第1473話 トレード分の働き


 サヤとヨッシさんは晩飯を食べにログアウトした。さーて、石器の作成に関しては後で調べるとして、まずは山積みになってる木の撤去を……。


「そういや、ハーレさんはどうやって木の撤去をやる? リスで出来るか?」

「はっ!? 解体手段、持ってないです!?」

「……だよなぁ」


 ある意味、今すぐにでも石器が必要かもしれない。それなら、邪魔な枝とかは落としていけるだろうし……。いや、でも無いんだから、どうしようもないよな?


「あー、ケイさん? 黒曜石そのものじゃなく、加工済みのナイフなら在庫は見つかったが……どうする? すぐにいるなら、調達してくるぞ?」

「あ、ナイフそのものがあったのか!?」


 まさかの桜花さんからの情報! 加工済みの流通量はほぼないと思って、原材料の方を探してもらってたけど、実物があるなら丁度いい!


「ハーレさん、それを使うのでいいか!?」

「問題ないのさー! むしろ、すぐに必要になるのです!」

「おし、それじゃすぐに引き取りに行ってくるわ。何とトレードかは、まぁ後でもいいな。風音さん、ちょっとの間、店番を頼むぜ」

「……任せて」

「さーて、それじゃ出張用にメジロへ切り替えだな!」


 そう言って、桜花さんは一旦ログアウトしていった。普段は共生進化にしている不動種の桜とメジロを、別々に動かせるようにしてるんだろうね。


「それにしても……まさかこの短時間で、実物そのものが見つかるとはなー」

「ふっふっふ! ラッキーなのです!」

「まぁそうなんだろうな。手に入ったら、ハーレさんにはそれで枝を落としてもらって……その間に、俺が薪にする寸前くらいの丸太までの加工をしますかね」

「はーい! 今のうちに使い慣れておくのです!」

「どのくらいの耐久性があるかも、確認しとかないとな」

「はっ!? すぐに壊れると、困るのさー!?」


 下手すると使い捨てレベルの強度しかない可能性もあるし……強度チェックは最優先だな。


「……黒曜石は……脆いよ? ……割って……ナイフが作れるくらいだし……ガラスみたいな……性質だから」

「あー、加工出来る分だけ、強度はいまいち?」


 黒曜石の実物って見た事ないけど、ガラスみたいな感じなのか。なんというか、ナイフの形状まで加工するのはそれほど難しくなさそうだけど……もの凄く強度には不安が出てくる情報だな!?


「……色々と捌くのには……多分、使える。……でも、木の枝は……厳しい……かも?」

「わー!? それじゃ意味ないのさー!?」

「いやまぁ、全くの無意味でもないけどな? でも、これからの用途には向かないのか……」


 うーん、何もかも上手くいくとはならないですなー。なるほど、需要がないのは使い捨てに近い上に、自分で氷や土で生成した方が遥かに楽だからか。

 あ、桜花さんがメジロだけで戻ってきて、あっという間に飛び去っていったな。まぁ脆いとしても、何かしら使い道は――


「はっ!? 黒曜石自体を爆散投擲で破裂させたら、結構危険な気がします!」

「あー、確かにそれはそうかもな? てか、その辺に転がってる石を割って、石斧でも作れないもんかね?」

「……多分、出来るよ? ……研げば……磨製石器が……出来る」

「……そういや、石器にも種類があったっけ」


 えーと、どこかの授業で習った覚えはあるけど……なんだっけなー? あぁ、思い出した! 打製石器と磨製石器だったはず! 割って作るのと、研いで作るやつか!


「あ、刃を付ければいいんだったら、鋭利な形に石自体を切ってしまえばいいのか。えーと、適当な大きさの石は……」

「はっ!? 完全にケイさん、作ってみる気なのです!?」

「誰用に用意しようとしてると思ってんだよ?」

「あぅ……私なのさー!? でも、どうやって切るの?」

「水に砂を混ぜて、ウォーターカッターにして切る」

「わー!? おっかない手段なのさー!?」


 今の俺の水の操作なら、おそらくそれは可能なはず! というか、水の操作Lv10で無理なら、この加工手段は無理だろうな!


