第1449話 動く情勢
赤の群集や青の群集との話し合いは終わり、ジェイさんと斬雨さんの見送りという名の監視と共に、灰の群集の安全圏へと戻っている真っ最中。
俺らも赤の群集も結構な大所帯ではあったけど、半分くらいの人はほぼ聞いてただけだった気がするなー。アル達よりもギンの方がよく喋ってたような……? まぁ役割を考えたら当然な気がするけどさ。
「レナさんとラックは、すぐにサイトの作成を始めるの?」
「んー、流石にすぐには始められないかも? レナさん、どういう形で作る?」
「まずはリアルでの連絡を取れるようにしたいけど……どっちかのサイトの問い合わせ経路で、連絡先の交換をしよっか。その後から、作成環境の擦り合わせからやっていくのでどう?」
「それで大丈夫! それじゃ私の方から『ナチュラルポート』へ連絡を入れておくね」
「うん、それじゃそういう事で! あ、ギンさんに話を聞きたい場合はどうしよっか?」
「それは私かハーレが聞く感じでいい? その方が色々と都合は付くだろうしさ」
「俺はそれでいいぜ」
「私も問題なしなのです!」
「そっか、そっか。それじゃそうしよっか!」
ほほう? 何気にギンとハーレさんとラックさんが同じ高校なのが活きてきそうだな。まぁその辺は俺にはよく分からない部分だから、全面的に任せて――
「それにしても……ケイさん、今回はまたややこしい状態にしてくれましたね」
「……ちょい待った、ジェイさん! 今回は俺のせいじゃないと思うんだけど!?」
「いえ、少なからずケイさんの影響はあったはずですよ? ケイさんが探りを入れているという情報が出てから、状況を急ぐように掲示板への書き込みがありましたからね。ライブラリという人からしても、予定が少し早まったのでは?」
「……あー」
なるほど、そういう考え方もありか……。今の状況は一朝一夕で作り上げられたものではないだろうし、一気に仕上げを加速させた可能性はある?
「……それ、どっちかというとギンのせいじゃね?」
「なんでそこで俺のせいになるんだよ?」
「そもそも、モンエボがeスポーツの特訓になるって噂を持ち込んできたの、ギンだろ!?」
「ま、そりゃそうなんだが……その掲示板への書き込みってのはなんだ? 例のサイトがあちこちで拡散されたのは、昨日だぜ?」
「……ん? あれ? もしかして、ギンは知らない?」
「だから、何をだよ?」
えーと、ライブラリが『主導権を奪い合え』っていう内容を書き込んだのは公式掲示板だよな? 俺もまだ実物は見てないけど、羅刹が見たって言っていたんだし、ジェイさんがさっき言ったのもこの件のはず。
モンエボの公式掲示板、始めたばかりのギンが見てる訳がなかったわ! そりゃ話が通じない訳だよ!
「その件は、公式掲示板の話ですね。今回の黒幕……『ライブラリ』がeスポーツ勢の流入は自分の仕業だと名乗りを上げて、その主導権を奪い合えという趣旨の書き込みがあったんですよ」
「……へぇ? そりゃまた、随分と派手な真似をしやがるな? 今更だが……それは騙りって可能性はないのか?」
あ、その可能性は考えてなかった!? ライブラリならやりかねないとすぐに納得してしまったけど……精査しなくて大丈夫――
「騙りの可能性は低いねー。ライブラリさんの協力者っぽいのが、群集のまとめに同じ内容で書き込んでるしさ。青の群集の方にも、そういうのがあったんでしょ? そっちには、『ライブラリ』ってプレイヤーネームがしっかり載ったスクショと一緒に、例のサイトもURL付きで貼られてたしさ」
「……えぇ、同様のものは青の群集にもありますね。他の群集のものは確認出来ませんが、まぁどこの群集にもあるのでしょう」
「……まとめというと……あぁ、これか。ふむふむ、プレイヤーが編集するタイプの攻略サイトを元にした感じだな? あー、閲覧権は群集に所属してる事なのか」
そんな書き込み、あったんかい! いやいや、本当に大胆な事をやってるな、ライブラリ!?
……うっわ、確認してみたらマジでそういうページが出来てるよ。編集者名も出てるけど……『サーチ』ねぇ? なんかこの名前、嫌な予感がしてきたんだけど……。
「ジェイさん、青の群集の編集者の名前って誰になってる? 灰の群集のは『サーチ』ってなってるんだけど……」
「こちらは『アナライズ』ですね。まぁ十中八九、同類の味方でしょう」
「ですよねー!?」
『ライブラリ』『サーチ』『アナライズ』とか……もうどう考えても、単独犯じゃないだろ!? あー、この話題はさっき赤の群集もいる時にしとくべきだったか?
