第1467話 氷塊の作成


 レナさんとラックさんに伝えるべき事は伝え終えて、これから活動開始……と言いたいとこだけど、サヤとヨッシさんが18時に晩飯でログアウトするからなー。これから1時間程度、どうしたもんか?


「サヤ、ヨッシさん、今のうちにやっときたい事って何かある?」

「……私はこれといって、特にないかな? ヨッシはどう?」

「うーん、1時間程度だし、本格的に何をするとしても……中途半端な時間だよね。夜から何かあるなら、下手に中断って訳にもいかないし……色々と新エリアは回りたいけど、今からは微妙かも?」

「やっぱり、そうなるかー」


 新エリアへの進出自体、可能な限りアルも一緒にしたいしなー。新エリアの進出を目的にするなら多少は目的地の選定の為の情報収集も出来るけど、今日の場合はイベントがどうなるか分からないから、それも無理――


「あ、ちょっと待って。これ、予定が出来たかも! マツタケさんからフレンドコールがきたから、出てくるね!」

「おぉ! もしかして、油ですか!?」

「このタイミングなら、あり得るかな!」

「それなら丁度いいんだろうけど……どうなんだ?」

「油だといいなー!」


 揚げ物用のひまわり油の取り置きを頼んでたけど、あれは一昨日だっけ? もし、その内容なら……この後、みんなで取りに行く事になりそうではあるよな。


「あ、マツタケさん! どういう用件……あ、うん。あ、トレード用の油が手に入ったんだ! うん、うん、今は何するか悩んでたとこだから、時間は大丈夫。うん、それじゃ取りに行けばいいんだね? うん、これから向かうから! それじゃまた後で!」

「おぉ! 油になりそうですか!?」

「あはは、そうだってさ。頼んでた取り置き分、丁度さっき入手したとこなんだって。すぐに取りに行くって言ったけど、問題ないよね?」

「問題ないのさー!」

「うん、大丈夫かな!」

「予定も決めかねてたしなー。おし、それじゃマツタケさんのとこに行きますか!」


 場所は群雄の密林にある不動種並木の松の部分! あ、その前に、今回の油はトレードなんだから、ちょっと準備も必要ですなー。


「確か、油は氷塊とトレードって話だったよな?」

「そうなるね。あと、器は持参って条件だけど……まぁこっちはいくつかあるから大丈夫!」

「となれば、氷塊の用意か」


 食材アイテムの詰め合わせが入ってた器を手放したとは聞いてないから、それなりの数は持ったままだろうしね。まぁもう少し経てば、プレイヤー産の土器の流通も増えてきそうだけどさ。

 あー、そういやアルも一緒にいる時に一度マツタケさんと挨拶をしておきたいって話をしてた気もするけど、流石にそれは時間のロスが出てくるし、夜からのイベントな詳細不明だしなー。うん、今回は予定変更って事にさせてもらおう。すまん、アル!


「はい! どこの水で氷塊を作りますか!?」

「そりゃ群雄の密林の川で……あ、別にあそこに限定しなくていいのか」

「……あ、それもそうだね。あそこのは濁ってるし、ここのミズキが植わってるあの湖の水をもらっていこっか」

「それもそだなー。おし、ならそれでいきますか!」

「ところで、1メートル四方の氷塊ってどうやって作るのかな? 明確な指標、ないよね?」

「まぁそこはざっくりで! ……小さ過ぎなきゃ、大丈夫だろ」

「それも、そうかな?」

「向こうもサイズを測る手段は持ってないし、大丈夫なはず!」


 メジャーが存在する訳じゃないんだし、目測でしか出来ないだろ。大きく作り過ぎても、元になる水が足りないって事はないから、作る側としても多少大きくなったところで困りはしない!


「……どちらかというと、ちゃんと凍らせられるかが心配かも?」

「それなら、サッと冷気を氷の昇華で――」

「あ、そういう意味じゃなくてね? ううん、それで真ん中の方まで凍り切るかって心配もあるんだけど……そもそもケイさんが操作する水は、そのまま凍らせはしないよね?」

「あー、そういう心配か」


 俺の操作中の水に干渉するとなれば……凍ったとしても操作時間を削られるし、アイテムに出来るかどうかも怪しい。操作のLvも違うから、そもそも凍らせられないって事態もあり得るかも? まぁそれは別と考えて……手段自体はあるか。


「別に、魔法の水で水の容器を作ればいいんじゃね?」

「……あ、そっか。そういうやり方も出来たんだ!」


 悩ましげなヨッシさんだったけど、具体的な作り方を地味に悩んでたんだな? まぁ実際、1メートル四方の氷の立方体なんか作った事はないし、いざ作ろうと思ったら悩んでも仕方ないか。


「はい! ケイさん、真ん中が凍り切らない場合はどうしますか!?」

「ん? 凍る範囲で上から水を足していけばいいだけじゃね?」

「あ、何重にも層にして作るのかな!?」

「そうそう、そういう感じ。……あれ? みんな、作る気でいた割には、意外と手段は思いついてなかった?」


 あ、でも桜花さんが氷はトレードの材料として使う人もいるとも言ってたから、まとめを見れば手段は載ってるかも?


