第1455話 加入の為に


 彼岸花3人組から、既に無所属で新しい乱入クエストが始まっているという予想外の話は聞けた。その影響もあって、群集所属のプレイヤーが倒さないとマズいという事になってきたけど……。


「とりあえず、彼岸花、リコリス、ラジアータの3人を仕留めればいい? というか、元々1人だと思ってたから……彼岸花3人組って考えてたけど、味方になったら呼び方がややこしい気がしてきた!?」

「……それはそうかも? リコリス、ラジアータ、呼び方はどうしよう?」

「んー、今回はリベンジの意味を込めて『彼岸花』関係で名前を合わせたけど……確かにややこしいよねー。プレイヤー名は変えられないにしても、私達3人で彼岸花って呼ばれちゃうと彼岸花がややこしいし……。ある意味、全員が彼岸花でもあるし、姿を出してたのは彼岸花だけだったから認識がそこだけに偏ってても仕方ないし……てか、言ってて私も混乱してくるよ!?」

「客観的に見れば、色々とややこしいのは間違いないな。……確か共同体が3人から結成出来たな? 何か適当に呼びやすい、3人組としての名前を付けるか。俺ら自体は好きに呼んでくれて構わんが、一緒に動く可能性の高いケイさん達はその方がやりやすいだろ」

「あー、そうしてもらえるとありがたいかも……」

「うん、賛成! 彼岸花、何か名前を決めちゃおう!」

「……うん!」


 ふぅ、どうやら当人達も俺の認識に対して文句はないみたいだし、客観的な状況として呼び名がややこしい事になってるのは理解してもらえたようである。


 それにしても、呼び方も自由にかー。今まで呼び捨てにしてたけど、味方になるならさん付けに変えるか? 完全な敵対だったからこそ、意図的にさん付けはしてなかったけど……あんまり呼び捨て自体は好きじゃないんだよなー。

 基本的に呼び捨てにしてるのは特に親しい相手か、もしくはその逆かだし……一部例外はいるにしても、呼び捨てにし続けたい相手とも言いがたい?


「ケイの意見も分かるし、共同体を立ち上げるのも構わんが……加入処理を済ませるのが先だろう?」

「……そりゃそうだ。あー、具体的にどうやるんだ?」


 いきなりここで呼び方を変えるのも……いや、どこかで変えないとそのままになりかねないか。実際、ハーレさんやヨッシさんはその状況で来ちゃってるし……好きなように呼んでいいって事なら、どこかでどさくさに紛れて切り替えとこ。


 それにしても、この3人を倒すかー。爬虫類の尾を持つリスの彼岸花さんと、ヤドカリのラジアータさんと、トカゲのリコリスさん……無防備に殺されるなら楽だけど、そうでなければ結構面倒な話だよな。


「……私達は大人しくしてるから、サクッと殺してもらえたらいいよ」

「俺の本体はここだから、楽なもんだぞ? なぁ、コケの人」

「……そういや、ラジアータさんの本体もコケだったんだった!? あー、引き剥がせばいいだけだもんな」


 すっかり忘れてたけど、仕留める間際にヤドカリの殻の隙間にコケがいたんだったよ! 何気にコケ仲間にもなるのか、ラジアータさん!


「あ、これは説明しといた方がいいね! 彼岸花は氷属性の魔法型のリスとカメレオンの融合種! ラジアータはコケが本体のヤドカリとの同調種! それで私は魔法寄りの操作型のトカゲね! 彼岸花は戦闘自体は苦手だから、実働はラジアータ主体で、私が支援かつ遊撃ねー! 主戦力としては、ラジアータの物理攻撃と雷属性の魔法で、それを広げるのが私って感じ! 具体的にどう広げるかは彼岸花が考える感じ! 切羽詰まってなくて余裕がある時なら、彼岸花も戦闘には混ざるよ!」

「……ふむふむ」


 まぁ実情は1度見てはいるけども、実際に張本人達から聞く事になるとは思わなかったね。……何気に属性構成は、俺らグリーズ・リベルテに近い部分もある? まぁその辺を細かく考えるのは今じゃなくてもいいか。


「そういう構成なら、彼岸花さんとリコリスさんは物理攻撃で倒す方が楽っぽいなー」

「ケイ、呼び方が変わってるかな?」

「……まぁ味方だと認めた証って事で、軽く流してもらっていい?」

「あ、そういう基準なのかな?」

「そうそう、そういう基準。敵視してたから呼び捨てにしてたってのが大きいしなー」


 おーい、彼岸花3人組がそこで黙って、お互いに顔を見合わせないでくれない? 別に変な意図があっての呼び方の変更じゃないんだし――


「わっはっは! こりゃまぁ、ありがたいもんだな! 突っぱねられて追い返されても仕方ないと思ってたが、こうも歓迎を受けるとはよ!」

「ほら、だから移籍をするのもありって言ったじゃん? やっぱり、この選択で正解だったよ!」

「……うん! それは間違いなさそう!」

「……そりゃどうも?」


 なんか呼び捨てからさん付けに呼び方を変えただけで、そんな風に言われるとむず痒いんだけど!? いやいや、俺、そんなに大袈裟な事をした!?