「ちなみに、赤の群集の編集者でしたら『コンプリート』だそうですよ。4人の名前が、図書館、調査、分析、完成……完全に私達は遊び道具にされていますね」
「……うっわ」
色々と手を打つ事に決めた後だけど、すっごい面倒な予感しかしない! ライブラリの単独犯だと思ってたのが、ここにきて複数犯になるとか予想出来るかー!
「ケイさん、心配はしなくて大丈夫だよ。多分、ライブラリさん以外の残りの3人は、ただの人数合わせだしさ?」
「……へ? レナさん、その根拠は?」
「これだけの事をやらかす人が、信用出来る仲間を作ると思う?」
「……あー」
群集を跨いで存在するインクアイリーなんて組織を作り上げられるだけの実力があって、実際にそれを作り上げて……その上で放棄して観察するのを楽しんでるような人なら、信頼し切った仲間なんて作ろうともしないか。
「だが、同類という可能性はあるんじゃないか?」
「んー、まぁアルマースの言う通り、その可能性も否定は出来ないんだけど……その場合でも、これ以上の手出しはしないはずだよ。多分、それをしたら……仲間割れになるからね」
「……なるほど、集まりだとしてもそこまでも同類だと考えた方がいいのか。となると、既に仕込みは全て終わらせているんだな?」
「そうそう、そういう事! 面白半分に顔を出して煽るくらいはしてくるかもしれないけど、大きく流れを変えるような真似はしてこないと思うよ。……良くも悪くも、そういう人だからね」
こうやってレナさんが言い切るって事は……他の場所でもこんな事をやらかしてたんだろうな。でも、レナさんに警戒心は見えても、ライブラリへの敵意は見えてこないから……極端に環境をぶっ壊す訳ではない?
「まぁ今回は盛大にやっちゃってくれてるけどさー。ケイさん、多分灰の群集のわたし達が1番面白がられてるからね! これ、過去最高規模!」
「……はい? え、最高規模!?」
「ゲーム外まで使って動かしてきたのは、わたしの知ってる限りでも初めてなんだよね。だからこそ、こっちも外のものを使って対抗するんだけど……今の状況も絶対に楽しんでる! こうやって対処に動くのまで、狙いに入れて動いてるって! この事態をどうやって収拾するかを楽しんでるまであるかも?」
「……マジか」
まぁ流入してきたeスポーツ勢や内部分裂を起こしたインクアイリーの主導権を奪い合えって宣言に対して、流れを変えて主導権を作ろうとしてる状態ではあるけど……って、ある意味、俺らも主導権を奪い合ってる状態か!?
くっ! 放置すれば無秩序になるから群集も動かざるを得ないけど、そうなる事すら織り込みか!? 対策を取ってるはずなのに、弄ばれてる感が出てきた気がする……。
「ついでなので聞いておきたいのですが……レナさん、インクアイリーの過激派はどう動くと思います? 赤の群集の手前、先ほどは聞くのを遠慮しておいたのですが……」
「それは、彼岸花さん達3人がどう動くかって事?」
「えぇ、そうなりますね。……より踏み込んでいいのであれば、それに他の群集が巻き込まれる可能性もですか」
「んー、まぁ巻き込まれる可能性自体は否定出来ないね。前回の件だと、戦力として巻き込んだ人達が予期しない動きに変わっちゃってたみたいだしさ。ぶっちゃけ、あの3人には大人数を抑えられるだけの指揮力はないよ」
おー、ばっさりと切り捨てたな、レナさん! まぁ確かに、他のメンバーを抑えられてた風ではなかったし、ラジアータとリコリスの2人は意図しない流れになったからまともに戦闘には加わらないって状態になってたもんな。
「……なるほど。実力はあっても、まとめ上げる能力とは別という訳ですね?」
「うん、そういう事! ライブラリさんと彼岸花さんが組むと危ないけど……まぁ根本的なところで相性が悪いから、それはないね。考えられるとしたら、彼岸花さん達がライブラリさんの策に乗せられる事だけど……」
「……既に仕上げが終わっているなら、今回の件でそれを仕込んでくる事はないと?」
「もう既に組み込まれてて、動き出してない限りはねー」
「……そうなっていない事を願いたいですね」
サラッととんでもない可能性を提示されたけど、冗談抜きでそんなのは勘弁してほしいわ! あれだけの実力者が、これだけの影響力を作り出したライブラリの手の平の上とか冗談にもなってない……あれ?
