第1472話 ハーレの問題


 今まで観察に専念してみた事がなかったから分からなかったけど、料理中に露骨過ぎる程、ハーレさんの注意力が散漫になってるのがよーく分かった。今も明らかに俺らがフライドポテトを食べているのに、思いっきり視線がきてるし……。


「ハーレさん、こっちばっか見てるとナスが焦げるぞ」

「はっ!? わっ!? わわっ!?」

「ハーレ!? 焦って、無理に引き上げちゃ危ないよ!?」

「ちょ!?」


 俺の今の一言で冷静さを欠いて、一気に油の中から引き抜くな!? 乱暴に扱ってるから、周りに油が――


<ダメージ判定が発生しました。あと2回の発生で『移動操作制御Ⅱ』は強制解除になります>


<ダメージ判定が発生しました。あと1回の発生で『移動操作制御Ⅱ』は強制解除になります>


<『移動操作制御Ⅱ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 86/125 → 86/127


 げっ!? 乗ってた水のカーペットに飛び散った油が当たって、強制解除!? くっ、それなら……って、岩の操作を展開中だから、何も出来ない!? てか、この位置はマズい!?


「ケイ! 大丈夫かな!?」

「……サヤ、助かった。危うく、揚げロブスターになるとこだった」

「……間に合ってよかったかな」


 ふぅ、焦った。揚げ加減を観察しようと、真上に行ってたからなー。サヤがギリギリでハサミを掴んでくれたからセーフだったけど、冗談抜きで熱した油の中に入るとこだったわ!

 モンエボの中なら大惨事は防ぎやすいとは思ってたけど、俺の方がちょっとそれで油断し過ぎてたか……。ハーレさんの注意力自体が散漫になる以上に、瞬時の判断力まで鈍ってるっぽいな。ほんと、危ないわ!


「……あぅ……ケイさん、ごめんなさい……」

「あー、まぁ元々、料理絡みだと問題があるのは分かった上でやらせたんだから、今のくらいは謝らなくても大丈夫だぞ」

「……それでも……ごめんなさい!」


 うーん、悪気があってやってる訳じゃないのは分かるんだけど……これはどう改善したもんだ? 元々の集中力がない訳じゃないんだから、食欲に起因した変な癖のような気がするんだけど……。


「はい、ケイ」

「サンキュー、サヤ」

「どういたしましてかな! ヨッシ、この串に刺さったナスはどうしよっか?」

「んー、もう一部が焦げちゃってるし、外に出しておいてもらえる?」

「分かったかな!」


 ふぅ、とりあえず地面に戻れたね。でも、この位置からだと油鍋の様子が全く見えん! ……別の枠で水のカーペットや飛行鎧を出そうにも、岩の操作を使用中だと発動出来ないしなー。

 追加生成で、階段状に足場を生成して登れるようにするか? うーん、そこまでする必要もない……というか、シンプルに、もう岩の操作が保たないな。


「風音さん、一度鍋を持ち上げてもらえない? そろそろ、俺の岩の操作が時間切れ」

「……任せて! ……『アースクリエイト』『岩の操作』」


 さて、一旦俺の生成した岩から離れたし、ここで再発動といきますか! ついでに、飛行鎧も発動しとこ。


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 86/127 → 86/121(上限値使用:6)


 ササっと展開して、飛び上がる! うん、機動性は水のカーペットよりもこっちの方が遥かにいいね。こっちなら、さっきの油は避けられたかも? ……まぁそれはいいや。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 85/121(上限値使用:6) : 魔力値 308/314

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 66/121(上限値使用:6)


 よし、新たな竈代わりの岩の生成は完了! もう18時も近いけど、まだもうちょっとくらいは出来るだろ。

 何より……露骨に凹んだ状態のハーレさんを、このまま失敗という結果で終わらせたくもないからなー。とはいえ、一体どうやったらいいんだ?


「……ケイさん、どうしよう?」

「あー、原因が分かっても、治せるかどうかは別だもんな……」


 無くても七癖と言われるくらいだし……いや、そもそもこれって癖なのか? この意識の散漫さは、何か別な原因のような気もする?


「……ハーレさん……料理に何か……トラウマでもある? もしかすると……そういうのが原因かも?」

「……え?」


 あー、そういう可能性か! ……最初にやらかしたのが変にトラウマになってて、無意識のうちに料理関係で何かする時に変な影響を与えてるって感じなのかも? いや、詳しくは知らんけど。


「ハーレに、料理でのトラウマ……?」

「……そんなのあったっけ? 何度も失敗しちゃったのは、確かにトラウマかもしれないけど……」

「あっ! もしかして、あれかも! ほら、ハーレ! 小学生の低学年の頃、配膳する前の給食をぶち撒けちゃった事があったでしょ!」

「……え、そんな事あったっけ?」

「あったよ!? え、ハーレ、覚えてないの?」

「……全然覚えてないのです?」


 てか、そんな事があったんかい! そういや給食があった頃って、自分達で配膳とかしてたもんな。それをぶち撒けたとなると……うん、まぁトラウマになっても仕方ない気がする。小学生の低学年となれば尚更に……。


「あぅ!? え、本当にそんな事あったの!?」

「……本当に覚えてないの?」

「全然、覚えてないのさー!?」


 頭を抱えてるハーレさんだけど……冗談抜きで覚えてないっぽい? 


