第1481話 迫ってきたのは
あまり遠くにはならないようにするけど、俺とサヤとアルとヨッシさん、ハーレさんと風音さん、曼珠沙華の3人で手分けをする事になった。
まぁまだ何も見つけてはいない状況だし、探す為の指標すらないんだし、ここで全員で固まって探すよりは効率はいいはず。流石に今はまだ対人戦になるとは思えないし――
「……っ!?」
「リコリス!」
「いきなり奇襲!? 『アクアクリエイト』『水の操作』!」
ちょ!? え、いきなり大量の水を生成!? え、何事……って、水の中に思いっきり見覚えがある木の人がいる!?
「ふふーん! どこの蜜柑の木かは知らないけど、いきなりケイさん達に突っ込んでいこうとは……って、待って!? 水の中で大暴れし過ぎ!? こんの! ラジアータ!」
「一気に仕留め――」
「ストップ! 曼珠沙華、ストップ!」
「なぜ、ケイさんが止める?」
「……なんで? 襲ってきた赤の群集のプレイヤーだよ?」
「それも、赤のサファリ同盟じゃん!」
「いやいや、ルストさんは絶対に襲ってきたって意識ないから! てか、シュウさんの弟なんだけど、面識ないのか!?」
「……シュウさんの、弟?」
「え、弟、いたの!?」
「ならば、尚更仕留めるまでだ!」
「だから、待てーい! 約束の状況ではないからな!」
曼珠沙華は基本的に、俺の指示に従うって話だったよな!? ぶっちゃけ、ここでルストさんを仕留めるメリットは皆無だし、どう考えても襲ってきたわけじゃないわ!
「ふぅ……いきなり酷いではありませんか、ケイさん!」
「え? わっ!? 破られてる!? え、剥奪された訳じゃないのに、どうやって!?」
……あー、うん。ルストさんは、マジでどうやって水の操作Lv10の中から抜け出てきたんだろう? それっぽい攻撃動作は見えなかったけど……可能性としては根の操作がLv10になってて、それで真正面から相殺したのかも?
「おや? どなたですか、この変わった感じの3人組は?」
「……この人、強い」
「ちっ、赤のサファリ同盟はやはり化け物揃いか!」
「なんで止めたのさ、ケイさん! これだけ強くて、赤のサファリ同盟なら、どう考えても敵でしょ!」
えーと、なんでルストさんと曼珠沙華が対峙して、俺がそれを止めてるという構図になるんだ? あー、そういやルストさんは例の別のゲームには参加してなかったって話だっけ? なるほど、だからお互いに面識が無くて、こういう状態に陥ってるのか。
「どっちも説明するから止まってくれ! アル、ルストさんのすぐ側まで移動してくれ!」
「ま、そうするしかないか。曼珠沙華、ここで戦ってもメリットはないし、相応の理由もあるからケイの指示に従え。……いきなり、指示を聞かないなんて認識になっても困るだろう?」
「シュウさんの弟なら、それだけで理由になると思うんだけどー?」
「身内が攻撃されれば、否応にも出てくるだろうが……」
「……相応の理由があるみたいだし、リコリス、ラジアータ、抑えて?」
「……とりあえず、理由くらいは聞きましょーか」
「別に、荒波を立てたい訳でもないしな。ひとまずは引き下がろう」
ふぅ……ルストさんの急な遭遇は、傍目には奇襲にしか見えないだろうから、まぁ警戒する気持ちは分かるんだけどね。でも、ルストさんは対人戦には一切興味がない……どころか、この状況でならいい情報源になる得る人だからなー。
「あの、ケイさん……何故、私は急に襲われたのでしょうか? てっきりケイさんの水で止められたのかと思いましたが、あの水圧で圧し殺すのはケイさんのやり方ではありませんよね? 今のやり取りを聞く限り、そちらのトカゲの方がやったように思われますが、その辺はどういう事でしょうか!? 今回のイベントは対人戦の可能性はあるとは聞いていましたが、ここまで無差別な攻撃を受けるのであれば――」
「襲ってきたの、そっちが先でしょうが!」
「リコリスさん、待った! ルストさんと遭遇した時、いつも大体あんな感じで一気に近付いてくるんだよ! でも、それ自体に害はないから! ……加減を誤ってダメージが入ったりもするけど、奇襲ではないから!」
自分で言ってて思うけど……今のを奇襲じゃないって主張は、ぶっちゃけ苦しいよね。でも、それが事実なんだし、こう言うしかない!
