第1457話 違う視点からの話


<『五里霧林』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 ネス湖まで彼岸花さん達を迎えに行く為に移動中。グリーズ・リベルテへの新メンバーの加入の可否は、しばらくは検討中という事で。


「おっ! ケイさん達か!」

「ん? コイコクさん達……コイの群れでどうした?」


 どうも共同体『まな板の上のコイの滝登り』のメンバーが勢揃いしてるっぽいけど……呼ぶには長いな、このネタ名称! まぁそれは今は置いといて……本当に何事?


「いやー、並木をコイツらが見てたら、初期エリアや占有ぐらいは巡っといた方が良いって事になって、今は灰のサファリ同盟の人達に案内してもらっててな!」

「あー、なるほど。そりゃ確かにやっといた方がいいかもなー」


 特に占有エリアは、灰の群集でなければ出入りしにくい場所だしね。赤の群集から無所属になってた人は、全然その手のエリアへ踏み入れた事がない人もいるだろ。

 でも、コイコクさんは俺らが五里霧林に送り届けたよな? んー、どういう流れがあったのかは分からないけど、合流する事になったのかも? ……コイコクさんだけで話を進めるのもややこしくなった可能性もありそうだ。


「……そうか、その可能性もあったな。コイコク、俺らは用事があるから、すぐに思い当たる者がいればでいいんだが……無所属で今発生している乱入クエストについて、何か知っている奴はいるか?」

「っ!? ベスタさんも一緒だったのか!? って、乱入クエスト……?」


 あ、そうか! このメンバーの中には、少し前まで無所属だった人もいるんだし、もしかしたら受注する為の黒の異形種と接触している人がいるかも!?


「そういう事を聞かれるってのは、重要なんだよな! おし! おーい、無所属だった奴で新しい『乱入クエスト』の発生を確認した覚えがある奴、いないか!?」

「……乱入クエスト? え、新しいのが発生してんの!?」

「乱入クエストって、あれだよな? 好戦的な奴らが受けて、競争クエストに殴り込んだっていう……」

「それは受注を断ったけど、新しいやつか? うーん、知らんな?」

「……そういえば、骨の魚が泳いできて、聞き取れない何かを話してきて、勝手に受注になってたのがあったかも? ……あれ? 今は消えてる……あ、そういえば灰の群集に加入した時に破棄になってたような?」

「絶対それだ! ベスタさん、心当たりがいたぜ!」


 おー、まさかの心当たりの登場だね。今の乱入クエストそのものは強制受注で、群集に所属すれば強制破棄なのか。


「これ、残しておいた方がよかったやつか!? いや、でもそんなのがあるなんて思ってもなかったしな……」

「いや、消えていても問題はない。別経路から発生の確認をしたかっただけだから、その情報は助かったぞ」

「……ど、どういたしまして? え、この程度の情報でそんな風に言われるとは思ってなかったよ!?」

「だから、灰の群集は大丈夫だって言ったろ! リーダーからして、こういう感じだしな!」

「移籍してきて正解だったな! 今まで通りに活動していいって言われたしよ!」

「……ただ、あそこまではちょっと遠くなるんだよなー。場所の移動だけは考えた方がいいかもしれん」

「取り引きも前の通りに残していいって話だし、この状況になったなら初期エリアでやるのが楽そうだしな」

「その為にも、この案内中に良い場所を見つける!」

「……空いてる場所があるかどうかが問題だよな。どこでも好き勝手にってのは、流石に邪魔になるだろうし……」

「候補としては、新エリアの『五里霧林』か『群雄の密林』だよなー。さっき行った不動種の並木の範囲は流石に厳しいだろうけど、そこ以外はまだ候補にはなるはず!」

「どこか良い場所があればいいんだが……」


 ほほう? コイコクさん達、あのコインさんの不動種のバナナの異動先を探してるのか。もう既に候補のエリアは出てるみたいだし、『五里霧林』でも『群雄の密林』でも、占有して使える場所の空きはまだまだあるだろうし、どっちかに落ち着くのかもね。早くも馴染みそうで何よりっすなー。


「アルマース、待たせてすまんな。出してくれ」

「今のは必要な内容だろうし、問題はねぇよ。それじゃ少し速度を上げていくぜ! 『自己強化』『高速遊泳』!」

「コイコクさん達、俺らはちょっと用事があるからまたなー! 落ち着いたら、見に行くわ!」

「おう、了解だ! その時は、俺らの料理を振る舞おうじゃねぇか!」

「おぉ! その時が楽しみなのさー!」

「あはは、確かに楽しみかも! 今日はそれどころじゃなかったしね」

「あの様子なら、そんなに時間はかからなさそうかな?」

「だよなー。あっという間に馴染みそうで、ちょっと安心したよ」


 群集に移籍する事そのものを躊躇ってた人もいたけど、いざやってみれば、そういう雰囲気は消えてたもんな。ワイワイと賑やかに初期エリアや占有エリアを巡っていけてるなら、今後も上手くいくだろ!


