第1470話 揚げ物の準備


 火を起こす為の燃料は確保出来そうだ。サヤがどの木を薪にしようかと物色してるけど……いやー、色々と木がありますなー。乱雑に積み上げてるし、根や葉が付いたままだから、ちょっと大変そうだけど……。


「さてと、あとは材料の確保だね。桜花さん、ジャガイモのトレードは何にすればいい?」

「……そうだな。その辺に積み上げてる倒木を薪にしてもらうってのはどうだ? さっきも言ったが、手が足りてなくて放置気味でな。でも、ただ燃やして片付けたんじゃ勿体ないしよ?」

「あー、そうきたか」


 多分、灰のサファリ同盟の本拠地の魔改造に人手が取られてる気がするね。土器を焼くにも薪は必要だろうけど、それは現地調達をしてた気もするし……隣にいる桜花さんとしては気になるのかも。

 まぁ折角使い道はあるのに、ここで全部燃やして処分が勿体ないのも分かる! 


「ハーレさん、そこの倒木の片付けがジャガイモのトレード分だけど、いいか? 18時から片付けていくぞ」

「問題ないのさー!」

「え、そうなるのかな!?」

「それじゃハーレとケイさんに任せる形に――」

「その辺は、俺やハーレさんが飯を食ってる間にもやってもらうって事でどう?」

「……それなら、問題ないかな?」

「……そうだね。うん、そうしよっか」

「おし、それじゃそれで決まりだな! 桜花さん、そういう事でいいか?」

「いやいや、それだと俺が過剰過ぎるんだが? あー、そこまでしてくれるなら、ジャガイモ以外にも色々提供するのでどうだ?」

「おっ、いいね! なら、それで!」


 思わぬ方向になったけど、これはこれで悪い話ではないよな! 問題は……材料を増やして、調理し切る時間が足りるかどうかだけど、まぁ余ったら余った時に考えればいいだろ。

 倒木の片付けは土の操作や土魔法を鍛えたいから、その辺を上手く使ってやっていけば――


「おし、決定だな。あー、ヨッシさん、揚げるものに希望はあるか?」

「んー、とりあえず衣無しで素揚げをしてみたいかも?」

「素揚げでいけそうなものか。とりあえず、今あるものなら……」

「アジにエビ……そっか、小さな海鮮系は素揚げでもいけるよね。あ、ナスやレンコンやカボチャ辺りもいいかも!」


 どうやら、思った以上に色々とありそうな感じだな。……カボチャのプレイヤーはどこかで見た覚えはあるけど、ナスのプレイヤーも多分いるんだろうね。レンコンは敵でも見たし、オフライン版でも見た種族だから……ただ単に遭遇してないだけかも?

 確かカボチャは蔓系の種族で、カボチャの実で殴ってきたり、投げ飛ばしたりするんだよな。……オフライン版での話だけど、こっちでも基本は変わらなさそうな気が――


「ケイさん、とりあえず適当でいいから、火を着けてもらえる?」

「ほいよっと」


 ぼーっと突っ立ってないで、やるべき事をやっていきますかね! 桜花さんのすぐ横は拓けたスペースにはなってるし、木が乱雑に積み上げられているのはその先だから、そこまで延焼しないようには要注意!


「ハーレさん、松ぼっくりは持ってるか? あと、集めた木の枝をくれ」

「あるよー! 拾った枝とかも、そっちに持っていくのです!」


 よし、いつだったか着火するのには松ぼっくりが良いって話はあったもんな。そこから焚き火を起こしていこうか!


「……器用な集め方をしてきたな?」

「ふっふっふ! 両手に抱えるよりも、大量に運べるのさー!」


 枯れた枝や蔓をまとめて、クラゲの中に包み込んで、リスの頭の上に載せてくるとは思わなかった。いや、でもインベントリに入れずにやるなら、これくらいが丁度いいのか?


「ケイ、とりあえず木は1本分くらいでいいかな?」

「あー、まぁ足りなきゃ追加でやっていけばいいし、今は1本で十分だろ!」

「分かったかな! 風音さん、葉っぱと根を斬り落として、丸太にした状態で近くまで持っていこ? 元々、ほぼ丸太みたい状態だけど……」

「……うん!」


 ジャングル特有な感じの、木そのものが高くて、幹も長く、その先にある葉が妙に細長くて……例えるなら、鳥の羽みたいな特徴的な葉っぱ。……これ、ヤシの木か? うーん、倒れて積み重なってたり、枯れかけてる様子だから、ちょっと自信がない。


「桜花さん、あのサヤが斬ろうとしてる木って何になるのか分かる? なんか見覚えはあるんだけど……」

「ありゃココナッツの木だな。どこかに植えてれば実が採集出来るのに、それをせずに打ち捨てられたのがあったか」

「あー、ココナッツか!」


 なるほど、どことなく見覚えがある訳だ! ジャングル……というか、熱帯の地方では代表的な感じの木だもんな! ヤシの木にも見えるんだけど……どう違うんだろ?


