第1442話 予想外の手段


 なんだか、コイコクさんの灰のサファリ同盟……というか、灰の群集への認識にズレがある気がするんだけど!?

 普段からどういう認識をしているかは、この際置いておくとしても……俺、そういう心配はいらないって言わなかったっけ?


「……コイコクさん、完全にパニックを起こしてますね? まったく、普段の認識がおかしくなるほど慌てる事ですか?」

「いやいや! 灰のサファリ同盟のラックさんって、あれだろ!? オフライン版のファンサイトの『モンエボの絶景景色百選』の管理――」

「わー!? 待って、待って!? なんでそれを知ってるの!?」


 ん? なんだかラックさんが慌ててるけど……『モンエボの絶景景色百選』って、オフライン版のスクショと初心者講座に特化したファンサイト……って、今、管理人って言いかけた!?

 え、あのサイトの管理人がラックさん!? かなり有名どころなファンサイトだけど、まさかこんな身近に知ってる人がそうだったのか!?


「『モンエボの絶景景色百選』って言うと、あれか。オフライン版のファンサイト……ん? ハーレさん、どうした……あー、これは下手に言ったらいけない内容なのか?」


 ハーレさんが、口に出したギンのカンガルーの尻尾を引っ張りつつ、口に指を当ててるね? 思いっきり頷いてもいるし、この反応って事は、ハーレさん知ってたな!?

 あ、共同体のチャットも光ってるね? このタイミングだと……内容の予想は出来るけど、まぁちゃんと見ておきますか。


 ハーレ   : ラックがあそこの管理人なのは、伏せてる事なのさー! ケイさん、アルさん、他言無用でお願いします!

 アルマース : まさかのラックさんが、あそこの管理人か。まぁ他言はしないが……何故、コイコクさんがそれを知ってるんだ?

 ハーレ   : それは分からないのです!

 ケイ    : ハーレさんが知ってるのは、まぁいいとして……サヤとヨッシさんは、驚いた様子もないし、知ってた?

 サヤ    : うん、お昼休みに話してた時に聞いたかな。

 ヨッシ   : 他言無用だとは言われてたから、ケイさんとアルさんにも言ってなかったんだけど……。

 アルマース : ま、そりゃ仕方ないか。ケイだと迂闊に話しかねんしな。

 ケイ    : おいこら、アル!? 流石に他言無用と言われた内容を言いふらす真似はしないぞ!

 アルマース : それはそうだろうが……意図せず、独り言で漏らす可能性はどうだ?

 ケイ    : あー、それは……。


 いかん、自分で抑えられてない部分だから、絶対に言わないって断言する自信はない!?


「私はあそこの影響力を使う気はないから、ここでの事は他言無用で! というか、少数の人にしか教えてないのに、なんでコイコクさんが知ってるの!?」

「……お、俺、なんかマズい事を言ったっぽい!?」

「コイコクさん! その情報源は私にとって危ないから、出来れば教えて!」

「じょ、情報源!? いや、これって普通に噂話で広がってただけなんだけど!?」


 ラックさんの慌てっぷりが凄まじいな!? でもまぁ『モンエボの絶景景色百選』ってサイトは、オフライン版でのトップクラスに有名なサイトだしな。

 公式サイトの掲示板でもスクショはよく貼られてたけど、それ以外での人気サイトの筆頭で、始めたばかりで分からない事があれば、まずこのサイトを見ろと言われるレベルのもの。俺としても、この情報はビックリだよ。


 でもまぁその管理人がラックさんだから、灰のサファリ同盟での支援体制が作り上げられてるのかも? 今更ながらではあるけど、灰のサファリ同盟が大規模かつ安定した集団になった大きな要因な気がするね。うん、ビックリした以上に納得した部分の方が大きいな。


「……内容が内容なので、私も割り込みますよ。ラックさん、その情報は無所属の中で噂として広がっている程度のものですので、確定した情報ではないですね。……まぁ、今ここで確定した訳ですけども」

「っ!? オリガミさん、ここは他言無用でお願いします!」

「……特に言いふらすつもりはありませんよ。同系統の噂で、もう1件の方は……対象になる方が危険ですしね」


 同系統の噂……という事は、別のファンサイトの管理人とかって話か? 他の有名どころで人を集められそうなサイトとなれば……あー、あそこか。

 初心者でも取っ付きやすい『モンエボの絶景景色百選』に対して、上級者向けの『ナチュラルポート』ってサイトもあったよな。誰が管理人だったのかは考えてなかったけど……まぁ予想しようと思えば、なんとなく予想は出来る。


 ケイ    : 多分だけど、上級者向けのサイト『ナチュラルポート』の管理人って……レナさん?

 サヤ    : あっ! その可能性は高そうかな!?

