第1459話 負けず嫌い
<『ザッタ平原』から『ハイルング高原』に移動しました>
色々な話をしている間に、ハイルング高原までは戻ってきた。戻ってきたけど、ライブラリと同列扱いされるのはなんか嫌なんだけど!?
「ハイルング高原まで来たなら、まぁあと少しだな。頼むぞ、アルマース」
「おうよ。速度もまだ上げようと思えば上げられるが、どうする?」
「急ぐ理由がなければ、無理に速度を上げる必要もあるまい。彼岸花達、何か急ぎたい理由はあるか?」
「……ううん、特にはないよ」
「焦っても、どうこうなる訳じゃないしねー。ケイさんがこれから相手をしてくれるなら、話は別だけど?」
「今日は勘弁! 普段ならもうログアウトしててもおかしくない時間だしさ!」
もう23時半にはなってるんだから……って、そういやアルに聞こうと思って、そのままになってる件があった!? あー、でもここで聞くのもどうなんだ?
「だそうだ。リコリス、諦めろ」
「んー、まぁ今のは無茶を承知で言ってみただけだしねー。おーし、それじゃアルマースさんが提案してくれてたし、アルマースさんと1戦やって……あ、待って! その前に、ラジアータにちょっと付き合ってもらいましょうか!」
「……今回はどんな思いつきだ?」
「ふふーん! 何気に模擬戦機能を初めて使うし、慣らしを見知った相手とやろうかなーって?」
「ふん、いいだろう。周りへの配慮が不要な模擬戦なら、全力で叩き潰してやるまでだ」
「よーし、決定! ここではっきり、どっちが上か白黒つけてあげるからね!」
「わざわざ負けにくるとは、面白い事をするな」
「なにおう!? 人には過小評価だとか言いつつ、それは油断が過ぎるんじゃない!?」
「属性の相性や戦闘スタイルを加味した予測だが……まぁいい。体感すれば分かる事か」
なんか、リコリスとラジアータの間で火花が散ってそうな光景なんだけど!? この2人、もしかしてそんなに仲は良くない!?
「彼岸花、あの2人はいつもこんな調子か?」
「……うん、いつもの光景だから心配はいらないよ。2人とも、負けず嫌いなだけだから――」
「それは彼岸花もでしょ!」
「何を他人事みたいに言っている!」
「……これもいつもの事」
「なるほど、確かにいつもの事のようだな……」
あー、うん。この3人が負けず嫌いなのは分かってた事だけど、味方の中でもそれが発生してるだけの話なんだね。
思いっきり言い争いが始まったリコリスさんとラジアータさんを、どこか呆れたように見てるベスタの反応……これ、どことなく風雷コンビを連想するような……って、共同体のチャットが光ってる?
ハーレ : ケイさん、今日は遅くなってもいいですか!?
アルマース : 今の言ってた1戦を見たいのか?
ハーレ : うん! でも、ケイさんの許可がないと無理なのです!
なるほど、内容的にはまぁそういう希望が出てきても不思議じゃない。でも、既に普段のログアウト時間を過ぎてるのに、ここから更に模擬戦の観戦か……。
うーん、短期決戦で終わるならいいけど……長期戦になると流石に許容範囲を超えるよな。それに、聞いている感じなら今日だけって事はないだろ。だから、結論としてはこうだ!
ケイ : 気になるのは分かるけど、今回は却下で!
ハーレ : えー!? こんな機会、早々ないのさー!
サヤ : そうでもないんじゃないかな?
ヨッシ : 移籍してくるんだし、割と機会はありそうな気もするよ?
アルマース : そのタイミングに居合わせられるかどうかは問題だが、お互いに負けず嫌いなら、何度でも再戦はあるだろうな。
ケイ : そうそう、そういう事。またどこかで機会を待つって事でな? 下手に寝坊して、その機会が無くなる方が嫌だろ?
ハーレ : あぅ!? それは、確かにそうなのです……。
俺だって気になる1戦ではあるけど、無茶をすべきとこではない。本当にどういう風に戦うのかは興味あるんだけど……ここで俺が線引きをしておかないと、終わる時間を俺が決める事に説得力が無くなるしね。下手に興味だけで流されないように気を付けないと!
ケイ : あ、丁度いい機会だから、ここで聞いとく! アル、今週の土曜にeスポーツの大会の予選をみんなで見ようって話が出てるんだけど、どうよ?
アルマース : どういう流れでそういう話が……って、ギンさん絡みか?
ケイ : まぁそうなるなー。ハーレさんがギンから部活に勧誘されてて、ちょっと興味を示してるのもある。
ハーレ : そうなのです!
