第1445話 青の群集のサバンナへ


 青の群集の占有エリアになったサバンナ……改め『ワンドステップ』の安全圏へとやってきている。パッと見では意味が分かりにくかったエリア名だけど、アルやレナさんみたいに意味を分析して伝わった結果、命名クエストで選ばれた感じかな?

 まぁそれは今はいいとして……ベスタが先導してくれているから、安全圏から出ていきますか! そこより先には、案内役が来るまでは進まない約束だけどね。


<『ワンドステップ・灰の群集の安全圏』から『ワンドステップ』に移動しました>


 ……うん、サラッと入れたね、占有エリア。いやまぁ、ランダムリスポーンのみになるとか、居場所はマップに常に表示されるとか、帰還の実を筆頭に転移系のアイテムは使えないとか、色んなデメリット要素の警告は出てるけども!

 あ、もう既に案内役は到着してる……というか、思いっきりジェイさんが来てますなー。当然ながら、斬雨さんも一緒だね。


「来ましたね、ケイさん。ベスタさんとレナさんも当然のようにいますが……おや、ラックさんがこういう場に出向いてくるのは珍しいですね?」

「今回の件での実働は、灰のサファリ同盟でやるからねー。あと、例のeスポーツ関連の人、私ともリアルで知り合いでね?」

「……そちらのカンガルーの『ギンノケン』さんが、その人ですか。ケイさんのお知り合いとは聞いていますが……富岳さんがお鍛えになるので?」

「さてな? そこまで答える義理もねぇだろ、ジェイさん」

「……それもそうですね。色々と気になる事はありますが……ギンノケンさん、今回はよろしくお願いします」

「俺の事はギンと呼んでくれ。それとまぁ、こちらこそよろしく頼む」

「……ギンさんですね。それでは皆さん、着いてきて下さい」

「全員、行くぞ。下手に探りを入れまくるなよ」

「はーい!」


 さて、ジェイさんと斬雨さんの後ろを追いかけていきますか! ベスタから注意はされたけど……それほど乾燥してない荒野と草原の中間くらいで、妙に太くて高い幹のバオバブの木があちこちに生えてるのが見えるね。


 これが魔法の杖かと言われると……うーん、まぁ巨大過ぎる杖? どっちかというと棍棒の方が近い気もするけど……まぁ気にしても仕方ないか。

 今は夜だから暗いけど、昼間で明るければもっと印象は違いそうだよなー。葉の部分が光ってるのは、まぁかなり幻想的ではある!


「はっ!? バオバブのプレイヤーが結構いるのです!?」

「え、本当かな!? あ、本当かな!」

「……2ndや3rdでの不動種みたい?」

「およ? 確か、青の群集では灰の群集の並木に対抗して、バオバブの森を作ろうとしてるんだっけ?」


 ほほう? 流石にあの並木の真似はしなくても、こういう形で別のものを作ろうとはしてたのか。へぇ、エリアに合わせた種族のみで構成する不動種勢っていうのも面白そうではあるね。


「……出来れば見せずに済ませようと思っていましたが……流石に無理でしたね。えぇ、レナさんの言う通りですよ。こちらは内向けにしか取引を行わない不動種の方達が集まる場所となっています」

「ジェイ、言っていいのか?」

「……どうせ、どこかから筒抜けになる情報ですよ。内部分裂を起こしたインクアイリーの一部を取り込みつつ、その伝手を維持したまま情報漏洩を防ぐのは不可能ですしね」

「まぁそれは確実にそうだよねー! ジェイさん、そこら辺は許容範囲として呑み込んだんだ?」

「……伝手を切られるのを嫌がって、他の群集に固まって流入されるよりはマシですからね。1番安定している灰の群集へ、全てが結集なんて事になれば……折角埋めた差が、また開きますし! えぇ、そういう条件を使って、灰の群集に取り込む事はしそうですしね?」

「うん、まぁそれはそうだね!」


 なんか思いっきりジェイさんが俺に向けて言ってるような気がするのは気のせいですかねー? というか、レナさん、ジェイさんの反応を楽しんでない?


「なぁ、ケイ? どうも随分とジェイって人から警戒心を感じるんだが……協力するんだよな?」

「あー、ギンさんだっけな? そりゃジェイがケイをライバル視してるだけの話だから、作戦の件は心配いらねぇぞ」

「……なるほど、これはそういう反応なのか。随分とまぁ、ケイは警戒されてんのな?」

「……まぁなー」


 斬雨さんの言葉は事実なんだから、もう何も否定のしようがないですよねー! てか、赤の群集や青の群集に対して、これまでの不信感があるのは事実だし……そういう取り込み方もありだったか。

 その方法はまだ思いついてなかったんだけど、それを潰す為の伝手を残す方針だったんだな。うーん、ジェイさんに先手を取られてしまったっぽい。まぁ今回に関しては、伝手を残す方がトータルでのメリットの方が大きい気もする?