「……これ、結構なトラウマになってそうかな?」

「そうっぽいな……」


 うーん、ショック過ぎる出来事は忘れるとは聞くけど、まさかハーレさんにそういう部分があったとは……。本人が覚えてないのなら、自覚しようにも出来ない……いや、待てよ?


「もしそれが原因だとしたら、大丈夫なんじゃ?」

「……多分だけど……触れる事自体に……無意識で……萎縮しちゃってる? ……一種の……逃避行動かも? ……それがミスに繋がって……それ自体が……新しいトラウマになって……積み重なってる?」

「あー、そういう……」

「あぅ!?」


 無意識でミスを繰り返さないように警戒し過ぎた結果、逆にミスが多発して……結果的に、触る事自体を忌避するようになっちまってる訳か。うーん、これは中々厄介そうな状況だな!?


「え、でも、アルバイトの時は食べ物を運んでも平気だったよ!?」

「それ、仕事だからじゃないかな? 自分も含めた周囲の人達が食べるものじゃないから、変に身構えなくなってるとか?」

「あー、なるほど。トラウマのトリガーにならない条件だったって事か」

「……多分? ……専門家じゃないから……断言は出来なけど……」


 ふむふむ、合ってるかどうかは分からないにしても……それっぽい原因に心当たりはある訳だしな。何がきっかけになってるかが分かれば、そこに向き合っていく事は可能なはず!

 ある意味、周囲の俺らが大惨事になったから、極力触れさせないように振る舞ってしまったのも、悪化する原因だったのかも? やらかす度に凹んでたのは知ってるし、それも積み重なってきた結果なのかもしてないしさ。


「あっ! それならハーレが食べないものなら、もしかすると調理が出来るかも?」

「えっ!? それは、考えた事がなかったのさー!?」


 ほほう? 完全に逆転の発想だな! 料理関係は壊滅的だと思っていたから避けていたけど、ハーレさん自身が食べないという前提で作ってみるというアプローチは考えの中になかったよ。


「失敗してもいいから、やってみるか?」

「うん! やってみたいのさー!」

「それじゃ、18時まではハーレに色々とやってみてもらおっか? 私達が食べちゃ意味がないから……桜花さん、成功した分は引き取ってもらえない?」

「おう、それは構わんぞ。あー、でもトレードはどうする?」

「んー、今の時点で貰った食材は改めて調理するとして……成功分の料理と材料のトレードでどう? 加工と油は私達持ちだから、悪くはないよね?」

「まぁ性能は上がるしな。おし、その条件でいいぜ」

「ありがと、桜花さん」


 今の条件で交渉は成立したし、ここからはハーレさんのトラウマ克服の料理の練習ですなー。多分、今のハーレさんに必要なのは料理での成功体験だろうから、それを体験させればいい! 

 まぁ少なからず普段のあの食欲が影響してそうでもあるから、そこを抑えられるかどうかというのも、かなり重要になってきそうではあるけど。


「んー、問題は何にするかだよね。あんまり私が手出しし過ぎたら駄目だけど、まだ私も手探りな揚げ物は流石になしだよね。焼き魚は焼き加減が難しいし……」


 かなり悩んでるな、ヨッシさん!? いやまぁ、確かに揚げ物はヨッシさんですら成功するか分からないって話だったんだしなー。さっきの串刺しにしたナスも、半分くらいは焦げてるし……。

 うーん、簡単に出来そうで、それでいてモンエボでも出来る料理ねぇ? ……要求されている難易度、すごく高くないですかねー?


「ハーレが斬撃用のスキルを持ってたら、色々と切ってみるのでもいいんだけど……」

「それなら、『斬撃の極意』の進化の軌跡が欲しいかな?」

「あー、確かに切るだけでも色々出来そうだけど……流石にそれはレアアイテム過ぎる……」

「あぅ!? ……流石に勿体なさ過ぎるのさー!」


 うーん、気軽に使えるのであれば手段としてはありなんだけど、今はまだ気軽じゃないのが一番の問題だよなー。斬撃系のスキルが使えれば、色々と食材用に切ってみるってのも良い手段なんだろうけどさ。ん? 食材を切る……?


