第1441話 手続き完了


 コイコクさん達がメンバー全員を共同体『まな板の上のコイの滝登り』への加入を済ませる為、上限人数に引っかかったのを解除中。……やっぱり、すごい名前の共同体だよなー。

 さーて、各エリアに2人ずつのPTが散らばっていったみたいだし、そう時間もかからないはず。まぁ俺らに出来る事がある訳じゃないから、ここは待機だね。


「そういや、ケイ。少し聞いておきたいんだが、いいか?」

「ん? どした、アル?」

「いや、ギンさんを俺らの共同体に誘うつもりとかはあるのかと思ってな?」

「はい!? え、なんで……あ、そう不思議な内容でもないのか」


 そもそも、サヤとハーレさんとヨッシさんの3人組におまけで俺とアルが引っ付いて出来ていた固定PTが元になってる共同体だもんな。

 そこに俺の友達かつ、ハーレさんとも縁が出来た、今後の強力な味方になり得る相手を勧誘しようって流れは、決して不自然なものではないか。まぁリアルで接点があろうともフラムやアイルさんは欠片も誘う気はないけども、ギンなら誘おうって気分にはなるかも?


「ん? なんだ、ケイ? 俺を勧誘か?」

「誘ったら、ギンとしては受ける気ってある?」

「……流石に即断はしかねるが、まぁ検討はするぜ? てか、ケイやアルマースさんだけで決める内容でもねぇだろ?」

「まぁなー。サヤ達は……ぶっちゃけ、どう? グリーズ・リベルテへの新メンバーの加入ってさ」


 ギンも言ってるけど、これは俺だけで決めていいものじゃないのは間違いない。もし加入になったとしても、しばらくはギンと一緒に行動とはならないだろうけど……。


「メンバーの追加は、全然考えてなかったかな!?」

「……今までは私達3人に合わせてくれてる部分もあるし、ケイさんが誘いたいって言うなら……」

「はい! 少し考える時間を下さい! 今すぐに答えを出さなくてもいいよね!?」

「まぁそりゃそうだけど……アルはどう?」

「駄目だと思うなら、わざわざギンさんがPTにいる時に言ったりはしねぇよ」

「……そりゃそうだ」


 どっちかといえば、これはギンが他の共同体へ加入するのを止めておく為の手段なのかも? 俺に勧誘する意思があるって事なら、即座にどこかへ入るって事もないだろうしなー。いや、状況次第か?


「抜け目ねぇな、アルマースさん。なんか、俺にいてほしい理由でもあったりすんのか?」

「あると言えばあるが……まぁその辺の事情は追々と機会があればだな。リアル側の伝手は、何ルートかあっても悪くないだろ」

「……へぇ? ケイのリアルを知ってる俺が必要な内容っぽいな」

「アル、ちょい待った。それ、何の話?」


 なんだかアルの色々と含みがある言い方が気になるんだけど! なんか、ハーレさんの視線が俺とサヤを交互に見てた気がするのも気のせいか?


「何言ってんだ、ケイ? ギンさんがeスポーツ部へ勧誘してんなら、ハーレさんが色々考えるきっかけとしてもいいだろ?」

「はっ!? 私の事だった!?」

「あ、そういやそうか!」


 ハーレさんは何か違う事だと思ってたみたいだけど、確かにその件があったわ! 俺も全く別の何かかと思ってたけど……アルの言う通り、色々と考えてみるキッカケにはいいのかも――


「おっし! 全員、加入完了だ! ケイさん達、待たせた!」

「おっ、終わったか!」


 話の途中ではあるけど、まぁアルの用件自体は伝わったみたいだし、ここで区切りでいいか。みんながすぐに答えが出せる訳じゃないし、この話題は一旦各自で持ち帰りって事で!


「ギン、共同体云々はとりあえず保留にはしとくから、考えるだけ考えといてくれ。サヤ達もな!」

「おう!」

「分かったかな!」

「うん、その辺は色々と相談してみるね」

「了解です!」


 さーて、ギンのグリーズ・リベルテ入りの可能性はひとまず、ここまで! それじゃ、コイコクさん達を灰のサファリ同盟まで案内していきますか!


