第1471話 色々なものを揚げながら


 サヤと風音さんが材料を切り、俺が竈代わりになる岩を生成し、ヨッシさんが火の管理をしている状態。温度は……どうなんだ?

 火が大きくなり過ぎた時には火の操作を使って、火力を抑えるように調整してたけど……抑え終わったら解除するってのを繰り返してたんだよな。


 おっ、ヨッシさんが油に浸けた枝から小さく泡が出てきたね。何度かそういう風に確かめてたけど、少し前より泡の出方が増えた状態ですなー?


「……うん、頃合いだね。ハーレ、揚げるものを入れてみる?」

「えっ!? いいの!?」

「うん、いいよ。色々、慣れるようにしようって話してたんだし、その一環でね?」

「おー! 頑張るのです!」


 あー、なるほど。明日の調理の時に手伝ってもらうって言ってたけど、それを今ここでもやろうって事か。……考えられる惨事は燃え上がる事だけど、まぁそれなら俺や風音さんで抑えられるだろ。

 でも、そういう火事の時は直接水を油にぶっかけるとアウトだったはずだから、延焼防止で覆うようにするくらいかもね。


「ケイさん、風音さん、いざって時はお願いね?」

「ほいよっと!」

「……任せて」


 火の昇華を持つ風音さんなら、燃え広がったとしても制御下には置ける。それを超える範囲は、俺の水で覆えばいい。場合によっては、風音さんのブラックホールで火種そのものを呑み込んでもらうのもありか。

 ともかく、ハーレさんがやらかさないように要注意だ! ……下手すりゃ、油をひっくり返して大火事になるくらいは想定しておこう。リアルじゃ危険過ぎるけど、ゲーム内ならなんとかなるだろ。


「ハーレ、慌てずにかな!」

「……うん!」


 サヤが風音さんと切ったジャガイモ、ナス、レンコン、カボチャが載った竹細工のザルっぽいのを、ハーレさんに向けて差し出している。この器も、アイテムの詰め合わせに使われてたやつだけど……竹細工なら、誰かしらが作ってそうな予感もするね?

 まぁそれは置いといて……切ってあるものが分厚かったり、逆に細かったり、形が不揃いなのは……まぁ状況的に仕方ないな。綺麗に切るの、色んな意味で難しいだろうしさ。


「ケイさん! 油鍋の横に足場を下さい!」

「あー、それもそだな」


 追加生成でハーレさんが乗れるだけのスペース……いや、揚げるものを入れた器と、揚げ終わったものを入れる器を置くスペースも作っとくか! 一塊にしておけば、岩の操作でも問題ないしね。


「おぉ!? 思ったより広めの場所が出来たのさー!」

「サヤ、そこのスペースに、食座を入れて竹細工の器は置いとけるか?」

「あ、うん。ここ、その為のスペースなのかな?」

「そのつもりで追加生成したからなー。揚げた後のも置けるとは思うけど……これ、どうやって取り出すんだ?」


 思いっきり熱されている油の中のもの……流石に手掴みじゃ無理だよな? いや、ダメージ判定的に大丈夫な可能性も……。


「それは私の氷で一気に取り出すのは……流石に危険過ぎるね。魔法産の氷だと、どういう反応になるのかが読めないんだけど……天然の氷なら、爆発しちゃうかも?」

「まぁ氷も、水ではあるもんなー」


 水と油って言うくらいだし、大惨事になる予感しかしない。それこそ水を通り越して一気に気化して、大爆発なんて事もあり得るじゃないか? 昇華魔法のスチームエクスプロージョンを天然素材で再現なんて危険過ぎ……それはそれで、何かに使えそうだな?


「まぁ無難にウニの棘を伸ばして突き刺して確保する……あ、ハーレが竹串で取ってみる?」

「それ、やりたいのさー! はっ!? 最初から竹串に刺しておくのはどうですか!?」

「あ、それもありかもね。うん、それじゃそうしよっか」

「やったー!」


 ちょっとした手段の変化があったけど、まぁ串揚げって普通にあるし、ありな手段かも? それに竹串ならハーレさんが投擲用に持ってるから、これから色々と用意する必要もないのがいいね。


「……竹串に刺したフライドポテトは、ちょっと微妙な気がします?」

「そもそも、刺さるのかな?」

「……切り方次第ではいけると思うけど、今回は無理そうだね? フライドポテトだけは、別に取ろっか。ケイさんは無理だから……風音さん、お願いしてもいい?」

「……やってみる!」


 細長く切ってるジャガイモに竹串を刺すのは、流石に無理があったか。それ以外は問題なく刺さりそうだけど……こうやって見てると、普通に衣のある串揚げにしたくなってくるね?