「さて、ケイからの敵認定は解けた事だし、3人とも俺が仕留めよう。ケイ達に任せると……なんだかおかしな流れになりそうだしな」

「ちょ!? ベスタ、おかしな流れって何!?」

「忘れるなよ、ケイ。この3人は、他のゲームで負け越している件にこだわっているんだぞ?」

「……それくらいは分かってるけど、それって何が関係――」


 あっ、ベスタが言いたい事は分かった! 3人とも負けず嫌いなのは確定なんだし――


「あっはっは! 大丈夫、大丈夫! ケイさん達に挑むのは……大型アップデートを待ってからにするつもりだしね」

「ちょ!? リコリスさん、俺らも狙ってんの!?」

「もちろん! まぁ無理にとまでは言わないけど……私達とPT戦、やるのは嫌?」

「……考えとく」

「うん、そう言うと思った! 考えといてねー!」


 サラッと言ってるけど、灰の群集を移籍先として選んできた理由の1つな気がするぞ!? いや、味方として戦うなら一度はしっかりと手札を見ておきたいし、大型アップデートで追加されるPTでの模擬戦を試すにはいい機会なのかも?

 まぁその辺は後でみんなと相談するとして……ここはベスタに任せるのが手っ取り早いか? 加入する為には誰かが、この3人を仕留める必要があるんだし――


「はい! 提案があります!」

「……どういう提案だ、ハーレ?」

「思いっきり高くまで持ち上げて、地面に叩きつけてやるのさー!」

「なるほど、落下ダメージで仕留めるのか。まぁ手段としてはありだが……全快状態からでは、流石に仕留め切れんぞ?」


 落下ダメージは、上手く決まれば成熟体であっても大ダメージは避けられないもんな。実際、サヤとの対戦では決め手にもなったくらいだし……でも、それだけではHPを全て削るのは難しい。良くて3割程度……いや、魔法型ならもうちょいいくか?


「ふっふっふ! そこはケイさんが加速させればいいのです! 多分、ベスタさんが倒すより、その方が早いのさー!」

「それはそうかもしれんが……あぁ、もう既に狙われているなら、本格的に狙われる心配はいらんか」

「……ですよねー」


 さっきベスタが仕留めるって言ったのは、俺らへ標的が向かわないようにする為に気遣いだったようだけど……その心配は無用っぽいもんな。既に手遅れとも言う……。


「まぁラジアータだけは俺がやろう。同調種であれば、それが1番早いしな」

「ほいよっと。それじゃ彼岸花さんとリコリスさんは、俺が加速させて落下ダメージで撃破だな」

「あぁ、それで頼む」

「……よろしくお願いします」

「よろしく! あ、それで死んだ後なんだけど……どこに向かえばいい?」


 あ、そうか。仕留める前にそれを聞いておかないと、加入処理がややこしいのか。いや、加入するだけなら当人達に任せても問題はないんだろうけど……ここでそれは無責任な気がする。


「それは彼岸花達がどこにリスポーン位置を設定しているかによる。別に俺らがいなくとも加入は出来るだろうが……立ち会いはあった方がいいんだろう?」

「うん、まぁねー! ほら、私ら悪目立ちしちゃってるだろうから、灰の群集に受け入れられた的な演出はね?」

「……無理なお願いをしてるのは分かるけど、お願いしたい」


 そりゃまぁ群雄の密林よりは人の少ない五里霧林だとはいえ、大々的に殴り込んできてたら目立ってるよなー。競争クエストでの件もそれなりに知られてるだろうし、全く人目を気にせず移籍をするのは難しいか。

 ……そう思うなら、俺らを呼びつけて早々に攻撃して試すとかは勘弁してほしいけどな! まぁあれをやった意図自体は分かるし、ある意味俺らに灰の群集への加入の保証人になってくれって事か。うーん、これは俺だけで決めていい内容じゃ――


「俺は別に構わんが、ケイ達はどうする? 何かやらかすとも思えんが……下手に責任を負いたくないのなら、ここまででも構わんぞ」

「ベスタさん、ちょっと相談させてくれ。みんなも共同のチャットで話すぞ」

「……ほいよっと」

「……そうか。アルマース、早めに頼むぞ」

「あぁ、分かってる」


 流石に即断しかねると思ってたら、アルからストップが入ったね。まぁここは慎重に判断すべきとこか。


 アルマース : さて、どうする? 相手が相手だ。ケイは警戒を解いたようだが、油断させる作戦という可能性もある。同じ移籍ではあるが、コイコクさん達とは訳が違うぞ。

 サヤ    : ……少し警戒し過ぎじゃないかな? 

