第1474話 夜からのイベントの前に
ふむふむ、何度か使ってみて加減が分かってきた。かなり水を絞っているけど、実際に筒やチューブみたいなものが存在してる訳じゃないから、砂の消費が早いのはそのせいっぽい。
ウォーターカッターというよりは、超高速で撃ち出した砂で削り取ってる感じ? いや、元々そういうものか。水だけじゃ、ただの高圧洗浄機でしかないっぽいもんな。
まぁそれでも脆い部分なら破壊出来るけど、切断するには砂は必須。でも、砂を加速させる際に、水の操作だけでは大きく負荷がかかっている様子だね。……砂の操作が追いつけるほどの精度になれば、もっと負荷は減らせ――
「……なんか、戻ってきたら凄い事になってんな?」
「……おかえり、桜花」
「おう、戻ったぜ。風音さんは、根を燃やしてんのか」
「……使いにくい部分は……処分中」
「ま、どうしても根の部分はそうなるか。燃料に出来ない訳じゃないが、そりゃ葉や枝で十分だしな」
「……うん」
おっと、桜花さんが戻ってきたか。もう18時半を過ぎてるけど、思ったよりも戻ってくるまで時間がかかってたね?
「あー、ケイさん? そりゃ、水で切断してるのか?」
「生成した水に砂を混ぜて、ウォーターカッターにしてみてる! 結構、効率はいいぞ!」
「……なるほど、そういう手段か。ケイさんの水の操作がLv10だからこそ、出来てるのか?」
「前に試した時には出来なかったし、そういう事になるなー。結構慣れてきたし、大体の根は落とし終わったぞ」
「……早いな、おい!?」
「ふっふっふ! 頑張ってやったのです! ところで、使った砂はどうなったのー?」
「あー、消滅してるっぽい?」
結構な量の砂を消費した気はするけど、その辺に散らばっている様子はない。魔法産の水は消滅して濡れてないのは分かるけど、砂は……摩耗して跡形もない塵になってるのかも? まぁそこら中に砂が残る方が面倒だから、別にこれでもいいけどさ。
「砂はハーレさんが弾として持ってるやつを使ってたのか」
「そうなのさー! でも、消費がとんでもなく早いのです! 桜花さん、補充をお願いしたいのさー!」
「おう、そこは任せとけ!」
おっと、思った以上に砂を消費してたっぽい。まぁ桜花さんから弾の調達はいつもやってる事みたいだから、そこは任せるとして……。
うーん、このウォーターカッターの威力は凶悪だけど、砂の使用が必須なのが少し実戦で使うのには微妙な要素だな。自分で砂をいくらか持っていれば、インベントリから取り出しつつ、攻撃に移れるだろうけど……。
「桜花さん、俺にもいくつか砂をもらえない? 自前で持っときたい」
「おう、構わんぞ。それと無事に、黒曜石のナイフは手に入ったが……このペースで解体が進むなら、そっちのと一緒でいいぜ」
「え、いいのか!?」
「予想以上に早く片付きそうだしな。薪になったら、その後はトレードに回せるし……むしろ、この量だと報酬が足らないくらいか……」
「あー、そうなるのか」
ふむふむ、今の倒木の状態じゃ使い物にならなくても、薪に変わってしまえば、どうとでもトレードは……って、ちょっと待った!
「もしかして……この木、全部桜花さんの所有?」
「ん? いや、管理は任されてるが、全部が全部俺のじゃねぇよ。今日の夜くらいから、この周辺の連中からの共同依頼って事で、薪への加工を頼もうかって思ってたとこでな」
「あー、そういう……あれ? ちょっとやり過ぎてる?」
この勢いのまま続ければ、俺らが晩飯でログアウトする頃には丸太くらいまでの処理は終わる気がするぞ? そこからサヤとヨッシさんも加工していくとなれば……。
「いやいや、夜からはイベントもあるから、人が集まるかどうかも懸念材料だったしな。早く済む分には助かるぜ」
「……なるほど」
「ただ、今の時点じゃ俺から報酬が出しにくくてな?」
「あー、共同でするつもりだったなら、そうなるのか」
「そういう事だな。……別に報酬を出さないつもりじゃないが、少し待ってくれるか? 他の連中とどうするかを話し合って決めるからよ」
「それで問題ないのです! いいよね、ケイさん!」
「特に急かすつもりもないし、それでいいぞ」
「おう! それなら助かるぜ!」
というか、元々は俺らがトレード分の代わりとして作業していた分をやり過ぎた結果だしねー。いやー、ウォーターカッターでの切断作業は本当に早い!
