第1452話 受け入れ難い内容


 アイルさんが新設する共同体へ入るのは、俺がどうこう言う事ではない。だけど、うちの高校のeスポーツ部の連中がモンエボに来るのは、拒否だ、拒否!


「およ? ケイさんがそこまで拒否するって……何か問題あるの?」

「……レナさん、さっき言った俺へ敵意を向けてたのが、まさしくそいつら……」

「あっ、なるほど! それは確かに、あんまりよろしくないかもね? んー、でも下手に選別してるって思われるのもまずいし……ギンさん、どう思う?」

「……ケイには悪いが、当人らが来たいというなら下手に止めるのはトラブルの元だな。特訓の場を提供しようって方針で、一部のプレイヤーを拒むのは……確実に問題になるぜ」

「うぐっ!?」


 レナさんやギンが言ってる事の理屈は分かる。対策としての性質上、これから設立していく共同体と、そこから行うイベント事は確実に広めていく必要があるもんな。

 露骨に見下してくる人は運営に対応を任せる方針にもなったんだし、俺がリアルで知ってる素行のみで灰の群集として拒絶するのはマズい……。理屈としてそれは分かるんだけど、それで納得が出来るかー!


「ごめん、ケイ君! その部分は私の配慮が足りなかったし、みんなにはここに来ないように言って――」

「あー、待て待て、アイルさん。それ、どう説明する気だ?」

「……え? ギンさん、それってどういう……?」

「どうも何も、どういう理由で灰の群集は選ぶなって言うつもりだ? 俺らのしようとしてる事を考えたら、特訓の場としてのモンエボの知名度は押し上げる事になるんだぜ? その中で、部長のアイルさんのいる灰の群集を選べない理由をどう説明するかって話だ」

「……あ、ケイ君の事を話さないと説明が無理だ!?」

「だろ?」

「えーと、えーと!? そうなると、私が灰の群集にはいないほうがいい!? でも、それはそれでレナさんからの勧誘を蹴っちゃう事になるし、このタイミングで移籍ともなると余計に混乱するよね!?」

「待った! 別にアイルさんに灰の群集から出ていけとは言ってないからな!?」

「あ、それもそうだよね!? そんな事したら、ケイ君にも余計に迷惑だよね!?」


 いや、迷惑かと言われれば……あー、リアルでのポンコツ感のある状態を見てるから失念しがちだけど、なんだかんだでこの前の競争クエストで成熟体に到達してない人達を率いてたりするんだよな、アイルさん。

 そういう部分ではポンコツではないから、下手に移籍される方が厄介になりそうだし……それ以上に、俺が追い出したみたいな状況になるのが嫌過ぎる!?


 この状況、もう俺が我慢する以外に選択肢はないんじゃね!? その上で、eスポーツ部の連中とは一切関わりを持たないように振る舞うのが最善か? ……うん、思いっきり嫌な選択肢。


「……こりゃ、ケイが我慢するしかないんじゃねぇか?」

「あー、アルもやっぱりそう思う?」

「それ以外だと、どう足掻いてもトラブルが出てくるしな」

「……ですよねー」


 回避策があるなら、即座にでも出したいけど……そんなに都合の良いものは思いつかん! 最善は、あのeスポーツ部の連中がモンエボの中に来ない事だけど……。


「ケイ、一応俺が中にいる形にはなるからな? 変に接触しないよう、可能な限りは配慮するぜ」

「っ! 頼んだぞ、ギン!」

「おう、任せとけ。……なんなら、先に釘を刺しておくのもありか」


 そうだよな! アイルさんだとその辺は頼りないにも程があるけど、ギンも一緒にいるんだよな! なんか最後にボソッと呟いたのが気になりはするけど、レナさんだっているんだし――


「そもそもろくに接点がなかったんなら、モンエボの中で会っても意外と気付かないんじゃねぇか?」

「……あ、確かにそうかも」


 フルダイブ中の声はリアルとの声とは微妙に違うんだし、見た目なんか欠片も似てもいないんだし、根本的に同一人物だと分からない可能性の方が高いかも?

 よく考えたら、俺の方もeスポーツ部の人だと紹介されなきゃ気付かない自信はある! ……まぁアイルさんと行動を共にするだろうから、そこを避ければいいだけか。


「えーと、結論としてはアイルさんがケイさんに関する情報を伝えなければ大丈夫そうって事でよさそう?」

「おう、それでなんとかなると思うぜ」

「わー、私の責任、重大だー!? これでやらかしたら、ケイ君に思いっきり嫌われそう!?」

「……そうならないように、真面目に頼むわ」

「……はい!」


 アイルさんの事を嫌うとかじゃなく、そもそもトラブルにしないでくれ。今日の放課後、俺らが帰った後にどういうやり取りがあったか知らんけど、もう厄介事は勘弁だから!


