第1454話 新たな情報
コイコクさん達から聞いていた話と、今、彼岸花3人組から聞いた話の内容が違い過ぎる……。ライブラリが具体的にどういう勧誘方法でインクアイリーを設立したのか、全然分からなくなってきたんだけど!?
「ふん、どういう経緯でインクアイリーが設立されていたとしても、やる事は変わらんな」
「……へ?」
「ケイ、何か気にする意味があるか? インクアイリーの組織の性質上、群集を跨ぐ際には確実に伝言になるし、そこでどうやっても情報にノイズは混ざって精度は下がるからな。それを意図してやっていそうだから詐欺的だとは言ったが……経緯はどうあれ今はもう内部分裂を起こして、各群集が取り込みに動いている状態だぞ」
「あ、それもそうか。どうやったって、その現状は変わらないもんなー」
ビックリするほどキッパリと言い切ったベスタだけど、確かに今更結成の経緯を考えたところで意味のない話ではある。正確な実情としては知っておきたい部分ではあっても、その優先度は低い。
「さて、彼岸花、ラジアータ、リコリス……改めて聞くぞ。灰の群集へ移籍してきたとして、混乱を招くような動き方はしないという認識で構わないんだな?」
「……うん! ……それで、私達の目的が達成出来るなら!」
「打倒、弥生さんとシュウさん! ……あと、あんまり動いてる気配もないけど、赤のサファリ同盟の面々!」
「出来ればレナさんも狙いたかったんだが……そこは、模擬戦という形で挑ませてもらおう」
あー、うん。レナさんも標的ではあるんだね。それに赤のサファリ同盟の中でも、他にも狙う人がいるっぽい?
「はい! リベンジを終えたら、どうするんですか!?」
あ、確かにそれは聞いておきたい。リベンジこそ全てって感じで動いてるみたいだけど、弥生さんやシュウさん、それにレナさんが強いとはいえ、絶対に負けない訳じゃないもんな。
現に、俺も……正直、なんで勝てたのか自分でも不思議なくらいだけど、弥生さんとシュウさんは倒せてるしさ。そのせいで、思いっきり狙われてるけども……。
「……それは、考えてなかった」
「二兎追うものは一兎も得ず! 後の事を考えるのは、倒してから!」
「……そう容易く勝てる相手だとも思っていないからな。そもそもその機会すら、この前の競争クエストでようやく得たが……それどころではなかった有り様だ。だからこそ、今こうやってこの場に来ている」
「……なるほどな」
まぁ確かにあの時は……まさしく今いるこの場所での遭遇だったけど、全群集が揃い踏みだったしね。あれじゃリベンジどころじゃないのは間違いないしなー。
そもそも無所属での乱入クエストの過程では、どうやったって他の群集が全て敵に回るんだから、狙った相手と戦おうって事自体が無理なのかも……。
「……って、ちょい待った。競争クエストの途中で分かった事だよな? 乱入クエストじゃ、全ての群集が敵に回るのはさ?」
「……それは分かってた。本当はもっと小規模にやって、赤の群集から、弥生さんとシュウさんを引っ張り出すだけのつもりだった。……だけど、知らないうちに規模が広がって、手に負えない状態になって……諦めた」
「あれは多分、ライブラリの仕業だね! あの時点でもうインクアイリーのトップからは手を引いてたってのに、変な流れだけは元々作ってたんじゃない? あちこちで、出現だけはしてたみたいだし!」
「あれはあれで、俺らの意図とは大きく違った流れになっていたって事だ。あの時は、俺とリコリスはほぼ動いていないしな。彼岸花だけは『始めた以上は責任を持つ』と言って戦いはしたが……他はもう色んな奴が状況を引っ掻き回していたぞ」
「あー、そういう流れなのか」
確かにあの状況は不本意っぽいような会話を聞いた覚えはあるけど……リコリスとラジアータの2人は全力は出してなかったんだな。あの時でも十分とんでもない事をしてた気がするけど……恐ろしい話だな、それ!?
てか、一枚岩ではないのは分かってたけど、もうあの時点で決定的に内部分裂を起こしてたのか。eスポーツ勢の流入が増えて、それが激化して表面化してきたってとこ?
