第1468話 氷塊を届けに


 俺が湖の水を汲み上げ、ヨッシさんがそれを凍らせていくという手順を繰り返して……ふぅ、ようやく完成か。結構時間がかかったなー。

 途中から器代わりの水を四角くしてたから、凍らせた水もいい感じに四角くなってるね。うん、サイズ的にも要望通りの1メートル四方の氷塊だな!


「ふっふっふ! 四角い氷塊の完成なのさー!」

「……これ、インベントリには入るのかな?」

「どうなんだろ? ケイさん、やってみていい?」

「問題ないぞー。そこは俺も気になるしさ」


 大き過ぎる岩とかはインベントリに入れられないし、このサイズの氷塊は……直接持ち運ぶ必要がある気もする?


「あ、ダメだね。これ、インベントリには入れられないよ」

「……駄目なんだ。ねぇ、ケイ? このサイズの氷塊、どう使うのかな?」

「知らん!」


 そういう依頼だったから作っただけで、ぶっちゃけ……本当にこのサイズって何に使うんだ? インベントリに入れられないなら普通に邪魔だし、加工するにしても一手間かかりそうな気もする?


「……ケイさん、実はこのくらいの量って目安なだけで……一塊りである必要はないとかって話じゃないよね?」

「うーん、でもマツタケさんは氷の塊って言ってたしな……。まぁとりあえず、持っていけば分かるだろ!」

「まぁ確かにそれもそうだね。別に運べない訳じゃないし……私が氷塊の操作で運んだ方がいい?」

「俺の水の操作はもうLvが上がらないし、熟練度の事を考えるならヨッシさんの方がいいだろうなー」

「あ、そっか。それじゃ、ここは私がやるね。『氷塊の操作』!」


 おし、作り上げた氷塊が浮いたね。天然の氷の塊を浮かせる機会とか早々ないし、こういう機会に使うようにしておかないとなー。スキル強化の種の入手、機会は限られるしさ。


 さて、器にしていた水の操作を解除して……そういや水のカーペットは展開しっぱなしだったな。まぁこれからの移動にも使うし、問題ないか!


「おっし! それじゃマツタケさんの元へ、氷塊を持っていくぞ!」

「「「おー!」」」


 このデカい氷塊をどういう形で使うのかは、マツタケさんに聞けば分かるはず。小さいのを沢山でいいのなら、別に雪山で採集出来る氷柱でどうにかなるもんなー。だからこそ、このサイズならではの使い方があるんだろうね。



 ◇ ◇ ◇



<『五里霧林』から『群雄の密林』に移動しました>


 さて、転移してきました、群雄の密林! 占有エリア同士なら普通に直で転移出来るのはありがたいね。そして、相変わらずここは不動種の並木で賑わってますなー。


「マツタケさんはあっちなのさー! 早く! 早く!」

「へいへいっと」


 待ちきれないとばかりにハーレさんが急かしてくるけど……まぁどう考えても、トレードする油が早く欲しいだけだよな。もっと言えば、18時までに何か揚げてもらいたいってとこか。


「ヨッシさん、氷は溶けてないよな?」

「操作中は溶けないらしいから、それは大丈夫。ただ、操作を切ったらどうなんだろ?」

「ちょっとずつ溶けそうではあるかな?」

「氷なんだから、溶けて当然なのさー!」

「まぁ、そうなるか……」


 氷なんだから溶けて当たり前ではある。あー、だからこそデカい氷塊が必要? いや、でもそれは氷柱の数を集めりゃいいだけの話か。


「……これだけ大きな氷を使う料理って、何かある?」

「うーん、流石に思いつかないね? 冷ますのに使う可能性はあるかもしれないけど……それでも、このサイズは大き過ぎる気がするよ?」

「氷室でも作る気かな?」

「『ひむろ』……? あっ! 昔の人が使ってた、冷蔵庫代わりのヤツなのさー!」

「うん、それかな!」

「なるほど、氷室か!」

「あ、そっか。ここには冷蔵庫なんてないし、そういう用途では使えるかも? 料理によっては冷蔵庫で寝かせるって手順もあったりするしさ」


 てっきり料理の材料か何かのつもりでいたけど、冷蔵庫代わりに使うのは考えてなかったな。そういう用途なら、溶けても支障がないように、大きな氷の塊を希望しても不思議じゃないかも?


「はっ!? ところてんが作れるのです!?」

「……うん、まぁそれも冷やすけど、なんでところてんが一番に出てきたの? プリンとかゼリー、パン生地なんかもするよ?」

「なんとなく! 今、パッと頭に浮かんだのさー!」

「……ところてんの材料って、なんだっけ?」

「天草っていう海藻だね。煮出して、それを固めるんだけど……まぁそういう固めるタイプのものは、冷蔵庫が欲しいかも?」

「あー、海藻か。……探せば、材料があったりする?」

「どうだろ? あれば作れそうな気はするけど……あ、ハーレ、おばあちゃんが作ってたのを思い出したね?」

「えっへん! まさにそうなのです!」


 なるほど、ヨッシさんのお婆さんが作ってた事があったのか。海はそんなに近い訳でもないけど、スーパーの海鮮コーナーにでもあったりしたのかも?