「さてと……共同体の立ち上げメンバーは、わたしとギンさんとアイルさんで決定として、名前はどうしよっか?」

「はい! それぞれのサファリ同盟みたいに、同じ系統の組織だって分かりやすい方がいいと思います!」

「それなら『灰の』を名前のどこかに入れる感じになりそうかな?」

「確かに、そういう系統の方が分かりやすいかも?」


 ふむふむ、確かにハーレさんの意見は一理あるね。『灰のサファリ同盟』を元にして『赤のサファリ同盟』と『青のサファリ同盟』が誕生してたけど、今回は役割として同じような名前を付けた方がいいか。


「んー、そうなるとこの場で決める訳にもいかなさそうだね。ギンさん、アイルさん、共同体の結成はまた後日って事でもいい? 内容的に赤の群集や青の群集の準備が出来てからじゃないと、流石に駄目そうだしさ」

「おう、それは構わんぜ。サイトを作るのにも時間はかかるだろうし、すぐに動き出せる訳でもないだろ」

「うん、それはそうだよね! 私としても目先の大会の方が優先だし……ギンさん、負けないからね!」

「まずは勝ち上がってきてから言うんだな。俺らはシード枠だぜ?」

「ふふーん! その余裕、無くしてあげるから!」


 いや、今日の放課後の対戦でギンにボロ負けしててよく言えるな? あー、でも予選を突破出来るくらいの実力はあるって言ってたっけ?


 あ、そういえば今週末の予選の観戦……まだアルに話せてなかったな。うーん、でも流石に今言うのはなしか。あんまり会話に参加してないけど、富岳さん辺りは俺らのリアルの情報を詳しく知ってる訳じゃないしな。

 よし、その辺はこの集まりが解散になってから聞いてみるとして……って、ベスタが来たね。


「ケイ、そっちの話はまとまったか?」

「……まぁ一応は」

「なんだ? 随分と歯切れの悪い言い方だが……」

「んー、ケイさん的にはリアルの色々を我慢して呑み込んだ感じになっちゃったからね」

「……なに? ケイ、嫌なら無理に合わせる必要はないぞ?」

「いやいや、今回の件は俺の個人的な事情過ぎるから、流石にそれで色々と取りやめにはさせられないって! 問題がある部分は俺から避けるから、大丈夫!」

「……それならいいが、何か問題が出てきたらちゃんと言えよ? 無理強いをするつもりはないからな」

「分かってる。何かあった時は、ちゃんと言うからな」


 少し申し訳なさそうなベスタだけど……なんかこっちが申し訳なく思えてくるよ。俺のリアルでの問題なだけで、それを知らないベスタに配慮しろって方が無茶だしさ。


「とりあえず、わたしとギンさんとアイルさんで共同体を結成する事にはなったよ。ただ、共同体名を各群集のサファリ同盟みたいに他の群集と合わせた方がいいんじゃないかって意見が出て、結成は少し先送りになりそうだね」

「……なるほど。確かにそれは話し合いが必要だな」

「あと、どうも学生組は大会が近いみたい?」

「……ほう? そうなのか?」

「あー、今週末に地区予選があるもんでな」

「そうそう! 色んな部門を、土日でやるんだよね! だから、土日の昼間はいないかも……?」

「初戦で負けりゃ、暇にはなるがな」

「いくらなんでも初戦では負けないし!」


 いやいや、どういう形式での対戦かは分からないけど、初戦で負けるって言い方って事はトーナメント方式のヤツは確実にあるよな!? どれだけ強かろうか、トーナメントなら半数は初戦で敗退だぞ!?

 そういや、部門もいくつか分かれてたっけ? ギンはFPS部門に出るとは聞いてるけど、その中でもいくつか分かれてた気がする? 具体的にその中のどれに出るかって聞いてないような?


「……そうなると、本格的に始動するのは日曜の夜辺りがいいのかもしれんな。レナ、ラック、そこまでにサイトの用意は出来るか?」

「あ、私は土日に同じ日程で動かなきゃいけない理由があるから、ちょっと厳しいかも?」


 あー、何気にここでもちょっと問題があるのか。うーん、写真部の活動として、大会の写真を撮りに行くって話だったっけ。……ぶっちゃけ予選まで行く必要はないような気もするけど、全国まで行ってる部活だからこそなのかもなー。


「およ? ラックさん、eスポーツしてたっけ?」

「ううん、私は写真部なんだけど……まぁ強いとこの部の広報用の写真を撮りに行かなきゃなんだよねー。まぁ好きでやってる事だから、別にいいんだけど……」

「あ、そうなんだ。そういう理由なら、流石に仕方ないね。んー、ならわたしがメインで制作を進めた方がよさそう? まぁラックさんがそれでよければだけど……」

「早めに作った方がいいし、それでお願い出来ればいいかも? 明日は空いてるから、可能なとこはそこで一緒にやるし!」

「うん、それじゃそういう感じでやろっか!」


 ふむふむ、今回の件で使うサイトのメイン制作はレナさんで決定したみたいだな。まぁその辺の制作手順はよく分からないから、変に口出しせずに任せておこう!