 ヨッシ   : 『ナチュラルポート』って、確か実力派のサファリ系プレイヤーの溜まり場だったよね? ……管理人がレナさんだとしたら、赤のサファリ同盟の大元があそこになるのかも?

 ハーレ   : オフライン版のスクショコンテストの入賞の常連が多かったサイトだし、その可能性は高いのです! でも、その詮索は危険な気がするのさー!?

 アルマース : ……あのレナさんが相手だと、下手な詮索は危な過ぎるな。レナさんだろうが、そうじゃなかろうが、管理人として名乗りを上げていないなら、あのサイトの影響力を使う気はないのは確実だろ。

 ケイ    : だからこそ、下手な詮索は危険か……。言い出しといてなんだけど、この話題は終わりにしとこう!

 アルマース : それが無難だろうよ。


 どう考えても、あの顔の広さがあるレナさんを敵に回すのは危険過ぎる! 同じ灰の群集で味方として動けてるんだし、変な事をして敵対するような事態は避けないと!

 てか、こんな感じでラックさんが『モンエボの絶景景色百選』の管理人だって噂が流れてたのかもね。うん、当人から離れたとこほど、そういう噂話が出てきやすいってのもありそうな気がする。


「……なるほど。オフライン版での影響力を使おうって連中は、そういないんだな?」

「使ったら、人の流れを決めかねないのは分かってるからね! えーと、噂のカンガルーのギンノケンさん……うーん、なんか複雑な気分……」

「……ん? 複雑って……eスポーツ関係での流入にはなるが、俺は普通にただの新規プレイヤーとして扱ってくれて構わないぞ?」

「あ、そうじゃなくてね? えーと……アルマースさん、少し樹洞を借りていい?」

「あぁ、構わんぞ。遮音設定にしておけばいいんだな?」

「うん、それでお願いします! コイコクさん、ちょっとギンノケンさんに別件で話があるから、少し待っててもらっていい? どうも混乱してるみたいだから、落ち着いてからの方が良さそうだしさ?」

「……お、おう。そうしてもらえると助かるぜ。……おし、俺らは自由に縛られずに動けるんだな? それなら、これから話すべき事は、材料の調達手段か! 流石にそれに付随するトレード用の料理の要望は呑むとして……詳しくは、これからの話し合い次第……」


 コイコクさんも色々と気持ちの整理が必要みたいだし、ラックさん的にはギンとの話が先になるんだな。さて、ギンがどういう反応をするのか、今から楽しみですなー!


「『樹洞展開』! ラックさん、いいぞ」

「ありがと、アルマースさん! さーて、ギンノケンさん、こっちこっち! あ、富岳さん、申し訳ないけど席を外してもらえない?」

「そりゃ構わんが……なるほど、下手に誰にでもは言えない内容だから、樹洞の中なんだな。そういう事なら、外で待機しておく」

「……ん? 富岳さんが駄目で、俺にする話ってなんだ……? おい、ケイ!? 普通に入ってきてるし、知ってんな!?」

「まぁ知ってるけど、そこは自分で聞け。その為の機会だぞ?」

「……そりゃそうか。でも、どういう話だ?」


 わっはっは! ギンめ、思いっきり混乱してるな! まぁ同じ高校の先輩後輩という関係性なのは想像してないだろうし、直前に『モンエボの絶景景色百選』の管理者だと聞いたのがより効きそうだよね。

 さーて、その話を進める為にも、ギンをアルの樹洞の中へご案内! いやー、本当にどういう反応をするんだろ?


「アルさん、閉めて下さいなー!」

「おうよ!」


 アルの樹洞の中にいるのは俺らグリーズ・リベルテと、ラックさんとギンのみ。ギン以外は事情を分かってる人ばかりだし、樹洞への入口も閉まって遮音設定にもなったはず。


「なぁ、ケイ? これ、冗談抜きで何の話だ? 『モンエボの絶景景色百選』の管理人がいるのにはビックリしたが、それが何か影響でも――」

「あ、それは関係ないよ?」

「関係ないのかよ! あー、ラックさんだっけか? 新参の俺にどういう用件だ?」

「用件というか、伝えておいた方が色々とやりやすいかなーって話なんだけど……んー、こう言った方が分かりやすいかも? 私、ハーレと同級生なんだよね」

「……ハーレさんと、同級生……? って、同じ高校か!? となると、俺の後輩で……うちの高校に、あのサイトの管理人がいただと!?」

「そういう事になるんだよねー。それで、ギンノケンさんがeスポーツ部のエースなら……今週末、普通にリアルで会うかもしれなくて?」

「……何?」


 ん? ラックさんが、今週末にギンと会う可能性があるってどういう意味だ? eスポーツ部の大会の予選があるのは聞いてるけど……どう関係してくる?