「おーし、加入は完了! いやー、いざ移ってみると、特に何もなくて拍子抜けだな?」

「そりゃ、まだ何も起きちゃいないし、これからだろうよ」

「……覚悟して、灰の群集に移ったんだ! 上手くやっていこうじゃねぇか!」

「だな!」

「さて、折角ここまで来たんだし、例のジャングルの並木とやらを見に行くか!」

「おっ! 例のあれか! 気にはなってたんだが、1人で出向くのは微妙だったんだよな」

「この人数でいけば、ビビる必要はない! ……ないはず?」

「確か、並木のどこかに俺らが作った料理をトレードに流してるって話だったよな?」

「おっ! まとめに『不動種並木の案内図』ってのがあるぞ! こんな情報までまとめられてんのか!」

「あ、マジだ。えーと、料理関係は……各種の並木の中央だそうだぞ!」

「よし、どういう風に並んでるか見に行こうぜ! コイコク、話し合いは任せた!」

「コイコク、よろしく!」

「頼んだぜ、コイコク!」

「おいこら!? お前ら、面倒な部分を人に押し付けて――」

「誰か水流を出せ、水流を! 流れていくぞ!」

「おっし、なら俺が出す! ダメージを受けないように気を――」

「待て待て! 全員が同じ群集になったから、ダメージを気にする必要もないだろ」

「……あ、そういやそうか! そこは利点だな!」

「おっし、それじゃ水流の中で泳ぎながら見物といこうじゃねぇか!」

「「「「「「おう!」」」」」」

「……誰も、俺の話を聞いちゃいねぇな!?」


 コイコクさんのその言葉はメンバーの誰にも届くことなく……新たに生成された水流に乗って流れながら、みんなが転移して消えていったね。

 いや、ちょっと自由過ぎません? というか、少し前まで灰の群集に移ってくるのを迷ってた人達とは思えない動きだな!? ……なんというか、ただ単に1人では移籍に踏み切れなかった人が多かっただけって気もしてきたぞ。


「コイコクさん、ドンマイなのさー!」

「……ありがとよ、ハーレさん。なぁ、ケイさん……話を聞かない連中って、どうまとめたらいいんだ?」

「あー、それは……」


 聞かれても、それを答えるのって難しいな!? コイコクさんの場合、話し合いの代表としては認められているっぽいから、舐められて信用されてない訳じゃないんだよな。

 他の人達がマイペース過ぎるからこその状況なんだろうけど……30人越えの集団管理とか、俺はよくやらんぞ!?


「それこそ、灰のサファリ同盟で聞いてみるのがいいんじゃねぇか?」

「それだ! アル、ナイスアイデア!」

「……そうか。そういう頼り方もしていいのか!」

「いいと思うのさー!」

「……ははっ! 折角、大々的に話していこうってんだから、そうさせてもらうか!」


 灰のサファリ同盟は灰の群集での最大規模の共同体なんだし、その手のノウハウを持ってる人は間違いなくいるだろうしね。俺よりも参考になる意見をもらえる可能性は高い!


「ケイ! 話がまとまったなら、その灰のサファリ同盟とやらまでさっさと行こうぜ! 富岳さん、元々俺への案内役だって話だしな!」

「……へ?」


 下からギンのそんな言葉が聞こえてくるけど……富岳さん、そういう役割で来てたのか!? あー、偶然にしてはタイミングが良過ぎたし、色々と情報が伝わってたらそういう事もあるか。

 ギンと富岳さん、どっちもカンガルーだからその繋がりでって可能性もありそうだけど……なるほど、コイコクさん達を待ってる間のギンの相手をすんなり受けてくれたのは、そういう理由か。


「事情を説明し損ねてたが、まぁそんなとこだ。森林深部の方で、ラックさんやレナさん、それにベスタさんとかが待ってるぜ」

「あー、まぁそりゃそうなるよな」


 ベスタもレナさんも、報告した時には情報共有板にいたもんな。これからの影響度を考えたら、よっぽど手が離せない状況でない限りは来てて当然ですよねー!


「待て、待て、待て!? なんでそんな大物揃い!? 俺ら、なんか怒らせた!?」

「コイコクさん、怒っての事じゃないだろうし、その心配はいらないぞ」

「……そ、そうなのか?」

「まぁ多分……?」


 流石に何か問題あっての事なら、富岳さんが最優先で伝言をしてただろうしね。もしくは、ベスタかレナさんから直接、フレンドコールで連絡が来てるだろ。それがなかったんだから、問題はないはず!


「おし! もうコイコクさんは行ける状態だし、待ってるなら出来るだけ早く――」

「……き、緊張してきた!? ケイさん!? もう少しだけ――」

「待ったところで、何も変わらないっての。てか、俺ら相手には普通に話せてたんだから、問題ない!」

「うぐっ!? だ、出してくれー!?」


 なんかコイコクさんが今にも逃げ出しそうだったから、まだ発動しっぱなしだった水の操作で包み込んだけど……大丈夫か、これ?

