第1446話 釣り出す為に


 フラムがいるせいで妙に調子が狂うんだけど……ウィルさん、それは知ってるよなー!? 今回、駆け引きなしだと思ってたのに、なんでコイツを連れてきた!?

 赤のサファリ同盟のメンバーが必要なのは分かってるけど、フラムは必要ないだろ! シュウさんや弥生さんがいるし、その2人がいなかったとしてもフラムはこういう場面では不適格!


「ウィル……こうなるのは目に見えていただろう。お前らも持て余している様子なのに、何故連れてきた?」

「……全く無関係でもないからだ。フラム、例の件を話してくれ」

「例の件って……あ、ここに来る前に話してたあれか! 俺の杉の不動種に『eスポーツ勢』に関して質問してきた奴がいてな! 『扇動してる奴はどこだ!』って大騒ぎになってて大変だったんだぜ!?」

「……はい?」

「……何?」


 ちょっと待て、予想外の話題が出てきたんだけど……いや、予想外でもないのか? 俺みたいな伝手がない、ギンのような立場の人なら、そういう事もある?


「いやー、そんな時にウィルさんへその関係の話が来るもんだから、逃げ出すのに必死でよ! ……いや、マジで」

「あー、具体的にはどういう話だったんだ?」

「聞いてくれよ、ケイ! どこからどういう風に話が伝わったのか知らないけど、今回の件のは赤のサファリ同盟が絡んでるって話も流れててよ! どこからかそれを聞きつけて、『赤のサファリ同盟』の代表者を出せって迫られてよ! なんで俺、新規プレイヤーの囲まれなきゃいけねぇの!?」

「あー、そういう流れ……」


 ふむふむ、フラムの不動種は初期エリアの定位置に植わっているからこそ、赤のサファリ同盟としては目立つ場所にいて狙われたんだな。……囲まれた以上の事はなさそうだけど、それでも異常事態の渦中に放り込まれてたのか。


「んー、弥生? もしかして、ライブラリさんと知り合いってのが妙な形で噂になってる?」

「噂になってるというか……意図的に混乱させる為に、誰かに共謀説を流されてるねー。もう手を出さないと言った後のライブラリさんのやり口じゃないから、どこかの分断工作かも?」

「……あらら、内部分裂を起こしたメンバーの取り込みを察知されたから、その反撃あたり?」

「多分ねー。群集のまとめ役、リバイバルへ完全に移せてて良かったよ。そうじゃなきゃ、赤の群集が今回の件の黒幕に仕立て上げられてたね」


 ……なんだか知らないところでも大きな動きがあったっぽいな。まさか、インクアイリーの一部の人……うーん、呼び方がややこしいな!?


「はい! インクアイリーの中でも色々と分かれててややこしいので、何か名前を別に付けませんか!? なんか混乱しそう!?」

「およ? んー、まぁそれはそうかも? それなら、攻撃的に動いてる人達は『過激派』とでも呼んでおく?」

「ならば、助けを求めてくる集団は仮に『難民』とでもしておくか」

「……インクアイリーの『過激派』と『難民』ですか。まるで戦争でも起こっているようですが……実質的にはそのようなものですね。まぁ意味合いは分かりやすくなるので、それでいきましょう」


 特に異論が出ている様子もないので、仮の呼び名はこれで決定。インクアイリーの過激派は、本当にやる事が過激だしなー。


「ギン、今の件はどう思う?」

「……やり方は乱暴だが、まぁ俺みたいに今の状態を面白く思ってない奴らだろうな。あー、赤の群集のウィルさんが代表でいいのか? そいつら、今はどうなってる?」

「今の代表はルアーだが……まぁ俺は参謀だし、代表一団の1人ではあるからそれでいいか。詳細は調査中だから、騒ぎは起こさないでくれとは言ってきたが……どこまで言う事を聞くかは分からんな。ギンノケンさんが、ケイさんの知り合いのeスポーツ勢だって話だったか? ああいう連中は、どういう行動原理で動いてるんだ? どうにも話が通じにくかったんだが……」

「ちっ、やっぱりその手の奴か……。あー、eスポーツをやってる中に、競技としてやってる自分達が偉いって勘違いしてる奴らがいてな……」


 あー、そういやそうなのも言ってたな。本当、ゲームとして楽しんでる身としては、そういう意識を持ってる連中って面倒くさいわ!


