第1451話 勧誘の結果


 おかしな流れもあったけど、お互いの為にも全て無かった事にして、森林深部の灰のサファリ同盟の支部まで移動だ、移動!


「ところで、ケイ君? 私への用事って、冗談抜きで何になるの?」

「あー、うん。アイルさんも情報を持ってきてたけど、eスポーツ勢の流入に関する話で――」

「あの時は、思いっきり突き落としたのに!?」

「さっき、そこは気にしないって言わなかったっけ!?」

「それはそれ、これはこれだよ!」

「それ、無茶過ぎる言い分だな!?」


 ややこしいな、この状況!? あー、やっぱりこの勧誘に俺は不適切過ぎたんじゃないっすかねー!? 雑に扱い過ぎたとは思うけど、強引過ぎるやり方をしたのはアイルさんの方であって――


「はーい! 2人とも、ストップ! そもそも2人の間で何があったの? 突き落としたって、どういう事?」

「あー、ギンを迎えに行って、その後オリガミのとこに行くのに急いでた時に水のカーペットの上に強引に乗ってきて――」

「だから、あれは私としても用事があったからなんだって! ……まぁ既に知ってた情報だから無意味だったけど……だからって、突き落とさなくてもよくない!?」

「人を待たせてた状態だったんだっての! それも何重にもあった形で――」

「だから、ストーップ!」


<ダメージ判定が発生しました。あと2回の発生で『移動操作制御Ⅱ』は強制解除になります>


「っ!?」


 おわっ!? レナさん、思いっきり水のカーペットを蹴ってきたな!? いきなり過ぎて制御が乱れたけど……ふぅ、落ち着け、俺。なんでアイルさんと妙な感じに言い合ってんだ?


「なんだか2人とも気が立ってるけど、落ち着いてね? もう、いっそこの話はわたしからするか、みんなのとこに戻ってからにする?」

「あー、その方がいいかも?」

「……え? あれ? 別にケイ君じゃなくてもいい話なの?」

「知り合いだからって理由で、勧誘役を頼まれただけだしなー」

「……そうなんだ」


 ん? なんでそこで露骨にガッカリしたような反応? いやいや、さっきは変な誤解が発生してたとはいえ……あれ?


「およ? アイルさん、ケイさんから言われたかったの?」

「……あはは、色々と迷惑かけちゃってたから、誤解は抜きにしても……何かしら頼りにはしてくれたのかなーって? それも誤解だったみたいだけど……」


 いやいやいや、そこで更に落ち込まれても困るんだけど!? てか、それならなんでさっきみたいな喧嘩腰になってた!?


「あらら、それだとわたしはちょっと余計な事を言っちゃったかなー?」

「ううん、大丈夫! レナさんには前に助けてもらったし、あのメンバーの揃い方なら群集の方で何かあるんだよね! 私に出来る事なら、可能な範囲でやるよ!」


 あ、なんかもう復活した。……うん、まぁ凹みっぱなしじゃないなら、別にそれでいいか。なんかアイルさんの機嫌を取る為に何かをしようって気にはならないし……。


「という事で、ケイ君! その内容を話して!」

「……その前に転移するぞ。もう、その話はみんなのとこに戻ってからでいいや」

「あれー!? そこで空振りにされるの!? ケイ君、なんか怒ってない!?」


 ……むしろ、何故怒ってないと思った? これでも、変な勘違いをするようなメッセージを送ったのは悪かったと思ってるのに、どんどんその罪悪感が消えていってるんだが!?


「無視なの!? さっきのはごめんってば! もう掘り返したりしないから、許してー!」


 ともかく、この話の続きはみんなのとこに戻ってからで。周りに大勢いないと、この調子で話してたら話が進まんわ! ……はぁ、なんか疲れるよ、このペース。さっさと転移してしまおう。



 ◇ ◇ ◇



<『始まりの草原・灰の群集エリア3』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 サバンナの安全圏から直接は転移してこれなかったので、草原エリアを経由して森林深部まで戻ってきた。安全圏から草原へと転移する際にアイルさんが転移を選択してなくて、放置になりかけたけど……まぁそれはスルーで。うん、思い出すだけで精神的に疲れてくるし……。


「……なんだかケイ君、私に対する扱いが酷い気がする」

「そうなる理由、身に覚えがないとは言わせないぞ?」

「……そうなんだよねー。うん、色々とごめんなさい……」


 自覚してて、謝られても……さっきの反応を考えると、また何かありそうなんだよな。あー、でも8月からはアルバイト仲間でもあるんだし、サヤの警戒も薄れたみたいだったし……少しくらいは気を許しておかないと、シンドいかも……。