「桜花さん、ココナッツはあるの!?」

「おう、あるぜ。この密林エリアのあちこちで植わってる木ではあるしな」

「……あれ? もしかして、ココナッツミルクもあったりする?」

「ん? まぁ牛乳が手に入らないから、割と代用品として使われちゃいるが……ヨッシさん、どうかしたか?」

「あはは、ちょっとね? ……コインさんが言ってたのって、これじゃないよね?」

「あー!? その可能性はありそうなのさー!?」

「……そうきたか」


 牛乳そのものではなく、代用品としてココナッツミルクを使っていた可能性……無いとは言えないかも! いや、でも流石にアイテム名も表示されるだろうし、そういう勘違いはないか?


「あー、どういう話だ?」

「えっと、さっきマツタケさんのところで牛乳を使った料理があるって話が出ててね?」

「あぁ、その件か。ケイさん達が引き入れた料理集団が、前々から使ってるってのが話題になってたな。ココナッツミルクで代用してるんじゃないかって結論になってたが……違うのか?」

「そこがどうなんだろうって疑問でね? どうも、入手を外部に頼ってたみたいで……」

「……なるほど、そういう話か。外部に入手を頼んでたなら、それこそガチの牛乳じゃねぇか? アイテム名としてちゃんと表示は出るし……料理に拘ってる集団だったら、材料を代用していればその事は伝えるだろ。味はどうやったって、少しは変わる……いや、変わるのか? 試食データに置き換わるなら、代用品で問題ないって可能性もあるな」

「……あはは、その判断が出来なくてさ? まぁ入手元に話を聞いて、まとめに情報を上げてくれる事にはなってるから、それ待ちだね」

「あー、そこまで話は進んでるのか。なら、情報待ちで問題ないだろ」

「うん、そういう事にしとくよ」


 ここで考えたところで結論は出ないよなー。てか、ココナッツミルクがあるとも思ってなかったしさ。うん、まぁジャングルなんだから、あっても不思議じゃないけど……。


「はい! ヤシの実とココナッツの実って、何が違うんですか!?」

「……確か、ほぼ同一の物なんだよね。うーん、ヤシの木は何度か見てたんだし、ココナッツミルクの存在はもう少し早く気付いてもよかった気がするよ」

「え、同じなの!?」


 へぇ、ヤシの実とココナッツって同じ物だったのか。だから木に見覚えがあった訳だ。……なんか別物って認識してたし、ストローを刺してジュースみたいに飲む印象があったから、なんか意外? あ、あれがココナッツミルクか!


「ケイさん、それはココナッツウォーターね? ココナッツミルクとは別物だから」

「え、あれって別物なのか!?」

「うん、別物だよ。あのジュースみたいに飲むのは、実の中に溜まった液体で、それがココナッツウォーター。実の中身を小さくバラバラにして、水と混ぜて絞って作るのがココナッツミルクでね」

「あー、そうなのか」


 知らなかったぞ、そういう違い! 今は油が絞れるようになってるんだし、それと同じような感覚でココナッツミルクも絞って作ってるのかもなー。


「なんなら、ココナッツも持っていくか? 在庫はあるぞ」

「おー!? 桜花さん、いいの!?」

「おう、そこの大規模に片付けしてもらうなら、これでもまだ足りないくらいだしな。投擲用の弾としても使えるし、いくつか持ってくか?」

「わー! 食べるか、飲むか、投げるか……悩むのです!?」


 そこで悩むんかい! まぁハーレさんらしい悩み方ではあるけど……投擲の弾にもなるのか。あ、そういやヤシの実は前に投げてた事もあったっけ。


「さてと……脱線してないで、さっさと火を着けるか。ハーレさん、拾ってきた枝を並べてくれ」

「はっ!? 今の本題はそっちなのです!? ヨッシ、ココナッツを受け取っておいてください!」

「はいはい。桜花さん、そういう事だからお願いね」

「おう、了解だ。どう使うかは、任せるぜ」


 さて、ハーレさんが松ぼっくりを置いて、その周りに枯れた枝を並べ始めたし、ササっとやってしまおう。

 サヤと風音さんは黙々と薪を割ってくれてるんだし、こっちも作業を進めないと!


<行動値を19消費して『光の操作Lv3』を発動します>  行動値 106/125(上限値使用:2)


 太陽光を収束させて、松ぼっくりに当てる! おー、あっさりと火が着いたね。よし、周りに置いて枝にも火が移り始めたし、火種はこれで問題なし! それじゃ、次!