「……私達からも質問、いい?」
「あぁ、構わんぞ。何かあるなら、今のうちに言っておいてくれ」
「……それじゃ遠慮なく。……多分、ケイさん達に引っ付いて動く事になるけど……それは嫌じゃないの?」
「あー、それか」
このまま灰の群集へ加入する事になれば、まぁ1番影響を受けるのは間違いなく俺らだよな。正確に言えば弥生さんに狙われているのは俺だから、俺への影響が1番か。その上で考えるのなら……。
「ベスタ、今後も対人戦での俺らの役回りって囮だよな?」
「毎度、派手に目立っているケイ達に適任だしな。まぁ囮ではなく指揮を任せる事もあるだろうが……狙われる事には違いない」
「ですよねー!」
もう聞く前から分かってた内容だけど、こうもキッパリと言い切ってくれるのはありがたい。だからこそ、ここでの返答もしやすくなるってもんだ。
「それなら彼岸花3人組は、俺らの囮に釣れた相手を狙う遊撃部隊ってとこだよなー。もちろん、弥生さんとシュウさんもその釣れた相手の中に含まれるけど、それ以外もちゃんと相手をしてくれるなら……断る理由はどこにもないぞ。みんな、それでいいよな?」
「ふふっ、ケイらしいかな! 当然、異論はないよ!」
「ま、負担が減るって意味では俺らにとっても悪い話じゃねぇか」
「囮としても、更に無視出来なくなりそうなのです!」
「あはは、確かにそれはそうかも? ケイさんの無茶戦術、また幅が広がりそうだよね」
ほほう? 確かにヨッシさんのその視点もありだね。一緒に動く事が増えるのなら、バラバラで動かずに俺の指揮下で動いてもらうって事も可能だもんな。
彼岸花が作戦立案は可能だって話だし、色々と強力な手札が増えるのは間違いない。赤の群集が相手の時はどうしても弥生さんとシュウさんの件で不安定さが出るとしても、これまでよりは安定はするかも?
「……それなら、私達は受け入れてもらえる?」
「まぁそういう事になるなー。ベスタ、問題ないよな?」
「あぁ、問題ない。まぁそもそも俺らには拒む権利自体ないんだが――」
「そこは、ほら? ケジメってやつ?」
「お前達……ここまで殴り込んできておいて、それを言うか?」
「あはは、まぁそれはそうなんだけどねー! どこ行ったらいいか、正直分かんなくて!」
「無茶な事をしたのは謝ろう。すまなかった」
「ふん、別に被害は出ていないから別に構わん。だが……そもそもの話、どうやってここまで来た? 無所属では、傭兵でない限り転移が出来ていないと聞いたが?」
「あ、そういやそうだっけ」
確か羅刹がそんな事を言ってたような気がする。傭兵として参加してたら、その群集の転移が使えるんだよな。
彼岸花3人組は、無所属に乱入勢として参戦してたんだから、その権利を持ってる訳がない? え、マジでどうやってここに来てる!?
「……加入の手土産として、その情報を開示するね」
「ずばり! 傭兵になってない無所属では、既に新しい乱入クエストが発生している!」
「……はい!?」
「ほう? そう来たか」
いやいやいや、もう既に発生してるって……そんな情報、どこからも聞いてないんだけど!? 羅刹だって、そんな話はしてなかったし……いや待て! 今、リコリスは傭兵になってない無所属って言ったよな?
「『乱入クエスト:転移先を確保しろ』というのが、現在発生しているものでな。受注相手は喋る『黒の異形種』だ。まぁ何を言ってるかは、まともな言葉になっていないから分からんがな」
「……ほう? 黒の異形種が喋るというのは初耳だな。いや、意思があるのは薄々分かっていたか」
「あぁ、アレらに意思があるという設定なのは間違いない。今後も敵に回る可能性もある。だからこそ、今の形では俺らの目的の達成が難しくなると判断した」
「……全ての群集を敵に回しながら、リベンジを目指すのは無謀」
「合理的な判断だな。灰の群集を選んだ理由は……模擬戦ではなく、実戦で倒したいからか」
「その通り! 大型アップデートを待って、赤の群集で模擬戦を使ってってのも考えたんだけど……やっぱり、それは何か違うんだよねー。そもそも、受けてくれるかすら分かんないし?」
「……なるほど。確かに実戦の中では相手は選べないし、それは狙われてるケイも同じだから、そこが付け入る隙だった訳か」
「ちょ!? ベスタ!?」
「……否定はしない」
「しないのかよ!?」
というか、俺自身が付け入る隙なのか!? いやまぁ、状況的に考えたら確かにそうなるけどさ! 実戦でのリベンジを最優先の目的に設定するなら、有効な手段なのは間違いないけど!
うーん、赤の群集が模擬戦でのリベンジの提案って方向性から動くって予想は……根本的に無理だったんだな。青の群集ではなく、灰の群集を選ぶ理由が俺だったのは……運が良かったというべきなのか、凄く悩むけども!
「まぁ灰の群集を選んだ理由については今はいい。その乱入クエスト、どこでどうやって受注する? 既に受けている人数は分かるか?」
「……『黎明の地』に出てくる『黒の異形種』と遭遇すれば、半ば無理矢理の受注だよ」
「受注した状態で、『纏瘴』を使って『瘴気収束』を使えばこっちへの転移が出来るんだよねー」
「出口はランダムのようだがな。それに『黎明の地』に現れる『黒の異形種』の出現条件自体が分からん。おそらく、前回の乱入クエストを受注した事……もしくは、傭兵になっておらず、現時点で転移手段を持っていない事のどちらかが条件だとは思うが……」
「まだ不明瞭な部分が多い内容か。後で情報を集めてみた方がよさそうだな」
ふむふむ、黎明の地に現れる黒の異形種か……。それって成熟体の個体になる気がするけど、向こうで出てくるのはヤバくね?