「んー、フライドポテトをカラッと揚げる方法はあるんだけど、今はその手順は省いてもいい? 流石にそこまでやってると、時間が足りそうにないし……」

「時間がかかるのなら、流石に仕方ないのです……」

「それでも大丈夫かな!」

「別に構わんぞー」

「それじゃ、そういう事にさせてもらうね。どこまでやれば、試食データに置き換わるかも知りたいしさ」


 別に手抜きという訳ではなく、どこまでなら簡略化として認められるかのライン判定って事にもなりそうだよね。そのカラッと揚げるコツを使わないと駄目なのか、それとももう少し緩くても大丈夫なのか……その辺の見極めも大事!

 まぁその手の情報は既にまとめにありそうだし、もし無かったとしても、コイコクさん達が慣れてくれば情報が揃いそうではあるけども。


「それじゃハーレ、ジャガイモから入れちゃって。油が跳ねたら危ないから、そっとだよ?」

「はーい! そっと……そっと……わっ!?」

「あ、油が跳ねた……あ、ちょっとだけど、ダメージがあるのかな!?」

「……へぇ、熱した油だと普通にダメージ判定があるのか」


 ちょっとこれは意外だったな。自分では死ににくいモンエボだけど、油ではしっかりと自分がダメージを受けるとは……。

 前に油を使った戦法とかも考えてたけど、熱した油の取り扱いには要注意ですなー。自分にもダメージがあるなら、攻撃に使おうってのは結構リスクがあるかも?


「あぅ!? また跳ねたのさー!?」

「ハーレ、落ち着いて。ゆっくりでいいから、焦らずにね。どうやっても水分があると油が跳ねてくるけど、そこで乱暴に突っ込んだら余計に跳ねちゃうからさ」


 いやー、切ったジャガイモを一個ずつ、恐る恐る油に入れるリスってのも妙な光景ですなー。入れたタイミング揚げ加減に差が出そうだけど……まぁそれくらいは許容範囲って事で。


「……落ち着いて、ゆっくり……わー!? また跳ねた!?」

「大丈夫、大丈夫! なんとかジャガイモは全部入ったし、もう下がっても大丈夫だよ」

「あぅ……緊張したのです……。でも、ここで見て……わー!? 油が跳ねてくるのさー!?」


 慌てて岩場から飛び降りてきたけど、ダメージは微々たるものなのに大袈裟だな!? いや、でもこれまでの料理での大惨事の数々を考えると、油の中にちゃんと切ったジャガイモを入れられただけでも大進歩なのかもしれない。

 危なっかさはあったとはいえ、それはハーレさん自身がビビってたのが原因みたいだし……意外と成長して、大惨事にはならないようになってるのか?


「……聞いてたほど、ハーレの料理は危なさそうではないかな?」

「私的には、思いっきりビビりまくってたのさー!? 油、ひっくり返さなくてよかったー!」

「……あはは、それは私も警戒してたんだけどね。ケイさんの読み通り、意外と平気になってるかも?」

「いきなり揚げ物をやるとも思ってなかったけどなー。でも、ハーレさん……ここで油断して、出来上がったのをひっくり返すとかはするなよ?」

「あぅ……気を付けます」


 何が原因で今までの大惨事を引き起こしてたか、それなりに推測は出来てきた。だからこそ、それを意識しつつも緊張感を持って扱うべきなのは間違いないだろう。流石に油が跳ねた程度は、大惨事に含めるような内容ではないしな。


「……ふぅ! もう一度、見に戻るのです!」


 慌てて飛び降りてきたけど、意を決してハーレさんがまた油のすぐ側まで移動していったね。上から水のカーペットに乗って見てる感じでは、それほど油が跳ねてる感じはないんだけど……すぐ間近でいると違うのかもな。

 何気にハーレさんだけでなく、ヨッシさんも僅かにHPが減ってるから、少なからず跳ねた油が当たってるのか。うーん、やっぱりダメージ判定があるのは、意外だよな。水のカーペットが強制解除になっても嫌だし、ちょっと距離は保っておこう。


「おぉ! なんか見た事ある光景になってるのさー!」

「あはは、まぁやってる事自体はリアルでの行為と大差はないからね。浮き上がってくれば揚げ終わりなんだけど、揚げ時間はリアルと同じくらい……? あ、もう浮き上がってきてるし、リアルよりも早いかも!」

「……いつでも、取り出せるよ?」

「風音さん、お願いね」

「……うん! 『アースクリエイト』『土の操作』!」


 おー、油の中にあちこちに穴が空いた平たい石が生成されて、揚がったジャガイモだけを上手く持ち上げていきますなー。土の操作なら、氷の操作みたいに油の中に入れても大惨事って事にはならなさそうだね。


「風音さん、こっちのザルの上に置いてもらえる? その状態で、塩をかけちゃうから」

「……任せて!」


 見た目は……一部、しっかりと揚がり切ってない薄い色だったり、少し焦げた感じのもあったりするけど、まぁフライドポテトではあるね。おっ、ヨッシさんが塩をかけ終えたら、見た目が均一に変わった!?