「おし、とりあえず適当に切ってみるか。風音さん、切る石の固定をお願い出来ないか?」

「……面白そうだし……任せて! ……どの石に……するの?」

「お試しだし、まぁこれでいいだろ」


 適当にその辺にあった、少し大きめな石を持ち上げて……ちょっとデカいか? まぁ切れるかどうかの確認なんだし、別にいいや。


「……この石……だね? ……『アースクリエイト』『土の操作』」

「風音さん、サンキュー!」


 さて、適当に拾った少し大きめなだけの、ただの変哲のない石だけど……そういや、この石の種類って何になるんだ? まぁ特になんの表記も出てないし、ただの石って事でいいのかもね。

 ハーレさんの投擲に使ってる石だって、表記は『石』でしかないから、特別にこれといった特徴のないただの石なんだろうさ!


 そういや、鉱石系が出るようになったとは聞いたけど、宝石系も出るようになってたりする? 宝石はオフライン版で用途があったけど……まぁそれは今はいいか。

 倒木を薪にしないといけないんだから、そんなに脱線してる場合じゃないし、サクサクやっていこう!


「ハーレさん、砂をくれ。流石にその辺の土より、砂の方がいいだろうし」

「はーい! 砂をどうぞ!」

「サンキュー!」


 さて……問題はこの砂を制御下に置くかどうかだよな? 砂の操作じゃ、どう足掻いても今のスキルLvでは操作し切れる範囲じゃないだろうから……下手に操作しない方がいい気がする。だからこそ、生成せずに天然の砂を使う訳で……。

 やるなら、水の勢いだけ砂を巻き込んで……いや、それだと持ち上げる時が厳しいかも? ふむ、それならこうするか。


<行動値1と魔力値2消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 120/121(上限値使用:6) : 魔力値 312/314


 とりあえず普通に水を生成してから……。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『砂の操作Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 102/121(上限値使用:6)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を4消費して『水の操作Lv10』は並列発動の待機になります>  行動値 98/121(上限値使用:6)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 よし、これで空中に浮かぶ水の中に、砂を留めておくのに成功! あとは、この砂の操作を解除すると同時に、思いっきり絞りまくった上で水を押し出すように砂と一緒に流して……。


「おー、切れるもんだな! あ、切れなくなった?」


 ありゃ? 最初は綺麗に石に切れ込みが入ったけど、いきなり切れなく……あ、砂が無くなったのか!? なるほど、純粋な水だけではあれほどの切れ味は出ないんだな。


「ハーレさん、水の中に追加で砂を入れてくれ!」


 ん? あれ? なんで無反応? 結構上手くいってたのに、驚く声すら出てこないって何故?


「おーい、ハーレさん?」

「ケイさん、今の切れ味はとんでも無さ過ぎるのさー!? 前にやってた時より、全然余裕そうだし!」

「あー、まぁ実際余裕だしな。……それでも、結構操作時間は減ってるか」


 今の一瞬で3分の1くらい一気に消費したんだから、まぁ負荷は半端ないのは確実だね。Lv10だからこそ、なんとか実現可能って範囲な気がする。

 でも、砂の操作がこの勢いに合わせられないのは確実だな。別々に用意して、ようやくなんとか出来るレベル。……これ、合わせられる水準の砂の操作の制御下にあれば、砂の追加生成をし続けて、効果をもうちょっと持続出来るような気も――


「もう石器はいらない気がするのさー! 私が砂を補充するから、ケイさんがこれで切って行くのが早いと思うのです!」

「あー、それもありだな。元々の目的はそれだし、それでやっていくか。でも、細かい枝を落とす作業はこれには向いてなさそうだけど……?」

「そこはヨッシに頼んでおくから、問題ないのさー! それか、切るのを早めに終わらせてから、そっちの作業をやるのです!」

「……それもそうだな。おし、それじゃその手順でやっていきますか!」

「うん!」


 土の操作の熟練度稼ぎを兼ねようかと思ってたけど、まぁ今は薪作りを最優先していきますか! ここの片付けをするのが桜花さんとのトレードの条件なんだし、まぁこのウォーターカッターの使い方の練習にもなるだろ!


「……この石は……もういらない?」

「あー、まぁそうなるな。風音さん、手伝ってもらってたのに、中途半端になって悪い!」

「……ううん……大丈夫。……それより……今のをもっと見たい!」

「その反応、風音さんらしいのさー!」

「確かになー」


 魔法が大好きな風音さんからすれば、今の状況は色々と面白いだろうしね。まぁ水の操作が魔法なのかは若干、疑問の余地はあるけども……魔法産の水を使ってるのは間違いないから、魔法の一種ではあるはず!


 それにしても……いつか出てきたこのウォーターカッターらしきものを使ってきたオオサンショウウオ、どんな精度をしてたんだ? 今の俺のものほどではないけど、結構な実用レベルで使ってたよな?