「おそらく、その手の奴らが自分達の領分を侵しにきたって事でキレてるんだろうよ。……ったく、どっちが領分を荒らしてんのか、分かってねぇだろ!」

「……なるほど、それが理由か。何か対策はあるか?」

「あの手のは上からものを言ってるから、普通の対話じゃ通じねぇよ。やるなら、実力で叩き潰すしかねぇが……今じゃ、進化階位を言い訳にしそうだな」

「……ちっ、それだとかなり面倒な状態になってるのか」

「あぁ、そっちはそっちで別枠で厄介だな。まぁ今、案に出ている誘導が上手くいけば、その手の連中が暴れる理由は……少なくなるはずだ」

「結果的に、やはりこの集まりが重要になってくるんだな」

「あぁ、そうなるだろうよ」


 ふぅ……なんかこれから決めようとする内容の重要度、更に上がった気がする!? でも、それだけ効果は見込める内容って事になるんだろうな。


「赤の群集の状況は分かったし、肝心の話を始めるぞ。既に聞いてはいるだろうが、eスポーツ勢の流入を引き起こしている外部サイトの影響力を、別のサイトを作ってそこへ誘導する案だ。これは共通認識として、心に留めておいてくれ」

「あぁ、当然だ」

「えぇ、分かっています」


 ベスタの宣言と、ウィルさんとジェイさんの同意に続いてみんなも頷いていく。ここの認識が食い違っていたら、正しく話が進まなくなるからね。


「んー、レナ、ちょっといい?」

「およ? 弥生、どしたの?」

「外部サイトって話だけど……作るの、誰?」

「それは私もお聞きしたいですね。この案の重要な部分ですし、誰でも出来る内容ではないでしょう?」


 あー、まぁここは聞かれても仕方ない内容な気もするけど……どう答えるんだろ? ラックさんが作ると宣言してしまっても大丈夫なのか?


「んー、まぁここを伏せての作成は無理だし……ラックさん、言っちゃうけど、いい?」

「うん、問題ないよ。ただ、ここにいる人だけで、他言無用でお願いね?」

「……えぇ、それはお約束しましょう。構いませんね、ウィルさん、ルアーさん?」

「……あぁ、俺らも約束しよう」

「フラム、絶対に他言するなよ!」

「そんなに力強く念押ししなくても言わないって、ルアーさん!?」


 フラムの口の軽さは、赤の群集の中でもそれなりに認識されているようで……。うん、色々あったんだとしても、やっぱりフラムはこの場に連れてくるべきではなかったのでは?


「まぁ情報が漏れたら漏れたで、どうとでもなるんだけど……オフライン版のファンサイト『ナチュラルポート』の管理人をしていたわたしと、『モンエボの絶景景色百選』の管理人をしていたラックさんの2人体制で、そのサイトは作っていくよ」

「マジで!? え、どっちも有名なサイトじゃん!?」

「フラム、絶対に喋るなよ!」

「言わねぇよ! ケイまでそういう反応かよ!」


 それだけ信頼がないんだよ、フラムの口の固さには! あー、大半の人は驚いてるか納得してるような様子だけど……水月さんとアーサーの2人だけは不思議そうな反応をしてるね。

 まぁオンライン版から始めてたら、オフライン版での有名なファンサイトを知らないのは無理ないか。


「……やはり、2人ともが灰の群集にいましたか!?」

「薄々、そうじゃないかとは思ってたが……いざ言われると、凄いものがあるな」

「……ウィルに同意だな。あー、シュウさん……今更の確認になるが、赤のサファリ同盟は『ナチュラルポート』の出身か?」

「ルアーさんの思っている通り、そうなるよ。あのサイトで、レナさん主催で行われたオフ会がベースになっているからね。ただ、そのメンバーでやった他のゲームでの知り合いも混ざっているから、完全に『ナチュラルポート』だけという訳ではないよ」


 なるほど、まぁ大体は予想通りではあるけど……あそこだけではなく、他のゲームからも混ざっているのか。となれば……。


「……その他のゲームでの知り合いが、『彼岸花』や『リコリス』や『ラジアータ』の3人組だったり、『オリガミ』さんだったり、今回の黒幕の『ライブラリ』だったりする?」

「それで正解だよ、ケイさん。まぁそれが全てでもないけど……知り合いの全員がモンエボを始めた訳ではないからね。名前が変わっている人も多いから、流石に全て把握し切れてはいないよ」

「まぁそりゃそうだよなー」


 ゲームが違えば名前を変える人もいるんだし、そもそも一緒にやろうと話してなければそう簡単に遭遇するものでもない。

 オンラインゲームをしてたら、PTメンバーが実は妹だったとか……そんなのはレアケースもレアケースですよねー。


「さて、外部サイトの作成の実行役として、不満がある者はいるか?」

「……あの2つのサイトの管理人が共同作成するのに、不満を持つ人はいませんよ。まぁあえて言うなら……一緒に作成する事そのものがお互いの邪魔にならないかという不安点はありますが……」


 あ、そっか。2人でやるのは頼もしくもあるけど、それが逆に足を引っ張る可能性もあるもんな。うーん、サイトの作成は完全に門外漢だから、俺は何も言えないけども!