「……あぁ、ちょっとした流れで確認を取る機会があったからな。あぁ、まだ加入したてのメンバーだが……ほう? 意外だな。あの連中とは顔馴染みなのか?」

「あー、ベスタ? コイコクさん達と彼岸花さん達って、もしかして知り合い?」

「どうやらそのようだが……少し待て。彼岸花、PTリーダーを渡してくれ。……助かる。そっちのリーダーはアルマースか。連結を頼めるか?」

「あぁ、連結PTにしてしまうのか。了解だ」


<彼岸花様のPTと連結しました>


 なるほど、これで直接話せるようにした方が楽か。まぁ確かにベスタを介して状況を聞くよりは、どう考えてもこの方がいいよねー!


「……ケイさん達、コイコクさん達を灰の群集に引き入れたの?」

「まぁそうだけど……彼岸花さん達から見て、どういう人達なんだ?」

「美味しい料理の提供者! あー、そっか。あちこちが動いてるから、取り込まれたくなくて灰の群集に助けを……よく引き入れたね、あのかなりの人見知り集団!? あの人達が揃って群集に入るとか想像の外なんだけど、何やったの!?」

「あー、まぁそこは色々ありまして……?」


 リコリスさん、思いっきり驚いてるね。てか、インクアイリーの内部にいた人達からでも、そういう印象なんだね、コイコクさん達。


「色々と驚きではあるが……まぁ馴染みの顔がいるのはありがたいもんだ」

「他の群集とも協議して、分裂したインクアイリーは伝手を維持したまま引き入れる事にはなったからな。誰か助けを求めてくる奴らがいるなら、そう伝えてやってくれ」

「……うん、分かった。ベスタさん、私達が言うのもあれだけど……戦うのを好んでない人も結構いるから、そういう人達に無理強いはしないように動かせてもらうね」

「あぁ、それで構わん。俺ら、灰の群集から何かを強要する事はないからな」

「無理強いしそうなの、ちょいちょいいるからねー。その辺、注意しないと!」


 やっぱりいるのか、そういうタイプの人。まぁそうじゃなきゃ、オリガミさんへ俺らへの仲介とか頼みはしないよなー。


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ハイルング高原』に移動しました>


 おっと、話してる間に森林深部を抜けたか。まぁ基本的な移動速度も上がってるんだし、その上でそれなりに加速もしてるんだから当然だな。まぁそれはいいとして……。


「ちょっと聞いておきたいんだけど、その強引に引き入れようとする人達って、『氷花』とか『コトネ』とか『グレン』とか……あと、名前っぽくない名前のワニの人はなんだっけ!?」

「『俺は最強!』って人かな? サイって呼ばれてたよね?」

「あ、そうそう! その人だ、サヤ! その集団がやろうとしてる?」

「……ううん、氷花さん達は比較的、穏健派だよ」

「あれで穏健派なの!? 結構暴れてた気がするのさー!?」

「……だから、比較的。大暴れするのは、黒の統率種まで至った人が多いから……」

「そういう基準なの!?」

「……それなら確かに穏健派かもね」


 まさかの基準だけど……確かにそういう基準なら黒の統率種に至っていなかったあの人達は、比較的穏健派とも言えるのかもなー。


「なるほど、『簒奪クエスト』まで進めるだけ暴れたという事になるんだな?」

「……うん、そういう事。黒の統率種になるとプレイヤー名が分からなくなるから。……それに、元々は群集所属の人も多いよ?」

「え、マジで!?」

「ふん、いつかの青の群集で燻っていたような、群集のやり方へ不満を持っている連中……いや、明確にそれを理由に暴れてはいない連中だろう? それ相応に実力はあるが、誰かの指揮下に入るのが気に入らない。だが、現状を覆すほどの影響力も持っていない集団ってとこか」

「あー、そういうタイプか……」


 どうやったって一枚岩には出来ないだろうし、そういう層が出てくるのは避けられないか。表に出てきてない実力者があちこちにいるのは、もう分かりきった事実だしさ。


「まさしく、ベスタさんの言う通り! 飛び抜けてはいないけど、それなりの実力は備えている上に、例の邪悪なスライムに唆されない程度には自制心もあって、それでいてプライドが高いタイプだね!」

「おそらく、その手の連中はライブラリの事は初めから信用していなかっただろうな。むしろ、ライブラリが自ら手放す事がなければ、何らかの形で追い落とすのを計画してただろう」

