第1450話 やりたくない勧誘
彼岸花3人組が灰の群集に来るかもしれないというのは驚きの動きだけど……個人的には、それどころじゃない!? なぜ、俺がアイルさんの勧誘役に!? いや、そもそもアイルさんの連絡先とか知らない……あ、アルバイトの連絡用のグループメッセージがあるんだった。
「えーと、なんだか力尽きてるところで悪いんだけど……ケイさん、妙にアイルさんへの反応が変だよ? 何かあったの?」
「あったというか、まぁあったんだよなぁ……」
なんか我ながら変な言い方をしてる気がするけど……実際に変な事はあったんだから、あったとしか言いようがない。
あー、レナさんが不思議そうにするのは当然だけど、これってどう説明したもんだ!? これ、放課後にリアルであった事を全てそのまま話すしかない? あんまりリアルの情報を話し過ぎるのも嫌なんだけど……もうアイルさんの事については、配慮もいらないか?
「レナさん、レナさん!」
「およ? 代わりにハーレが説明してくれる感じ?」
「うん! 今日の流れ、全ての元凶はアイルさんなのです!」
「……元凶? あ、ギンさんがケイさんに敵対を宣言するキッカケになったとか、そういう話?」
「詳しくは個人情報だから避けるけど、ざっくりと言えばそういう事なのです!」
「ふーん、なるほどねー。一度、誤解とはいえあれだけ警戒状態になってた相手が、面倒事の元凶だったら避けたくもなる気持ちは分かるかも?」
ざっくりと言い過ぎだけど、それでもレナさんには伝わったー! いや、待て。アイルさんが元凶なのは間違いないけど、ハーレさんにも少なからず原因はあるよな!?
「あー、待て待て。そういう意味での元凶なら、話に乗った俺も元凶だ。そのアイルさんってのがあの人なら、俺が話を通すのでもいいぜ。リアルで面識があるんだし、事情的にも俺が適任なはずだ。なぁ、ケイ?」
「……そりゃそうなんだけど、もう引き入れる相手はアイルさんで決定事項なのか?」
他に心当たりがあるかと言われたら無いけど、それでも俺としては気乗りしないというか……。そりゃeスポーツの関係者で、モンエボにある程度馴染んでて、リーダーをするレナさんが知っている人で、競争クエストでそれなりに知られて……いかん、俺が不満という以外に勧誘しない理由がない条件だな!?
「……ケイ、気乗りしない気持ちは分かるが、アイルさんはeスポーツ部なんだから、適任なのは間違いないぞ?」
「分かってるって、アル。……はぁ、俺が我が儘を言ってても仕方ないし、話してみるよ」
「ケイ、俺が話すぜ?」
「いや、ベスタに任されたんだし、とりあえずは俺が話すよ。多分、変な空気を残さないようにって配慮もありそうだし……」
「……なるほど、そういう事か」
ベスタは嫌がらせ的な人員配置はしないだろうし、アイルさんを重要な立ち位置に据えるなら……俺が納得出来るようにしてくれたんだろうね。嫌な事を無理に押し通すような真似は、絶対にしないしなー。
「……サヤはいいの? アイルさんの事、警戒してたんじゃ?」
「うん、大丈夫かな。なんでアイルさんを警戒してたのか、なんとなく分かったし……」
「……え?」
「あっ!? 今のはなんでもないかな! ケイ、アイルさんに連絡は、リアルで出来るんだよね?」
「まぁ、それは出来るけど……」
あれ? サヤももっと嫌がるものかと思ってたのに、全然そんな様子もないぞ? ……サヤ、何か心境の変化でもあったか?
「それならすぐに連絡して、勧誘かな! 動き出しは早い方がいいし、レナさんやラックさんも動きやすくなるよ!」
「……それもそうだな。おし、それならちょっと連絡してくるけど……場所はどうする? あー、アイルさんがすぐに来れる場合の話だけど」
「それなら、灰のサファリ同盟の本拠地は……今立て込んでる最中だから、森林深部の支部で集まれるようにしとくよ!」
「あー、あそこか」
ふむふむ、アイルさんの始めた時期的にも、あそこが灰のサファリ同盟の元本拠地で、今は支部になっているのは知っているはず。人払いもしてもらいやすいし、まぁ集合場所としては悪くないか。
「それじゃ、ちょっとログアウトしてくるわ。アル達は先に現地に行っててくれ」
「ん? 別にここでケイが戻るのを待っててもいいが?」
「……アイルさんには色々困らされてきてるし、ちょっとの間、威圧されててもらおうかなーと? 俺が行くまで、用件は言うなよ?」
「……おいおい、俺らで囲んで威圧してろってか?」
「アル、それはやろう! 私もアイルさんには、少し言いたい事があるかな!」
「サヤまで乗り気だな!? あー、まぁ聞いた限りじゃ今日は振り回されてたっぽいし、それくらいは大目に見るか。ケイ、早めには来いよ?」
「分かってるって! それじゃちょっと行ってくる!」
サヤがアイルさんに何を言いたいのか分からないけど……ハーレさんとヨッシさんの方を向いてたのも関係ある?