 あれ、成熟体の徘徊種だったっけ? ……あー、そういや操作に特化した特性を持ってたような気もする。あの時点で、この水準の攻撃を使ってた可能性があるのか。


「ケイさん? 急にボーッとしてどうしたのー!?」

「あー、いや。こういう攻撃をしてきてた、徘徊種のオオサンショウウオがいたっけなーって思い出してたとこ。あの個体、今はどうなってんだろ?」

「分かりません! でも、成熟体の敵不足の時に狩られてる気がします!」

「……まぁその可能性も高いか」


 もしくは、どこか人目に付かないところで未だに生き残って徘徊しているか? あー、瘴気強化種に変わってるって可能性もありそうだ。


「まぁいいや。とりあえず、どんどん輪切りにしていくぞ!」

「おー!」


 さーて、ハーレさんが水の中に砂を入れたのを確認したら、思いっきり勢いよく水を噴出! どの程度の接触時間で切れるか分からないけど……おっ!? これ、結構あっさりと切れるっぽい!? あ、砂が無くなって切れなく――


「操作時間も切れたか。半分しか切れなかったなー」

「え、もう!? 早くないですか!?」

「微妙に加減が分からないんだよ。もうちょい、動かすのを早めてもいけそうだな。あと、もっと近寄ってもいけそうだし……ハーレさん、砂はどんどん追加するつもりで入れていってくれ。これ、無くなるのが思った以上に早い」

「了解なのさー!」


 多分、この感じなら1回の発動で1本が輪切りに出来る程度か? いや、上手く感覚を掴めれば2回は切れそうな気もするね。

 うーん、それでもそこまでくらいが限界そう? もうこれ以上の精度を求めようと思えば、スキルLvじゃなくてステータスの器用を高くしていくしかないのかもなー。いやまぁ、既にとんでもない威力だけどね!


「さてと、どんどんやっていくぞ!」

「うん!」


 まだ桜花さんは戻ってきていないけど、戻ってくる頃にはビックリするくらいに片付けておこう!


「……ケイさん……根を切り離して。……根は……回収して……焼いて……処分していく」

「ほいよっと! それじゃ、根の処理は風音さんに任せた! ハーレさん、乗れ! 根のすぐ側まで移動してやっていくぞ!」

「はーい!」


 無秩序に適当に切るんじゃなくて、シンプルに一番邪魔な根から処分だな! てか、切り株を残すんじゃなく、根すら撤去してるんだから……大規模な掘り起こしをやってたんだろうね。

 どうも実戦で強い訳ではない人達の中では土の昇華持ちが多い傾向があるみたいだし、その手の人達が大々的にやったのかな? まぁ不動種が植わる為にはスペースが必要なんだし、並木を作るには必須な事か。


<行動値1と魔力値2消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 120/121(上限値使用:6) : 魔力値 312/314

<行動値を2消費して『水の操作Lv10』を発動します>  行動値 118/121(上限値使用:6)


 ともかく、この倒木……根があるのまで倒木と呼んでいいのか、今更ながらに疑問は出てくるけど、倒木の根を中心に切っていくぞ! 目標、さっき切り損ねた木の根!


「えいや! ケイさん、いいよー!」

「ほいよっと!」


 まずは1回で1本を正確に切るところから……おし、上手く切れたな! 今ので4分の3くらいの操作時間の削れ具合だから――


「はっ!? 下にある木まで両断されてるのさー!?」

「……へ? あ、マジだ」


 予定にない部分まで切れてるとか、切れ味が凄すぎない!? あー、でも狙って切った訳じゃないから、切り口が思いっきり斜めになっちゃってるよ。


「これ、加減が難しいな……」

「それは練習あるのみなのさー!」

「……そうだと思う。……根は……持っていくね」

「ですよねー」


 下まで切れているって事は、過剰に切り過ぎているって事だよな? もう少し早く動かしても、1回輪切りにするには十分なのかも。本当、これは練習あるのみですなー。


 それにしても……風音さんの龍は、軽々と切った木の根を持ち上げるもんだな!? やっぱり種族としての体格差は、こういうところで大きな違いがあるもんだ。

 俺やハーレさんだと、力的には持ち上げられても、自分より大きくなるからバランスが取れないしね。まぁ魔法や操作系スキルを使えば、その辺はどうとでも埋められる差だし、決して小さい事はデメリットでもないからなー。

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