「……そういう人達がオリガミさんを追い落とそうとしてるから、そうなってたはず」

「あー! 競争クエストでオリガミさんを狙ってきてた連中がその一部か!?」


 思いっきり思い当たる人達がいたわ! オリガミさん自身も、普段から戦いを望まれてるみたいな事を言ってたけど……その理由がこれっぽいな。ん? でも、それって……。


「オリガミさんを倒す事に、何か意味があるのか?」

「……オリガミさんが普段は手抜きをしてるの、周知の事実なの」

「だから、ライブラリが手を離した後、最有力のリーダー候補を倒せば自分が最有力になるって、そんな感じの理屈だね!」

「本人は迷惑そうにしてたがな」

「……そりゃそうですよねー」


 指揮するのが面倒だって言い切ってるオリガミさんからすれば、迷惑以外のなんでもない話だな。いっそ、そういう立場から離れられるように、オリガミさん自身も灰の群集に……いや、これは断られそうだな。

 ほぼ確実にオリガミさん自身が選択肢として考えた上で、選ばないようにしてる結果だろうしね。可能性があるとすれば……面倒さがより増した時?


「もうeスポーツ勢の流入の件で、滅茶苦茶も滅茶苦茶だからねー。すっごい勢いで、インクアイリーの崩壊が進んでるんだよ」

「……でも、群集が動いてくれたお陰で、思ったよりは悪化しなさそう」

「今まとめを見てるんだが、思い切った事を考えたもんだな。外部サイトには外部サイトで対抗して、eスポーツ勢の受け入れ場を群集内に作ろうとは……無所属に変わったあいつらでは出来ない事だろうよ」

「作れる人がいたからこそだけどなー。まぁまだ稼働にはちょっと時間がかかりそう……」


 俺の成果という訳でもないけど、全くの無関係でもないんだから、これくらいは言ってもいいだろ。いやー、それにしても異なる立場からの意見ってありがたいもんだ。知らなかった別の角度の情報が出まくるね。


「それに関して、少し確認したい。こういう群集の動きに対して、そういう連中はどう動く?」

「そういう分析は彼岸花の専門だから、私からは丸投げで!」

「俺も同じくだな」

「……消極的な場合は何食わぬ顔で他の群集に移籍して隠れる事だけど、積極的な場合は……既に取り込んだeスポーツ勢に初期エリアを襲わせる?」

「ちょ!? え、初期エリアを襲撃……って、無理矢理にでも戦闘機会を作らせる気か!?」

「……eスポーツ勢のイメージを悪くしない為に、群集側に付いた連中を引っ張り出す気だな? 群集側に付いたヤツほど、見過ごせないから有効な手か……」

「……うん。最悪なのは、その2つの合わせ技。……それでマッチポンプの出来上がり」

「あー、そうきたか……」

「……他の群集から移ってきた、新進気鋭の実力者集団の出来上がりか。確かに、タイミングを知っていれば容易な話だし、どうしても俺らは後手に回る手段ではあるな」


 無所属への心象は全く良くはならないけど、主導権が欲しいなら無所属でのものに拘る必要はないもんな。自分達の関係者に襲わせて、それを自分達で解決……完全な自作自演の完成だ。

 今の時点で無所属に流れてるeスポーツ勢は誰かに利用されている事そのものは気にしてないだろうし、BANさえされなきゃモンエボ内での評判なんてどうでもいいって思うはず。

 無茶な……いや、無茶過ぎる方が特訓としてはいいのか。目的はモンエボで勝つ事じゃないんだから……。そういう無茶な実戦の機会が得られるなら、実行に移しそうではある。


「……ん? 彼岸花さん、さっき思ったほど悪化しなさそうとか言わなかった? どう考えても、悪化してる気がするんだけど……」

「……あくまで今のは最悪の想定。そこまで頭が回る人は、ライブラリとオリガミさんくらいしか思いつかないよ」

「あ、最悪の予想なだけで、実現性が高い訳じゃないのか」

「……うん。そこまで出来る人なら、もう群集で何かをしてるか……今回程度の事で目立とうとはしないから」

「確かにそれだけの事を動かせるだけの器なら、他人に乗せられてほいほい釣られるような奴ではないか」

「ですよねー!」

「……うん、そういう事。ただ、愉快犯も中にはいるから気を付けて」

「それはそうだな。警戒は怠らないようにしておこう」

「ほいよっと!」


 ふぅ、それを聞いて一安心。まぁ絶対に実行出来る人がいないとも断言は出来ないんだろうけど――


<『ハイルング高原』から『ザッタ平原』に移動しました>


 おっと、色々と離してるうちにザッタ平原まで来たか。もうちょっと東に向かえばネス湖だから、合流まであと少しだね。

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