「まだちょっと移動にかかるんだが、ギンさん、個人的に気になってる事があるんだがよ?」

「……個人的にか? まぁ内容にもよるが別にいいけど……あー、悪い。名前の読みは『キリサメ』か? それとも『ザンウ』か――」

「俺はザンウだ、ザンウ! なんつーか、こういうやり取りも新鮮だな?」

「まぁ新規の方と、いきなり話す機会も少なくなっていますからね。大体は、私達の名前を既に知られていますし……」

「だよな。まぁ夏のアップデートでその辺も多少変わるだろうが……っと、質問が先か。ぶっちゃけて聞くぜ? ギンさん、あんたとケイさんはどっちが強い?」


 ちょ!? 何を聞くのかと思ってたら、斬雨さん、それを聞くのか!? あー、灰の群集のみんなまで聞き耳を立ててるし、気になってたっぽいね……。


「……一概には答えにくい内容だな。少なくともこのオンライン版のモンエボではケイの方が間違いなく強いが……斬雨さんが聞きたいのはそこじゃねぇよな?」

「んなもん、ケイさんの方が強いのは分かりきってるからな。当然、他のゲームでの話だ。無理に聞かせろとは言わねぇが……」

「ま、そりゃ当然だな。……ケイ、話していいか?」

「その辺はご自由に。最近までちょっと交流が途絶えてたから、今の時点でどう差があるかは俺にも分からないしさ。それでもいいならだけど」

「およ? ケイさんとギンさん、久しぶりって感じなの?」

「中学を卒業して、それっきりだったもんで?」

「俺の方がeスポーツ関係で忙しくしてたのが原因なんだが……それがここ数日で、どういう縁か再会したもんでな」


 同じアルバイト先になって、ギンがモンエボを始める理由があったからこその今の状況だもんな。いやはや、人との縁ってどういう風に繋がるか予想できないもんですなー。


「俺とケイでの対決は……まぁゲームによるな。リアル寄りほど俺の方が強くて、リアルから離れるほどケイの方が強くなる感じだ」

「……モンエボをやる方では、よくある傾向の話ではありますね」

「確かにな。……となると、ギンさんはそれほど驚異にもならないか?」

「いやいや、俺の方がその手のは得意なだけであって、ギンが弱い訳じゃないから、焦った訳で……」

「……ケイさん、焦ったとはどういう意味でしょうか?」

「あっ」


 なんか言わなくていい事を言ってしまった気がする!? いや、もう完全にギンを味方へ引き入れたんだし、今更他の群集に移るなんて事は――


「あー、元々はケイと敵対してやろうかとも思ってたんだがな? ……なるほど、そうしてたら場合によってはジェイさんや斬雨さんが味方だった可能性もあったのか」

「それは良いですね! 今からでも遅くはないですし、移籍して――」

「おいこら、ジェイさん!? 勧誘すんな!?」

「……言ってみただけですよ。まぁ色々と騒動が片付いて、その気があれば本当に――」

「それ、本気で勧誘してるよな!?」


 ここからギンを引き抜かれてたまるか! モンエボ内での今の実力差は本当に分からないけど、成熟体まで進化階位が上がってくればどれだけの強さになるか、未知数過ぎるんだよ!

 俺と敵対する事にメリットを感じたら、冗談抜きでギンは敵対しかねないし! ここは意地でも阻止しておかないと――


「ケイ、それ以上はやめておけ。……過剰な反応は、実現可能だと言ってるようなものだぞ?」

「……あっ! ベスタ、それを言ったら意味なくね!?」

「牽制だ、牽制。敵に回すのは……ケイだけではない事を忘れるな」

「……分かっている。既に色々と厄介事を持ち込んだ後なんだし、不義理な真似はしないつもりだ。ケイだけならまだしもな」

「俺だけなら、裏切るつもりか!?」

「わっはっは! そういう反応も面白いからな! ……まぁ、それはねぇから安心してくれ。ヤバい実力者が複数いるのに、わざわざ喧嘩を売るつもりはねぇよ」

「……それならいいけどさ」


 くっ、色々と揶揄われて遊ばれた気分!? でもまぁ……ベスタとレナさん、それにサヤまで身構えていたし、流石のギンでも大人しくなるか。


 あ、そうしてる間に一際大きなバオバブの木まで辿り着いたな。えーと、このバオバブの木は群集支援種っぽいけど、なんでこんな辺鄙な場所に植ってるんだ?