「……ダメージがあっても、奇襲じゃないの?」
「そうそう! 本当、どう説明したらいいのか分かりにくいけど、それが事実だから!」
「俺からもそれは事実だって言っとくぜ。赤のサファリ同盟の『捕獲者』と呼ばれるルストさんは、気に入った人には急激に迫っていくってのは有名な話だからな。むしろ、曼珠沙華の3人は知らないのか?」
おっと、桜花さんの方から補足をしてくれるっぽい。てか、ルストさんって俺ら以外にもそんな事をしてて、『捕獲者』なんてあだ名まであるんかい! まぁどういう光景か、簡単過ぎるほどに想像出来るけどさ。
「……何か聞いた事は、あるような?」
「あっ! 対人戦には全然出てこない、異常に強いプレイヤーってのは聞いたことある!」
「『捕獲者』か。確かに聞き覚えのある呼び名だが……赤のサファリ同盟の所属プレイヤー……おい、それがシュウさんの弟だと!? そうなるとあれか!? 弥生さんによく吹っ飛ばされているって木が、この木か!?」
「そうそう! その木が、このルストさん!」
どういう認識のされ方だよ、それ! でもまぁ、それが事実なんだし、全体像が分かってなくても断片的にでも知っている情報があるなら、そこが取っ掛かりになる!
「ルストさんは、よく弥生さんに吹っ飛ばされてるよな!」
「今更な事をどうしたんですか、ケイさん? まぁあれは弥生さんには控えてもらいたいのですが……何度躱しても、すぐに行動を読まれるようになって、また吹き飛ばされてしまうのですよね。根の操作をLv10にしたら対応し切れるかと思いましたが、真っ向からなら抑えられますけども、フェイントの数も多くなりまして……なかなか、厳しいものがあるんですよ。まぁあれはあれで迫力のあるスクショが撮れますので、決して悪い事でも――」
うん、相変わらずの長語りだけど……これでこそルストさんだよな。てか、ちょいちょいルストさんが躱す様子は見る事もあるけど、弥生さんはその度に躱されないように調整をしてるのもとんでもない話だよね。
「根の操作Lv10って言ってたね、今!? さっき私の水を破ったの、それかー!」
「相当な実力者だな、このルストという人は」
「……ケイさん、なんで害はないの? 悪意がなくても、今の状態でいい事ではないと思うよ?」
「あー、まぁそれはこれからの情報次第だな」
ぶっちゃけ、ただ単に見掛けたから挨拶をしにきただけという可能性もあるけど……ルストさんの場合、それだけじゃない可能性はあるからね。あんまり群集とか気にしない人だしさ。
「ルストさん、今回はどういう用件? 対人戦のなる可能性がある中で近付いてきたなら、何かしらの用事はあるんだよな?」
「あぁ、そうでした! いきなり襲われたものですから、すっかり抜け落ちてしまうところ――」
「ちょっと! 私から襲ったみたいに言われるの、流石に心外なんだけど!」
「……リコリス、落ち着いて。それを言い始めたら、話が進まない」
「ぶー! 納得いくだけの情報を寄越しなさーい!」
うん、まぁリコリスさんの気持ちはよく分かる! あの対処、ルストさんが相手でさえなければ決して間違ってはいないし、今の状況としては適切な行動だからね。
いや、本当にルストさんの行動パターンは特異過ぎて、状況の説明がややこしいな!? だからこそ、弥生さんが毎度吹っ飛ばすなんて事をしてるんだろうけどさ。
「どうも、今日は調子が狂うような要因がいるようですが、話を戻してもよろしいでしょうか?」
「ねぇ、ケイさん? やっぱり全力で仕留めていい? なんかこの人、私は苦手かも?」
「待った、待った!? リコリスさん、待った! 全然よくないから、それ!」
「落ち着け、リコリス。弥生さんとシュウさんと戦う時以外は、混乱を招くような行為はしない約束だぞ」
「……はーい」
ふぅ、ラジアータさんが抑えてくれて助かった! リコリスさんも決して無駄に荒事を起こしたい訳じゃないっぽいし、ここで変なトラブルになるのは避けたいからね。気持ちは本当に分かるけど!
「あの、ケイさん? もしかして、そちらの3人は……インクアイリーとやらにいた、弥生さんとシュウさんへリベンジを狙っている方々でしょうか?」
「あー、その通りだけど……ルストさん、その存在は知ってたんだ?」
「えぇ、シュウさんから聞かされていましたので! どうもトカゲの方の機嫌を損ねてしまったようですし、お詫びと言ってはなんですけども、今日の弥生さんとシュウさんのスケジュールをお教えしましょうか?」
「……知ってるの?」
「え、サラッととんでもない事を言ってない!?」
「教えてもらえるなら、教えてほしいところだが……」
あー、そりゃルストさんは弥生さんとシュウさんの住んでるマンションに居候をしてるんだし、そりゃ予定くらい知ってても不思議じゃないですよねー。てか、それって曼珠沙華が一番欲してる情報なんじゃ?
