第1447話 方向性を決めて


 eスポーツ勢の流入先をそれぞれの群集に用意して、その上でイベント化する形へ誘導する案が出てきている。まぁ方向性としてはそれが無難なとこだろうけど……問題は、元々モンエボをやってた俺らみたいなプレイヤーとの関わり合いだな。

 普通にゲームを楽しんでいるのを見下してくる層もいるみたいだし……そういう層をどうするか。フラムが遭遇したという奴がその手の人っぽいけど……俺らが作ろうとする流れには乗ってこない可能性は結構ありそうだよな。


「ギン、その手の連中は……大人しく群集が作った流れに乗ると思う?」

「……その手の連中は無理だと思うぜ。そもそも下に見てきてるから、話が通じんし……ある意味、そいつらが1番厄介かもしれん」

「……なるほどなー」


 俺らにデメリットが出にくい形でメリットを用意したとしても、そもそも下に見ている俺らが用意するものは受け入れもしないってか。あー、そういう奴、気に入らん!

 黒幕のライブラリも相当に面倒な状況を作り上げてくれたもんだけど、eスポーツ勢の中でも面倒な層がいるもんだよ。


 うーん、利用されてるのを承知の人達なら十分なメリットを提示すればどうにか出来そうだけど……この手の奴はどうしたもんだ? 下だと思ってるなら、そう思われないようにしてしまえばいいか?


「ギン、そういう連中を盛大に叩き潰すのは問題ある?」

「……あー、大人しく負けを認めるかどうか怪しいぜ? これもさっきも言ったが、進化階位の差で――」

「同じ進化階位ならどうだ?」

「……まぁそれなら、プレイヤースキルの差だから見苦しいだけで醜態を晒す事には……って、おい!? ケイ、何する気だ!?」

「いやー、まだ3rdの枠は空いてるし、新規キャラを作って、ぶっ倒すのもありかなーと?」

「あっ! それいいね! わたしもやろっかな?」

「あ、レナがやるなら、私もやろうかな? シュウさん、やってもいい?」

「別に構わないけど、あまり見下してくる様子があると……抑えられるか、自信はないね」


 ……え? ちょ、待った!? シュウさんがそれを言うのは、ちょっとマズい気がするんだけど――


「その件は、そこまでだ! 既存のプレイヤーとの対戦の件は、今は保留にしておく。弥生の暴走はともかく、シュウの虐殺は洒落にならん」

「……ですよねー」

「……それもそうですね。慎重に検討を重ねるべき案件ですか」

「シュウさんが理由で止められちゃった!?」

「……あはは、まぁ僕にはそれだけの理由があるからね」


 うん、冗談抜きでシュウさんの暴走はマズい! 気に入らないとしても、過剰なやり過ぎにはならないように注意しないとな!


「……ケイ? 今のは、何で止まったんだ? いやまぁ、俺としても良い案じゃないと思うから止めようとは思ったんだが……理由が分からん」

「あー、なんとも説明し辛いな……」


 弥生さんの暴走だけならまだしも、シュウさんの報復までの内容となると……どう説明したもんだ? 


「ただ、僕が他のゲームで報復をやり過ぎてBANされただけの話だよ」

「シュウさん!? その話は……」

「……報復でBAN? ここでそれを理由に止められる程の……おいおい、もしかして『エレメント・アーツ』ってゲームでの話か!? 悪質プレイヤーが徒党を組んで新規層に嫌がらせをして、運営が無差別にBANしまくって、大炎上してサービス終了になったヤツか!? 確か、そのきっかけになったのが1人の実力者プレイヤーだったって話だが……」

「……まぁそれが僕になるね」

「…………うぅ……」

「……悪い、あんまり思い出したくない類いの話っぽいな。流石にそういう反応をしてるのを使おうってのは思わねぇよ……」

「……すまないね」


 今の話をし始めてから、普段の弥生さんからはとても同一人物とは思えないほど、縮こまってる様子を見たら……そういう反応にもなるか。

 てか、シュウさんが暴れたのって、やっぱりあのゲームか。炎上騒動としてまとめられてたのは知ってたし、何となくあのゲームなんだろうとは思ってたけど……確定か。


 採算が取れずにサービス終了になるゲームはちょいちょいあるけど、あの件に関しては運営がフルダイブの運用の資格停止でのサービス終了だったもんな。

 本来、運営が対処すべき件を放置した挙句、加害者と被害者……更に完全に無関係な人までまとめてBANして大炎上になったんだっけ。その結果、運営会社自体がフルダイブのサービス運用の資格停止を受けてのサービス終了だったはず。……悪名が広がり過ぎて、運営を引き継がれる事もなかったんだよな。


