すればいいし……纏浄は1日1回しか使えないし、これから試すのは死ぬつもりでやるか。
「おし、始めるぞ!」
「ケイ、少し待て」
「ん? アル、何か問題あった?」
「いや、どういう形で索敵する気かと思ってな。進化すれば、それだけで分かるのか?」
「あー、そこはやってみないとなんとも……?」
ただ単に『変質進化・侵食』をするだけでいいのか、『侵食』のスキルの使用でどうにかなるのか……実際にやってみないとなんとも言えないんだよなー。あ、スキルの効果の拡大なんて性能もあるんだし――
「はい! 『獲物察知』の範囲拡大は出来ませんか!?」
「多分、俺の場合はそれが良さそうな気はするし、それでやってみるか」
「おぉ! やっぱりそこに可能性があるよね!」
「だなー。『危機察知』とかでも影響が出そうな予感もする?」
「はっ! 確かにそれもありそうなのです!」
「察知系のスキルなら、有効そうかな?」
「『看破』辺りでもいけそうだよね」
「その辺、実際に使ってみないと分からんけどなー」
とはいえ、可能性がありそうなスキルはいくつか思い当たる。まぁまずは『侵食』の効果が『獲物察知』に乗るかどうかの確認からやっていこうか。
「アル、今の候補で問題なし?」
「あぁ、ある程度の目処が立ってるなら問題ない。あー、それとだが……纏浄でキャンセルはするのか?」
「いや、今回はそのまま死んで復活にしようかと思ってるぞ。俺の場合、その方が色々と都合はいいしなー」
「……それもそうだな。それなら、実験は任せたぞ」
「ほいよっと! そこは任された!」
今回は死亡上等! 俺は同調種なんだし、死んでもコケとロブスターはセットで戻れるんだから、共生進化のサヤやハーレさんよりはリスクは低い!
さーて、思いついた可能性が上手くいくかを試す為にも、進化をしていこう! 条件的には成熟体からの手段になりそうだけど、UFOを墜とす為の最低ラインが成熟体って可能性もあるからね。
<『進化の軌跡・侵食』を使用して、変質進化を行います>
おっと、コケとロブスターのどっちを進化させるかの選択肢は出ないパターンか。こりゃ纏浄や纏瘴と同じで、両方が進化するっぽいな。
「……ん? ロブスターの殻の間から、痩せ細った身が落ちていってる?」
ちょ!? ロブスターの場合って、そういう変化が起きるのか!? あー、身が無くなってるのに甲殻部分だけが残ってるし、これはスケルトンって事になるのか?
<『同調激魔ゴケ』から『同調激魔ゴケ・侵食』へと変質進化しました>
<『同調激強ロブスター』から『同調激強ロブスター・侵食』へと変質進化しました>
<『侵食』が一時スキルとして付与されます>
さて、『侵食』への変質進化はこれで完了! コケの方に視点を変えてみれば……おぉ、なんか腐ったヘドロみたいなコケになっていってる!?
「ケイさん、コケとロブスターはどんな感じですか!?」
「あー、殻だけのスケルトンなロブスターと、ヘドロみたいに腐ったコケだな」
「見た目、悪そうなのさー!? というか、ゾンビとスケルトンがハイブリッドになってる気がします!?」
「……そもそもコケって、スケルトンになりようがないよね?」
「ロブスターは身が残ってるゾンビになれば、あんまり見た目が変わらなさそうかな? あ、そもそもゾンビがあるのかな?」
「そこは、分からん! てか、何気にロブスターがかなり軽くなってるなー」
軽く素振りをしてみたけど……うん、いつもよりもかなり素早く振れている。でも、軽くなった分だけ威力は下がってそう? まぁ今はそれが目的じゃないから、気にしないでいいや。
「さてと、索敵を始めますか」
「はーい!」
という事で、スキルの拡張の為にこれを使っていこう。
<行動値を0消費して『侵食』を発動します> 行動値 127/127
ちょい待って!? この『侵食』って、行動値自体は消費しないのか!? あー、でもロブスターの殻の中が瘴気で満ちて隙間から溢れ出てきてるし、HPがどんどん減り始めたし……うん、ヤバいな、これ。ただ、コケの群体数の減り方は緩やかだから、こりゃ間違いなく割合で減ってますなー。
「……ケイさん……凄い勢いで……弱ってるけど……大丈夫?」
「まぁどう考えても、大丈夫ではないな。死ぬ前に、さっさとやる事をやっておかないと……」
このまま何もせずに死んだら、何にもならないからね! 上手くいってくれればいいんだけど……これ、近場にUFOがいなくても進化損ではあるんだよな。
頼むから、これで索敵が可能でかつ、近くに存在しててくれ! 黒の異形種が索敵出来ていた可能性があるんだから、分が悪い賭けではないはず!