「ベスタさん、そういう流れになりそうだけど、問題ない?」

「あぁ、制作を任せるんだし、やりやすいようにやってくれて構わん。それで……ギンノケン、アイル、2人に質問だ」

「ふふーん、なんでも聞いて頂戴!」

「……何か問題があったか?」


 アイルさんとギンの反応、対照的過ぎませんかね? というか、地味に偉そうだな、アイルさん! ……本当に、色々と大丈夫なのか?


「問題という訳ではない。ただ、サイトが完成した際にどう広めるのが有効かと思ってな。外部の掲示板で無作為に貼る訳にもいかないだろう?」

「あれ、荒らし行為みたいなもんだもんね! それは反発を受けるかも! というか、実際に反発も出てたはず?」

「……そこはアイルさんに同意だが、既にそれで広まってる経路を使うのはありだと思うぜ? 変にモンエボを既にプレイしてる人達の思惑を隠すんじゃなく、荒れるのを警戒して受け入れ態勢を作ったって堂々と流せばいい。利用されるのを嫌がってるけど、興味自体はあるって連中はそれで食い付くはずだ」

「なるほどな。堂々と宣言して、人伝てで広めてしまおうって手段か」

「そういう事だな。もう既にeスポーツ界隈にモンエボの事は広まってる状態だから、一から拡散するよりは伝わりやすいし、こっちの動きに大きな利があると分かれば既に入ってきてる連中も動いてくるだろうよ」

「なら、そういう方向で拡散するとしよう」

「おう、それでいいと思うぜ!」


 ふむふむ、余計な小細工は必要なしって事か! いやー、もう広がってしまってる噂に便乗する形で広めるとか、ギンも中々ズルい事を考えますなー。


「さて、eスポーツ勢の流入に関しては、とりあえずここからは準備の完了待ちだが……ケイ、少し付き合え。もう少しくらいなら時間はあるだろう?」

「……はい? まぁ日付が変わるまでくらいならいけるけど……まだ何かあった? あ、そういやベスタの方の彼岸花3人組はどうなったんだ?」

「その件で呼びに来た。まだ話が付いてない上に、ケイ達をご指名だ」

「……へ? え、どういう状態!?」

「それは移動しながら話す。グリーズ・リベルテのメンバーだけ一緒に来てくれ」


 ちょ!? 俺……というか、俺らを指名って何がどうなってんの!? てっきり、もうベスタが話し合いを済ませたものだと思ったのに、本気でどういう状況になってるのかが謎過ぎるんだけど!


「およ? それ、わたしは行かなくていい感じ?」

「むしろ、レナは来るなと名指しされているな」

「……あらら、邪魔にされちゃってるみたいだね。んー、まぁ下手に口出しされたくなさそうな感じだし、大人しくしておきますかー!」

「あぁ、そうしてくれ」


 ふむふむ、元々の知り合いであるレナさんには来てほしくないと……。え、ますますなんで俺らが名指しで呼ばれたのかが謎なんだけど!?


「ケイ、悩むのは実際に行って話を聞いてみてからかな!」

「……あー、それもそうか」


 こういう時は、百聞は一見に如かず……は何か違うか? まぁいいや。サヤの言う通り、ここで考えてたって何も結論は出ないし、実際に行くのが1番早い!


「そうと決まれば、早く移動するぞ。ケイ、移ってこい!」

「ほいよっと! レナさん、アイルさん、下すぞ」

「あ、そういや乗ったままだった!?」

「およ? そういえばそうだったね」


 うん、水のカーペットから下すタイミングが完全に無くなってたからね。ようやく下ろせる状態になったもんだよ。


「……あれ? そういえばこの水、最初はもっと狭くなかった?」


 ぎくっ!? ちょっとずつ広げて、アイルさんから距離は取ってたのがバレた!? いや、まだ誤魔化せる範囲だ!


「アル、急ぐぞ!」

「……おうよ」


 ササっと水のカーペットから、アルのクジラの上に飛び乗っていく! 呆れた風なアルの反応も気にしない! さーて、彼岸花3人組は俺らにどういう用件があるんだろうね?

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