「海藻が材料なら、海エリアの人に聞いてみるか、それこそコイコクさん達に聞いてみるのはどうかな?」

「あはは、それもいいかも? でも、その前にまずはマツタケさんにこの氷塊を渡さないとね」

「あと少しで到着なのさー!」

「だなー」


 上空を飛んできたけど、もうマツタケさんの姿は見えてきてるしね。松の不動種が並んでいるから、パッと見では間違えそうになるのが難点だけど……大体の位置は分かってるし、プレイヤー名をよく見れば大丈夫!

 まぁ他にも目印になる、俺によく似た種族もいるからなー。そりゃ同じ共同体なんだから、いても不思議じゃないか。


「おぉ! プロメテウスさんとケインさんがいるのさー!」

「あ、ケインさん、プロメテウスさんに引っ張られていったかな?」

「……あはは、何か言い争ってるね?」

「分かりやすいように、目印としてケインがいただけっぽいなー」


 俺らに気付いた途端、赤いキツネのプロメテウスさんが、コケを背負ったザリガニのハサミを咥えて移動し始めたもんな。ケインは暴れまくってるけど……まぁいいか。


「マツタケさん、来たよ!」

「……お、おう。……試しに言ってみたら、マジで1メートル四方の氷塊を持ってくるのかよ!?」

「……え?」

「……はい?」


 ちょっと待って、そのマツタケさんの驚いたような反応に驚くんだけど!? 持ってくるとは想定してなかったような反応じゃね!?


「マツタケさん、どういう事かな?」

「その反応、説明が欲しいのさー!」

「あー、悪い、悪い! 馴染みからそのサイズの氷塊が欲しいって要望があったんだが、雪山から切り出して持ってくる人も少ないし、インベントリに入れられないから在庫の長期間の保存も出来ないもんでな? 近々、どこかに採集を依頼しようかと思ってたが……その形状、切り出してきたにしては傷が一切ないし、どうやって作った?」

「あ、もしかしてケイなら作れるかもって、試されてたのかな!?」

「わっはっは! まぁダメ元でな!」

「はい!? え、でも桜花さんは氷を作ってトレードの材料にするって言ってたけど……」

「そりゃ、氷柱とかのサイズの話だ! ここまでデカいの、どう使えってんだ? いや、マジでどう使うんだ?」

「要望を受けてたのに、使い道を知らないのか!?」

「俺は完成品の料理の取り扱いがメインだからな!」

「……マジっすか」


 まさかの用途不明な状態かよ!? しかも、この氷の塊を作るやり方、誰も知らなかった? いや、やろうと思えば難しくはないはず!


「はい! その馴染みの人って、どういう人ですか!?」

「わっはっは! 聞いて驚け! 俺もまぁ知らなかったんだが、ケイさん達が昨日引き入れた『まな板の上のコイの滝登り』のメンバーの1人だな! 元、無所属だったんだがな!」

「あそこのメンバーかよ!?」


 まさかの人だった……って事もないか。馴染みがある人だと言っても、そりゃ同じ群集だけとも限らないですよねー!?

 となると、マツタケさんが取り扱ってた料理はあそこの生産品で確定か。そりゃ色々と種類がある訳だよ!


「そういう事情だから、料理系のアイテムの流通量は増える見込みだぜ! こんなデカい氷の塊をどうする気かは知らんが……まぁ助かった! ほれ、油だ。器はサービスしとくぞ。渡すのはヨッシさんでいいんだよな?」

「うん、それは私でいいけど……器まで貰っていいの?」

「灰のサファリ同盟で土器の生産も始めてるって話だし、ちょっと無茶振りもしちまったからな! その分だと思ってくれや!」

「そっか。そういう事なら、ありがたく受け取っておくね」

「おう、そうしてくれや! あー、氷塊はその辺に適当に置いといてくれ」

「あ、うん。この辺でいい?」

「そこで構わんぜ! ぶっちゃけ、どうやって渡したもんかも悩んでたんだが、まぁ移籍してきたから受け渡しが楽になったしな!」

「だろうなー!」


 というか、あのメンバーなら水を使える人も氷を使える人もいそうだけど……あっ! さては、料理を作るのは出来るけど、その為の道具作りはさっぱりなのか!?

 灰のサファリ同盟へのレシピの提供の代わりに、土器やレンガでの竈の作成を希望してるくらいだし、それはあり得るかも?