あ、もしかして例の嘘に勘付いた? ……その可能性、ないとは言えないな。俺が行くまでの間に、その辺の話をしようって事なのかも? ……まぁなるようになれだなー。
◇ ◇ ◇
という事で、一旦ログアウト。いったんとは最小限のやり取りで、現実まですぐに戻ってきた。まぁ最小限の用件だけ伝えたら、またログインするしね。
「……23時前か。まだゲーム内にいればいいんだけど……」
アイルさん……というか、相沢さんの生活パターンを全く知らないから、この時間に連絡をしていいものかも悩むけど……まぁ駄目で元々だ!
今日は無理だとか、そもそも返事がないだとか、そうなった場合は普通にそうみんなに伝えればいいだけの話だ!
むしろ、そうなってくれませんかねー? 面倒な事を先送りってのは好きじゃないけど、今はものすごく先送りしたい気分。……はぁ、あんまり時間もかけてられないし、しょうもない事を考えてないで、さっさとメッセージを書いちまおう。
「えーと、『相沢さんへ。夜遅くにすみません。少し話というか、お願いしたい事が出来たので、モンエボ内の灰のサファリ同盟、森林深部の支部まで来られますか?』でいいか」
ちょっと今日のeスポーツ部で放置されてた時の意趣返しで、アウェーで威圧されてもらう為に用件は伏せておく! ……このくらいの反撃、させてもらってもバチは当たらんだろ。
同じグループ内の晴香と直樹は状況を知ってるし、下手するとこの内容をモンエボの中から見てるかもなー。まぁ見られて困る内容じゃないけど。
「おっ、返事がきたな」
思ったより反応が早かったって事は、フルダイブ中ではなかったのかも? あー、こりゃ今日中にはどうにもならないパターンかな。まぁとりあえず返事を確認して……。
「……『まさかの吉崎君からの呼び出し!? えー、どうしよっかなー? 今日、突き落とされたしなー?』って、あれを地味に根に持ってるのかよ!」
うっわ、なんか急激に面倒になってきた……。もう、ここでスルーして、断られた事にして戻ってもいいですかねー? ……うん、アル辺りに駄目って言われそう。あー、面倒くさ!
「えーと、『無理なら無理でいいよ。可能なら早い方がいいけど、明日でも問題はないしさ』……よし、これでいこう」
ぶっちゃけ、後回しにしてしまいたい! あわよくば、その後回しにしている間に他の候補者が見つかる事を願いたい! あ、すぐに返事がきた。
「……『引くの早過ぎない!? んー、こういうのはリアルで話してほしいんだけど……まぁ夜に送ってくるってのは、それだけの事があったんだよね! うん、どういう結論にするにしても、聞いてあげましょう!』って、なんでリアル?」
というか、なぜ微妙に上から目線? ちょっと待った。用件をぼかしたせいで、なんか変な風に捉えてないか? いやいや、いくらなんでもそんな勘違いの仕方はないだろ。……ないよな?
「……まぁいいか。待ち合わせ場所にはみんなが先にいるんだし……」
まぁいくらなんでも、グループメッセージで晴香や直樹が見れる状態で、告白目的の呼び出しメッセージだと勘違いは……ないよな? ないと思いたい!
いや、でも相沢さんのポンコツ具合を見てたら、正直、そういう自信は無くなってきた……。慎也や直樹が、相沢さんはモテてるとは言ってたから、告白され慣れてそうだし……なんか面倒な事をしてしまった予感!?
あー、でも、もし変な勘違いをされていたとしても、それで恥をかくのは相沢さんだけなんだし、別にいいか。ここ最近、相沢さんとの変な誤解で痛い視線を向けられ続けてたんだしさ。eスポーツ部からの敵意の視線も痛かったしな!
◇ ◇ ◇
色々と不安要素も出てきながら、再度ログインして、安全圏まで戻ってきた。さーて、森林深部の灰のサファリ同盟の支部まですぐに――
「ん? 共同体のチャット?」
ログインして早々に、いきなりどうした? PTは維持されてるのに、PT会話じゃなく、共同体のチャットで話すような内容ってなんだ?
なんか笑いを堪えるような声が聞こえてくるんだけど……とりあえず見てみてるか。
サヤ : ケイ!? なんで紛らしい言い方をしてるのかな!?
アルマース : 一応内容をハーレさんが読み上げてくれてたが……妙な勘違いが発生してたみたいだぞ。
あー、うん。思った以上にアイルさんの到着が早かったみたいだけど……これって、面倒な状態になってる?
ケイ : えーと……アイルさん、何かやらかした?
ハーレ : ううん、何もしてないよー! ただ、姿を見せた瞬間に固まって、どこかに身を隠したのさー!