「ふっふっふ! ケイさん任せだったのです!」

「……正直に言えば、そうなるかな?」

「あはは、まぁ完全に杞憂だったみたいだし、実際にケイさんが手段を考えててくれたしね。駄目なら、まとめに頼るつもりだったんだけど……」

「なるほどなー」


 俺が手段を思い付いていなかった場合はまとめを見るつもりだったみたいだなー。頼りにされてたと考えれば、まぁそれでもいいか。実際、上手くいくかはやってみないと分からんけど……。


「さてと、ササっと氷塊を作っていきますか! それで、そのままマツタケさんの所へ行くぞ!」

「「「おー!」」」


 という事で、まずは今いる灰のサファリ同盟の魔改造中の本拠地から脱出だな。……何度も曲がって入り組んだ奥の方だけど、すんなりと出れるか?



 ◇ ◇ ◇



 灰のサファリ同盟の本拠地から出てきて、ミズキの植わる湖の前までやってきた。ちょっと迷いかけたけど、壁に正解ルートへの目印が彫ってあるのにサヤが気付いて、割とあっさり脱出は完了。

 転移してくる側は人の行き来も多いから、やってきたのはミズキの反対側ですなー。こっち、何気に人の気配はあんまりないっぽいし、作業するには丁度いいだろ。


「ふっふっふ、湖に到着なのです!」

「……一時はどうなるかと思ったかな」

「あはは、確かにね。灰のサファリ同盟の人達でも迷いそうになってるって言ってたし、あれはそのうち無くなりそう?」

「自分達が迷ってたら、意味ないもんなー」


 いやー、聞く相手もいなくて困りかけてたけど、すんなり出てこれてよかったもんだね。目印が無ければ駄目なくらいなら、そもそも利便性が失われるだけだし……あれくらいなら、正直破壊は出来そうだったからね。


「さーて、それじゃ氷塊を作っていくとして……とりあえず、どの程度まで一度に凍らせるか試してみるか」

「あんまりマツタケさんを待たせてもいけないし、手早くやっていかないとね」

「だなー」


 という事で、まずは水を用意しよう。水を掬うなら岩でもいいんだろうけど、経過観察が出来る方がいいだろうし、こっちだな。


<行動値1と魔力値2消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 124/125(上限値使用:2) : 魔力値 312/314


<行動値を2消費して『水の操作Lv10』を発動します>  行動値 122/125(上限値使用:2)


 移動に使ってる水のカーペットとは別に、薄い広げた水の皿みたいなのを用意して……それを湖に浸けて、持ち上げる! ここは生け簀にもなってるけど、一般生物の魚は……よし、入ってないな。


 あー、どっちも透明な水だから、どこからが天然の水で、どこからが魔法で生成した水なのかが分かりにくい? まぁその違いはすぐに分かるし、今はいいか。

 一応、それほど深くならないようにしたから、これを全て凍らせれば厚さ10センチくらいにはなるはず? これを基準に凍らせる範囲を考えよう。


「ヨッシさん、とりあえずこの程度から凍らせてみてくれ」

「了解! 『アイスクリエイト』『氷の操作』!」


 さて、冷気が水面に生成されて包み込んでいくけど……おー、どんどん凍ってる。リアルで氷を作ろうと思えば結構時間がかかるけど、ゲーム内だからこういうのはあっという間だね。


「これ、操作時間の減り方が違うね。冷気を固めて凍らせると、かなり消耗しちゃうんだ?」

「そうなのか。まぁこうやって、意図的に冷気で凍らせるのは初めてだしな」

「あはは、確かにそれはそうかも?」


 いや、前に戦闘中で水を凍らせた事もあったっけ? まぁ少なくとも、アイテムの生成目的でやるのは今回が初めてのはず。この様子だと、氷そのものを魔法で生成するのとは、どうしても勝手が違ってくるんだろうね。


「あ、操作時間が切れちゃった」


 ふむふむ、これは……冷気が消えて、全部凍り切ったか? いや、表面上はそう見えるけど、下側は半分くらいは凍ってないな。俺の魔法産の水を動かせば、なんとか動かせるし――


「……凍り切ったかな?」

「ヨッシ、乗ってみていいですか!?」

「うん、確認をお願い! 表面だけじゃ意味ないしね」

「えいや! おぉ! ちゃんと乗れるのさー!」

「まぁ半分くらいは凍ってるしなー」


 厚さ5センチの氷って考えれば、まぁ普通に結構な厚さはあるよな。そりゃリス程度の重量で割れる訳もないか。


「え、ケイさん、分かるの?」

「そりゃまぁ、操作してる水と接してるくらいだし? 正確なとこまでは分からないけど……半分くらいは、俺の水で押し除けられる範囲だぞ」

「はっ!? 確かに、端の方から水が動いてきてるのが見えるのさー!?」

「……厚さ5センチだと、スケートリンクの氷より少し薄いくらいの厚さかな?」

「あー、そんなもんなのか」


 スケートとかやった事ないけど、あれの厚さはこれよりもうちょいある感じなんだな。……というか、作ろうと思えばスケートリンクも作れる?

