第1458話 彼岸花達の問題点


 流石は作戦立案をするというだけあって、彼岸花さんはかなり危険な内容を思いついてくるもんだ。まぁ実行能力を持つほどの人が限られてくるのが、不幸中の幸いか。

 もしさっきの案を実行に移されたら……かなり厄介な状況になるのは間違いないしね。でも、それを思い付く人が灰の群集に入るのは頼もしいとも言える。まぁその分、アルが言ってたように警戒も怠れないけども……。


「……実際の動きは、正確には予測は出来ないとも言っておくね。でも、群集の動きを把握した時には苛立つと思うよ。今頃、どう自分達の所へ引き入れるかを考えてるだろうし、その前提をひっくり返される事になるし……」

「それで問題ない。そうでないと対策した意味がないからな」

「だよなー」


 どうやったって、主導権を握りたがる人との利害は一致しようがない。俺らとしては積極的に敵対する意思はないけど、変にトラブルが拡大しないように対処するしかないしね……。

 妙に集団の主導権を握りたがる人っているけど、こういうトラブル対応も必須になるの、分かってるのか? うーん、ライブラリに乗せられて積極的にトラブルの大元へ入っているくらいだし、そういう認識はなさそうな気がする……。


「まぁその辺の話題はこれくらいでいいとして……そちらは今、どの辺りだ? こちらはザッタ平原に出たとこだが……」

「もうネス湖の湖畔だから、私達もそっちに向かうよ! その方が早いでしょ?」

「……うん、そうしよ。ラジアータ、いい?」

「問題ねぇが……リコリス、既に岩で固めてから言う事か?」

「ふふーん! その方が早いからね! それじゃ出発!」


 そういえば、リコリスさんって岩の操作で防御をしてるって事もあったっけ? 土属性自体は持ってないっぽいけど、何気に俺が使う属性と被ってる?


「あ、そうそう。ケイさんは思いっきり私と属性被りになってるし、色々と参考にさせてもらうからねー!」

「まぁ真似出来る範囲ならご自由に?」

「おっ、言ったね! 一度、精度勝負を挑みたいなーって思ってたんだけど、どこかで時間ある? 流石に今日は無理そうだけど……」

「あー、明日からあるイベント次第だな? 今日はもう何も出来てないけど、流石に明日はイベントに集中したい!」

「あ、そっか。そういえば何か告知があったっけ。んー、私達はログイン、夜からだしなー?」

「そうなのか?」

「うん、そうなの!」

「……大体、いつも夜の1時くらいまでやってるよ」


 ほほう、夕方はいないけど、夜から深夜帯にかけてのプレイ時間か。その時間帯で動くなら、一緒に動くとしても支障はないね。というか、思いっきりアルの活動時間と被ってるような?


「まぁ日によって多少前後はするがな」

「俺とほぼ同じ時間帯か……。折角だし、リコリスさん、俺と後で1戦やるか?」

「アルマースさんと? えー、ケイさんと比べたら見劣りしない?」

「……リコリス、失礼だよ?」

「あははー、って、彼岸花!? ここで凍らさないで!? シレッとPTを抜けて、完全に凍らせてって何度かやられてるし!?」

「……さっきのは訂正! 味方に言っていい事じゃない!」

「……はい、すみません。わー! 謝るから! 誠心誠意、謝るから、凍らせる範囲を広げないで!? 移動中なのに、みんなで地面に激突しちゃうから!? すみません! ごめんなさい! 調子に乗りました! 申し訳ないです!」

「……よろしい」

「……ふぅ、助かったー! 待って、彼岸花。適当に言ってる訳じゃないからね!?」


 何をやってるんだろう、この2人? 力関係がどっちが上かというのかは垣間見えた気がするけど……リコリスさん、何気にお調子者か?


「アルマースさん、すまん。リコリスが周りを甘く見るのはいつもの事なんだが……気を悪くしたなら、申し訳ない」

「いや、構わねぇよ、ラジアータさん。ケイより見劣りするってのは、割とよく言われる事ではあるしな」

「……え? ちょ、アル!? そんな事、普段から言われてんの!?」

「わざわざ言っちゃいないが、別に今に始まった事でもねぇぜ? 実際、ケイの操作精度と比べたら劣るのは事実だしな」

「……マジか」


 うっわ、そんな風に言われてるなんて考えもしてなかった!? あー、嫌でも目立つ立ち位置にいるんだし……よく考えればそういう事態が起きてても不思議じゃないのか。俺らへ好感を持ってる人ばかりじゃないのは分かりきってる事だし……。


「おいおい、ケイ? 自分のせいだとか、変に凹むなよ。そういう連中は一つの側面しか見てねぇから、大体は後で痛い目を見せてるからな」

「……はい? え、それってどういう――」

「アルマースがそういう奴と深夜に模擬戦をする事は、たまにあるぞ。大体は操作系スキル……それも水の操作だけに気を取られて、海水や木の根に捕まって、クジラで吹き飛ばされているがな」