「あー、どうも思った以上にとんでもないメンバーが揃ってるみたいだが……舐めてかかれば、痛い目を見るのは連中の方かもな」

「……あまり、不用意に騒動を起こしたくはないんだがな。ギンノケン、その集団を大人しくさせるには何が必要だ?」

「シンプルに実力者がいると認めさせる事だが、素直に認める連中じゃねぇぜ? どういう条件で勝とうが、自分達の土俵じゃないから負けただけだって言い訳するだろうからな」

「うっわ、面倒くさ!?」

「……まぁそのケイの反応ももっともなんだが、そういう連中なんだよ。そもそも自分達が上だと判断してる根拠が、『eスポーツをやっている』事そのものだからな」

「……同じ土俵で負けない限り、負けは認めんか」

「そういう事だぜ、ベスタさん! それで一部の奴が負けようとも『負けた奴らが弱かっただけ』で片付けるから……正直、まともに相手をするだけ無駄だな」


 進化階位を合わせて叩き潰したところで、何の効果もなしか……。あー、本気で面倒だな、その連中! 


「んー、なんだかトラブルが多発しそうな予感……」

「およ? ラックさん、そう心配する事でもないよ?」

「え? レナさん? 今のを聞いたら、どう考えても厄介事にしかならない気がするんだけど……」

「大丈夫、大丈夫! 筋が通らない横暴な物言いなら、運営に通報が出来るからね。1件ずつは効果が薄くても、累積すれば運営から警告も行くし、酷ければアカウントの凍結や、状況次第ではBANにだって可能性はあるよ!」

「あ、そっか。正規の手順で、運営に対応を任せればいいんだ!」

「そうそう、そういう事!」


 あー、そうか。見下し方の度が過ぎれば、誹謗中傷や暴言に該当して、普通に運営からの処罰対象になる話だよな。

 ちょっと不快な気持ちになる可能性はあるかもしれないけど、下手に自分達で相手をしてどうにかしようとするより、素直に運営に任せてしまうのが確実か。


「ウィルさん、実はもうそういう通報はしてきてるでしょ? 運営、もう動いてる? そうじゃないと、ここにフラムさんを連れてくるのも大変だったんじゃない?」

「確実にとは言えないが、高確率で運営は動いている。俺らの方で通報して、少しした頃に舌打ちをしながら離れていったからな。おそらくその時に警告を受けたはずだ」

「え、ウィルさん、あの時に通報してたのか!?」

「……まぁな」


 気付いてなかったのかよ、フラム! いやまぁその場にいた訳じゃないから、具体的にどういうやり取りがあったのかは分からないけどさ……。


「……モンエボの運営は、対応が早いな?」

「まぁこれまで、色々とトラブルはあったからねー!」


 うんうん、思い返せば青の群集のBANクジラから始まり、赤の群集の大荒れ、青の群集での騒動……挙げ句の果てには、全国ニュースになるレベルのカガミモチの件だもんな。そりゃ運営だって、変な動きがあれば警戒してて当然ですよねー。

 というか、俺らがこうやって対策の話し合いをしてるのも確認されてそう。まぁ規約に違反しない限り、運営からストップがかかる事もないんだろうけどさ。


「それに今の妙な形での新規の増加は把握してるだろうから、動きは注視してるんだと思うよ」

「なるほど。……それなら、その手の見下してくる連中に関しては下手に動かず、対処は運営に任せた方がいいか」

「だろうねー。ベスタさん、基本的にそうするけど……わたし達の方で、注意喚起くらいは出しておく?」

「……いや、灰の群集ではまだその手の騒動は報告は上がっていないからな。今の時点で下手に書けば、逆上しかねんからやめておけ」

「およ? あー、でも確かにその可能性もあるね。んー、それじゃラックさん、灰のサファリ同盟でその辺を注意してもらえる? わたしはわたしで、自分の伝手で注意はしておくからさ。人伝てなら、警戒対象には伝わりにくいでしょ」

「うん、任せて! 何かあれば変に言い返さず、通報するようにだね!」


 ふむふむ、とりあえずはそういう方向性で大丈夫そうかな? まぁ変に言い合ったところで、何のメリットもなさそう――


「ケイ、下手にブチ切れるなよ?」

「……アル、なんでそこで名指し?」

「状況次第ではやりかねんからな」

「……確かに、ケイならやりそうかな?」

「サヤまで!?」


 ちょ!? 俺に対する認識は一体どうなってんの!? そんなに喧嘩っ早いように思われてる!? いやいや、フラム相手とかなら話は別だけど、そこまですぐに――


「……ケイさんなら、初心者さんとかが困ってたら割り込みそうだよね?」

「盛大にドカーンとやりそうなのです!」

「間違いなくやるでしょうね、ケイさんなら」

「ホホウ! それは間違いないので!」

「うぐっ!?」


 ジェイさんやスリムさんまで乗っかってきたけど……今の条件下なら、やらないと言い切る自信はないかも? いやいや、でもそういう状態をスルーするのも違うだろ!?