 ヨッシ   : ベスタさんも警戒は解いてるみたいだし、大丈夫じゃない?

 アルマース : ベスタさんの場合、放置すれば代わりが灰のサファリ同盟に向かうってのもあって、状況的に拒めないってのもあるからな。騙すような相手ってのは、一見すると無害そうに装うぞ。

 ハーレ   : いかにも悪人な詐欺師はいないのさー!

 アルマース : そういう事だ。あくまで念の為だが、完全には警戒を緩めない方がいい。

 ケイ    : ……なるほど。


 うーん、確かにそれはそうなんだけど……それこそ、ライブラリがインクアイリーを結成した時がそういう感じにもなるんだろうけどさ。ぶっちゃけ、疑い始めたら誰も信じられなくなるだけでもあるし……。


 ケイ    : アルは、あの3人が味方になるのは反対か?

 アルマース : そういう訳じゃないが……油断出来る相手でもないだろう? その危険性を呑み込んだ上で、リスクを負えるかって話だ。

 ケイ    : ……リスクか。


 下手するとライブラリの手先が、すぐ近くに入り込むという可能性でもあるんだもんな。ライブラリとは仲間ではないというのは、あくまでも自称であって……それ以外に保証するものは何もない。


 ハーレ   : リスク、上等なのさー! ベスタさんだけに負わせる方が駄目なのです!

 サヤ    : ……それは確かにそうかな! でも、そんな心配自体が不要な気もするよ?

 ヨッシ   : 私もそんな気はしてるけど……アルさん、もしかして悪役をわざとやってない? 疑ってるぞってポーズの為に、話し合いの機会を作ってる?

 ケイ    : あー、それはアルならやりそうだな。実際のところ、どうなんだ?


 わざわざ、このタイミングでこういう話し合いの場を、あの3人に分かるように作った事そのものが……そういう狙いの可能性はあるもんな。


 アルマース : ……そこはバレバレか。ま、俺だけでも目を光らせてると思わせておく方が、あの3人も慎重にはなるだろ。

 ヨッシ   : あ、やっぱりそうなんだ!

 ケイ    : アル、別に貧乏くじを引かなくてもいいんだぞ?

 アルマース : この程度、構いやしねぇよ。それに……あの3人組なら、このくらいの意図は読んでくるだろうぜ。むしろ、騙す意図がないなら、逆にホッとしてるんじゃねぇか?

 ハーレ   : はっ!? 誰にも疑われない方が、逆に不安になりそうなのです!?

 サヤ    : ……ケイが全面的に受け入れたから、尚更にかな?

 ケイ    : あー、そうなるのか……。


 くっ、しまったな!? 俺が警戒を緩め過ぎたから、アルが代わりに警戒度を引き上げて調整したって形になってしまったっぽい……。呼び捨てを止めるの、もう少し先にすべきだったか?


 アルマース : まぁ俺の動きは念の為だから、そこまで気を張らなくていいぞ。それに……どういう形であれ、俺らが狙われてるのは確定だしな。

 ハーレ   : PTでの模擬戦、狙ってるっ言ってたもんね!

 サヤ    : あれ、受けるのかな? 3対5になる気がするけど……。

 ヨッシ   : ……人数では有利な気がするけど、絶対に勝てるって自信はないよ?

 ケイ    : その自信は、俺にもないな……。


 シュウさんと弥生さんの2人組相手でも逃げ切るのが難しいのに、その2人へのリベンジを狙ってる実力者3人組だもんな。彼岸花さんが実戦が苦手だとしても、作戦立案役は相当厄介なのは間違いない。


 アルマース : まぁハーレさんも言ってたが、ベスタさんだけにリスクを負わせる気はないってのには同意だぜ。

 ケイ    : だからこその警戒役かー。……悪い、ちょっと警戒を緩め過ぎた。

 アルマース : 別に責めちゃいねぇよ。本当に味方として動くなら、ケイみたいに受け入れる方も必要だからな。ま、俺も様子を見ながら警戒は緩めていくから、そこは心配すんな。


 普段はあんまり意識しないけど……こういう時にアルが年上の社会人だって実感するよな。対人関係、俺らより遥かに経験の差があるしさ。


「ベスタさん、俺らもその責任は負うぜ。ケイが緩めた警戒、裏切るような真似は……許さねぇからな」

「……うん、分かってる」


 って、面と向かって釘も刺していくのかよ! いや、アルが必要だと思ってやってる事なんだし、とやかく言うのはなしだな。


 さて、それじゃこれで加入の為に撃破するのに移れそう? あ、その前にどこでリスポーンするかの確認からか。そうじゃないと、どこへ移動すればいいかが分からないしね。


 

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