第1443話 他の群集も巻き込んで


 よし! 今回のeスポーツ勢の流入は手解きのある外部サイトの存在が大きいから、その対抗手段として別の外部サイトを使うのは有効な手段だよな!

 オフライン版の大手のファンサイトだった『モンエボの絶景景色百選』の管理人だと判明したラックさんが用意してくれるなら、尚更、心強い!


「ギンは……あ、初心者講座どころじゃなくなった?」

「ううん、その辺は並行してやっていこうかと思ってるよ。とりあえず今日のところはだけど……そういえば、ギンノケンさん、時間って大丈夫?」

「……あー、今日はあんまり夜更かしは出来ねぇな。23時くらいには終わりにするが……あと1時間もないのか」

「あ、もう22時過ぎか」


 思った以上に結構な時間になってたよ!? 今日、eスポーツ絡みで振り回されて、特にこれといって何もしてないな!?


「これ、今からジェイさんやウィルさんに話を通すとしても、本格的な話し合いって無理じゃね?」

「とりあえず、詳細を詰めるのは後にして、話を通しておくだけでもいいんじゃねぇか? ラックさんも、色々と検討するのはこれからだろ?」

「うん、流石にちょっと時間が必要だから、今すぐである必要はないよ。でも、他の群集が本格的に何か動き出す前に、心に留めて置いてほしくはあるね」

「……なるほど」


 細かく決めるのは後でいいから、ともかく今は『こういう話が出ているから、乗る気はあるか?』って誘っておくだけでいいんだな。よし、その程度なら相手の手さえ空いていれば、フレンドコールでなんとかなるはず!


「あ、ハーレ。ちょっと私は手が埋まっちゃったから、ヨッシさんとサヤさんと一緒に、コイコクさんを本拠地の方まで案内してあげられない? 生産部門の方には話を通しておくからさ」

「それくらいはお任せなのさー!」

「任されたかな!」

「えっと、そうなるとケイさんとは別行動?」

「いや、俺が送っていくから、ケイは乗ったまま連絡してくれればいいだろ。ケイ、それでいいか?」

「問題なし!」


 フレンドコールをかけるだけなんだし、わざわざ別行動にする意味もないしね。アルの上で、いつも通りにいればいいや。


「あ、それならラックさんやギンも――」

「いや、俺はここで残らせてもらうぞ?」

「へ? え、なんでまた?」

「名前的にここが初期エリアの1つだろ? ……少しはそういう場所も見させてくれ」

「あー、そりゃそうか」


 草原エリアでスタートになって、その直後から移動しっぱなしだもんな。初期エリアの様子を見るってのも、新規勢としては重要な事か。


「ってのが俺の希望なんだが……ラックさん、構わねぇか? あぁ、それと俺の呼び方は『ギン』でいいぜ」

「『ギン』さんだね? うん、私の方はどこでも問題ないよ」

「おし、それじゃ決まりだな。俺らとコイコクさんを連れて五里霧林へ、ギンさんはここに残って、ケイは連絡か」

「だなー。あ、ラックさん、ちょい確認。レナさんやベスタに手伝いを頼むのはあり?」

「ありだけど……手が空いてたらだね」

「まぁそりゃそうか」


 この場で待ってたとはいえ、コイコクさんの反応に合わせて離れてる事になってたしなー。他の用事に切り替えて、手が空いてないって可能性もあるか。まぁその辺は後で確認しとこ。


「それじゃ、各自の目的に合わせて行動開始で!」

「「「「おー!」」」」

「おし、とりあえずこの辺を見ていきながら、案を出していくか」

「その辺は、よろしくお願いします!」


 という事で、まずはアルの樹洞から出て、外で待ってる人達に事情説明からだな。他の群集に接触するのは、それが済んで出発になってからで!



 ◇ ◇ ◇


 手早くコイコクさん、オリガミさん、富岳さんの3人に事情を説明し終え、オリガミさんは話し終えたらすぐに立ち去り、富岳さんはラックさんとギンさんと一緒に森林深部に残っている。


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『五里霧林』に移動しました>

 

 そして俺らは、コイコクさんを連れて灰のサファリ同盟の新たな本拠地がある五里霧林へと転移は完了! ベスタとレナさんはどちらもフレンドコール中だったので、まぁどうしようもないね。


「さて、それじゃ後は任せた! 俺は連絡を取ってくる!」

「はーい! えっと、迎えが来るそうなので――」


 さて、それほど時間に余裕がある訳じゃないし、相手の都合も分からないからね。とりあえずフレンドリストから、ウィルさんとジェイさんがいるかを確認!


