第1440話 コイの群れを引き連れて


<『日向の牧地』から『始まりの草原・灰の群集エリア3』に移動しました>


 ……疲れた。なんとか草原エリアまで辿り着いたけど、その道中がめっちゃ疲れた。


 もう避けようがないからギンに色々と聞かれるのは諦めたけど、アルやサヤ達までならまだしも、コイコクさん達も含めて、全勢力から見た内容とか……隣で話される身になってくれません!? 

 珍しい光景だからか、下で作業してる人達からも思いっきり注目を浴びてたしさ!? でも、誰も話しかけに空まで上がってはきてなかったのは、ちょっと意外では――


「ちっ、草原に入ったって事は、もう時間切れか」

「……もう勘弁してくれ! 大体、分かっただろ!」

「ま、ケイがあちこちに首を突っ込んでんのはよく分かったぜ。色んな仕様を大勢で探っていくのが重要だってのもよく分かったし……その流れを決定付けた一因となりゃ、そりゃケイの存在は大きいな」

「……そうですよー」


 否定するだけ無意味だし、間違った内容ではないけどさ……。くっ、リアルでよく知ってる相手にそれを知られるというのは、地味に精神的なダメージが!?


「それにしても……何度も思ったが、随分とまぁ仕様が変わってんな。ケイのその水、操作系スキルってのがあるとはな? 実際、それの使い勝手ってどうなんだ?」

「んー、オフライン版のなんちゃって魔法のマニュアル操作に近いと言えば近いけど、あれの自由度を高めた感じ? ここまでの規模になると、もう完全に別物だけどさ」

「……まぁここまでの水量は、オフライン版じゃ扱えなかったしな」

「そうそう。そうなんだよなー!」


 まぁ正確には、オフライン版で大量の水を扱う方法がない訳じゃないけども……性質的に操作系スキルでの扱いとはまるで違うしね。


「……ケイ? オフライン版でそんな手段ってあったかな?」

「ん? あー、まぁ普通にやる手段でもないからなー。ほら、超越体まで進化させて、クレーターを作って、そこに水への適応進化で使える『放水』で水を貯めるやつ! まぁ水を残すのに、『放水Lv10』までは必須だけど」

「あっ! 即席ダムの事かな!? それを壊して、一気に敵を流して倒すんだよね?」

「そうそう、それ! ……オンライン版じゃ、一気にクレーターはまだ作れそうにないけどな」

「……あはは、確かにそれはそうかな?」


 あー、でもLv10に至った土の操作を使えば同じような事をしようと思えば出来るか? うーん、それをやるよりは、直接水を操作した方がやりやすいな。

 いや、待てよ? 地形の大幅に弄るパターンも増えてきてるし、そういう手段を作戦に組み込むのは、むしろ必須か? それこそ、2回目の競争クエストで実際に使ってきた人もいるんだから――


「そのうち、ケイさんがやりそうなのです!」

「いや、俺に限らなくても、もう実際にやってきてるだろ。スリムさんの土の操作とか、インクアイリーの……あれは結局やってたのは彼岸花だっけ? いや、氷花って人との2人体制での霧に見せかけた氷とかさ」

「それはあくまで、操作系スキルで操ったやつなのです! それとはまた違った手段なのさー!」

「……それとは違った手段ねぇ?」


 ふむ……まぁ操作系スキルだと、どうしても黒の刻印での剥奪という弱点は存在するもんな。必要なのは、効果を解除されない大規模な地形変化?

 うーん、思い付くのは……それこそ、オフライン版の即席ダムの破壊と同じような手段程度だぞ? よくて、雪崩や土石流くらい? 元々の地形に左右されるし、作戦として用意するのは厳しい気がする。


「その辺はまだよく分からんが……デケェ木が見えてきたぜ? あれだろ、NPCの群集拠点種ってのはよ?」

「そうそう、あの木。草原エリアの群集拠点種の名前はユカリだな」

「出発する前にも思ったが……随分とデカいが、これも世界樹ルートの名残か?」

「多分なー。あ、ギン。辿り着いたら、忘れずに『帰還の実』を貰っとけよ?」

「おう。それは真面目に忘れないようにしねぇとな!」


 ちょっと油断してると、あっさり忘れかねない部分だから要注意! さーて、なんだかんだであと少しで到着だし――


「よう、ケイさん!」

「ん? あ、富岳さんか!」


 誰かが下から跳び上がってきたと思えば、カンガルーの富岳さんの登場ですなー。幼生体のカンガルーと成熟体のカンガルー、並べて見比べてみると、体格とか模様とか、結構違って見えるんだね。


「そっちの『ギンノケン』ってカンガルーの人が、ケイさんのリア友だな?」

「へぇ、もう俺の話が広がってんのか? 流石だな、ケイ」


 コイコクさん達の件で話しかけに来たのかと思ったら、まさかのギンについての話だったよ!? いやまぁ、そりゃ敵対するかもって話題にしちゃってたんだから、そうなりますよねー!


