第1453話 彼岸花3人組


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『五里霧林』に移動しました>


 アイルさんから下手に追求されるのから逃げる為に、大慌て転移完了! ふぅ、ようやく一息付ける……って訳でもないか。


「ケイ、本当に色々と大丈夫かな? 無理してない?」

「あー、大丈夫、大丈夫。もうギンに協力してもらって、徹底的に避けていくし……」


 別に流入してくるeスポーツ勢を俺らが管理しなきゃいけない訳じゃないんだし、そもそもあの連中が絶対にモンエボに来るとは限らないもんな。


「……まぁ有料だもんね。そう気軽に、追加も出来ないかも?」

「そうそう、それもある! ……そうなんだよ! その部分を考えてなかったよ!?」


 なんだかんだで大体のフルダイブのオンラインゲームは月額制なんだし、早々簡単に全員がその金を出すとも思えん! ギンのとこは強豪だからこそ、効果が見込めるなら部費で出るって事になるんだろうし!


「あー、確かに学生に月3000円の追加は痛いか。どっちかというと、アマチュア組の方が流入は多いのかもな」

「その辺、もう少しギンに聞いとけばよかったか……」


 慌てて離れたから、ギンはほぼ放置で来ちゃったもんな。まぁ状況は分かってただろうし、別行動になっても大丈夫な状態にはなってたけど……。


「はい! ベスタさん、なんで私達が名指しで呼ばれてるんですか!? 彼岸花の3人組とは、競争クエストの時に遭遇しただけだよ!?」

「……あの競争クエストこそ、今回の件で大きな意味があるがな。まぁ詳しい話は本人達から聞いてくれ。その方が分かりやすいだろう」

「あの件、大きな意味があるの!?」

「……よく分からんなー?」


 よっぽど俺らが作戦を潰したのが気に入らない……って訳ではないよな? それなら味方になるような動きはしないだろうし……そもそもの目的は、弥生さんやシュウさんに対する他のゲームの時でのリベンジだったはず?

 ……ん? 今、何かが引っ掛かった気がする? こういう時は、何か思い当たる理由がある時だけど……今、何が気になった!?


「それでベスタさん、俺らはどこへ行けばいい?」

「このまま北へ進んで、灰のサファリ同盟が利用しているインクアイリーが掘った元湖へと進んでくれ」

「……あぁ、灰のサファリ同盟が新しい本拠地の一部に組み込んでるっていうあそこか。いや待て、丁度あの3人組と遭遇した場所じゃねぇか!?」

「まぁそうなるな。……初めはあそこまで急に乗り込んできて、大慌てだったくらいだぞ」

「はい!?」


 ちょ、まさかのここへの乗り込み!? あー、そりゃベスタが妙に静かだったのも納得だし、俺にアイルさんの勧誘を任せて直接向かった理由も分かる気がする。


「ベスタは、灰のサファリ同盟の人達から呼ばれてたって形?」

「まぁいきなり一気に突っ込んできたものの、それ以降は暴れずに大人しくしていたって話ではある。代表として俺が呼ばれたのは間違いない。……正直、その段階でケイ達を連れていっていた方がスムーズに話は進んだ気はするがな」

「……なるほど?」


 縁が出来たから来たみたいな話は出てた気がするけど、ベスタが向かっても話がまとまらず、俺らが名指しで呼ばれたという事は……コイコクさん達との繋がりが重要なのか? いや、それはなんか違う気がする……。


「……もしかして、ケイが弥生さんに狙われてるのが理由かな?」

「……え? あっ、囮に俺を使おうって魂胆!?」

「可能性はありそうじゃないかな?」

「あー、まぁ確かに……」


 彼岸花3人組の中でも、そのままの彼岸花という人は指揮こそは苦手だけど、作戦立案をする人だって話だったもんな。そういう面で考えれば……明確に弥生さんからリベンジを狙われてる俺の近くにいて、直接の戦闘機会を求めるというのはあり得る話か。


「ベスタ、そういう目的で合ってる?」

「……分からん。ケイ達を連れてこいという事と、レナは連れてくるなという2つの条件しか聞いていないからな」

「あー、ベスタも聞いてないのか」

「だがまぁ、狙いとしては十分あり得るだろうよ」

「ですよねー!」


 むしろ、そういう狙いだというのが1番しっくりきたよ! さっき思い付きかけてたのも、多分この可能性だな。まぁもう元湖で、今は灰のサファリ同盟が魔改造中の……って、はぁ!?


「ケイ!」

「任せろ!」


 くっそ、何がどうしてここで大量の水が生成されて迫ってくる!? 呼びつけて、それがこれか!?


<行動値10と魔力値20消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 116/126(上限値使用:1): 魔力値 294/314

<行動値を2消費して『水の操作Lv10』を発動します>  行動値 115/126(上限値使用:1)


 ともかく、大急ぎで大量の水を生成して、押し返す! ぐっ!? 水量から考えて同じLvの水の操作だから、抑えるのはキッツいな!