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 122/127
これで……って、ちょ!? え、俺を中心にして瘴気が一気に全方位に広がった!? 待て、待て、待て!? 普段と様子が全然違うし、今のはアルの木の樹洞を貫通してるなかったか!? てか、全然矢印は表示されないのに、どんどんHPと群体数が削られて――
<『同調激強ロブスター・侵食』のHPが全損しました。『同調激魔ゴケ』が大幅に弱体化します>
<群体が全滅しました>
<リスポーンを実行しますか? リスポーン位置は一覧から選択してください>
うっわ、凄まじい速度でHPも群体も全滅で死んだし……。しかも普段通りには矢印が出てなかったのが……いや待て? 今、黒く澱んだ黄色い矢印が上に表示されたぞ!? こんな色の反応、今まで見た事ないんだけど!?
「……ケイ、あっという間に死んだかな?」
「何もそれらしい演出はなかったが……どうなった?」
「ケイさん! 早く復活をお願いします!」
「発声で『獲物察知』は発動してたし、死ぬほどの効果は出てたはずだよね?」
あれ? 目に見えて大きな変化はあったんだけど……樹洞の中を見れてたはずのアルすら、さっきの広がっていく瘴気の演出に言及はなし? もしかして、俺にしか見えてなかった? うーん、まぁとりあえず復活してから聞いてみるか。
◇ ◇ ◇
という事で、アルの木の幹にあるリスポーン位置から復活! うん、普通にいつもの状態に戻ってるし、『侵食』の影響が残っているようには……いや、これは明確に影響が残ってるな。なるほど、樹洞の外を見ればこういう感じになるのか。
「あ、ケイ! 戻ってきたかな!」
「ケイさん! 結果はどうだったの!?」
「まだ正確な事は把握し切れてないんだけど、何かしらの効果はあったっぽい? とりあえず、上空に澱んだ暗い黄色の矢印が何本か見えてるけど……距離が遠過ぎて、正確な事は分からんな」
「……上空に黒い黄色の矢印か。そりゃ、まだ降りてくる前のUFOか?」
「多分、そうなるんだろうなー。あと、あちこちに薄い瘴気の渦が見えてるんだけど……そういうの、みんなは見えてる?」
「え、そんなのがあるの?」
「そんなのがあったら、気付くのさー!」
「それ、黒の異形種が出てくる出口かな?」
「多分、そうなんだろうなー。30分間、この様子が表示されていくんだとさ」
復活してから、それまでは表示のなかった30分のカウントダウンが始まってるから……おそらく、これが捕捉しておける効果時間って事なんだろう。
「……索敵は……成功?」
「ある程度の目安にはなるはず? でも、自分達のいる場所の近くに来ないと……メリットは薄いかも」
「……そっか。……何もかも……思った通りには……進まない?」
「少なくとも、今俺から見える範囲にはUFOらしき反応はないしなー」
近くにUFOはいない可能性が極めて高くなったけど、これがUFOの反応かどうか確定もまだ出来ないんだよね。いや、十中八九そうだとは思うけど、ちゃんとUFOを指し示しているのを見ないと断言は出来ないし! これ、グレイを筆頭とした身体を得てない精神生命体の反応だったりしたらしょうもないんだよな……。
見えてる矢印は上空過ぎて、参考にならんわ! 落下物そのものは察知出来てないみたいだし……いや、それでも大きな進歩か。
「……30分以内に、近くにUFOが降りてこないと意味がない?」
「んー、ノーヒントよりは遥かにマシだけど、運要素が強くない?」
「元々、運頼りなイベントだぞ? 少しでも目安になるものが出てきただけ良い方だろう」
「まぁそりゃそうなんだけどさー」
リコリスさんの微妙そうな反応は分かる! この反応って、見えたところで現状ではどうしようもないもんな!?
黒の異形種が出てくる可能性がある場所も分かるみたいだけど、何の役に立つんだよ、これ! 分かる事って、この渦の付近をUFOが通ったら襲いにくるってくらいじゃね? そんなタイミングなら、サヤやハーレさんが目視で見つけ……あ、誰でも見つけられる訳じゃないから効果自体はあるのか? いや、UFO自体も察知出来てるなら、意味はない気もする……。
あー、結局はUFOが降りてくるまで、ひたすら探し回るしかないのか。うーん、レアアイテムを使って死んだ割には渋い結果だね……。
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