「レナさん、ちょっと疑問が出てきた!」
「およ? 何か引っかかる事ってあった?」
「引っかかるって事ではないんだけど……あの彼岸花3人組って、赤のサファリ同盟……その中の弥生さんとシュウさんへのリベンジで動いてるんだよな?」
「うん、まぁそうなるね」
「……それなら、夏の大型アップデートで追加されるPTでの模擬戦を使って、ウィルさんが赤の群集に取り込む可能性ってある?」
「っ!? とんでもない事を思い付きますね、ケイさん! ……確かに、同じ群集であれば集団戦が可能になりますし、赤のサファリ同盟さえ同意してしまえば引き入れる事は可能になりますか……。レナさん、今の可能性は……」
「……十分、あり得るかも? あちゃー、そうなるとウィルさんの指揮下であの3人が動くの? うーん、これは頭が痛いな……」
チラッと頭に浮かんだ可能性だったけど、そうなる確率は高いのか! あれだけの実力者、味方に引き入れられれば一気に主戦力になってくるぞ!?
いやいやいや、待てよ!? 赤の群集が取り込める条件になるのなら、同じ条件は俺らだって満たせるはず。っ!? しまった、今の内容はジェイさんがいる時に言うべき事じゃ――
「……ん? ジェイ、それなら先に俺らが――」
「斬雨、それ以上は言わないで下さい」
「……お、おう?」
あー、思いっきりもうその算段をし始めてるとこか。うーん、完全に今のは失敗したな……。
「……さて、安全圏まで辿り着きましたし、今日はこの辺で。何か進展があれば、改めてご連絡します」
「こっちも何かあれば連絡するよ」
「えぇ、それではまた」
「またなー!」
……表面上は普通に挨拶を交わしているけど、これ以上は探らせないという意図が見え隠れしまくってるな!? まぁそれはこっちも同じだけど……そういえば、ベスタが全然口を出してこないのはなんでだろ?
<『ワンドステップ』から『ワンドステップ・灰の群集の安全圏』に移動しました>
最後は妙な緊張感が広がっていたけど、とりあえず安全圏への切り替えは完了! ……あー、なんか精神的にもの凄く疲れた。特に最後の最後!
「……ケイ」
「正直、自分でも最後のは失敗だったと思ってます!」
このタイミングでの、急なベスタの声は怖っ!? 俺、これから怒られる!?
「いや、別に最後のあれは構わん。むしろ、その件に関しては、あの可能性に目が行ってくれている方が都合がいいからな」
「……はい? え、それってどういう……?」
「彼岸花、リコリス、ラジアータの3人は、今、灰のサファリ同盟の本拠地に来ている」
「はい!?」
ちょっと待った!? なんでそんな状態になってんの!? てか、ベスタが静かだった理由って、もしかしてそれ!?
「およ? ベスタさん、ずっと静かだと思ったけど……何か動きがあったの?」
「インクアイリーで活動していても目的を果たせそうにないから、縁のある……いや、縁が出来た灰の群集に来るつもりだそうだ」
「はい? 灰の群集に縁が出来た……?」
それってどういう意味だ? レナさんと知り合いって事なら、新しく出来た縁ではないよな? オリガミさんが傭兵をしてるから……流石に理由としては弱過ぎる?
「ケイ達が連れてきた料理集団、今は完全に共同体『まな板の上のコイの滝登り』と同一か。時々、あそこの材料調達を請け負っていたらしくてな」
「マジで!?」
「ただまぁ、インクアイリーの伝手は残すという方針になったから、少し決定打が弱まっているところだが……可能なら、他所に行かれるよりは引き入れてしまいたい」
「あー、まぁそりゃそうだよな」
どう考えても、モンエボでもトップクラスの実力を持つ可能性のある3人組だ。競争クエストで盛大に引っ掻き回された件で思う部分もない訳じゃないけど……それを理由に断って、他の群集に入られて敵に回るよりは味方になった方がいいのは間違いない。
よし、そうとなれば俺も行って、なんとか仲間に――
「俺はそっちの方へ直接話に行くから、ここで離れる。ケイは、アイルとやらの都合を聞きに行け」
「……はい?」
「リアルで知り合いなんだろう? そっちの件は任せるぞ」
「ちょ!? そっちを任されるの!?」
いやいやいや、アイルさんとは確かにリアルで知り合いだけども! ある意味、俺が1番その役目には向かないと思うんだけど!?
あ、もうベスタはあっという間に転移していっちゃった……。え、マジで俺がアイルさんを新しく設立するeスポーツ関係の共同体への勧誘をしなきゃいけない流れ!? ……勘弁してくれません?
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