 でも、同Lvで押し負けてたまるかってんだ! 無作為に乱した波を作って操作時間を削ってきてるけど、変に争わず勢いは流して、それでいて全体は押されないように――


「もういいだろう、リコリス」

「えー、もうちょっとやらせてよ! Lvだけじゃなく、しっかりとした精度で押し返して、拮抗されるとは思ってなかったし、もうちょい力試しを――」

「……力試しが、なんだ? すぐに操作を止めろ。そうでないなら――」

「うへぇ!? いつの間に!?」


 ははっ、流石はベスタ! 青いトカゲのリコリスの首に、思いっきり爪を押し当ててるよ。……てか、力試しとか聞こえたけど、いきなりの奇襲はやめてくれませんかねー?


「……リコリス、やめて。……喧嘩が目的じゃないよ?」

「ねぇ彼岸花? そう言いながら、凍らさないでくれる? 動き、どんどん鈍ってきてるんだけど?」

「……こうでもしないと、止まらないよね?」

「確かにな。これ以上やるなら、俺も止めに入るが?」

「はいはい、分かりました! ここで彼岸花とラジアータとも戦う気はないから! ベスタさんもなんか想像の遥か上を超えてきた動きだし! はい、水の操作は解除! これでいいよね!」


 ふぅ……リコリスの展開していた水の操作は消滅したし、とりあえず俺も解除しておくか。まったく、いきなり過ぎてびっくりするわ!


 それにしても、完全に水の操作が拮抗するとは……やっぱり侮れないな、このトカゲのリコリスって人!

 それに爬虫類の尻尾を持つリスが『彼岸花』で、ヤドカリが『ラジアータ』。3人とも、山盛りの土の上に持っている状態か。


「……悪いが、ベスタさんも引いてもらえるか? 下手に試そうとしたのは謝る」

「そう思うなら、魔法砲撃を放つ準備をしているそれを下げてから言ったらどうだ? 俺がリコリスを攻撃すれば、そのまま撃つ気が……少しだがあっただろう。リコリスを狙っているようでいて、俺に一瞬だが狙いを定めていたからな」

「……降参だ。一瞬の迷いを、そこまで的確に見抜かれるとはな……」

「ふん、甘く見過ぎだ」


 今の一瞬で、ベスタとラジアータの間でも心理的な攻防戦があったっぽいね。ベスタが動いたのに反応してたのには気付いたけど、そんな狙いがあったとは……ラジアータもやっぱり相当な実力者だな。それを見抜くベスタもとんでもないけどさ!


「アルマース、降りてこい!」

「了解だ!」


 到着早々に変な状態になってたけど、とりあえずは凌いだって事でいいのか? あー、もう到着早々に攻撃とか、勘弁してほしいもんだよ。


「……いきなり、どういうつもりかな?」


 うん、完全にサヤが臨戦態勢に入ってるし……まぁ警戒して当然ですよねー! でも、ここは俺が止めとくか。


「サヤ、ストップ! 本気で戦う気はなかったって。本気なら……もっと狡猾にやってただろうしさ」

「……ケイ」

「俺らの実力を試す……いや、自分達の力を改めて示そうとしたってところ? あー、違うな。さっきの感じだと、両方か」


 全力でないのは確実だけど、手抜きかといえば、そうでもない。適度に余裕を見せつつ、それでいて実力があるのを見せつけるのが目的……まぁさっきのはそんな印象だな。


「あらら、見抜かれちゃってるよ?」

「……それが見抜けない人なら、シュウさんや弥生さんには勝てないよ?」

「ははっ、違いねぇな。弥生さんにリベンジで狙われてるってのも、今のを見れば分かるか。……まだまだ底は見えねぇな」

「そりゃどうも」


 まったく、簡単に言ってくれるけど……さっきの攻撃、全力ではなくても死ぬ人はあっさり死ぬレベルの攻撃だぞ! 対応が少しでも遅れたら、俺らだって滅茶苦茶な状態になってただろうし――


「……ケイ、試された事は怒らないのかな?」

「ここで怒ったところで、何も解決しないしなー。それに、これだけの実力者が灰の群集に入るかもって訪ねてきてるんだから、無碍にも出来ないだろ」


 あと、シンプルに実力で追い返そうと思っても……多分、この3人組相手だと、相当な被害が出そうだ。魔改造中の灰のサファリ同盟の本拠地を、無用な争いでの被害は出したくもない。

 まぁサヤが怒る気持ちも分かるんだけど……流石に相手が悪過ぎるんだよな。試す事と実力を示す事が目的だと分かっているなら、ここで終わりにした方が後の為だ。……ぶっちゃけ、うちのeスポーツ部の連中が来る事よりは、遥かに受け入れやすいしな!