 あ、そういや観戦しようって話、まだアルに話せてないな!? まぁそれは後で話すとして……。


「いや、待て。サファリ系プレイヤーの集まりの代表者として動いていて、『モンエボの絶景景色百選』の管理人で……なるほど、ラックさんはうちの高校の写真部か! 確か、強い部のとこには撮りに回ってただろ?」

「正解! 一方的に私だけが知っておくのもどうかと思ったから、この機会に伝えさせてもらったんだけど……先輩って呼んだ方がいい?」

「あー、そういうのはいらん。1歳年上なだけで、偉そうにするのは嫌いなんでな。誕生日次第じゃ、同級生よりも下級生の方が近いなんて事もあるからよ」

「あはは、まぁそういうのはあるよね! それじゃ、少なくともモンエボ内ではこの感じでやらせてもらうね」

「おう、それでいいぞ」


 うーん、ギンがもっと盛大に驚くのを期待してたんだけど、思ったより平然と受け止めたもんだな。ちっ、面白みが少なかったよ……。

 てか、ラックさんって写真部なのか。凄腕のスクショを撮るサファリ系プレイヤーなんだし、そういう方面に興味を持ってるのは意外でもなんでもないな。うん、普通に納得。


「あー、話としてはそれで終わりか?」

「うん、そうなるね。ただ、『モンエボの絶景景色百選』の管理人って部分までバレちゃったし……ちょっと別方向の話も出来るかも? 少し考えてた方法ではあるんだけど、例のeスポーツ勢の流入に関してね」

「……ほう?」


 ほほう? ちょっとこれは想定外の流れになってきたね。ラックさん、一体何をやるつもりだ?


「ラック、何かするの!?」

「うん、外部のサイトを使って誘導してきてるなら、同じ事をしようかなーって提案。サイトなら私が作れるし、インクアイリーの一部の人の主導じゃなくて、群集主導でやっちゃおうかなーって? ただ、どういう流れでやれば、上手くeスポーツ勢の人達が食いつくかが分からないから……その辺の情報提供が欲しいかなーってところだね」

「おぉ!? そういう手段があったのさー!?」


 なるほど、eスポーツ関係の外部サイトを新たに作って、そっちから誘導をかけようって手段か! ふむふむ、元々の有名サイトの管理人をしてたからこそのアイデアだな!


「ギン、ラックさんの手段はどうだ?」

「……ありっちゃありだが、いいのか? 結構、手間をかけさせる事にはなるぞ」

「今のままじゃ、流れのコントロールが全然出来ない成り行き任せになっちゃうからね。対抗するにはこれくらいの策は必要になるし、上手くいけば私達の戦力増強にも繋げられるしさ?」

「……なるほど。よし、そういう事なら力を貸そう。俺が連中が食いつきそうな条件を提示すればいいんだな?」

「その辺は専門外だから、お願いします! その情報を元に、サイトの作成は私がやるから!」

「おう!」


 予想外の流れにはなったけど、こりゃかなりの有効打として期待出来そうな予感! まさか、そんな方向からのアプローチがあるとはね。


「あ、それでケイさんにもお願いがあるんだけど……いい?」

「俺に? どういう内容?」

「この手段を実行に移すの、赤の群集と青の群集にも情報を流してくれない? 場合によっては、共同で動かそうかと考えてるんだよね」

「……共同で? なんでまた?」


 既にインクアイリーの内部分裂が始まって、その中の色々な集団の引き抜き合戦になってきてるのに……いや、eスポーツ勢の流入そのものとは切り離して考えるべきか?


「状況次第ではあるんだけど、eスポーツ勢を群集の対立構造から切り離す為だね。夏の大型アップデートまで待てば、群集間での対戦も可能になるし……ギンノケンさん、あくまで流入してきてる人達は個人の操作精度向上が目的だよね? 個人戦さえ出来れば、大丈夫だよね?」

「……あぁ、多少は連携も気にはするだろうが、それは最終的に実際の競技のゲームですべきところだからな。個人戦が可能なら、まぁそこに誘導する事は出来るだろうよ」

「あー、なるほど! 要は、eスポーツ勢だけの中で完結するような環境を作ろうって事か!」

「そうそう、そんな感じ!」


 考えたな、ラックさん。一応、群集への取り込みも考えてはいるみたいだけど、本命は影響そのものを隔離してしまう事か。下手に無所属で暴れ回られるよりも、そっちの方が制御下には置きやすいよな。


「それで、俺にジェイさんやウィルさんを引き込んできて欲しいって話か」

「うん、そうなるね! ケイさん、お願い出来る?」

「まぁ絶対に上手くいくとは言い切れないけど、ちょっと話をしてみる価値はありそうだし、やってみるか!」

「やった!」


 さーて、どういう形で話を持っていきますかね? 俺単独でやるか、ベスタやレナさんにも協力してもらうか、フレンドコールで済ますか、どこかに集まってもらうか……どう動くかを決めていかないとな。この内容、上手くいけば相当事態が変わってくるはずだしね!

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