「それと、この黒曜石のナイフは……ハーレさんに渡しておくのでいいか?」
「問題ないぞ。まぁ枝を落としていくのは、ウォーターカッターでやるけど」
「黒曜石のナイフは脆いそうだし、今は温存なのです!」
「おし、了解だ! 砂は大量に在庫があるから、思う存分使ってくれ!」
「はーい! ケイさん、可能な限り、大量の丸太を作っていくのさー!」
「ほいよっと。サヤやヨッシさんが暇になるくらい、盛大にやってやりますかね!」
「頑張るのです!」
どんどん感覚は掴めてきているし、枝を落とすのは割と大雑把でも大丈夫だろ。出来れば、丸太を割ればいいくらいまでの加工までしておきたいとこだね。さーて、全力でやっていきますか!
◇ ◇ ◇
それから19時目前まで、ひたすらウォーターカッターで切断を続けていった。ザックリと切り落とした枝は風音さんが拾い集めて、枝から葉を千切っていたし、枝も細かく切っていた。
そうして出来た枝や葉は乾燥させて、焚き火を起こす時の燃料にするそうである。なんだかんだで、料理をする人達に需要が高いとか?
「おっし、とりあえずこんなもんだな!」
「ふっふっふ! 7割くらいは、もう割るだけなのさー!」
途中からは移動操作制御の水のカーペットで、切り終えた丸太を一ヶ所に積み上げつつ、枝を落とした丸太の輪切りも進めていった。
いやー、一回ずつの発動コスト自体が低いから、サクサクと進むもんだね! 土の操作で作った石のナイフとかでは、まだまだ時間がかかってた気がするよ。
「すげぇもんだな、水の操作Lv10ってのは!」
「まぁこれ以上、Lvが上がらない到達点だしなー。他より性能が良くないと、上げたい価値がない!」
「そりゃ違いねぇ! ……って、ケイさん? それじゃ、他のスキルが育たないんじゃねぇか?」
「いやいや、今回のはウォーターカッターの慣らしになったから問題なし! スキルLvの熟練度にはならなくても、プレイヤースキルの向上にはなるからな!」
「あー、そういうもんか」
「……差が出るのは……そういう部分」
「そういう事なのです!」
そこはハーレさんが偉そうにする場面じゃない気もするけど……というか、ハーレさんこそ、プレイヤースキルすら鍛えられていないんじゃ? ただ、俺の生成した水の中に砂を入れてただけ――
「それ、ケイさんの指示だよ!?」
「……まぁそうなんだけどなー」
うん、また思いっきり声に出てたらしい。昨日の夜にフィードバックを送ったけど、何かしらの変化はありませんかねー!? ……やっぱり、ちょっと時間がかかるのかも?
「うー、まぁいいや! お腹空いたー! ケイさん、ログアウトしよー!」
「それもそうだ……あ、そういや、俺の分の砂をまだ貰ってないような?」
「それは後で私のを分けるのさー! 早く! 早く!」
「そんなに急かすなよ!? 桜花さん、風音さん、サヤ達によろしく!」
「おう! 俺も飯は食わなきゃならんけど、誰かが来てからでいいか」
「……うん。……それがいい」
なんか桜花さんと風音さんを待たせるような形になってしまうけど……大きく支障がある訳じゃないっぽいし、任せてしまおう。
想定よりもかなり進めてしまった感じはあるけど、サヤとヨッシさんは、俺らが何をしてたか自体は知ってるしね。変に混乱を招く事もないはず!
さてと、俺も腹が減ったし、ログアウトだなー。今日の晩飯、メニューはなんだろ?
◇ ◇ ◇
ログアウトをして、いつものいったんのいるログイン場面も手早く済ませ、現実へと戻ってきた。新情報があるのは19時のお知らせ更新だろうから、晩飯を食ってから確認すればいいだろ。
「お知らせを確認してから、晩飯でもいいんだけど……それだと落ち着かないしな」
まぁイベント開始が19時からとも限らないし、ササっと飯を食ってから考えればいい……って、メッセージが届いた? あー、直樹からか。
「……なるほど、晩飯を食ってからログインするんだな」
一応、それから本格的に灰のサファリ同盟の初心者講座を受けにいくみたいだけど……明日が予選なのに、そんな油を売ってて大丈夫か?
いや、モンエボが特訓になるって話なんだし、完全に遊んでる訳でもないのか。うーん、遊びなのに遊びとも言い切れないのがなんとも言えない不思議な気持ち。
「兄貴!? なんで降りてこないの!?」
「あー、直樹からかメッセージが届いててな?」
思いっきり駆け上がってくる足音が聞こえた後、勢いよくドアを開けられた。……うん、急かし過ぎじゃね?