アルマース : おー、良い話じゃねぇか。ケイとは違って真っ当に勧誘されたんだな。
ケイ : まぁそうなるなー。
流れが真っ当だったかは……まぁ放課後のアレで見込みありって判断からなら、そこまでの経緯はともかく、動機としても手順としても勧誘としては真っ当なものだよな。
ヨッシ : それでみんなでVR空間を作って、私の手料理を振る舞いながら観戦って予定にしてるんだけど……アルさんはどう?
アルマース : あー、悪いが俺は遠慮しとく。別にケイ達と一緒が嫌って訳でもないんだが、どうもそういうのは性に合わん。
ヨッシ : そっか。まぁ無理強いしても駄目だしね。
サヤ : アル……もしかして、前に何かあったのかな?
あ、そういえばアルって、大学時代に変なのにストーカーされたとか言ってたような……あれ? その辺の話って、サヤ達は聞いてない?
アルマース : ん? あぁ、そういえばこれを話したのはケイだけだったか。大学生の頃にゲームで知り合った相手にストーカーされた事があってな? 別にサヤ達がそうだとは思わないんだが……男の被害者だからって甘く見られたりもして、少しトラウマになっててな。
サヤ : そんな事があったのかな!?
ヨッシ : え、そうだったの!? ごめん、それなら変に誘う方が嫌だよね……。
ハーレ : というか、ケイさんは知ってたの!?
ケイ : まぁ軽くは聞いてたからなー。
アルマース : 別にケイが悪い訳じゃねぇし、俺の問題なだけだから、気にすんな。誘ってもらえた事自体は、まぁ嬉しいとこではあるからよ。
ヨッシ : そっか、アルさんにも色々あるんだね。
ハーレ : 変な人は、どこにでもいるから厄介なのです!
サヤ : その意見には同感かな!
ケイ : だよなー! それに振り回される方の身にもなれっての!
まったく、俺自身は被害は受けた訳ではないけど、おかしな奴らは見てきたし……サヤもヨッシさんも、実体験としてあるもんな。アルも色々あって、本当に大変だったんだろうね。
「おい、アルマース? チャット中かもしれんが、方向が少し逸れてるぞ」
「おっと、悪い!」
あらら、チャットに気を取られ過ぎて、森林深部じゃなく雪山方向に進んじゃってるよ!? あー、流石のアルも内容的に気が散ってしまってたか。用件自体は伝えたし、チャットはこれくらいで……って、光ったから誰かが書き込んだな?ー
アルマース : まぁそういう理由だから、俺の事は気にせずに好きにやってくれ。
サヤ : 分かったかな!
ヨッシ : アルさん、無理な誘いをしてごめんね?
ハーレ : ヨッシ、それは気にしちゃ駄目なのです! それは余計にアルさんの負担になるのさー!
ヨッシ : あ、そっか。それもそうだよね。
しまったな、俺は軽くとはいえアルから事情を聞いてたんだし、反応の予想も出来てたんだから……聞くタイミングを色々と考えておくべきだった。くっ、ヨッシさんに変に負担をかけてどうする!? 完全に聞くタイミングを間違え――
「ケイ!」
「……アル? どした?」
なんでこっちで大声で、わざわざ俺を呼ぶ?
「折角、大物の3人組の加入だ。大々的に突入ってのはどうだ?」
「……ははっ! いいな、それ!」
変な雰囲気になってしまったから、今はそれで思いっきり流れを変えてしまおうって案か! 彼岸花さん達を利用するような形にはなってしまうけど……まぁ俺も試されはしたし、このくらいは大目に見てもらおう。
「アルマース、そうは言うが……何か案はあるのか? ケイの水だけだと、既に今日はコイの群れで目立ちまくっているぞ?」
「なにそれ!? コイの群れって……あ、コイコクさん達!?」
「……無理に目立たなくてもいいよ?」
「確かにな。逆に警戒される可能性もあるし――」
「そこをどうにかしようって話だよね、アルマースさん! 目立って登場からの流れで、加入しての模擬戦! これだー!」
「リコリス……そこまでして、自分の負ける様子を流したいなら止めはしないが……」
「なにおう!? その私が下って認識、ここで完全にぶち壊さないと駄目みたいだね! 私に敗北する様子が流れるのは、ラジアータの方だから!」
「今はそう思っておけばいい。現実を突き付けるのは心苦しいが……まぁそれが望みとあらば、仕方あるまい」
「ああ言えば、こう言うね!?」
「自信過剰も程々にな」
これ、派手な演出とかなしで、この光景をそのまま見せてしまうのが1番馴染みやすいような気がしてきた?