「ま、ケイさんが警戒してる相手が他の群集に入るかもって話題になってたからな。それがなんでまた、こうして味方で動いてんだ?」

「……あー」


 そういえば、この場にいるみんな以外にその説明ってしたっけ? ……してないような気がしてきた?


「富岳さん、その情報ってどのくらい伝わってる?」

「ん? もう大体、普段から情報を集めてる連中には広がってるぞ。少し前に灰のサファリ同盟での初心者講座に顔を出すって話もあったし、ここまでコイ集団を引き連れてきているって目撃情報も山ほどあったしな」

「……もう大体の状況は伝わってるんだな。まぁ色々あって、敵に回る事はなくなったから、その点は警戒しなくて大丈夫だな。ギンは他のゲームで強いし、多分、育てばかなりの戦力になるはず?」

「……なんで疑問系なんだ?」

「あー、そもそものモンエボを始めた理由が理由だし……ギン、これからも普通に続けんの?」


 今回のeスポーツ勢の流入の黒幕が誰かは分かったし、本質的にはモンエボ内でのゴタゴタだし、ギンとしてはこれ以上何か出来る事ってなさそうなんだよなー。

 ぶっちゃけ、流入してきているeスポーツ勢の動機が気に入らないとしても、具体的に出来る事って思い付かないんだよな。だから、このまま今日限りで終わりでも不思議じゃないけど……あ、でもそれなら初心者向きの場所とか聞いたりはしないか?

 

「ん? 俺なら、最低でも月額1ヶ月分はやるつもりだぞ。eスポーツの特訓に良さそうなのは間違いなさそうだし、色々と興味深いしな」

「あ、元は取るつもりか!?」

「まぁな! そっから先、続けるかは……まぁ実際にやってみてからだ」

「……なるほど」


 ふむふむ、少なくとも普通に続けていく気はあるんだな。そりゃまぁ月額は有料なんだし、勿体ないですよねー!


「って事は、ギンノケンさんはしばらく継続してやっていくんだな?」

「ま、そういう事だな! つっても、まぁリアルの都合を優先するから、成熟体まで辿り着くのはちょっとかかる気はするが……ところで、富岳さんか? その腹の袋の中から出てる、もう1体のカンガルーはなんだ? そういうスキルがあるのか?」

「あぁ、これか。これなら、こういう感じだな。『遠隔同調』!」

「ん!? 同時に2体、操作してるのか!? おいおい、こりゃかなり難易度高いだろ!?」


 おー、ギンは同じカンガルーになる富岳さんの動きに興味津々っぽいね。よし、これなら少しの間、ギンの事は富岳さんに任せるか。

 あ、そういえばいつの間にかアルが進むのを止めて……ん? の群集や青の群集の人が見えないし、コイの数も減っているし……そういう事か。なるほど、今話してる間を有効活用してたんだね。


「富岳さん、俺らはちょっとユカリの方までコイの群れを連れていってくるから、その間だけでいいからギンの相手を任せられない?」

「ん? まぁそれくらいなら別にいいが……ギンノケンさんはいいのか?」

「俺的には問題ねぇな! 2体同時に扱える仕様なのはケイ達の様子を見てて分かってたが……完全に同時に動かすってのは、どういう仕様だ? これ、混乱しねぇのか?」

「……なんつーか、ケイさんのリアル知り合いってだけの事はありそうな反応だな」

「……それ、あんまり関係ないと思うけどなー。まぁとりあえず、しばらく任せた!」

「おう、了解だ!」

「おっし! なら、一度下に降りるべきだな! あー、これって飛び降りても死なないよな?」

「あぁ、基本的に自分じゃ死ねないからな。まぁ例外もあるにはあるが……」

「その辺は、オフライン版と一緒か! おらよっと!」


 ギンがアルのクジラの上から飛び降りていってるけど……まぁ見事なほどに躊躇はないもんだね。オフライン版と一緒とは言っても、あっちは落下ダメージ自体は受けるんだけどなー。あと、流石に高過ぎる場所からなら死ぬし……そういう意味では、自分での死ににくさはオンライン版のこっちが上か。


 まぁそれはいいとして……さーて、動きを止めていたコイの群れを、群集拠点種のユカリの元まで連れていきますか!

 その為にも、これは確認しておかないとね。チラホラと無所属が増えて、コイの数も元に戻ってきているしさ。


「コイコクさん、全員戻ってきてる? 移籍の為に、ログアウトして無所属にしてきてるよな?」

「あー、もうちょい待ってくれ。あと4人ほど戻ってきたら、全員揃うからよ」

「ほいよっと」


 ただ単に俺が聞き流してしまってただけで、コイコクさん達はしっかりと移籍に向けての準備をしてたんだな。流石にここで置いていく訳にもいかないから、全員戻ってくるまで待機で! 揃い次第、移籍の為に群集拠点種まで連れていこう!