「はい! もしかして、その転移先がこの『五里霧林』なんですか!?」
「……ううん、違う場所。そこから、移動してここまで来た」
「おぉ、そうなんだ! 戻るのは、どうやるんですか!?」
「……戻り方、分からない」
「……へ? え、戻れないのか!?」
ちょ、まさかの回答なんだけど……えーと、それだと群集への加入ってどうすんの? 灰の群集のどこかの群集拠点種まで行かないと、加入処理って出来ないよな?
「来た手段が『纏瘴』での『瘴気収束』なら、同じ手段で戻れるんじゃねぇか?」
「それがさー、アルマースさんの言う通り、その手段は試してみたんだけど他のこっちの別エリアに出るだけでさー。正直、そこも困ってるの!」
「……マジかよ」
……あれ? 実はこの3人……黎明の地に戻れなくなって、戻る為の手段を模索する目的もあって、灰の群集に来てたりしない?
「すまんが、俺らの撃破を頼めないか? 黎明の地にリスポーン位置を設定しているから、それで戻ろうかと思っているんだが……」
「無所属なら、PTを解除すれば自分達でどうとでもなるだろう? 1人は残るだろうが、それも敵に仕留められれば済むだけの話だ」
「まぁそれはベスタさんの言う通りなんだが……乱入クエストのクリア条件に問題があってな?」
「……ほう?」
「そこで乱入クエストが絡んでくるのかよ!?」
いやいや、死ぬのが出来ないって、どんな条件になってんの!? あー、なんか嫌な条件の予感がしてきた……。
「……『乱入クエスト:転移先を確保しろ』のクリア条件は、受注者の黒く染まったカーソル分を、死ぬ事で特定エリアに注ぎ込む事なの。……群集所属の人に倒されればカウントはされないから、倒すのはお願いしたいの」
「……また変な条件が出てきたな」
「ですよねー」
うん、アルも同じ事を思ったらしい。いやいや、本当におかしな条件だな!? 確かに『瘴気収束』で作る転移用の瘴気の渦って、カーソルを黒く染める要素はあった気がするけどさ!
それで何度も黒く染めて、死にまくれってのがクエストクリアの条件!? というか、黒く染める方法はPKって手段もあるし……いや、群集所属のプレイヤーに仕留められるのはカウントされないなら、そのリスクは取らないか?
「……まだその乱入クエストを受注したプレイヤーは少ないか? いや、既に隠れて動いているという可能性もあるな。そのクリア条件、進捗度合いは分かるのか?」
「……それは分からないようになってる。ただ、対象エリアはこっちの命名クエストが終わってないエリアだよ」
「そうきたか。ちっ、まだこっちのエリアの命名クエストの法則が同じかどうかも分からないのに、面倒な……」
あー、そういや新エリアの方では、競争クエストの対象エリア以外ではまだエリア名が決まった場所って知らない気がする?
てっきり、これまで通りフィールドボスを一定数倒したら発生するものかと思ってたけど……違う可能性もあるにはあるのか。
まだフィールドボスを安定して仕留められる状態にもなってないし、そもそも同じだとしても何体倒せばいいのかは……数の部分は今まででも不明だったっけ。
うーん、その状態で乱入クエストの存在が発覚……知れてよかったのか、なんとも言い難いな!?
「というか、その乱入クエストがクリアになったら、どうなるんだ?」
「……多分、転移用の瘴気の渦が常駐すると思う。それ以上の事は、現状では分からない」
「傭兵になってない無所属では、絶対にクリアしたいとこではあると思うけどねー。まぁ現状で、それを進められそうなとこって限られてきそうだけど?」
「いや、eスポーツ勢の流入で無所属でも集団の統廃合が起きているからな。インクアイリー自体の瓦解はもう止められんが、いくつかの集団が新たに結成される流れはあり得るぞ」
ふむふむ、彼岸花3人組でも今後の動きは、推測は出来ても正確なとこは分からないって感じか。実際、今のこの3人組やコイコクさん達みたいに、群集に所属するって形に変えてきている人もいるんだし、勢力図が大きく変化してる最中ではあるんだろうね……。
「ベスタ、とりあえず今はどうする? 移籍は少し待ってもらって、乱入クエストを探ってもらうってのも……」
いや、自分で言っててなんだけど、流石にそれは失礼じゃねぇ? うん、今のはないな。やっぱり取り消しで!
「ごめん、今のはやっぱ無しで!」
「まぁもう移籍を決めたのなら、そっちを進めた方がいいだろう。下手にクエストを進めるような状況は避けておきたいし、そっちの情報は羅刹に探ってもらえばいい」
「ですよねー!」
羅刹自身が今回判明した乱入クエストを受けられるかは分からないけど、そのうち移籍予定の灰の群集の無所属支部に役目が出てきたかも? 全員が全員、傭兵だったって事もないだろうしさ。
という事で、これからするべきは彼岸花3人組の灰の群集への加入だな。……味方になるなら、ちょっと呼び方を変えた方がいいような気がしてきた?
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