 あ、そういや雪山でそんなのあったな!? あれは確か、あの場所の寒さそのものを利用してた気がするけど――


「よく考えたら、ケイのやり方ってスケートリンクの作り方に近いかな!?」

「……へ? え、そうなのか?」

「うん! 水を撒いて、凍らせるのを繰り返すから、規模こそ違っても、手段自体は同じかな!」

「……なるほど」


 単なる思い付きの手段ではあったけど……これってよく考えれば、サヤが普通に辿り着いた作り方じゃね!? くっ、俺に任せる事に決めて、特に考えてなかった結果か!?

 いや、別に悪い気はしないな? 相手次第では怒りそうな気もするけど……まぁサヤ達だしね。信頼の証だと思えば、怒る理由はどこにもないか。


「おし、とりあえず一度でどの程度が凍るのかは分かったし、5センチくらいの範囲で繰り返していくか」

「了解! ……ザックリ考えて、20回なんだね」

「確かにそうなるなー。でもまぁ、トレード用のアイテムだし、そこは割り切ってやっていこう」

「あはは、それはそうだね。これ、結構大変かも?」


 気軽にパッと凍らせられないのは、まぁ仕方ない。……これ、スキルLvが上がればもっと一気に凍らせられるようになったりするのか?


「ケイ、それは彼岸花さんに聞いてみたらどうかな?」

「あー、確かにそれもありかもなー」


 彼岸花さんは生成量増加Ⅱの効果のある氷の操作を持ってるんだし、霧の偽装として冷気を使ってたりもしたんだから、俺らよりも詳しいはず! 機会があればだけど、聞いてみるのもありだよね。


「それにしても……昨日の今日じゃ、流石にこの思考のダダ漏れは直らないか……」

「あ、そういえば、昨日、不具合がどうとか言ってたよね? あれ、どうなったのかな?」

「手動でフィードバックは送ったけど、それからまだ何もなしだな。まぁ送ったの、夜中だから仕方ないとは思うけど……」

「しばらく、様子見かな?」

「そうなるなー。直ってくれればありがたいんだけど……」


 流石に報告を受けて、1日で直せって方が無茶だろうしね。場合によっては業務用のVR機器でのデータ収集も必要みたいだし……まぁあれに関しては、とりあえず待とう。


 なんて話しつつも、作業はしていかないとなー! えーと、凍らせた氷を浮かせてる水の器をもう一度、湖に浸けて……いや、それよりは追加生成で、もう1つの器を作って流し込んだ方がいいか。

 今はあまり高くないからいけるけど、厚くなってきたら流石に厳しそうだしさ。よし、それでやろうか!


「ハーレさん、そろそろ降りろ。そのまま水をぶっかけるぞ」

「わー!? 冷凍されるのは嫌なのさー!?」

「私の氷だから平気……あれ? この場合、平気なの?」

「分かりません!」


 そういや、今作ってるのはアイテムとして加工が可能な天然産の分類になる氷の塊だけど……その作成過程って、ダメージ判定はどうなってるんだろ?

 凍らせている最中は平気だけど、加工が終わった後からはアウトとか? うーん、実際に氷漬けにしてみないと、これはなんとも言えん!


「ケイさん、試さないでね!?」

「待たせてる時に、そんな真似をするか!?」

「はっ!? 待たせてない時なら、凍らされる!?」

「……おし、冷凍されるのをお望みなら、そうしてやろうか!」

「わー!? ケイさんが怒ったのさー!?」


 まったく、俺をなんだと思ってるんだよ、ハーレさんは! そもそも実行するのは俺だけじゃ無理なんだから、そんな心配はいらないっての。


「悪ふざけはそれくらいで、続きをやらないかな?」

「それもそだなー」


 という事で、既に凍らせた氷の上に、5センチ程度の深さになるように水を注ぐ! しっかりとハーレさんも退避済みだな。変に負荷をかけても面倒だから、器にしている水は地面に置いてしまおうか。


「ヨッシさん、いいぞ」

「うん。『アイスクリエイト』『氷の操作』!」

「ヨッシ! それ、操作せずに凍らせたらどうですか!?」

「それだと、多分だけど薄い氷にしかならないよ? 冷気を一ヶ所に固めてるから、なんとかこの厚さで凍ってるみたいだしさ」

「あぅ……操作せずの連発じゃ無理そうでした……」


 いや、その方法でも出来なくはなさそうだけど……絶対に回数が増えまくるよなー。どう考えても効率は悪そうだから、今の方法でやるのが無難だろ。

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