 そういや、赤の群集の交渉相手としてウィルさんを挙げたけど……代表ってルアーだったような? まぁ青の群集だってジェイさんがリーダーではないんだし、別に問題ないな!

 さて、どっちからフレンドコールをかけたもんだ? 多少でも動きが見えている赤の群集の方からがいいか? それとも、全く動きが不明な青の群集から……あー、ジェイさんもウィルさんもフレンドコール中って、タイミングが悪いな!?


 いや、待て。同時にこの2人が別件でフレンドコール中なんて事があり得るのか? なんか妙な予感が……あ、同時に切れた? いやいや、どう考えてもジェイさんとウィルさんで話してただろ、このタイミング! って、ここでジェイさんからフレンドコールがくるんかい! いやまぁ出るけどさ。


「ジェイさん、どういう策略のお誘い?」

「……第一声からいきなりですね」

「いやだって、今の今まで、絶対にウィルさんと話してたよな!?」

「……それが分かるという事は、ケイさんも何か私とウィルさんに用件があるのでは?」

「まぁそりゃそうなんだけど……とりあえず、そっちの話を聞かせてくれない?」

「……まぁそうしましょうか」


 なんかジェイさんが俺の反応を探ってきてる気配がするけど、どういう話を持ってくる気だ? ジェイさんから俺へフレンドコールって事は、何かの案を出したのはウィルさんではなく、ジェイさんの可能性が高いよな?


「単刀直入にいきますが……eスポーツ勢の流入の件に関してですね」

「……その件かー。まぁそりゃ、把握してるよな」

「公式掲示板で宣言されて、気付かない方が難しいですよ。より正確に言えば、その混乱で内部分裂が加速したインクアイリーへの対応についてですが……既に灰の群集は、1つの集団を取り込みましたね?」

「……まぁそれに関しては、否定はしない」


 どうやったって気付かれずに済む訳がないし、コイの群れを引き連れて草原エリアまで戻る時に目撃されていてもおかしくないしね。ここで誤魔化すのは、ただの時間の無駄だ。


「青の群集に、それを止める権利はないよな?」

「……えぇ、ありませんね。ですが、随分と派手な形でやってくれましたね。水の操作Lv10でコイの群れを引き連れるとか、動きを隠す気はあるのですか?」

「……あれは流れでそうなっただけっていうか、当人達の希望というか……」


 ジェイさんの声が呆れたような感じだけど、あの状態は俺が狙ったものじゃないから! まぁコイの群れの情報が掲示板に出て、その集団があんな目立つ形で移動してれば気付かれて当然だけども!


「……あれ? 結局、どういう用事? 引き抜きをしたって事の確認だけ?」

「そんな訳がないでしょう。あの『ライブラリ』という方の思い通りにさせない為の根回しですよ」

「……根回しねぇ?」


 ふむ、意図自体は分かるけど、具体的にどういう流れにしていく気だ? 何か、具体案がありそうな気もするけど……。


「おそらく、引き抜きを活発化させて群集間での対立を狙っているでしょう? その思惑に乗せられるのも気に入らないんですよ」

「まぁそれはあるだろうなー。でも、引き抜きを止めろって言われても、向こうから助けを求めてきてたから……流石に拒否も出来ないしさ」

「いえ、引き抜きを止めようという話ではありませんよ。逆に、お互いに口出しするのは無しにしましょうという提案です」

「……なるほど。引き抜き合戦になっても、干渉も対立もなしって提案?」

「えぇ、そういう事です。そもそも、インクアイリーの結成理由を聞きましたが……それを聞く限りでは、対立は望んでいないようですしね」

「あー、それは俺も聞いた。元々は共闘イベントに備えてのものらしいな」

「えぇ、なので当人達の意思を最大限、尊重しようかと思いましてね? 群集のまとめ情報の持ち出しだけは注意してもらいますが、その方が色々と伝手が維持出来て都合が良さそうですし?」

「あー、それは確かに……」


 コイコクさん達の材料の取り引き先の人達が赤の群集からの接触を受けて、材料関係は別ルートで調達って話が出てきてるもんな。それを変に崩さず、これまで通りに維持出来るようにする為の措置か。

 てか、そういう話が出てくるって事は……青の群集ももうどこかの集団を取り込んだな? その上で、不都合な部分として浮き上がってきた部分を解決する為の連絡か。俺に話が来たのは……まぁ当事者だってバレバレだったからですよねー!