「おぉ!? アルさん、返り討ちにしてるんだ!?」

「あー、そういう意味で痛い目か……」


 アルと俺との共通点って水の操作と水流の操作くらいだけど、そもそもそこには操作精度以前にスキルLvで大きな差があるもんな。そこだけで単純比較する人じゃ、そもそも全く戦い方が違うアルへ正しい対処も出来ないのか。


「……リコリス、怒った理由は分かった?」

「うん、私、すごーく危険な事を言った気がする! あっ! さてはアルマースさん、私が試した事への意趣返しのつもりでの、模擬戦の提案!?」

「……さて、どうだろうな?」

「あー! やっぱりそのつもりなんだ!?」

「そうだとして……受ける気はあるか?」

「ふふーん! そこらの雑魚と一緒にしないでもらおうじゃない!」

「そのそこらの雑魚と同じ判断をしていた口で、何を言って――」

「だー! ラジアータは黙ってなさい!」

「いいや、良い機会だから言わせてもらうぞ。正確に実力を知ってる訳じゃない相手を、舐めてかかるのはいい加減やめろ。その過小評価が、弥生さんやシュウさんと初めて戦った時の敗因だと、いい加減把握しろ」

「いやいや、弥生さんが高笑いしながらどんどん動きが鋭くなるとか予想出来ないよね!? 下手にシュウさんに攻撃が当たると、更にブチ切れるのも想像の埒外なんですけど!?」


 あー、うん。まぁそれに関しては本当にその通りなんだけど……いや、本当によくあの2人に勝てたな? あの時って、シュウさんが赤の群集としての役割を守ろうとしてたし、それが上手く足枷になってたとか? ……何も役割はない方が、あの2人って強いんじゃね?


「流石に俺も弥生さんとシュウさんは例外だとは思うが、それでも過小評価をし過ぎなのは間違いないだろう。そもそもケイさんと精度勝負とは言ってるが……手段を絞らないと、模擬戦での勝敗で決めるなら、リコリスの負けは見えてるぞ?」

「えー、なんでさ? 発想は確かにケイさんの方が上だと思うけど、操作精度で引けを取ってる気は――」

「そこだ、そこ。そこに拘ってる時点で、リコリスの負けだ」

「だから、なんでさー!」


 ほほう? リコリスさんより、ラジアータさんの方がよく理解してるっぽいね。この3人組、一番の考えなしはリコリスさんだな?

 そういう認識でいるのなら冗談抜きで倒すのは簡単だし、アルのさっきの話を聞いた上でこうなるとはね。身近に同調種のラジアータさんがいるのに、俺の事を操作系スキルのみで認識し過ぎだろ。


「ケイさん、実際に戦ってる訳じゃないのに、やりそうな事を言うのは避けておいた方がいいか?」

「いや、別に言ってくれて構わんぞ、ラジアータさん。多分、その方がこっちとしても現状が色々と分かりやすいしさ」

「……そう言ってくれると助かる」


 多分、この会話ってラジアータさんが自分達の問題点を俺らに伝えようとしてくれてるんだろうしね。……今の段階でも、結構問題ありなのは間違いないしなー。

 これ、味方として戦う時にはどうにかした方がいいのは間違いし、改善出来てないって事は彼岸花さんとラジアータさんでも手に余ってるんだろうね。……俺にどうにかしてくれって話?


「だから、どういう理由で私が負けるって決めつけてるのさ!?」

「俺の戦い方を見ていて、何故気付かないかが疑問なんだがな……。リコリス、ケイさんのロブスターを何だと思っているんだ?」

「え、移動用の土台と囮を兼ねてるんでしょ? これ見よがしにコケを晒してるし、同調種で本体を堂々と見せてる人を他に見た事ないんだけど?」


 あー、うん。そこ、特に何にも考えてないだけ……。まぁ隠そうと思えば腹の側に移したりも出来るけど、光源にしたりとか、視点を変えたりとか、場合によっては滑らせての防御にも使うから!


「ただ単にそれだけなら、とっくに誰かに倒されている。弥生さんやシュウさんでさえ、倒せていないのを忘れるなよ?」

「っ!? 目に見える場所に堂々と置いてある事、そのものが罠って事!?」

「見える位置にある必然性はないからな。迂闊に切り離しを狙えば、そこをカウンターで狙われるだろうよ。ロブスターで近接攻撃をしてきたら狙いたくもなるが、その選択肢を思い浮かべさせる事こそが隙を作り出す。だからといって、ロブスターを無視すれば……そのまま近付かれて、手痛い一撃を受けるぞ」

「っ!? 普段の状態から、罠を仕込んでるって事!?」

「あぁ、おそらくな」


 いや、ロブスターの背にコケがいる事に、そういう意図は特にないんだけど……あれー? ラジアータさんはラジアータさんで、深読みをし過ぎてるとこがあったりする?