ヨッシ : 今、レナさんが捜索中だね。
ケイ : ……なるほど。
何かを勘違いしていた上で、盛大にやらかす前には気付いたっぽいね。いやでも、用件をぼかしてたからって、あの状況からそんな勘違いってある? 場所は人が減ってきてるとはいえ、灰のサファリ同盟の森林深部の支部だぞ? しかも、散々警戒しまくってる俺から……。
アルマース : まぁとりあえず俺らはここで待ってるから、ケイはアイルさんを探して謝っとけ。
ケイ : へ? え、なんで?
アルマース : ……ケイ、今回の件は勘違いした方もどうかとは思うが……場所さえ違えば、勘違いしてもおかしくはない文章だぞ? 変に勘違いを引き起こした要因については謝っておくべきだ。
サヤ : ……今までの件で、ケイに好かれてると思ったのは謎過ぎるかな!
ヨッシ : まぁそれはそうだけど……一応、フォローはしておいた方がいいと思うよ?
ハーレ : 私としては、正直微妙な気分なのです……。
あー、アルの言う事は分かるといえば分かる。俺にそういう意図はなかったとはいえ……変な形で恥をかかせてしまったのは事実か。でも、それを差し引いてもアイルさんの方にも確実に問題があるのも事実だよなー!?
「……はぁ」
とはいえ……あ、この構図、俺が凄く嫌だった中学の時のあの件に少し似てるのか。思わせぶりな事を言って、その気にさせて、恥をかかせて笑い者に……ちっ! あれを忌み嫌ってる俺が、それと同じような事をしてどうする!?
「……探すか」
経緯はどうあれ、結果的には同じような状況に陥らせてしまったのなら……やっぱり謝っておくべきだな。そうじゃないと、俺は俺自身を許せないかも……。
「あ、見つけた、ケイ君!」
「はい、ケイさん。探しに動くと思ったから、お届けねー!」
「アイルさんと……レナさん!?」
マリモみたいな丸いアイルさんのコケを手に持ったレナさんが目の前に来ていた。そういや、さっきレナさんが探しに行ったって言ってたっけ。
「もう! ケイ君ってば紛らし――」
「その件は、すみませんでした! あの用件の伏せ方は、確かに紛らしかった!」
「……え? わー!? 待って、待って!? よくよく考えたら、どう考えてもあれは勘違いした私の方が悪いし、そもそも振る以外の選択肢はなかったし、申し訳ないのは私の方……って、何か余計な事まで言った気がする!?」
……ん? 告白した訳じゃないのに、俺、今思いっきり振られた? ……別にアイルさんが好きな訳じゃないからいいけど、なんか複雑過ぎる心境になってくるな。
「んー、なんかケイさんもアイルさんも、すごく失礼な事をしてる気もするけど……まぁお互い様って事で、今回のは水に流すのでいい?」
「……アイルさんがそれでいいなら、俺は問題ない」
「早く水に流してー!? ものすごく気恥ずかしいから! もうどこかに消し去って!」
「それじゃ、この件はこれ以上深掘りはしない事!」
「うん! それでいい! むしろ、それがいい!」
「……ほいよっと」
ふぅ……正直、この場にレナさんがいてくれて助かった! もしいなかったら……どんな変な流れになってたか、想像も出来んし、したくもないわ!
今回の教訓、人を呪わば穴二つって事なのかもね。意趣返しで困らせようとして、おかしな言い回しをするもんじゃなかったよ……。
「さてと、本題に戻すからみんなのとこに戻ろっか。ケイさん、水のカーペットをお願い出来る?」
「あ、それは了解っと!」
このメンバーなら、まぁ俺が運ぶのが1番だよな。一旦ログアウトしたから夜目も切れてるし、再発動もしとこ。
<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します> 行動値 127/127 → 126/126(上限値使用:1)
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅱ』を発動します> 行動値 126/126 → 124/124(上限値使用:3)
よし、水のカーペットの展開完了!
「おー! 今回は落とされずに乗れるね! ねぇ、ケイ君。あの落とし方は酷くない?」
「……強引に乗ってくるのもどうかと思うんだけど? あの時、急いでたのも事実だしさ」
「……まぁそこは気にしないって事で!」
無茶言うよな、アイルさん! でもまぁ、結局あの後の話が回り回って、これからのアイルさんの勧誘話に繋がるのか。……全然予想してなかった流れだなー。
「あ、ところで私に何か用事があるんだよね? そこは本当の部分だよね?」
「一応、何一つ嘘は言ってないからな?」
「……あはは。あー、暑っいなー! うん! まぁその用件は、移動してからしっかりと聞きましょう! はい、出発!」
「……へいへいっと」
レナさんのおかげで変な流れも早い段階で消滅してくれたし、今はみんなとの合流を優先しますか! いざ、森林深部へ移動を開始!
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