「桜花さん、ちょっと確認をいい?」

「ん? 流石に『斬撃の極意』の在庫はねぇぞ?」

「まぁあったらそれでもよかったんだけど……それとは別だな。灰のサファリ同盟が土器を作り始めてるって聞いたけど……実は石器もあったりしない?」


 俺は自前で生成した石でナイフを作ったりしてるし、ヨッシさんの場合は氷で同じような事をしている。でも、土の操作や氷の操作以外でも、そういう手段自体は昔から存在はしてるもんな! 理屈としては、石器が存在していても不思議じゃないはず!


「あぁ、石器か。黒曜石がアイテムとして入手が出来るようになったから、作ってる人自体はいるぜ? ただ、土魔法の生成の方が気軽だから、需要の方がねぇな」

「存在はするけど、需要の方がないのか!?」

「まぁな。最近、黎明の地でも鉱石の類いがちょいちょい見つかってはいるから、そのうち精錬自体もされ始めるかもしれんぞ」

「マジか!?」


 うっわ、何その面白そうな新情報!? 鉱石が見つかってるって事は、鉄とか金とか、そういうのだよな!? 土器やレンガを焼く設備まで作られているんだから、精錬する事も出来る可能性は十分ある! ……加工、どう考えても大変な気がするけど!


「えっと、ケイの狙いとしては、黒曜石のナイフをハーレに持たせる事かな?」

「そうそう、そういう感じ! それを包丁代わりにして、捌く練習とかさ? 肉は塊で落ちるし、魚も捌けるんだし、出来るよな?」

「うん、確かにそれは出来るかも? ハーレ、そういう方向性はどう? 今すぐに出来るものでもないけどさ」

「やってみたいです! それに、投擲に使える武器にもなりそうな予感なのさー!」

「あー、確かに?」


 投げナイフなんてものもあるんだから、黒曜石のナイフを投擲に使うってのもありかもしれない。……でも、需要は高くなさそうかも?


「桜花さん、黒曜石の調達って頼める? ちょっとネットで石器の作り方を調べてみて、実際に作ってみたい」

「そりゃいいが……手に入るかどうかは、正直なところ、分からんからな? そこは念押ししておくぞ」

「それでも問題なし! まぁ手に入ればラッキーって事で!」

「それでいいなら、了解だ。さて、ちょっとあちこちから聞いて回るか。実物がなくても、入手出来るエリアでも分かればいいんだが……」


 さーて、黒曜石が手に入るかどうかは運次第だけど……出来れば、早めに手に入ってほしいところ! というか、黒曜石って石なんだし、ナイフにしたら俺でも土の操作で操作出来るかも?

 いや、今はそれが目的じゃないから! ハーレさんの包丁代わりとしての入手が最優先! 俺が使う分は、それで余った時でいい!


「ケイ、石器とか自分で作れるのかな?」

「そこはやってみないとなんとも? でもまぁ、昔の人類が使ってたんだし、不可能ではないはず!」

「ケイさん、ファイトなのさー!」

「まぁその後で頑張るのはハーレさんだけどなー」

「うん! 頑張ってみるのです!」


 もし、それで料理関係の大惨事が防げるようになるのなら、晩飯の後の食器洗いの当番を……って、そういや明日、新しく買った食洗機の取り付けか!? あ、俺の部屋の鍵の取り付けも明日だよ!?

 うん、まぁ食洗機の方はスルーでもいいとして……部屋の鍵の取り替え中はどうしよう? リビングででも……いや、客間に布団でも敷いて、そこでフルダイブでもしますかね?


「そろそろ18時だし、時間切れかな?」

「あ、ほんとだね。ハーレがチャレンジ出来そうな内容、考えておくから!」

「うん! ヨッシ、ありがと!」


 出来ればヨッシさんがチャレンジする内容を決めるまでの間に、黒曜石のナイフを手に入れたいとこですなー。とりあえず、作り方だけでも見てくるか? いや、その前に材料のトレード分の、この場所の片付けもしないと……。


「あ、ヨッシさん、油鍋はどうするんだ?」

「……どうしよ? これ、そのまま片付けられるの?」

「それなら、器ごとインベントリに入れらるぞ」

「あ、そうなんだ。簡単に片付けられるようにはなってるんだね」

「そういう事だな。油自体は劣化したら、回収はするぜ? 燃料用に集めてるとこもあるからよ」

「そういう再利用も出来るんだ? うん、それは了解!」


 へぇ、汚れて駄目になった油は燃料用に使われるのか。……燃料って、灰のサファリ同盟の本拠地に作られたレンガや土器を焼く為のあの釜で使ってたりする? うん、可能性はありそうかも。


「それじゃ、また後でかな!」

「ご飯、食べてくるね!」

「ほいよっと!」

「2人共、いってらっしゃーい!」


 さーて、手早く片付けたヨッシさんとサヤが晩飯の為にログアウトしたし、俺らは俺らでやる事をやっていきますか! 黒曜石の石器の作り方の確認は、まぁ実物を調達でいいとして……とりあえず、今は薪作りをしながら、積み重なってる倒木の撤去をしていこう! あ、置いたままになってるフライドポテトはどうしよう?

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