 いやまぁ、結果的にそういう隙が出来れば、そこを狙いはするから完全に間違いという訳でもないんだけど……。


「なるほど……リコリスとラジアータ、共に問題はある訳か。彼岸花自身は、戦闘が苦手なのが問題か?」

「……うん、そうなるよ。リコリスは考えなさ過ぎ、ラジアータは考え過ぎで、少し困ってる」

「彼岸花、何を言っている!? 俺が考え過ぎだと?」

「そうだよ! 私は考えなしじゃないからね!」

「……2人とも、これを認めないのが特に問題」

「確かに、これは中々厄介な問題か」

「……そうっぽいなー」


 自覚がないのは、問題を解決する際に1番厄介な障害になってくるんだよな。弥生さんとシュウさんに負け越しているのって、シンプルな実力ではなく、こういう思考の部分が影響してるのかも?


「彼岸花! 私のどこが考えなしだって!?」

「そこは疑問の余地はないだろう! アルマースさんを甘く見た部分で十分証明されている! それよりも、俺が考え過ぎだというのは――」

「ラジアータ、誰が考えなしだって!?」

「さっき、俺の説明に納得していただろう! それこそが――」

「……見えたから、その話は後で」


 おー、岩に乗ったトカゲとヤドカリが言い合いしてる様子が見えてきた。なんというか……彼岸花さん、お疲れ様です。実力者3人組でも人間らしいとこがよく見えて、リベンジ狙いでも大変なんだとよーく実感したよ。


「リコリス、ラジアータ、言い合いはその程度で終わりにして、アルマースの上に移れ。森林深部まで戻る――」

「待って、ベスタさん! この際、私が甘く見てた部分があるのは認めるとしても、ラジアータの言い分が全部正解だって主張は納得出来ない! この頑固頭が考え過ぎっていう証拠を頂戴!」

「だから、俺は考え過ぎではない! もしそうなら、ライブラリにいいようにはされて――」

「考え過ぎと、策を見抜くのは別問題だぞ、ラジアータ。そこの区別はつけておけ」

「なっ!? ベスタさん、そりゃどういう意味だ!?」

「そのままの意味だ。いくら考えても、的外れの方向に思考を伸ばしたところで意味はないからな。下手をすれば、ただの空回りになる」


 おー、ばっさりといくね、ベスタ! まぁ特に何も意図してない俺のコケとロブスターに、何かの意図を勝手に見出してるんだから、空回りと言えば空回りだよなー。


「何を根拠に――」

「さっきのケイへの分析が間違っているからだ。ケイにロブスターをそう扱ってる意図はない。そうだな、ケイ?」

「まぁそうなるなー」


 ……特に何も考えてませんとは言い難いけど、まぁ意図していないのは事実だしね。


「え、そうなの!? だったら、近付いてきても大した事は――」

「それも甘い考えだな、リコリス」

「……え? ベスタさん、それ、どういう意味? ロブスターに大きな意味はないんだよね? ラジアータの考え過ぎなら、そこまで警戒する要素じゃないって事でしょ」

「ここぞとばかりに、勢い付くな!?」


 あのー、なんで俺の分析内容で喧嘩になってるんですかねー? なんか居心地が悪くなってきたんだけど……あー、アルはしっかりと合流を済ませたから、森林深部に引き返してるな。うん、早く戻って、この状況から解放されたい……。


「どちらもケイの本質を見誤り過ぎだ。ケイの最大の武器は、発想と臨機応変さだ」

「……え、操作精度じゃないの?」

「下準備ではないのか?」

「確かにそのどちらも強い武器ではある。だが、それだけで他の群集を相手に囮が務まると思うなよ? ケイ達は、死亡前提の捨て駒としての囮ではなく、無視出来ない遊撃としての囮だからな」


 いや、ベスタ!? なんで囮に必要な資質みたいな話になってんの!? そもそも、遊撃と囮って同時に成立させるものだっけ!? いや、確かにそういう動きはしてるけどさ!


「……確かに誰がどう襲ってくるか分からないのに……凌ぎ切るのは、事前の作戦だけじゃ無理かも?」

「そんなもの、物量で押し切ればいいだけじゃない?」

「それは対策されれば、意味はない! それこそ複数の手段を持っていて的確に素早く……だからこその、発想と臨機応変さか!?」

「え、それって凄いの?」

「……実際に自分で戦えて、それらを含めた指揮も出来る人となれば、かなり稀有。少なくとも、私には無理。……インクアイリーの中で出来そうな心当たりは、オリガミさんかライブラリくらい」

「あの2人と同格って、ヤバくない!?」

「何を考えているのか読めない2人だし……下手に行動を読もうとすると逆に危険なのか」


 えーと、その2人と同じ扱いってどう反応したらいいんですかねー!?


「……え? ケイが愉快犯になったのが、今回の件の黒幕なのかな!?」

「それ、相当厄介なのです!?」

「……実際、相当引っ掻き回されてるもんね」

「ケイが全力で引っ掻き回す事に集中すれば……確かに、今みたいな状況になるかもな」

「ちょ!? そこでみんなして納得しないでくれない!?」


 オリガミさんはともかく、今回の黒幕のライブラリと一緒にされるのは嫌過ぎるわ! 変な例えの仕方、やめてもらっていい!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る