「うーん、不躾なのは承知なんだけど……ケイさん、リアルでも何かあった? 前の件が解決した割に、警戒度が上がってるような気もするんだけど……」

「……あー、まぁあったと言えばあったけど……アイルさん、話していい内容?」

「もうこの際、断罪なら甘んじて受けるよ! レナさんがいるなら、少しはマシな気がするし!」

「……断罪って、本当に何をしたの?」

「例の部活の勧誘の件、やらかしてた事を部員には伏せてたみたいでさ。ちょっと色々あって、今日の放課後にeスポーツ部と対決をしたんだけど、それで異常な程に敵意を受けましてなー?」

「その件は本当にすみませんでしたー! でも、私としてもみんながあんな風に敵意を持ってるとは思ってなかったんだよ!?」

「……あらら、それはまたケイさんには居心地が悪い状態だね? アイルさん、警戒されても仕方ないと思うし、下手な言い訳は逆効果だよ? 認識はどうだったとしても、謝らなきゃいけないような状態にしたのはアイルさんで間違いないんだよね」

「……そうなります」

「なら、謝る事のみに集中しないと! そこで言い訳したら、反省してないと思われても仕方ないし、余計に警戒されるだけだからね!」

「……はい」


 なんかレナさんからの説教が始まって、俺が何か反応する余地がなくなったんだけど……レナさん、いいぞ! もっと言ってやれー!

 部員にとっても廃部の危機があった事実を伏せられてたのは、信用問題でもあるだろうしさ。……まぁあの敵意を向けてきた部員達の肩を持つ気もないけど。


「まったく、ケイさんの様子が変だと思ったら、そういう事情だったんだね。……およ? ハーレがそれを知ってたって事は……対戦、ハーレも混ざってた?」

「ハーレさんは元凶その3だな。元凶その2がギンで、元凶その1がアイルさんってとこか」

「私、元凶その1なの!? ……はい、ごめんなさい。そもそも言い出したの、私だもんね……」


 そこを自覚してないようなら、もっとレナさんに説教されてほしいとこだけど……まぁ自覚したなら、これ以上はやめとくか。


「……ところで、ケイ君? そのギンって……もしかして、今日来てたあの人?」

「まぁそうなるな」

「なんでそうなってるの!?」

「用事ってその辺も関わってる話なんだけど、さっきから話が進まないからなー!」

「……それは、なんかごめんなさい!」


 そんな話をしてる間に、もうみんなのとこまで辿り着いたよ。結局、新設する共同体の話まで進まないままだったか……。


「ケイ、おかえりかな! ……話は全然進んでないみたいだね?」

「まぁなー。レナさん、俺が話すとやっぱり色々ややこしそうだし、任せていい?」

「んー、思った以上に変な状態みたいだし、その方がスムーズに話は進みそうだし……そうさせてもらうね」

「頼んだ!」


 ベスタに頼まれたの俺だったけど、ちょっと今回の件は無理! なんかここからも思いっきり脱線しまくりそうだし、共同体のリーダーになるレナさんから勧誘してもらう方がいいだろ!


「という事で、勧誘はわたしがするけど……まず、どういう話なのかの説明からしよっか?」

「そこからお願いします! 状況が全然分かんない!」

「えーと、eスポーツ勢が流入してきてる件は知ってるよね?」

「それはもちろん! 変な外部サイトが出来て、誰かが誘導してるって話だよね? それに関して、群集が対応策を話し合ってた感じ?」

「うん、基本的な流れはそうなるよ。まだまとめにも書いてない情報ではあるんだけど……わたしとラックさんで、他の外部サイトを作って、群集の方へ受け皿を用意しようって事になってね」

「あ、もしかしてそれを手伝ってほしいって話!? 私もeスポーツ関係者ではあるし、その立場からの意見を――」

「悪いけど、それはもうギンで間に合ってる」

「うっ!? ケイ君、なんか言葉に棘がある気がするんだけど!?」

「……気のせい、気のせい」

「絶対に気のせいじゃないよね!?」

「ケイさん、話が進まないから、少し静かにしてもらってていい?」

「……ほいよっと」


 事実を言っただけで、レナさんから冷たい声で怒られた。……いやまぁ今のは俺の言い方も悪かった気もするし、そこは反省か。


「えっと、話は戻すけど……意見の調整役はギンさんにお願いして、方向性自体は決めたんだよね。まぁ細かい調整はこれからもしていく必要があるから、そこは他の人の意見も欲しいし、お願いする可能性はあるよ」

「なるほど、なるほど。それでどういう方向性になったの?」

「各群集に、それぞれ受け入れ先の共同体を設立して、模擬戦機能をメインにプレイヤー間のイベント化をする感じだね」

「おぉ、それってシンプルに楽しそう!」


 レナさんからの説明が続いているのはいいんだけど、始める前に水のカーペットから降りておくべきだったな……。すぐ隣でレナさんとアイルさんが話している状態だけど、口出し不可は微妙に居心地が悪いわ!