「アル、ベスタ……この2人の喧嘩してる光景、中継していくってのは?」
「なるほど、確かに俺なら映せれるな」
「……それは、良いかも? 許可は私が出すよ」
「「彼岸花!?」」
「……だって、2人とも止めても止まらないよね?」
「「ぐっ!?」」
「……了承は得たから、中継は問題ないよ」
今ので了承になるんだ!? 案を出したのは俺だけど、今ので本当にいいんだ!?
「そういう事なら、ケイが水で覆いを作れ。その中で、お互いに仕留めない程度に暴れてもらえば、それだけで十分目立つだろう」
「……それ、良いかも?」
「おっ、前哨戦だね! よーし、受けて立ーつ!」
「それはこちらのセリフだ。精々、辿り着く前に死なないように頼むぞ」
「もうやる気満々じゃん!?」
ただ単に言い合ってる場面を映すだけのつもりだったんだけど……ちょっと早まったか? 何気に流れ弾防止は俺の役目になってるし!?
「あー、ベスタさん、待ってくれ。俺のフレンドに、今の森林深部で中継が出来る不動種はいねぇぞ?」
「いや、もう中継はいらん。この状態で、目立たないような戦い方をすると思うか?」
「……それもそうだな」
「ふっふっふ! それなら、必要なのは告知なのさー! ラックに連絡してきます!」
「あぁ、任せるぞ、ハーレ」
「はーい!」
「サヤ、ヨッシの2人も知り合いに伝えられるか? 拡散は早い方がいいし、複数経路で広めるぞ」
「あ、うん。サヤは桜花さんへ連絡をお願い! 私は肉食獣さんに連絡してみる!」
「分かったかな!」
なんかどんどんと話が広がっていってるんだけど……え、もうそれほど森林深部に辿り着くまでの時間ってないよな!? マジで森林深部の上で大暴れさせる気か!?
「さて、ルール設定だ。万が一にでも死者が出ると困るから、PTの維持は絶対だ。流れ弾も出ないようにしてもらう。いいな?」
「まぁ流石に殴り込みだと勘違いされても困るしね!」
「それは許容範囲だが……具体的にどういうルール設定だ?」
「簡単だ。俺へ先に1撃を当てた方が勝ちとする。範囲はケイが展開する水の操作の中で、制限時間は森林深部に入ってからエンの元へ辿り着くまでだ」
「ちょ!? ベスタも参戦するのか!?」
待て、待て、待て!? 勢いでとんでもない内容が決まってね!? ベスタを標的にして、リコリスさんとラジアータさんが攻撃を仕掛けていくって……無茶な内容になってきた!?
「おー! 面白そうだね、それ! 私達相手に、自信満々で逃げ切る気だよねー?」
「リコリス、今回は勝負だ。協力はせんぞ」
「うるさいなー。はいはい、そのくらい分かってますよーだ!」
「ならいい。だがまぁ、実力を見るのも見せるのも、良い機会ではあるな。なぁ、灰の群集のリーダー」
「全力でかかってこい。相手をしてやろう」
ちょ!? またわざわざそんな煽るような言い方を!? あー、ベスタはこの機会を利用して、リコリスさんとラジアータさんの動きを確認する気か?
まぁかなりの制限付きのルールだし、この勝ち負けだけで実力の全てが決まる訳でもないし……まぁ派手な事になるのは間違いないな。うん、本当に流れ弾は防がないと危険かも……。
「……2人とも、油断は駄目だよ?」
「分かってるって、彼岸花! でも、舐めてもらっちゃ困るね!」
「最強格のプレイヤー、相手にとって不足はない!」
「……もう乗せられちゃってる」
あー、うん。これ、ベスタ自身が標的になるとは言ってるけど、反撃しないとは言ってないもんな。彼岸花さんはそこを警告してるんだろうけど……なるほど、この辺もリコリスさんとラジアータさんの弱点なのかもね。
「ベスタさん! 灰のサファリ同盟で一気に話を広めてくれるってー!」
「桜花さんも不動種の伝手から広めてくれるそうかな!」
「肉食獣さん達も! というか、もうみんな、話を聞いて森林深部に雪崩れ込んでる状態だってさ!」
「話、早いな!?」
「話どころか、動きも早いもんだな。だがまぁ、それこそ灰の群集か」
「まぁそれもそうだよなー」
もう俺らも間も無く森林深部に到着だけど……まぁ変な空気は霧散したね。ただ、想定を遥かに超えた事態へと変わってしまったけど……まぁそれはそれで、灰の群集らしくていいか。
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