「必要というなら、お教えしましょう! 弥生さんとシュウさんは、今日は占有になった峡谷エリアに篭っているとの事でしたね! 下手に誰かと遭遇して大暴れするより、私達が集めた情報を整理して、明日以降の探索に備えるそうです!」
「……今日は、出てこない?」
「ちょっと待って!? なんで赤の群集、それも赤のサファリ同盟のメンバーが、そんなに気楽に情報を伝えてくるの!?」
「……罠か?」
まぁそう疑いたくなる気持ちはよーく分かる。ただ、これまでの経験上……これってどう考えても事実なんだよなー。
なるほど、今日は弥生さんとシュウさんは情報収集に徹して、他のメンバーがあちこちに散ってる感じか。こりゃ明日にでもフラムに探りを入れるのもありか……って、明日は土曜だから、休みだよ!
「えっへん! ルストさんは、こういう人なのです!」
「だから、ケイが止めたかな!」
「群集関係なく、色々と教えてくれるからね」
「まぁ逆に、曼珠沙華の事が向こうにも筒抜けになるだろうがな」
「そうそう、そういう感じだ!」
誇張でもなんでもなく、ルストさんは本当に自分で調べた事に関しては秘匿も何もないからなー。でもまぁ、その分だけこっちの情報漏洩のリスクがあるのは間違いないけど……。
「……なるほど、それなら止められた理由は納得」
「そういうのがあるからこそ、弥生さんに吹っ飛ばされまくってるのか? そう考えれば……大した度胸だな」
「待って! 私達が狙ってるのはもう知られてるからいいとして……逆に伝言を頼む事は出来たりもする!?」
「伝言くらいでしたら構いませんよ? ただ、その伝言を聞いて弥生さんとシュウさんがどう動くかまでは保障しかねますが……そういえば、弥生さんがケイさんにリベンジするとも言っていましたね? 連絡をいただければ、場所は整えられるかもしれませんよ」
「それは却下で!」
サラッととんでもない事を言ってくれるな、ルストさん!? 俺としては、弥生さんと積極的に遭遇しに行く気はないから!
「えー、ケイさん、そこは受ける流れじゃないの?」
「リコリスさん、それは勘弁してくれ。これで受けても、曼珠沙華が戦いに行くんじゃ、俺が騙したような形になるから! そういう騙し討ちはなし!」
「あ、そっか。流石にそれは申し訳ないし、無茶だよね」
「そうだぞ、リコリス。周りに迷惑をかけるのは、不本意だからな」
「……そうだよ。ルストさん、これだけ伝えて。『ケイさんと戦いたいなら、その前に過去の精算をして』って。待ち構えてるのは、知られても問題ないとも」
「えぇ、分かりました! 色々と大変なようですね、ケイさん!」
「……まぁね」
その大変さの中に、今のルストさんとの遭遇でのあれこれも含まれてるんだけど……まぁそこは言うまい。むしろ、どこかで今回の事態が発生するのが確実だろうから、早い段階で済ませられたと考えよう。
「はい! それで、結局、ルストさんはどういう用事ですか!?」
「あぁ、そうでした、そうでした! 皆さん、今のイベントを行っている最中ですよね? そこの下に落下物がありましたので、よろしければと思いまして!」
「何?」
「待って!? それ、言っちゃっていい内容なの!?」
「……何が目的?」
まぁそんな可能性もあるとは思ったけど、そりゃ警戒しますよねー。今回、灰の群集の人ですら協力関係を結んでいなければ敵みたいなもんだしさ。
「ただ単に数が多くて、もうメンバーで回収出来る人は済ませているんですよ! これ以上は回収出来ないので、そろそろ他の場所へ移動しようと思ったら、見知ったケイさん達を見掛けたので、よろしければと思ったのですが……まぁ不要というのであれば、適当に情報を流して――」
「いやいや、いるから! ルストさん、貰えるなら俺らが貰う!」
「そうですか! では、場所へ案内するので着いてきて下さい!」
「ほいよっと! アル、頼む!」
「おうよ」
周囲は……人がいるけど、距離はあるから大丈夫だな。まさか、出発してすぐの場所にあるとは思ってなかったし、ルストさんから教わるとも思わなかったけど、これはラッキーだね!
「……ルストさん、かなりの変わり者?」
「……相当な……変わり者だよ? ……この前も……並木で……目立ちまくりながら……スクショを……撮ってた」
「え、並木で!? あそこ、灰の群集の占有エリアだよね!?」
「あー、それ、共同で検証をしてた時に、一時的に通行を許可したやつだな」
「共同の検証だと? ケイさん、どういう人なんだ、ルストさんってのは?」
「……変わり者としか言いようがないかも? まぁ色々とビックリはするけど、害はないから! そこを気に留めといてくれれば問題ないぞ」
「……分かった。それでいいよね、リコリス、ラジアータ」
「微妙に納得いかないけど……そうするしかなさそう!?」
「まぁケイさんが大丈夫と言うなら、大丈夫なんだろう」
もうちょっと納得しやすいように説明してあげたいとこだけど、ルストさんに関しては本当に難しいからなー。それでもなんとか受け入れてくれたようで、助かります。
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