「おっす、マツタケさん! 聞いたぜ、頼んでた氷塊が調達出来そう……おぉ! そこに置いてるのがそれだな! よし、これなら氷室が……って、おわっ!? コケの人達!? 昨日はありがとな!」

「あー、どういたしまして?」


 誰かと思えば……昨日見た、バナナの木のコインさんじゃん。今は白いネズミの姿で『コイン』ってなってるから、これは1stか。

 このタイミングで来て、今の内容なら馴染みの人はコインさんか!? そういや、所属を確認した覚えがないな?


「いやー、わざわざ雪山から調達してきてもらって助かるぜ。あそこ、中立地点で人の出入りが多いもんだから、俺らは行きにくくて――」

「コインさん、待て、待て。それは雪山産じゃねぇぞ?」

「ん? いやいや、マツタケさん、それはないだろ。生成した魔法産の氷じゃトレード出来んだろ。そもそも魔法産の氷じゃ上手く温度調整が出来ないしよ? 冷気を生成しても、冷え過ぎちまうしな! まぁアイスくらいなら、それでも作れるが!」


 あ、直接冷やす方向では使ってたけど、氷そのものを作るって発想はなかったのか。やっぱり、料理そのものは得意でも、それに関する道具の作成に関しては微妙っぽいね。


「だそうだが、ケイさん達が実際に作ったみたいでな?」

「……マジか? あー、噂に名高いコケの人なら、それくらいあるのか!」

「えーと、多分……そっちのメンバーだけで用意出来ると思うぞ? 手順自体は、そう難しくもないしさ。さっき氷室を用意したいみたいなのも聞こえてたし――」

「何!? それは是非とも知りたい……いや、待て!? 昨日に続いて、ここでまたお世話になるのもどうなんだ?」

「別に、その辺は気にしなくていいけど――」

「はい! それなら、アイスを所望します! さっき、作れるって言ってたし、食べたいです!」


 ちょ!? ハーレさん、相変わらずの食い意地が……いや、対価を貰った方がコインさんの方が情報を受け取りやすいのかも? アイスが作れるのは気になる部分でもあるし、悪い話でもない?


「アイスならシンプルに材料を混ぜ合わせて、ひたすら氷の操作で冷やして固めるだけだぜ?」

「おぉ! それで出来るんだ!?」

「……そもそも、牛乳は手に入るようになってるんだ?」

「あ、そっちか! ……当たり前のように使ってたが、俺も牛乳の出所は知らねぇな?」

「知らないのかな!?」

「材料調達は他所に任せてたもんでよ!」

「……マツタケさん、牛乳の入手方法って分かってる?」

「いや、聞いた事はねぇな? だが、牛乳を使ってそうな料理ならいくつか見た覚えはあるぞ。クリームシチューとかな?」

「あ、クリームシチューも作れるんだ? なら、どこかで入手自体は出来そうだね」


 あー、そうきたか。もしかして、その手段を知っているもが赤の群集に取り込まれた……いや、あそこは乾物専門だっけか。でも、そうやって専門的に採集をしている集団とかもいそうだな。

 そもそも牛自体は一般生物で存在してるんだから、牛乳自体も存在しててもおかしくない。でも、流通していないという事は、何か入手の為の手順があるのかも?


「おし、後でコイコクに話して、そっちの連中も灰の群集に来れないか話してみるか! 移籍が無理だとしても、入手手段は聞いてみるぜ! それを対価に、デカい氷の作り方を教えてくれねぇ?」


 群集に所属しても伝手は維持させるって方針にしたのが、いきなり良い感じで発揮しそうだな! 必ずその情報を教えてもらえるかは分からないけど、話をしてもらえるだけでも損はないはず。

 少なくとも、何かの手段で牛乳を入手する事が出来るのは確定情報ではある! ぶっちゃけ、それだけでも既に十分だよなー。まぁ群集で手段を探ってる可能性もあるし、俺らが知らないだけで、まとめに既に情報があるかもしれないけど……。


「みんな、それでいいか?」

「牛乳の存在が確定しただけでも大きいし、問題ないよ」

「……クリームシチューもいい……はっ! それでいいよー!」

「私も問題ないかな。まぁ元々ケイが考えた手段だし、どうこう言う理由もないけどね」

「まぁそこはグリーズ・リベルテの成果って事で! おし、それじゃこのサイズの氷の作り方を教えますかね」

「おっしゃ! 自前で用意出来る内容だといいんだが……」


 アイスを生成した冷気を使って作れるなら、十分可能だと思うけどな? ぶっちゃけ、凍らせる対象と規模が違うだけだし……。

 まぁ後から考えたら凄く簡単な内容でも、意外と最初は見落とすって事もあるもんね。今回の氷作りも、そういう類いのものなのかも?


 それにしても……昨日のコインさんは静かな印象だったけど、今日はよく喋るね!? 灰の群集に移籍したからこそ、こういう反応の変化だったりするのかもなー。

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