「んー、まぁそれはそうなんだよねー。お互いにオフライン版のスクショのコンテストとかで見知った仲ではあったんだけど、一緒に管理した事はないからさー。ラックさん、やり方の違いが出ちゃったら、どっちかが手を引くのはどう?」

「……うん、多分その方がいいかも? まぁそこは実際に問題が起きてから考えるとして……私達としては、そのサイトに載せる素案を考えて欲しいんだよね」

「という事だ。今、この場で完成系の案にする必要はないが、3つの群集で共同で動いているのを活かした案を出してくれ。ギンノケン、eスポーツ勢として方向の修正は頼むぞ」

「おう、任せとけ!」


 さーて、ここから本題の開始だな! なんだかんだで赤の群集と青の群集の協力は得られるんだし、それを踏まえた上で――


「はい! それぞれの群集で、eスポーツ勢の受け入れ用の共同体の設置を提案します!」

「……大胆な事を言いますね、ハーレさん」

「いや、でもそれはありじゃねぇか? なぁ、ウィルさん? 無所属に流れ出る前に群集に留めておけば、ある程度の管理は出来るだろ」

「……確かにありだが、そう上手く言う事を聞くのか? ギンさん、その辺はどうだ?」

「個人差はあるだろうが、有効な手段だとは思うぜ。今のサイトだと、eスポーツ勢を利用しようって魂胆は丸見えだからな。利用されるのを承知で動いている奴が多いだろうが、そうでない場所が用意されるのなら……乗ってくるヤツは多いはずだ」


 ふむふむ、まぁそれはあのサイトを見れば一目瞭然か。そもそも奪い合えとまで宣言されているんだから……分からない訳がないですよねー。

 でも、利用されてるのが分かった上で行動しているんだから、その利点である部分をどうにかしないといけないから……。


「ギン、その場合って対戦はどういう形を取るのがいい?」

「……まだ俺もモンエボの対戦形式がイマイチ把握出来ていないんだが、あのサイトを見た限りでは無所属でなら対戦への制限がないのを強みとして強調していたな。その代替案を出せれば、食いつきやすくもなるはずだ」

「……要は、実戦形式での戦闘機会を作ればいいのですね?」

「まぁ単純に言えば、そういう事になるな」

「ならば、各群集でトーナメント戦でも実施しましょうか。来週の大型アップデート後でなら、群集が違っても模擬戦が行えますし……各群集でトーナメント戦を勝ち抜いた方々で、決勝戦なんてのもいかがです? 参加条件で進化階位の限定すれば、割と早い段階で実行も可能ですよ?」

「おっ、面白い事を考えるじゃねぇか、ジェイ! 隔離するんじゃなくて、イベント化しちまおうって魂胆か!」


 この辺はラックさんが言ってた内容と被ってくる部分だけど……多分、この方向性は1番効果的な気がするんだよな。eスポーツはエンタメ寄りの競技だから、そもそもが見られるものという前提があるしね。

 だから、こういうイベント化してしまうのは効果的なはず!


「どうせなら、上手く使いませんとね。ギンノケンさん、こういう見せ物にする方向性は嫌がられますか?」

「強さのみを追い求めてるって奴もいるが、まぁそういう奴でも見られる事への抵抗はないな。むしろ、積極的にイベント化した方が、張り合いも出てくるはずだ。だから、方向性としては問題ない」

「……なるほど。もう1つ質問ですが……eスポーツ勢の流入の動機は、キャラの操作性の向上ですよね? 今のモンエボのプレイヤーとの対戦というのは、どうでしょうか?」

「……あー、正直、それは止めておいた方がいいな。さっきも言ったが、普通にゲームを遊んでいるのを見下している連中がいるから……不快な思いをする可能性があるぞ?」

「いえ、むしろそれを叩き潰すのが目的でしてね? こちらとしても、色々と迷惑を被っている状況ですし……」

「……キレてんな、ジェイ?」

「斬雨もそうでしょう?」

「まぁ、そりゃそうだがよ……」


 ふむ……まぁ確かに見下されているのは面白くないのは事実だよなー。モンエボはeスポーツの競技に指定されてる訳じゃないのに……ライブラリが黒幕とはいえ、利用されてるのも分かった上で好き勝手に暴れまくろうって相手だしさー。

 赤の群集では、実際にほぼ難癖な身勝手に振る舞ってる様子もあるみたいだしさ。フラムだからどうでもいい……では、流石に済ませられないよな。さて、その辺をどうしたもんだ?


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