「サヤ、もういいんじゃない? 敵意は感じないよ」

「……うん、そうするかな」


 納得し切った訳ではない様子だけど、とりあえずサヤはここで引いてくれた。さーて、嫌な気持ちを無理に押し留めてもらったんだから、ここは確実に成果に繋げないとな。


「それで、俺らを名指しにして呼びつけたのは……今のをやる為か? ベスタも一緒に、対応を見ようとした?」

「……不快にさせたなら、ごめんなさい。でも、それが必要な事だったから」


 ……ほほう? 彼岸花って人は戦場では怯えていた印象しかなかったんだけど、しっかりとこっちを見据えて意思表示はしてくるのか。これはかなり印象が違うかも?


「今のが必要な事って、どういう事かな?」

「……私達が納得する為と、そちらを納得させる為。……私達は、弥生さんとシュウさんを狙ってる。だから、それを成せるだけの力を示したかった。それとケイさん達が本当に弥生さんに狙われるだけの実力か、見たかった」

「それ、模擬戦じゃダメだったのかな?」

「……奇襲への対応能力を見たかった。……それで不快にさせたのなら、本当にごめんなさい」

「奇襲なら、事前に説明は出来ないのさー!?」

「……それは、確かにそうかな……」


 事前に伝えられてる奇襲なんか奇襲じゃないし、そういう意味ではどうしようもない部分なのは仕方ないか。あー、レナさんを連れてくるなって理由は、そこにあるのかも? レナさんが奇襲に対応したら、何の意味もないもんな。


「とりあえず、理由は分かった。分かったけど……俺らを名指しにした理由は、俺らを囮にするのが目的って事でいいのか?」

「……表現の仕方の問題だけど、そういう言い方もある。……弥生さんがケイさん達を狙ってきた時、私達に対応させて欲しい」

「明確に狙ってくるのが分かってるし、そこなら戦いやすいしねー。私達が弱くないのは……まだ不十分なら、示す舞台を用意してくれてもいいよ?」

「灰の群集にとっても、決して悪い話ではないはずだ」


 ふむふむ、この辺は予想通りの内容ではあるけど……さて、どうしたもんかな? これ、俺が弥生さんに狙われている状態が大前提になる訳だけど……。


「一つ聞いておく。ケイが弥生に狙われていない時は、どういう風に動くつもりだ? 赤の群集と戦う時ばかりではないし、ケイ達がその場に向かうとも限らんぞ?」

「……それは極力、そちらの都合に合わせるつもり。……私達の希望を優先するのは、弥生さん達と戦う可能性が高い時だけでいい」


 ふむふむ、普段の活動については無茶をする気はないって事か。


「……それに、今のインクアイリーはライブラリのせいで動きにくい」

「そうそう! なんか無茶苦茶になっちゃってるからねー!」

「……待て。お前達は、乱入クエストで荒らした方だろう?」

「何でそんなに他人事!?」


 あの競争クエストでの乱入作戦って、この3人が弥生さん達へのリベンジの為に計画してたものだよな!? なんか、今のは不自然過ぎない!?


「なにか妙な反応だな。インクアイリーの事を探っていたようだが……コイコクから結成に関してはどう聞いている?」

「へ? それなら共闘イベントでスムーズに動けるように結成したって聞いてるけど……」

「……やはりか。ライブラリめ、胡散臭い言い方をしているとは思ったが、わざと解釈違いを発生させているな」

「……はい?」


 ちょっと待って、ラジアータが言っている事の意味を掴みかねているんだけど……解釈違いを発生させる!?


「ライブラリから、俺らへの勧誘はざっくりと要約すればこうだ。『1つの群集に所属しているだけでは辿り着けない、独自の場所へと至る気はないか? 共に協力し合えば、その枠組み以外でも動けるはずだ』という感じだな。おそらく、コイコク達は……『独自の場所』を共闘イベントでの立ち位置だと認識していたのだろう」

「……私達や氷花達は、その『独自の場所』を乱入クエストで得る占有エリアだと認識してた。……そこから、食い違いが発生してる?」

「ライブラリ、そういう事をしてたの!? なんか妙に食い違いが発生しまくるなーって思ってたら!」


 なんか、思った以上にややこしい状態になってるっぽい!? いやいやいや、この状況は全然想定してなかったんだけど!?


「ふん、明確な目的を提示せず、曖昧にした状態で人を集めていた訳か。……詐欺のような手口だな」

「ですよねー! あー、設立の経緯を語る人が少なかったって理由、そこか!?」

「……そうかもしれんな」


 誘われた人のそれぞれが違う解釈をするような誘い文句で人を集めてたなら、その情報を突き合わせられたら困るもんな!? いや、本当にベスタが言うように詐欺みたいな方法だな!?


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