「だー! 俺の事はいいから、ジェイさん、それにウィルさん! 赤の群集と青の群集は大丈夫だよな!?」

「えぇ、予め通達をしておけば、おそらくは大丈夫でしょう。灰の群集とは違って、普段からある程度の抑制はしていますので、まとめに記載しても問題ありませんしね」

「……ジェイなら、手早く排除する為に大人しくしておけって通達するだろうよ。表立って、そう言いはしないだろうけどな」

「斬雨、それに何か問題でも? 通報されるような事をしなければいいだけの話ですし、通報されて運営から処罰されるのなら自業自得なだけですよ」


 サラッと言ってるけど、ジェイさんの場合はわざと煽るように書きそうなんだよな、その通達。既に赤の群集で発生してるから、その事例を前面的に出してきそう。

 まぁ群集のまとめ方に違いがあるから、灰の群集ではやりにくい手段だけど……青の群集では可能な手段だろうね。


「私達、青の群集よりも……赤の群集は大丈夫なのですか?」

「……何もなけりゃ、抑えにくいとこではあったけどな。不幸中の幸いと言うのもあれだが、赤のサファリ同盟のメンバーが被害に遭ってるってのが大きいだろうよ。なぁ、ウィル?」

「だな。フラムさんが絡まれたってのを理由に、大々的に通達は出来る状態だ。赤の群集で、赤のサファリ同盟を舐められる奴はそういないからな。そうじゃなきゃ、喧嘩っ早い奴が多いから抑えも難しかったかもしれんが……」

「……確かにそれはそうですね。結果的には、フラムさんが絡まれたのは良いように使える材料ですか」

「……え、俺? なんか役に立ってんの?」


 ……うん、フラムにこの手の自覚を求めるだけ無意味だな。まぁ前例があると状況を動かしやすいというのは、確かにあるよね。

 ルアーとウィルさんは思いっきりフラムが絡まれた事を利用する気でいるみたいだし、本当にこれは不幸中の幸いだったのかも? 弥生さんが絡まれて大暴れしてたら……逆に説得力が薄くなって、抑えにくいかっただろうしさ。


「さて、俺らを下に見てくるeスポーツ勢への対処はここまでの流れでいいとしてだ。ギンノケン……そういう連中を除外した上で、既存のプレイヤーと対戦を望んでくる可能性はあるか?」

「……可能性はあるぜ。なんなら、俺がその手のタイプになるからよ」

「そこで俺を見ながら言ってくるなよ!?」


 敵対しなくなったんじゃ……って、ギンだってプレイヤースキルの向上が目的なんだから、俺は結局狙われる対象になるのか!?


「まぁどうしても育成に時間がかかるから、すぐにとはいかないだろうがな。真っ当に既存のプレイヤーと勝負したいって奴は、新規キャラじゃなくて、これまで育て上げたキャラとの対戦を望むと思うぜ」

「……ならば、わざわざイベントとして用意はしなくても問題ないか?」

「あぁ、それは不要だ。しばらくは、eスポーツ勢のみで対戦出来る状態があれば問題ないだろうよ」

「……なるほどな。ラック、レナ、その方向で調整は出来るか?」

「うん、任せて! 基本方針は、各群集にeスポーツ勢が入れる共同体の設立と、その中で模擬戦や育成補助の構築だね。対戦が出来る事を大々的に押し出す形がいいかも?」

「うん、それは同意! よーし、基本的な方向性は決まったし、とりあえずその方向でサイトを作り始めて、必要な時に詳細を固めて……あ、ベスタさん、共同体のリーダーはどうしよっか?」

「……共同体のリーダーか。確かに必須な部分だが……」


 うーん、必要なのは間違いないんだろうけど、一体誰がそれをやるかが問題だよな。流入してきているeスポーツ勢の誰かにやってもらう……のは、トラブルになる予感しかしない。


「ギンがやるのは……流石に無理だよな?」

「オンライン版の仕様もまだ把握し切れてねぇのに、出来る訳がねぇだろ」

「ですよねー。となると、まとめ慣れてて、それなりに人に教える事が出来る人か」


 ……そういう人って、既にどこかの共同体に所属してるか、所属した上でリーダーをやってる人だよな。ある意味、面倒事を引き受けてもらう状態になるんだし……ここが1番の問題かも!?

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