 ◇ ◇ ◇



 少し待てば、脱退を済ませてきたコイの人が全員揃った。ぶっちゃけ、俺が運び続ける意味もないんだけど……まぁそれは今更だし、ここまで来たなら運び切ろう!


「おし、全員揃ったな! それじゃ、灰の群集への移籍を済ませにいくぞ!」

「「「「「「「「おう!」」」」」」」」


 コイコクさんの号令に合わせて、気合の入った声が返ってるね。この光景だけ見ると、本当に人見知りなのかが疑問に思えてくるけど……まぁ仲間で集まっているからこそ、平気ってのもありそう? それに全員の声ではないっぽいしね。まぁ思いっきり注目は浴びてるのはどっちにしても同じか!


「アル、移動再開! ササっと済ませて、森林深部まで移動するぞ!」

「おう! まぁ移籍だけなら、俺らが付き添う必要はない気もするが……」

「それはまぁ俺に思うけど、気にしない方向で!」

「おうよ」


 ログアウトする以外では、誰も俺の水の中から出ようとしないもんな。まぁ別にそれが嫌な訳でもないし、困った状態になってる訳でもないから、いいんだけどさ。


 ともかく、アルが泳ぎ出したのに合わせて、大量の水も移動開始! それにしても……極力負担がかからない状態にすれば、水の操作Lv10って結構保つもんだね。

 ふむふむ、これって大真面目に大勢の運搬用にも使えそうではあるかも? ゆっくり過ぎるって程の移動速度ではなかったのに、それでもまだまだ操作時間には余裕があるもんな。どの程度まで負荷を上げても実用に耐え得るか、一度試しておきたい――


「おっしゃ! 移籍、完了!」

「これで、灰の群集だな!」

「コイコク! 早く、共同体への申請を済ませろや!」

「ちょ!? 待て、待て!? お前ら、一気に申請し過ぎ……って、あっという間に上限人数に到達したじゃねぇか!?」

「……は? 共同体の上限人数?」

「え、それ、どうすんの?」

「……えーと、ヘルプ、ヘルプ」


 あ、そういや共同体って上限人数があるんだった!? ……何人が上限だっけ? 上限人数を増やす方法もあった気はするけど、その辺は全然知らないような……?


「げっ!? 上限人数30人を増やすには、特定のクエストのクリアが必須!?」

「どういうクエストだよ、それ!?」

「……ヘルプには記載がねぇな? 群集のまとめにならあるか?」

「おぉ!? 灰の群集のまとめ、綺麗に整理されてんな!?」

「……まとめ機能、初めて見た」

「同じく! へぇ、こんな風になってんだな! こりゃ便利そうだ!」


 ちょ!? え、まとも機能を全く見た事ない人とかいるの!? ……あー、赤の群集の騒動の後に抜けたっきりの人は、そういう事もあるのかも?

 てか、何気に何人いるかは把握出来てなかったんだけど、ここで問題になるって事は30人を超えてるんだな!? コイコクさん達、結構な大所帯じゃね?


「……なぁ、アル。共同体の上限人数を増やすのって、どうやるんだ?」

「知らん。必要ない部分だったから、確認した事もないな」

「ですよねー!」


 わざわざ無用な機能の確認をしてる訳がないよなー! 俺だってしてないし……ちょっと調べてみるか。ヘルプに載ってなくても、まとめには確実に載ってるだろうし――


「共同体の上限人数を増やすには、群集拠点種の全てに話しかければいいそうなのです!」

「……意外と簡単かな?」

「ただし、最低でも同じ共同体の2人が入ったPTで、5ヶ所同時にみたいだね?」

「なるほど、そういう仕様か」

「へぇ、最低でも10人は必要なんだなー」


 というか、そのくらいの事が出来ないのに共同体では、上限人数を増やす意味自体がないよね。30人の上限に引っかかる大所帯でなら、その程度の条件はあっさりとクリア出来るしさ。


「おし! 俺はここに待機するから、既に加入を終わらせて奴らでPTを組んで手分けをして上限人数を増やすぞ! 連盟にするより、1つの共同体の方がいいだろ!」

「あー、加入がまだの奴もいるから、リーダーのコイコクはここの方がいいのか。まぁ連盟よりは、単独の方がいいよな」

「これからどういう形に収まるか、まだ分からないしな。おし、俺は海に行くぜ!」

「俺も海に行くか!」

「おっし! なら、俺は荒野にでも行ってきますか!」

「私は森林に行ってくる!」


 コイコクさん達は手分けして上限人数を増やしていくみたいだし、俺らはまた少し待機かな? 見た感じでは共同体に入れずに溢れた人は4人くらいっぽいし、これくらいは待ちますか。

 でもまぁ、この状態にギンを付き合わせても退屈だろうし、富岳さんに任せてきてよかったのかもね。



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