「ウィルさんからは、この点に同意はいただけましたよ。ケイさんはいかがです?」

「俺としては反対ではないけど……少しだけ、時間をもらっていい? 今、灰のサファリ同盟のとこにいるから、そっちに伝えとく」

「……なるほど、それは好都合ですね。それでは少し待っていますので、よろしくお願いします」

「ほいよっと」


 フレンドコールは繋がったままになるから、ちょっと発言には注意しつつ……えーと、誰か伝えやすそうな人は……あ、いつの間にやらベスタが近くに来てる!?

 今、丁度駆け寄ってきた感じだから、灰のサファリ同盟の人達と話をしてるハーレさん達の邪魔にはならなさそうだ。


「ベスタ、ちょっといいか!」

「ん? ケイ、どうした?」

「俺じゃ決め切れない提案がジェイさんから! インクアイリーの内部分裂での引き抜きの件なんだけど、どこがどういう形で引き抜いても、これまでのトレード環境を維持出来るように手出し無用って提案がきた!」

「……ほう? なるほど、それは確かに灰の群集では即断しかねる内容だな」

「だろ? 俺は悪くない提案だと思うけど、一応、受けるって形でいい?」

「……まぁ悪い話ではないし、それで構わん。さて、そうなると改めて色々と調整も必要か」

「コイコクさんの方、任せてもいい?」

「あぁ、構わん。……ケイ、他の群集へラックからの提案はまだ話せていないか?」

「あー、うん、まぁそうなる? てか、もう聞いてる?」

「まぁな。それなら、ウィルへの連絡は俺の方からやっておこう。コイコク達の件も含めての調整が必要だろうしな」

「あ、それもそうか。それじゃ、そっちはベスタに任せた!」

「あぁ、任せておけ」


 ふぅ、とりあえずこれでジェイさんからの提案についての処理は終わり! 他の群集より上下関係は薄いとはいえ、自他ともに認めるリーダーのベスタが了承したなら問題ない!

 予想外に俺の手間も少し省けたし……って、本題に入らないと! でもその前に、ジェイさんに提案の了承は伝えておきますか! まぁ既に伝わってる気もするけど。


「ジェイさん、さっきの話は了承って事で!」

「えぇ、了解です。ベスタさんがすぐ側にいたのはありがたいですね。……さて、それではケイさんの方の用件に移りましょうか。今度は何を思い付いたんですか?」

「先に、今回は俺の発案じゃないとは言っとくぞ!」

「……その念押し、必要ありますか?」

「変なあだ名が増えても困るんだよ!」

「……なるほど、増えそうな内容なのですね?」

「あー、それはどうなんだ?」


 この提案は……状況次第だけど、確かに新たなあだ名が生まれそうではあるな!? 外部サイトを使っての流れの誘導なんて、今までやってないし……まぁそれはいいや。


「この際、発案が誰かは気にしないでおきましょうか。それで、具体的な内容はどういうものです? eスポーツ勢絡みですよね?」

「まぁなー。えーと、手段としては……今回の手引きをしてる外部サイトがあるじゃん?」

「……あぁ、あれですか。流石にあれの消去や改竄なんて真似は出来ませんよ?」

「それは分かってるって! あれとは別に、群集主導での別サイトを作って他の流れに誘導しようって案が出てさ。その協力の――」

「随分と無茶な案を言いますね!? 後発でそんな真似が簡単に……いえ、出来る可能性がある方は存在していますか。オフライン版のファンサイトの管理人の誰かが、動く事になりましたね? ……やはり、灰の群集にいましたか」


 ジェイさんが驚いたのはほんの少しの間だけで、そのすぐ後には納得しちゃってる!? てか、状況の読みも大正解だし……。


「……まぁ誰がそうなのかという詮索はやめておきましょうか。それで、私にその話を持ってきたという事は……3つの群集の共同で行おうという提案ですか?」

「そうそう、共同でやろうって提案! まだ具体案は決まってないんだけど、俺の知り合いでeスポーツ勢の1人が協力してくれる事にもなってる」

「ケイさんの知り合いですか? それはまた……随分と厄介そうな予感がする人ですね」

「まぁそいつの事は置いといて……参加する? 詳細を詰めるのは、これからって事になるけどさ」

「……その案、お受けしましょう。一方的にやられっぱなしというのも、気に入りませんしね」

「おし、そうこなくっちゃな!」


 ジェイさんは結構な決定権を持ってる感じだし、これで青の群集を協力関係には引っ張りこめた! 赤の群集のウィルさんにはベスタが今連絡してくれてるし、上手くいけば大きな反撃の一手になるはず!


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