 西側にあった灰の群集の安全圏から、北東に進んできたけど……ここ、エリアの北の端だよな?


「あぁ、このバオバブの木は、ここのボスが群集支援種化した者ですよ。灰の群集でしたら、霧の森にいるでしょう?」

「あー、そういう個体か! これ、不動種?」

「いえ、移動種ですね。トレード品の在庫が尽きている時は、巨大化して植わるという特徴がありまして……まぁ目印として丁度いい場所でしたので、今回の集合場所にさせて――」

「おぉ! これはまた、巨大なバオバブの木ですね! 青の群集の占有エリアへ入る機会と聞いて、すっ飛んできた甲斐があったという――」

「だから、毎度毎度、突っ込んでいかない!」

「ぐふっ!」


 あー、うん。相変わらずのルストさんの暴走と、それを殴り飛ばして止める弥生さんですなー。ウィルさん以外にも何人か来てるようだし……当然と言えば当然か。


「やぁ、レナさん。ベスタさんやケイさん、他のみんなもこんばんはだね」

「シュウさん、こんばんはー! およ? 結構、大所帯?」

「まぁケイさんの知り合いがいるって事で、興味を示した人が何人かいてね? ルストは間違いなく、それとは別の興味だけども……」


 俺とギンへの興味かよ! ウィルさんがいるのは当然だとしても、ルアー、ライさん、ガストさん、アーサー、水月さん……あとおまけでフラム。

 俺らも今回は結構な大人数だけど、ちょっと多過ぎません? 特にフラムはいらないだろ!


「ホホウ! ジェイさん、皆さんをお連れしたので!」

「ありがとうございます、スリムさん。……ウィルさん、人数は制限しませんでしたけど……流石に多いのでは?」

「インクアイリーも関係しているなら、赤のサファリ同盟の同行は必須だと思ったんだが……なし崩し的に人数が多くなってな?」

「……そういう事ですか。まぁ今更戻れとは言いませんけども……」


 あー、確かに赤のサファリ同盟はインクアイリーの中の一部から標的にされているんだから、関係者として来るのはおかしくないか。ルアーやライさんは『リバイバル』からの代表だろうし……それほどおかしなメンバーでもないのかも。


「ケイ、来たぜ!」

「……フラムは帰れ」

「いきなりそれは酷くねぇ!?」

「絶対、お前は余計な事を言うだろ!」

「言わねぇよ! おっ、そっちのギンノケンって人が、今日の――」

「もう言いかけてんじゃねぇか!」


<行動値1と魔力値2消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 125/126(上限値使用:1): 魔力値 312/314


<行動値を2消費して『水の操作Lv10』を発動します>  行動値 123/126(上限値使用:1)


「がぼっ!?」


 具体的な何かを喋る前に、とりあえず水の中へ閉じ込めておく! てか、今のは絶対にeスポーツ部との対戦の話をしようとしただろ!


「あー、ケイ? いきなり、どうした?」

「ギン、こいつは放課後にいたヤツだから。ほら、逃げていったのが1人いただろ?」

「あぁ、そういえばいたな。……モンエボにいたのか」

「フラム……このギンノケンが今日来てたあいつだけど、それ以上の事を言ったら、ここで仕留めるからな? 分かったか?」


 よし、水の中のツチノコが必死に頷いているな。こうでもしないと、何をどこまで言うか分かったもんじゃないからな。


「げほっ! がほっ! ケイ! いきなり酷くねぇ!?」

「いやいや、お前……絶対に放課後での事、そのまま言うつもりだったろ?」

「あー、何か問題でもあったか?」

「そこでその答えが返ってくるから、さっきみたいな止め方をするしかないだろ!」

「……フラム兄、やっぱり余計な事を言うんだ?」

「フラム……個人情報は迂闊に話してはいけませんからね?」

「ちょ!? えっ!? これ、また俺の味方がいないパターン!?」


 こっちからすれば、余計な事を言う奴が余計な事をするパターンだよ! ……フラムのこれ、どうにか止める方法ってないもん?


「なんというか、ケイ……今の高校では色々と苦労してるか?」

「……否定する言葉が見つからない」


 去年はそうでもなかったんだけど……今年は、本当に妙なヤツとの縁が多過ぎる!? ……はぁ、何がどうしてこうなった?


「ケイ、そのくらいにしておけ。何やら妙な脱線をしているが、あまり時間に余裕はないからな」

「……ほいよっと」


 フラムをどうこうしようと考えたところで、今は時間の無駄だしな……。うん、出来るだけ気にしないでおこう。



――――

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