「晴香、どうかしたのか? 妙にテンションが高い気がするんだけど……」
「サヤがこっちに遊びに来る事になったんだもん! 当然なのさー!」
「あ、やっぱりそれが理由か。いや、でも晩飯を急かす程でもなくね?」
というか、今日の晩飯を急かしたところで、サヤが遊びに来るのが早まる訳でもない。そもそも、晴香が遊びに行くのすらまだなのに――
「その件で、お父さんとお母さんに相談があるから急いでるのさー!」
「ん? あー、言ってたバーベキューの件か?」
「そうなのさー!」
「……なるほど」
流石に気が早いような……いや、来るのがお盆なら、もう1ヶ月程度だし、そこまで早くもないか。
既に父さんには母さんから情報は伝わってるだろうけど、バーベキューをしたい事までは伝わってないはず。少し前にゲーム内で出た話題なんだから、そこまでもう知られてたら怖いわ!
「だから、早く!」
「そういう事なら早めにログアウトしてれば……あー、母さんの邪魔になるから、そういう訳にもいかなかったか」
「そういう事なのさー!」
「へいへい。それじゃ、さっさと降りますかね」
「うん!」
晴香、サヤがこっちに遊びに来るのが相当嬉しいっぽいね。まぁサヤも幼馴染2人の話題に入れずに寂しそうにしてる時があるから、こっちでの思い出を共有出来る良い機会になりそうではあるよな。
◇ ◇ ◇
晩飯のチキンカツを食べながら、晴香は父さんと母さんに要望を伝えていた。まぁ食べ終わるまでに話が終わらなかったので、全員でお茶を飲みながら話は継続中。
サヤが来る事自体は既に話が通っているし、晴香が希望している事もある程度は予想済みだったようで、あっさりとバーベキューの開催は決定になったけど――
「晴ちゃん、折角ならみんなに泊まってもらったら? バーベキューの後、そのままのんびり出来るわよ?」
「え、良いの!?」
「ぶっ!?」
「おいおい、圭吾。いきなりお茶を吹き出すなよな」
「……ごめん、父さん」
でも、今の内容は驚くわ! いやいや、それってサヤとヨッシさんが家に泊まっていくって事だよな!? ラックさんも来るって話になってたから、ラックさんもか!?
確かに客間はあるし、バーベキューをして、そのままのんびりも出来るだろうけど……マジで? え、本気で言ってる?
「あらあら、圭ちゃん? 随分と驚くのね?」
「いや、だって……今まで俺も晴香も、誰か友達を泊めた事ってないよな?」
「あら? 別に駄目と言った覚えはないわよ?」
「……あー、そういやそんな気も?」
今まで誰かを泊めるなんて話をした事がなかっただけで、別に駄目ではなかったのか。って、そうじゃない!?
「俺や父さんがいる中で、泊まっていくってのって嫌がらない?」
「大黒柱に向かって、すごい言い様だな? なぁ、圭吾?」
「ちょ!? えっ!? 痛い、痛い!? 父さん、離してくれね!? 悪気があって言ってる訳じゃないから!」
「まぁ今のは圭吾自身もその中に含めてるし、そういう事にしといてやろう」
「……どうも」
まったく、いきなりヘッドロックをかけてくるとか勘弁してくれ!? 冗談でなく、全員が高校1年の女の子なんだから、適当な事を言ってる訳じゃないっての!
「多分、大丈夫だとは思うけど……一応、みんなに聞いてからにするのさー!」
「おう、そうしとけ! 圭吾の部屋には、明日鍵が付くからな! それで閉じ込めておくってのでもいいからよ!」
「ちょ!? 父さん、何言ってんの!?」
「わっはっは! 冗談だ、冗談! ま、仮に泊まる事になっても、変な事はするんじゃねぇぞ? 風呂を覗きに行くとか、やろうもんなら一晩くらい追い出すからな?」
「しないっての! どういう疑われ方!?」
むしろ、そういう風呂上がりの姿で遭遇するような自体が発生する可能性もあるからこその心配なんだが!?
「あ、そうそう。圭ちゃん、明日の鍵の取り付けは午前中になるからね。出来れば、その間は他の部屋にいてね」
「ほいよー。あ、その間は客間を借りていい? あそこでフルダイブしとく」
「それで良いわよ。台所も食洗機の設置があるから、リビングだと落ち着かないでしょうしね」
「おし、ならそれで!」
待望の自室の鍵だけど……ホームサーバーと連動した電子キーって話だったから、冗談抜きで外から閉じ込めようと思えば出来るヤツだな。いや、変な事はしないけど!
……本当にサヤ達が泊まりに来る事になるのか? あー、泊まるのが嫌だと言われたら、それはそれでショックかも……。
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