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 105/125(上限値使用:2) : 魔力値 311/314

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 86/125(上限値使用:2)


 焚き火を覆うように、岩を生成して……よし、薪を入れるスペースと土器を置くスペースはちゃんと空けたし、こんなもんだろ。


「ヨッシさん、こんなもん?」

「うん、大丈夫だと思う。えっと、使う土器はこれでいいとして……」


 ハーレさんが抱えられるくらいの、小さめのフライパンみたいな土器だな。ちょっと普通のフライパンよりは深さがあるから、これでも揚げ物は十分出来そうだ。


「もうちょっと大きい鍋がいいんだけど、まぁそこは仕方ないとして……とりあえず、油を入れちゃおうっと。『アイスクリエイト』『氷の操作』!」

「わくわく!」


 油の入った壺型の土器を生成した氷で持ち上げて、揚げ物に使う土器へと油を移して……移し終えれば、その土器を俺が生成した岩の竈へと置いていく。まぁまだ熱してない今の状態なら、氷で十分持ち上げられる範囲だね。


「……薪割り……終わったよ」

「ヨッシ、薪を持ってきたかな!」

「サヤ、風音さん、ありがと。とりあえず、いくつか火の中に入れてくれる?」

「任せてかな!」

「お願いね。さて……揚げ物は火加減が大事なんだけど、焚き火で揚げ物とかした事ないから不安なんだよね。上手くいけばいいんだけど……」

「ヨッシ、ファイトなのさー!」

「あはは、火が通ってなかったり、焦げたりしたらごめんね?」

「そうなったら、そうなった時なのさー!」


 そりゃ焚き火で揚げ物とか、経験ある人の方が少ないですよねー!? でも、実際に作ってる人がいるんだから、やって出来ない訳じゃないんだよな?


「さてと、それじゃやってみよっか! 『纏属進化・纏火』!」

「おぉ! 純結晶での纏属進化なのさー!」

「火の勢いが凄いかな!?」

「……勢いが……全然違うね?」

「おー、やっぱりこれだと演出が派手になってるな」


 いやはや、進化中に赤い膜に覆われて卵状になるまでは同じだけど、そこから盛大に燃えたようになるのは『純結晶』ならではの演出だよね。


「これ、あの『火の純結晶』を使っての纏属進化か!? あー、ケイさん? 何気に使用を躊躇して情報が出てこない、熟練度がどうなってるかの確認も目的か?」

「そうなるなー。てか、まだ情報は出てないんだ?」

「『純結晶』の進化の軌跡自体が、まだまだレアアイテムだからな。元になる極意系の進化の軌跡自体、まだ量が多いとは言えないしよ?」

「ですよねー!」


 極意系の進化の軌跡自体、『刻浄石』の入手が前提になるもんな。そして、そもそも『刻浄石』の段階から、もう既にレアアイテムだし……そう簡単に増えてくるようなものでもないよね。

 アブソーブ系のスキルで生成するか、トレード頼みなんだから、消滅してしまう状態で使用するのはそりゃ躊躇する。それでも誰かしらやってる可能性はあったけど……流石にまだだったっぽいね。そもそも、手に入れられる人と、躊躇なく使える人が同一人物とも限らないしなー。


「うん、進化完了! サヤ、どんどん薪を入れちゃって!」

「任せてかな!」


 おー、ヨッシさんのハチが盛大に燃えているように見える! やっぱり『純結晶』での纏属進化は、普通の纏属進化よりも派手になりますなー!


「ハーレ、菜箸みたいな枝、どこかにない?」

「使うと思って、残してました!」

「あはは、ありがと。……うん、まだ温度は大丈夫だね」


 あ、箸を入れて温度の確認をしてるのは、母さんがしてたのを見た覚えがあるな。そこらにあった枝を、ハチの針に突き刺してやってるのは初めて見るけどさ。

 まぁ見た目はともかく……どうなったら温度が適切なのかは分からないけど、ここはヨッシさんに任せるのが1番だろ。分かってない俺らが下手に何かをして、邪魔してもいけないしね。焚き火で油を使うのが初めてなら尚更に!


「あ、揚げるものを切っておくの、忘れてた!?」

「はっ!? そういえば、そうなのです!?」

「あー、しまったな。手順を間違えたか」


 食材を切るのを先にすべきなのに、全くそれが出来てない状態じゃん!? あー、ヨッシさんがそういうミスをするって事は……思っている以上に、焚き火での揚げ物に緊張してるのかも?


「ヨッシ、切るのは私がやるかな!」

「……手伝うよ?」

「サヤ、風音さん、任せるね! 今回はお試しだから、切り方は大雑把でもいいから!」

「……うん……頑張る! ……『アースクリエイト』『土の操作』」

「任せてかな! ハーレ、薪はここに出しておくから、入れるのをお願い!」

「はーい!」


 サヤはクマの爪で、風音さんは石のナイフを生成して切っていくっぽい。俺も手伝いたいとこだけど……流石にスキルの発動中には無理ですよねー。

 さーて、上手くいけばいいけど……どうなる事やら? 切ったのが不格好だったり、揚げるのに失敗したとしても、仲間内でやってるだけだから問題なしだな。まぁ成功する方がいいから、上手くいってくれー!

 

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