 ん? 共同体のチャットが光ったし、誰かが書き込んだか? まぁ説明中の今は暇だし、下手に喋ると邪魔にもなるもんなー。状況の説明が終わるまで、チャットで話をしておきますか!

 

 アルマース : ケイ、なんか機嫌悪くねぇか?

 ケイ    : ……機嫌が良くなる要素ってあった?

 アルマース : いや、それはないが……それにしても、不機嫌になり過ぎてないか? どうも言い合いをしてるような声が聞こえてたが……。

 ケイ    : アイルさんの相手、ドッと疲れたんだよ……。初めからレナさんに任せとけばよかった……。


 無理に今日中に話を進めるのは必須じゃなかったんだから、俺がリアルで連絡を取るのはやめておけばよかった……。もしくはハーレさんに頼むべきだったのかも……。


 サヤ    : ケイ、大丈夫かな?

 ケイ    : 放課後の件から、もうなんか振り回されっぱなしだからな……。まぁレナさんが残りをやってくれるだろうし、一安心だけどさ。

 ハーレ   : ……なんだか、ごめんなさい。

 ケイ    : あー、まぁハーレさんはいいよ。結果的にギンが味方入りしたし、色々とややこしい状況も判明したしさ。

 ハーレ   : 怒られるかと思ったら、そうでもなかったのさー!?

 ケイ    : 怒ってほしいなら、怒るけど?

 ハーレ   : 怒らなくて大丈夫です!


 まったく、別に俺としても怒りたい訳でも不機嫌になりたい訳でもないんだけどな……。まぁ妹だからって甘い部分もある気はするけど……って、そういやギンからのシスコン疑惑を解消出来てないままじゃね!?


 ヨッシ   : ところで、この勧誘って断られた場合はどうなるの?

 ハーレ   : はっ!? 確かにどうなりますか!?

 アルマース : そりゃ、他に誰かを探すしかないだろ。無理強いは無しだぞ。

 ケイ    : だなー。正直、俺としてはそうなった方が気楽でいいかも……。

 サヤ    : むしろ、アイルさんはレナさんと一緒がいいんじゃないかな!

 ケイ    : ……へ?


 サヤ、一体どうした!? どうにも随分とアイルさんへの警戒心が薄れているような印象があるんだけど……そうなる要素ってどこかにあったっけ? 威圧にもノリノリだったけど、どういう心境の変化!?


 ヨッシ   : サヤ、もしかしてレナさんにアイルさんを抑えてもらおうとか思ってる?

 サヤ    : うん、そのつもりかな! その方が、ケイの心労が少なくなりそうだしね。

 ケイ    : そういう理由での賛成か!?


 あー、でも言われてみれば、さっきレナさんが説教してくれてたんだし、同じ共同体で管理下に置かれている方が安心は出来る? って、サヤの警戒心は全然薄れてないじゃん!?

 まぁ気を緩められる理由はどこにもないし、ある意味当然な反応か? うーん、でもそれって俺の問題だしなぁ……。あんまりサヤにまで無用な警戒心を持っていて欲しくはないよな……。そういう意味でも、レナさんの元にいるのが安心なのかも?


 色々と悩ましいとこだけど……そろそろ説明も終わりそうだし、そっちに意識を戻すか。さて、アイルさんはどういう結論を出すのやら?


「――とまぁ、そういう理由で灰の群集で立ち上げる共同体はわたしがリーダーをやる事になってね。それでギンさんを含めてあと1人、eスポーツ関係者を立ち上げメンバーにって事で、心当たりとしてアイルさんの名前が出た感じだよ」

「あ、その勧誘が今なんだ!」

「そういう事だ、アイルさん。一緒にやる気はあるか?」

「そっか、ギンさんの手の内を探るチャンスでもあるんだ!? 確かに私もモンエボを始めてから多少は強くなった気がするし、これは色々と良い機会かも!」


 ……あー、うん。どうやらアイルさんは乗り気ではあるみたいだけど、自分の利益を中心にって感じだね。まぁそれが決して悪い訳じゃないし、灰の群集としても――


「そういう事なら、私のとこの部員も連れてきていい? 人数が多い方が――」

「それはちょっと待て! 許容出来るか、そんなもん!」

「わっ!? ビックリした!? ……ケイ君、何か問題あった?」

「むしろ、よくそれを俺の前で堂々と宣言出来るな!?」

「え? ……あっ!? 放課後の件!?」


 アイルさんが新設する共同体へ加入するのは、俺にとってもメリットがありそうだから止めないさ。でも、eスポーツ部のあの連中から向けられた一方的かつ身勝手な敵意に対する謝罪も何もなしに、それは許容出来るか!?

 しかも、あいつらはどう考えてもeスポーツをしてる奴の方が偉い的な考えをしてるよな!? 俺の個人的な感情を抜きにしても、デメリットの方が大きい気がするんだが!

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