 代表のコイコクさんでこの様子だと、冗談抜きで人付き合いが苦手な人が多いっぽい? うん、まぁつくづく思うけど、実際に会ってみないと、正しい実情って分からないもんだね。冗談抜きで、料理関係で実績にある集団が人見知り集団だとは思ってなかったよ……。



 ◇ ◇ ◇


 強引に転移はさせられなから、まぁなんとかコイコクさんを落ち着かせて……今は森林深部にある、灰のサファリ同盟の元本拠地に向けて移動中。水の操作は流石にもう解除した。

 移動中に富岳さんがレナさんに連絡をしてくれて、待っている人は最小限にしてくれているけど、どうなる事やら……。元々は灰のサファリ同盟で色々と加工してる人達や、モンスターズ・サバイバルの人達も来てたそうだけど、その辺は席を外してもらう事にもなったけどさ。


 俺らが平気だったのは……仲介したオリガミさんや、昨日のスルーした事の影響が本当に大きいんだろうね。おっと、そうしてる間にラックさんが見えてきた。


「あっ! みんな、こっち! こっち!」

「ほいよっと! アル、崖の上だぞ!」

「見えてるから、分かってる!」


 崖の上にいるのは……今回はラックさんだけ。ベスタとレナさんが席を外すって事で、なんとかコイコクさんが落ち着いたからなー。影響力って意味では、ラックさんもかなりある気はするんだけど……どういう基準でダメなんだろ?


「ラック、来たよー!」

「いらっしゃい、ハーレ! それで、例のコイの人達の代表が……コイコクさんでいいんだよね? 一応、初めましてでいいよね?」

「は……はじめ……ま、まして!」

「……うん、これはちょっと聞いてた以上かも?」


 おーい!? コイコクさん、なんで俺らとは普通に話せてたのに、ラックさんを前にした途端にそうなってんの!? って、なんか影が落ちて――


「……まったく、やっぱりこうなっていましたか。何をやってるんですか、コイコクさん」

「っ!? オリガミさん!? なんでここに!?」


 ちょ!? え、ここでオリガミさんの龍が飛んでくるって……あー、もしかしてこの状態を予期してた? オリガミさんは灰の群集の傭兵として参加してたんだし、ラックさんからマルイさんを通じて連絡してた可能性はあるか。


「……レナさんから頼まれまして。全員で灰の群集に入る決意をしたそうですね?」

「……お、おう! そうだとも! もう、全員の加入も済ませたからな!」

「なら、何に怯えているのです? 灰のサファリ同盟の方々は、ライブラリのように急に投げ出して放置という事はありませんよ? 灰の群集では、初期の頃から好き勝手に暴れるプレイヤーは抑え込めていますしね」

「……分かっては……いるんだがな?」

「まぁ苦手意識の払拭には時間がかかりますか」


 ん? なんか今のを聞いた感じだと、何かしらのトラブルに遭遇してた事がある? あっ、もしかしてコイコクさんって、初めから灰の群集だった訳じゃないのか!?


「今回は私が仲介したの発端ですし、責任を持って私が――」

「……っ! だー! いつまでも引き摺ってられるか! 悪い、手間をかけさせた、オリガミさん!」

「……大丈夫ですか?」

「もうかなり失礼な事ばっかしちまってんだ! これ以上、味方になる人達にそういうのを重ねてられねぇよ!」

「そうですか。まぁ話が終わるまでは私も同席しますので、なんとかやってみて下さい」

「……おうよ!」


 詳しい内容は分からないけど、コイコクさんなりに意を決した感じだね。これならようやく話を進めていけそうではあるけども……何があったかを聞くのは、後にしとこうか。


「えーと、それじゃ話を進めていくんでいいんだよね?」

「お、おう!」

「うん、了解。それはそれでいいんだけど……具体的に話って何をするの? あ、料理系で色々やるなら食材の確保ルートの話? ハーレから、その手の人達には赤の群集が既に動き出してるって聞いたしさ」

「……へ? え、それはまぁ必要な話だけど……あれ?」

「ありゃ? 何か違ってた? あ、そっか。そもそも、内部分裂してるインクアイリーの一部の人から守ってほしいって話だっけ! その辺はベスタさんやレナさんがいた方が進めやすいんだけど――」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺ら、どこかの共同体の指揮下に入るんじゃ? 下手に意思に反して割り振られるより、灰のサファリ同盟へと思ってきてたんだが……」

「え? 別にそんな決まりはないけど……あれ? え、そういう話だったの? えーと、イベント時でもないんだし、誰かの指揮下に入る必要はないよ?」

「……え? ……マジで?」


 ちょっと待てや、コイコクさん!? 『まな板の上のコイの滝登り』って、本当に灰の群集にある共同体なのか!?

 その反応、灰の群集に所属している人のものとは到底思えないんだけど!? もしかして、群集に所属してるだけで全然、普段の動向を確認してないとか、そういう話だったりする?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る