「あ、フライドポテトはこれで試食データに置き換わるんだ? 『フライドポテトS』って……地味に、仕上がり具合でサイズが変わるの?」

「はっ!? そういえば、マツタケさんのとこで見たのにもそういう表記があった気がします!?」

「質が良ければ、『M』や『L』になるのかな?」

「そういう基準かー。まぁ試食データの提供、有名どころのハンバーガーのチェーン店だけどさ」


 アイテムの詳細を見てみれば、見知った店の名前が思いっきり表記されてるよ。最大手ではなく、ちょっとお高めだけど美味しいって有名な方なのが、少し嬉しい気もする? あそこの店舗、地味に近くにはないんだよなー。

 というか、ハンバーガーのチェーン店の試食データがあるなら、ハンバーガーそのものも作れるのか? ……パンさえ完成すれば、作れそうな気がするな。


「えーと、アイテムの性能的には……あ、1本辺り1%のHP回復なんだ?」

「特に、目立った性能じゃないかな?」

「ふっふっふ! 手軽に食べられて、使いやすそうなのです!」

「でもまぁ、一気に回復する時には向かないか」


 HP20%の回復とは書いているけど、注釈で(1本辺り1%)となっているのが何気に細かい部分か。面白い性能はしてるけど、実用性としては他の料理アイテムと大差はないどころか、回復量は少なめですなー。

 マツタケさんのとこでは流し見した程度だったけど、こういう特殊な回復の仕方をするのもあるんだね。もう少し回復量が多くないと、蜜柑を食べてる方が効率的っぽいのがまた微妙……。


「まぁフライドポテトを食べながら、次を揚げていこっか」

「はーい! 次は……揚げナスでいくのさー! えいや!」

「あ、何個も刺すのかな?」

「……んー、まぁいっか。多少のミスは、大目に見ないとね」


 ちょ!? ヨッシさんの反応が不穏なんだけど、ハーレさんが次々とナスを竹串に刺してるのは止めないのか!? これってちょっと刺し過ぎなんじゃ?

 てか、ナスのサイズ感は人間基準だと普通なんだろうけど、こうしてロブスター基準で見るとデカいな。いやまぁ、さっきのフライドポテトもそうだけどさ。


「ふっふっふ! それじゃいくのです!」

「……なんか、そのやり方は不安になってくるんだが?」

「フライドポテトが大丈夫だったんだから、揚げナスも大丈夫なのさー!」

「余計に不安になる事を言うな!?」


 さっきのが上手く出来たからって、少し調子に乗ってないか!? そういうところが――


「えいや! ……あ、油に浸かってないナスがあるのさー!? わっ!? それに跳ねた油が避けられないのです!?」

「そりゃ油の深さに収まらない数を刺したら、そうなって当然だよ?」

「はっ!? そういえば、そうでした!?」


 ……やっぱり刺し過ぎだったっぽい。なるほど、なんとなくだけど、これまでの大惨事の原因が見えてきた気がする。


「ハーレさん、料理が絡んでくると注意力が散漫になってきてるな!? 鍋の深さと竹串の長さを見誤るって、普段はしないだろ!」

「……はっ!? 言われてみれば、そんな気がします!?」

「意識が料理に行き過ぎて、変なミスが多発するのかな?」

「……それはありそうかも? 特に色々と楽しみにしてる時にやらかしがちだったし……後片付けも、満足し切った時ほど色々やらかしてた気がする?」

「あぅ……!? それも原因だったの!?」


 安全策……いや、何か起きた時の事後処理がしやすいってだけで、安全策ではないのか。まぁこういう環境で試してみて、ハーレさんの動きを観察してみて初めて分かった内容ではあるんだろうな。

 これまでは気付いた時には大惨事だったから、それが起こる前のハーレさんの様子を詳しく分析するなんて事も出来なかったけど……リスのサイズ感でのやらかしを見て、ようやく原因が判明とはね! ……ここまで露骨に注意力が落ちてるとは思わなかったし、こりゃ完全に悪癖だな?


「とりあえず、これはどうすればいいですか!?」

「……反省の意味も込めて、油に浸かってる部分のナスが揚げ終わるまでそのままでいろ」

「上の方、揚がらないよー!? それに、油が跳ねてきまくってるのさー!?」

「あはは、まぁ死にはしないし、今の分はそのままお願いね。さてと、その間にみんなでフライドポテトを食べよっか」

「あぅ!? 私も食べたいよ!?」

「ハーレ、そこは我慢かな! 悪癖の改善には、我慢も必要!」

「それはそうだけど……あー!?」


 うん、サヤがフライドポテトを食べたからって、思いっきり大声を上げなくてよろしい。というか、ナスを過剰に刺し過ぎなければ、両手で竹串を支えなきゃいけない事態にもなってないだろ。

 という事で、俺もフライドポテトを1本貰いっと! ……やっぱりサイズ感、デカいっすなー。まぁ今に始まった事じゃないけど……おっ、美味いね、これ! いやー、リアルで食べるのとは違う感覚だけど、これはこれで悪くはないな。

 

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